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腹減り雀

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水遊び! 始めるよ

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 朝の食事を終えて食器を片付けていると、外から元気な声が聞こえてきます。
 テラスに出てみると、村の子供達がディンさんに何か伝えている処でした。

「おはようございます。どうしたのですか」
「桜華さん、おはようございます。この子達が桜華さんにお願いしたいことがあると」
「お願いですか?」

 子供達が一斉に話し始めたので、代表として一番大きな子に話してもらうことに。

「姉ちゃんの牧場にある池で遊びたいんだけど、いい?」
「池? 水浴びなら、池じゃなくて川の方が良くないですか?」
「そうだけど、暑くなってきたら大人と一緒じゃないと駄目って言われてる」

 暑くなってくると、魔物とか野生動物とかが水辺に出てくるそうです。確かに子供だけでは危険ですね。

「それでは行きましょうか」

 ラウラを肩に載せ、少し遅れてきたルーナさんに事情を説明しつつ、マコちゃんとノノさんと一緒に牧場へ。牧場に入ると、メリちゃんやココット達が牧場へ出てくるところでした。

「お姉ちゃん、行ってきます」、「行ってきます」
「行ってらっしゃい」

 厩舎へと走るマコちゃんとノノさんを見送ってから池に向かいます。青く澄んだ水面は今日も少しだけ光っていて神秘的な光景を作っています。

「アクアいますか」

 声をかけてすぐに水面が盛り上がってアクアが浮かび上がってきます。相変らずの巨体です。
 少し遅れてシエロが顔を出して甘えてきたので、鼻の下を撫でておきます。最後に水の精霊さんが現れたので、挨拶を交わします。

「フェェェ!」
「……ううっ」

 ルーナさんが叫んだので振り返ると、ディンさんが少し屈んで胃のあたりを抑えていて、子供達も口を開けたまま固まっていました。

「どうしました?」
「ね、姉ちゃん。どうして平然としているのさ」

 アワアワしているルーナさんと胃のあたりを抑えて堪えているディンさんの代わりに、代表の子が呆れ混じりに答えてくれました。

「何がですか?」
「いや、えっと、アクアだっけ? 前に見た時より大きい気がするんだけど」
「……確かに大きくなったようですね。成長期でしょうか」
「ゴーレムに成長期なんてありませんよ!」

 ルーナさんとディンさんが同時に叫びました。意外と元気です。

「夏前は百メートルぐらいでしたね。今は――」

 アクアが体を真っ直ぐに伸ばしてくれたので、非常に分かりやすくなりました。

「――大体五百メートルぐらいですか」
「ちょっと遊んでいましたら、いつのまにかこうなっていました」

 水の精霊さんがテヘッと可愛いらしく舌を出します。

「遊んでいたのなら、仕方ないですね」
「仕方ない……ですね」

 ディンさんが胃のあたりを抑えたまま、苦し気に納得してくれました。

「さてと。水の精霊さん。子供達がこの池で水遊びをしたいということなのですが、いいですか?」
「水遊びですか。構わないですよ。私にもお手伝いできることはないですか?」
「今のところ手伝ってもらうことは……」

 ないと言いそうになったところで、一つ思いついたことがあります。皆から少し離れて水の精霊さんにこっそりと耳打ちします。

「――という感じですが、どうでしょうか」
「桜華さんの魔力ならできますが、安定させるなら核があった方がいいですね」
「アクアが管理するのは、どうでしょうか」
「それなら問題ないですね」

 相談の結果問題ないという事なので早速取り掛かりましょう。

 まずは魔力の八割を水の精霊さんに渡します。受け取った水の精霊さんが、その魔力を消費しながら眷属に声をかけて大量の水を生成、五百メートル程の円環(断面が直径一メートル程のドーナッツのような形)と一辺が四百メートル程で厚さが七十センチの四角い塊、直径三十メートル程の水球に成形します。

 最後に、円環部分を地面すれすれに、円環の中央部分で少し上にずらして四角い塊を、それの更に上に水球を配置して、それぞれを何本もの水路で連結。アクアは円環上になってもらって、水球の周囲で接続してもらって終了です。

「できましたね」
「ええ。できましたね」

 水の精霊さんと手を合わせて喜びながら皆の方へ振り替えると、ルーナさんは尻尾を膨らませてアワアワ。ディンさんは四つん這いになって呻いていて、子供達は唖然茫然。喜んでくれているのは、ココット達とメリちゃん達だけでした。

「あれ?」
「うぅ……」
「あわわわわ」
「……姉ちゃん。なんか、やりすぎている気がする」
「うーん。ただ遊ぶより楽しいかなと思ったのですが、駄目ですか」
「いや、そこじゃない」

 訳が分かりません。水の精霊さんと顔を見合わせて、お互いに首を捻っていると代表の子が大きなため息をつきました。

「まあ、いいか。姉ちゃんだし。皆、遊ぼうぜ」

 非常に納得しがたい一言を呟いた後、みんなに号令をかける代表の子。各々に返事して恐る恐る近づいていきます。

 ただ、近づいたものの皆が躊躇っている中で、代表の子が手を水に浸します。

「あれ、これ、流れてる?」
「円環部分は川と同じように緩やかに流れています。なので、ただ浮かんでいても楽しいですよ」

 代表の子からかえってきたのは苦笑でした。何故ですか。

 子供達が躊躇している間に、メリちゃんとココット達が円環に突入。そのまま円環の上部から顔を出すと、泳ぎ始めました。

「フェエエエ!」
「……え。鳥って泳げたの?」
「いえ、普通は泳げないかと。というか、羊が泳ぐというのも驚きです」

 思わず出た疑問に、ようやく復帰したディンさんが弱弱しい声で答えてくれました。

「グルルル」
「あ、トト。おはよう」
「グルルル」
「なるほど。そういう事ですか」
「……桜華さん。トトさんはなんと?」
「えっと、元々、この時期は川で泳いでいたそうです」
「納得できかねますが、納得しておきます。ルーナさん、大丈夫ですか?」
「ひゃい。らいひょうふへふ」

 駄目みたいですね。目がグルグル回っています。落ち着くまで放っておきましょう。

 踏ん切りがつかない子供の後ろに回ると、脇の下に手を差し込んで持ち上げます。驚いている間に、少し後ろに振ってから円環の方へ放り投げます。

「わ、わわ、わ~」

 着水を見届ける前に次の子を捕獲。もう一度放り投げます。

「お姉ちゃん、私も!」、「僕も!」
「はいはい」

 次から次へと放り投げていると、代表の子が何か迷っているような顔で立っていました。投げてほしいのに言い出せないのでしょうか。

「よいしょ。トト、お願い」
「グルルル」

 任せろと答えてくれたトトが、代表の子のシャツを啄むと、一番上の水球目指して勢い良く振り投げます。

「へ、ちょっ、まっ、ああああ!」
「見事に着水しましたね」
「……ぷはっ。姉ちゃん! いきなりなにすんだよ!」
「投げてほしそうだったので、投げただけですよ?」
「グルルル」

 トトが胸を張ったので撫でておきます。うん。今日もふかふかです。

「そうだけど、なんでトトになるの!」
「なんとなくです」
「ひでぇ!」
「でも、トトが嫌なら、次に出てくるのはあの子達ですよ?」
「メェエエ」

 素敵な重低音の声で返事をしながら巨体のメリちゃん夫婦がやってきました。実は未だに名前を付けていなかったりします。

「遊ぶの? 気を付けてね」
「メェエエ」

 さすがに体が大きいので泳ぐとは行かないらしく、体ごと突っ込んで気持ち良さそうにしています。

「桜華さん、少しいいですか?」
「はい、何でしょうか」

 イアンさんの声に返事をしながら振り替えると、苦笑いを浮かべて立っていました。

「念のために聞いておきたいのですが、安全ですよね?」
「溺れる危険はありますけど、それ以外は大丈夫かと」

 溺れることになったとしても、アクアがいるので対処もしてくれます。

「そうですか。あ、近くは涼しいですね」
「やはり、この時期は涼しさを求めますか」
「ええ。暑いですから。桜華さんは平気そうですね」
「慣れているので」

 地元は結構な暑さになる場所なので、この程度の気温なら平気です。
 仕事に戻るイアンさんを見送って、隣にいるディンさんへ視線を向けるち、先程から気になっていること聞いてみることに。

「どうしました?」
「この暑いのに金属製の鎧は大丈夫ですか?」

 日光を反射してちょっと眩しいし金属製の鎧。見ている方も暑いです。

「暑いです。毎年、負担を軽減させるのにそろそろ革製の鎧にするんですが、手入れ担当がさぼっていたらしく、カビが生えていて使えませんでした」
「それは大変ですね。ちなみに、担当ってヨハンさんだったりしますか?」
「……察してください」

「エレノアさんに根性を叩き直してもらう必要性がありそうですね」
「あ、あの、エレノアさんが鼻歌を歌いながら詰め所に行くと言っていました」

 尻尾が逆立っているルーナさんが教えてくれます。既に手配済みですか。ヨハンさん明日を迎えることができるのでしょうか。

「気にかけている時間がもったいないですから、忘れましょう」
「ディンさん、何故爽やかな笑顔を……」
「忘れましょう。それで、今日は何をなさるので?」
「……そうですね。今朝、ミッケさんから頼まれたものがあるので、家に戻って実験ですね」
「程々にお願いします」

 ルーナさんが涙目で何度も頷いているのを、見なかった振りをして帰宅します。
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