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第一章 互いの立場
敵か味方か、狐か狸か。
しおりを挟む今視界に広がる風景、現実、その全てを受け止めたくなかった。
雲行きの怪しい空の下、国からだいぶ離れた森の中で、友人だった少女は消えた。
森の中で地面に両膝を付き、呆けている少年は『陽野道 ヨウ』。光の加減で、紺色に見えることもある髪は、今は黒く、短い。灰色に近い瞳は、絶望に近い色に染まっていた。
頭に巡るのは、消えた少女が放った言葉。
「私の居場所は国じゃない。私には、帰る組織がある。お前とは違う、居場所がある。私は、そこに帰るために、お前と友達を辞める。
大丈夫。私が友達じゃなくなったって、お前には、いい友達がちゃんと出来る。
お前と戦えること、楽しみにしてる。」
消えた少女、『カナ』は、白い髪をたなびかせ、臙脂色の瞳を向けながら、そう言って、何処かへ消えていった。正確には、居場所である組織に戻った。
今日の昼間、いや、日付が変わっているから、もう、昨日の昼間のことになる。
昨日は忍びとなる為の訓練所を卒業して、帰り道に、一緒に任務に当たれるといいな、なんて話をした。カナは、「そうだね」とだけ答えた。表情が変わらないのも、声色が変わらないのも、出会ってから、ずっと、いつものことだったから、何も気にしてなかった。気にならなかった。夜中、不意に目が覚めて、窓の外を見たときに、カナの姿を見かけるまでは。
あの『そうだね』は、何を思って言っていたのだろう。突拍子もなく、組織に帰ろうなんて、思わないはず。こんな連絡もなしに、隠れるように消えようと考えたなら、きっと、ずっと前から帰ろうとしていた。
「友達を辞める。」
迷うことなく言われた言葉を思い出して、目から涙がこぼれてくる。
国で、たった一人、唯一、話せる友人。それが、カナだった。お互い一人ぼっちで、国で浮いてたから、似た者同士で仲良くなったようなものだった。
二人でいると、国で浮いていても、何も感じなかった。平気だった。なのに、急に、辞めると言われ、今まで狐か狸かに騙されていたような気分になった。
そんなことないと、分かっていても、今だけは、そう思ってしまった。
せめて、カナの帰る組織が、国の多くの人達が敵対視する組織でなければよかったのに。
それなら、カナが友人を辞めてまで帰る必要なんてなかった。カナと友人を辞める必要なんてなかった。カナだって、国すべてを捨てるように、国を出ていく必要もなかった。
それでも、カナは、すべてを捨てて、組織を選んだ。僕は選ばれなかった。
その事実を受け止めたくなくて、ヨウは、声を出すことなく、その場に泣き崩れた。
そして、そのまま気絶し、捜索隊が発見して、病院に運ばれたのは、それから数時間経った後のことだった。
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