日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門

文字の大きさ
20 / 21

20

しおりを挟む

 夕陽の光が玲央の輪郭をなぞる。まつげの影が長く伸び、雪のような肌が夕焼けに照らされていて。
 そしてその瞳の奥には、僕の想像以上の深い感情が潜んでいた。

「晴彦。君は『本当の自分を見ていない』んだよ」
「……」

 一瞬、何を言われたかわからなかった。
 しばしの沈黙が流れて。
 そしてゆっくりと、次第に、玲央の言葉が僕の心に降ってくる。雪のように。

「本当の、自分?」
「そうだ」

 玲央は少しだけ視線を下ろし、また僕を見つめた。
 その瞳には、どこか寂しさを感じさせるような、深い感情が宿っていた。

「俺は幼少の頃から芸能界で生きてきて、嫉妬や憎悪の渦巻く世界をずっと見てきた。だからこそわかることがある。相手の『心』がどんなものか、自然とわかるんだ」
「心……?」
「そう。そして先日のあの日、晴彦を喫茶店で直で見た時……わかってしまった。晴彦がどんなに自分を押し殺して
いるかを」
「……」
「誰も気づかないだろうけど、君は必死に心の殻の中に閉じ込められている。いや、自分から閉じ込めている」

 僕の胸が、ぐっと締め付けられるのを感じた。玲央の言う通りだった。僕は、自分の気持ちや本当の姿を隠して生きてきた。
 それが辛いことだって、わかっていた。
 でも……これは、どうしようもないことだよ。

 僕は、玲央のようにはなれない。
 小学生の頃には戻れない。

「俺もずっと、周りの期待に応えるために演じ続けてきた。『白銀玲央』として生きることに精一杯だった。でも、そんな人生だけじゃ意味がないって気づいたんだ。晴彦もそうだろう? 本当の自分を隠して生きるなんて、息苦しいだけだ」
「たしかに息苦しいけど、これは僕の性格だ。どうしようもないことだよ」
「そんことはないさ。だって晴彦は俺を助けてくれたじゃないか」
「……あれは、その……偶然だっただけで」
「本当に?」

 玲央の言葉を受けて、僕は固まる。
 ……そう、普段の僕なら、あんなことはしなかった。

 自分でも不思議だった。でも、その理由が僕ですらわからない。そう思っていたら、玲央が声高らかに両手を広げながら口を開く。

「晴彦は殻を破ろうとしているのさ」
「殻を……?」
「そう、皆が持っているものだよ。このままの自分じゃ駄目だ。もっと成長したい。もっと自分が求める人物になりたい。でもそう簡単にはいかないよな。漫画やドラマみたいにはいかないよ」
「……」
「あの日、君を見た時に悟ったんだ。必死に今を変えたいと思っていると。けれどそう簡単にはいかない自分に苦悩していた」

 玲央の言葉が、心の中に染み込んでくる。変えたい自分と、変えられない自分に苦悩していた日々が嫌でも脳内で再生される。

 そう、確かに僕は変えたかった。でも、現実はそう簡単には……

「だから俺がいるんだよ、晴彦!」

 玲央の言葉が、より力強くなった。

「だから俺はここへ来たんだよ、晴彦。君はきっと殻を破れる。キッカケが必要なだけ。なら俺がそれをすればいい。君を、君の殻を外から破る存在がいればいい!」
「玲央……」

 その言葉に、胸の奥がぐっと熱くなる。
 僕は何も言えずに、ただ彼を見つめることしかできなかった。
 僕の心の殻が、少しずつ、ひび割れている感覚がした。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

なぜかピアス男子に溺愛される話

光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった! 「夏希、俺のこと好きになってよ――」 突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。 ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

処理中です...