悪役令息だと思っていたら健気令息だったので、好きになってしまった

まんまる

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「いやっ!こっちに来ないで⋯」
「諦めなさい。ここには誰も来ませんよ」

伸ばされた手を払い除け、伯爵を押しのけようとしてバランスを崩し、床に倒れてしまった。
慌てて立ち上がろうとしても体に力が入らず、そのまま床に崩れ落ちた。
伯爵は、泣きながら震える僕を、獲物を弄ぶ獣のように、舌なめずりをしながら見下ろしている。

「あなたがこの家に一人になるのをどれだけ待ったことか」
「えっ?ど、どういう事⋯?」
「やはりあなたは何も知らないようですね。いいでしょう、最後に全て教えて差し上げますよ。どの道私の手垢がついたあなたを、あの男は許さないでしょうから、私が国に連れ帰って情夫にしてあげます」

この男は何を言ってるのだろう⋯。



「私はこの国からある物を私の国に密かに持ち込みたくて、子爵家の紅茶に目を付けました。隠れ蓑にする物が必要だったのでね。騎士団の片手間にやっている商売なんて、すぐに私の思い通りになるはずでした。しかし、あの男は一目見て私が何か企んでいると見破った」
「ジェイドが⋯?」
「ええそうです。あの夜会の時ですよ。あの後私が何度先触れを出しても、決して会おうとはしなかった」
「そんな事、知らなかった⋯」
「だから私はあなたが一人になるのを待っていたんですよ。しかし、思うようにいかなかった。自分が騎士団に行っている間、あの男は別の者にあなたを守らせていたんですよ」
「別の者?」
「訳が分からないという顔ですね。料理人の男と侍女のことですよ」
「ダンとサシャ⋯?」
「ええ、そうです。男は若い頃傭兵をしていて、かなりの手練れです。一人で一部隊殲滅させるくらい造作もない事でしょう。女は歴史ある騎士団の中でたった一人いた元女騎士です。相当剣の腕がたったようですね」
「そんなの⋯知らない」
「それと確証はないですけど、恐らく公爵家の《影》も動いています」
「えっ?」
「子爵はあなたを守るためだけに、そこまで手を回していたんですよ。それ程の強固な守りを突破するのは至難の業です。だから、調べさせてもらいました。それで分かったんです。料理人の男が、時たまどこかに出掛ける事、女は毎日午後から買い物で不在になる事。そこを狙って、ようやくあなたと二人きりになれました」

この男は何を言ってるのだろう。初めて聞かされる話ばかりで、僕には全然理解できない。

「安全で温々した温室の中で大事に育ててきた花を、自分が蔑んだ男に散らされたと知ったあの男の顔が見ものですよ。アハハハハ」

何がおかしいのか目の前の男は、気持ち悪い笑みを顔に貼り付けて高笑いをしている。

「では、始めましょうか」

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