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「殿下⋯、泣いてるのか?」
「あっ⋯、これは、違っ⋯」
僕の反応を見て、レオンはゆっくりと護衛に視線を移すと、
「何があった?」
と、大人びた威圧さえ感じる低い声で尋ねてきた。
「申し訳ございません!」
「それは何に対して謝っているんだ?」
「⋯っ、いえ⋯、その⋯」
部屋に入って来るなり機嫌が悪そうなレオンは、いきなり護衛を問い詰めた。
入り口に立っていたレオンは、護衛を睨め付けながら、今にも殴り掛かりそうな勢いで護衛に近付いて来た。
「レオン!違う!僕が勝手に泣いちゃったから、護衛の騎士が心配してくれたんだ!」
僕が慌てて椅子から立ち上がり叫ぶと、レオンはやっと僕を見てくれた。
「殿下、でも、こいつ今、殿下に触ろうとしてたよな」
えっ⋯?
もしかして、レオン⋯。
「⋯えっと、レオン、それって、僕が触られそうになったから、そんなに怒ってるの?」
「なっ!?何言ってんだ!?いや、でも、俺は、そうなのか⋯?」
「ふふっ」
「ぐっ⋯」
僕の一言で年相応の少年に戻ったレオンが、花を抱えてあたふたと慌てる様子が可笑しくて思わず笑ってしまった。
さっきまでレオンがいなくて寂しかったのに、涙もいつの間にか止まっていた。
「悪かったな」
レオンが護衛にバツが悪そうに謝ると、護衛はとんでもないと言わんばかりに、背筋をピンと伸ばして勢いよく首を左右に振っていた。
「で、何で殿下は泣いてたんだ?」「レオン、その花は僕に?」
「ふっ」
「ふふっ」
ようやく落ち着いた僕達は、お茶会用の椅子に向かい合わせに座った。
お互い照れながら尋ねた言葉が綺麗に被ってしまい、可笑しくて二人で笑い合った。
「あっそうだ、この花、庭師に言って切ってもらってたら遅くなった。それと、この前も、俺が無理矢理外に連れ出したから、殿下は熱を出したんだんだろう?悪かった」
「そんな、レオンのせいじゃないよ。それに、そんな大袈裟にする程じゃなかったんだ。でも、ありがとう、レオン、嬉しい」
僕が花を渡してもらいながらレオンの目を見て微笑むと、レオンは少し頬を赤らめて、横を向いてしまった。
「で、泣いてた理由はなんだ?」
レオンは横を向いたまま僕に尋ねた。
「⋯僕もよく分からないんだけど、この部屋に一人でいたら、何だか寂しくなったんだ。レオンに会えると思ってたのに、いなかったから」
「へっ?それって、俺と会えなくて寂しいって聞こえるけど⋯」
レオン本人に改めてそう言われると、僕は急に恥ずかしくなってしまった。
顔が熱くなるのを感じて、やっとこっちを見たレオンから目を逸らして今度は僕が横を向いてしまった。
「殿下⋯、なあ、シャルロって呼んでいいか?ああっと、許可がないからさすがに不敬になるか。また父上にどやされるな」
僕は急に名前を呼ばれ驚いてレオンを見ると、レオンは苦笑いしながら、頭をガシガシと掻いていた。
「レオン、いいよ。僕も殿下じゃなくて名前で呼んで欲しかったんだ」
「ほんとか?」
「うん、だって僕達、婚約したんでしょ?」
「あ、ああ、そうだ」
「ねぇ、レオン、レオンは僕が重荷じゃない?」
「えっ⋯?」
僕はつい、ずっと気になっていた事を口にしてしまった。
「あっ、ごめん、気にしないで」
「シャルロ?」
「⋯だって、初めて会った時のレオンは、僕との縁談なんて全然考えてなさそうだったから」
「あ、あれは⋯、悪かったと思ってる。俺が勝手に勘違いしてたんだ」
「むちむちの妹じゃなくてごめんね」
「ぐっ⋯」
「僕、ずっと痩せっぽちかもしれないよ」
「そんなの、ずっと抱っこしてられるからいい」
「体力もレオンと比べたら全然ないよ」
「俺がシャルロを支えてやるからいい」
「ぐすっ、レオンが行きたい所にも一緒に行けないかもしれない」
「俺が抱っこしてどこにでも連れてってやる」
「ぐすっ、ほんとに僕、重荷じゃ、ない?」
「ははっ、シャルロは軽すぎるくらいだ」
「ふえぇん、レオぉン」
泣きじゃくる僕にレオンは微笑みながら近付いてきてゆっくり僕を横抱きにすると、そのまま僕が座っていた椅子に腰を下ろした。
「泣くなよ、シャルロ」
「ぐすっ、だって、嬉しいからぁ。でも何で⋯、そんなに僕に優しくしてくれるの?僕、嫌われてると思ってたのに」
「嫌ってなんかない!」
「レオン?」
「ああ、クソっ!」
レオンはそう言ったまま天を仰いでしまった。
「俺が頼んだんだ」
「えっ?」
「初めてシャルロに会った後、俺から父上に頼み込んだんだ。シャルロと結婚したいって」
「レオン、ほんと?」
「ああ。最初、王族との縁談だと聞いて確かに気が重かった。俺、こんなだしな。でも相手が第二王女なら、まだ小さいからどうにかなると思って、あの日王城へ行ったんだ。そしたら部屋に入って来たのはシャルロだった。⋯衝撃だった」
「ごめんなさい⋯」
「違う!違うんだ、シャルロ。シャルロがあまりにも、その、綺麗だったから」
「えっ!?」
「桃色がかった金色の細くて長い美しい髪、俺の冷たそうな青い目と違って、優しそうな水色の瞳。俺、生まれて初めて見たんだ。シャルロみたいな美しい人間を。そんなシャルロを見て、混乱してしまったんだ」
「それであんな事を⋯?」
「ほんと悪かった!俺、ガキだった!」
「ふふっ、ふふふふっ」
「どうした?」
「だって、あの態度を見て、僕に好意があるなんて、誰も思わないよ」
「だ、だよな、ははは、はぁ⋯」
レオンは大きな溜め息をついた。
「僕、嬉しいよ、レオン」
「えっ?」
「僕、レオンに疎まれてると思ってたから、そんなふうに思ってくれてたなんて、嬉しい」
僕は心からそう思った。
僕がレオンを見て微笑むと、レオンの僕を抱く腕に力が籠った。
「シャルロの事、俺に守らせてくれ」
「レオン⋯、はい、よろしくお願いします」
レオンは僕を傷付けないように、優しく優しく抱き締めてくれた。
初めてレオンと心を通わせた日の夜、僕の胸にある赤い花の蕾が、少し膨らんでいるのに気付いた。
「あっ⋯、これは、違っ⋯」
僕の反応を見て、レオンはゆっくりと護衛に視線を移すと、
「何があった?」
と、大人びた威圧さえ感じる低い声で尋ねてきた。
「申し訳ございません!」
「それは何に対して謝っているんだ?」
「⋯っ、いえ⋯、その⋯」
部屋に入って来るなり機嫌が悪そうなレオンは、いきなり護衛を問い詰めた。
入り口に立っていたレオンは、護衛を睨め付けながら、今にも殴り掛かりそうな勢いで護衛に近付いて来た。
「レオン!違う!僕が勝手に泣いちゃったから、護衛の騎士が心配してくれたんだ!」
僕が慌てて椅子から立ち上がり叫ぶと、レオンはやっと僕を見てくれた。
「殿下、でも、こいつ今、殿下に触ろうとしてたよな」
えっ⋯?
もしかして、レオン⋯。
「⋯えっと、レオン、それって、僕が触られそうになったから、そんなに怒ってるの?」
「なっ!?何言ってんだ!?いや、でも、俺は、そうなのか⋯?」
「ふふっ」
「ぐっ⋯」
僕の一言で年相応の少年に戻ったレオンが、花を抱えてあたふたと慌てる様子が可笑しくて思わず笑ってしまった。
さっきまでレオンがいなくて寂しかったのに、涙もいつの間にか止まっていた。
「悪かったな」
レオンが護衛にバツが悪そうに謝ると、護衛はとんでもないと言わんばかりに、背筋をピンと伸ばして勢いよく首を左右に振っていた。
「で、何で殿下は泣いてたんだ?」「レオン、その花は僕に?」
「ふっ」
「ふふっ」
ようやく落ち着いた僕達は、お茶会用の椅子に向かい合わせに座った。
お互い照れながら尋ねた言葉が綺麗に被ってしまい、可笑しくて二人で笑い合った。
「あっそうだ、この花、庭師に言って切ってもらってたら遅くなった。それと、この前も、俺が無理矢理外に連れ出したから、殿下は熱を出したんだんだろう?悪かった」
「そんな、レオンのせいじゃないよ。それに、そんな大袈裟にする程じゃなかったんだ。でも、ありがとう、レオン、嬉しい」
僕が花を渡してもらいながらレオンの目を見て微笑むと、レオンは少し頬を赤らめて、横を向いてしまった。
「で、泣いてた理由はなんだ?」
レオンは横を向いたまま僕に尋ねた。
「⋯僕もよく分からないんだけど、この部屋に一人でいたら、何だか寂しくなったんだ。レオンに会えると思ってたのに、いなかったから」
「へっ?それって、俺と会えなくて寂しいって聞こえるけど⋯」
レオン本人に改めてそう言われると、僕は急に恥ずかしくなってしまった。
顔が熱くなるのを感じて、やっとこっちを見たレオンから目を逸らして今度は僕が横を向いてしまった。
「殿下⋯、なあ、シャルロって呼んでいいか?ああっと、許可がないからさすがに不敬になるか。また父上にどやされるな」
僕は急に名前を呼ばれ驚いてレオンを見ると、レオンは苦笑いしながら、頭をガシガシと掻いていた。
「レオン、いいよ。僕も殿下じゃなくて名前で呼んで欲しかったんだ」
「ほんとか?」
「うん、だって僕達、婚約したんでしょ?」
「あ、ああ、そうだ」
「ねぇ、レオン、レオンは僕が重荷じゃない?」
「えっ⋯?」
僕はつい、ずっと気になっていた事を口にしてしまった。
「あっ、ごめん、気にしないで」
「シャルロ?」
「⋯だって、初めて会った時のレオンは、僕との縁談なんて全然考えてなさそうだったから」
「あ、あれは⋯、悪かったと思ってる。俺が勝手に勘違いしてたんだ」
「むちむちの妹じゃなくてごめんね」
「ぐっ⋯」
「僕、ずっと痩せっぽちかもしれないよ」
「そんなの、ずっと抱っこしてられるからいい」
「体力もレオンと比べたら全然ないよ」
「俺がシャルロを支えてやるからいい」
「ぐすっ、レオンが行きたい所にも一緒に行けないかもしれない」
「俺が抱っこしてどこにでも連れてってやる」
「ぐすっ、ほんとに僕、重荷じゃ、ない?」
「ははっ、シャルロは軽すぎるくらいだ」
「ふえぇん、レオぉン」
泣きじゃくる僕にレオンは微笑みながら近付いてきてゆっくり僕を横抱きにすると、そのまま僕が座っていた椅子に腰を下ろした。
「泣くなよ、シャルロ」
「ぐすっ、だって、嬉しいからぁ。でも何で⋯、そんなに僕に優しくしてくれるの?僕、嫌われてると思ってたのに」
「嫌ってなんかない!」
「レオン?」
「ああ、クソっ!」
レオンはそう言ったまま天を仰いでしまった。
「俺が頼んだんだ」
「えっ?」
「初めてシャルロに会った後、俺から父上に頼み込んだんだ。シャルロと結婚したいって」
「レオン、ほんと?」
「ああ。最初、王族との縁談だと聞いて確かに気が重かった。俺、こんなだしな。でも相手が第二王女なら、まだ小さいからどうにかなると思って、あの日王城へ行ったんだ。そしたら部屋に入って来たのはシャルロだった。⋯衝撃だった」
「ごめんなさい⋯」
「違う!違うんだ、シャルロ。シャルロがあまりにも、その、綺麗だったから」
「えっ!?」
「桃色がかった金色の細くて長い美しい髪、俺の冷たそうな青い目と違って、優しそうな水色の瞳。俺、生まれて初めて見たんだ。シャルロみたいな美しい人間を。そんなシャルロを見て、混乱してしまったんだ」
「それであんな事を⋯?」
「ほんと悪かった!俺、ガキだった!」
「ふふっ、ふふふふっ」
「どうした?」
「だって、あの態度を見て、僕に好意があるなんて、誰も思わないよ」
「だ、だよな、ははは、はぁ⋯」
レオンは大きな溜め息をついた。
「僕、嬉しいよ、レオン」
「えっ?」
「僕、レオンに疎まれてると思ってたから、そんなふうに思ってくれてたなんて、嬉しい」
僕は心からそう思った。
僕がレオンを見て微笑むと、レオンの僕を抱く腕に力が籠った。
「シャルロの事、俺に守らせてくれ」
「レオン⋯、はい、よろしくお願いします」
レオンは僕を傷付けないように、優しく優しく抱き締めてくれた。
初めてレオンと心を通わせた日の夜、僕の胸にある赤い花の蕾が、少し膨らんでいるのに気付いた。
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