公爵様、どうか僕を忘れてください

まんまる

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2.舞踏会

領地に戻ってきた僕は、正式にザカリー男爵の爵位を継いだ。


「お祖父じい様、お祖母ばあ様、今まで育ててくれて、ありがとうございます」

「何を言う。わしらの方が、ルディアの存在にどれだけ救われたと思ってるんだ。ルディア、生まれてきてくれてありがとう」

「ルディア、今まで弱音も吐かず、よく頑張ったね。父様と母様も、きっと喜んでいるよ」

「ぐすっ、これからは、僕がお祖父様とお祖母様を守るから」


お祖父様とお祖母様が、僕を大切にしてくれたから、僕は今ここに立っていられる。
2人共、まだまだ長生きしてね。





「アイク、僕がいない間、領地を頼むね」
「今年ももう、そんな時期か」

僕が爵位を継いで、1年が経とうとしている。

「うん、王家主催の舞踏会の招待状が、国中の貴族に送られてるからね。陛下が納得する理由がない限り、欠席はできないんだ」
「うわぁ、貴族も大変だな」
「去年はまだ爵位を継ぐ前だったから断れたけど、今年はさすがに出席しないとね。でも、うちみたいな田舎の男爵家と、お近づきになろうなんて貴族はいないと思うから、早目に帰る予定だけどね」
「そっか。でもルディアはいいのか?」
「何が?」
「俺には貴族の付き合いはよく分からんが、ルディアから、話したい貴族はいないのか?ザカリー男爵領を売り込むっつうか⋯、まあ、俺は今のままで充分だけどな」
「うん、僕も同じだよ。多くを望み過ぎて、かえって領民に迷惑をかけてしまったら、皆に申し訳ないからね」
「ルディア、領主の顔になったな」
「へっ?も、もう、アイク、揶揄からかわないでよ」
「ふっ、気をつけて行ってこい。特に、王都流の挨拶とやらには用心するんだぞ」
「わ、分かってるよ」




僕が王都に行ってる間、お祖父様に領主の仕事を代わってもらおうと思っていたら、お祖父様が熱を出して寝込んでしまった。

「お祖父様、大丈夫?」
「ああ、ルディア、心配はいらないよ。ただの風邪だろうから、しばらく休めば治る」
「でも⋯」
「ルディア、若い領主のお前にとって、社交も大事な仕事の一つだ。私の事は気にせずに、王都に行っておいで」

お祖父様の事が気掛かりだったけど、お祖母様にも背中を押され、僕は後ろ髪を引かれる思いで、王都に行く事を決めた。



どうして僕は、領地を離れてしまったのだろう。



「アイク、用が済んだらすぐに帰ってくるから、お祖父様の様子を見ていて欲しんいだ」
「ああ、大旦那様の事も領地の事も、俺に任せておけ。ルディアは長旅の心配だけしてればいい。馬で行くんだろ?」
「うん、馬車じゃ時間がかかりすぎるからね。それに、うちの馬車、もう古いし」

僕は荷物を持ち、見送りをしてくれるアイクとうまやに向かった。
愛馬のブリーズを外に出し、荷物をくらに結んで、すぐに飛び乗った。

「じゃあ、アイク、2週間で帰るから」
「2週間って⋯、ルディア、無理するなよ」
「うん、行ってくるね」

僕は心配するアイクを見て、大丈夫と言う代わりに小さくうなずいて、ブリーズの腹を蹴った。

うちの領地から王都までは、馬車で移動するとなると、2週間はかかる。
僕はどうしてもお祖父様の事が気掛かりで、少しでも早く帰って来れるように、今回は直接馬で行く事にした。





「ふぅ、やっと着いた。ブリーズ、ご苦労さま」

僕とブリーズは最低限の休憩だけ取り、1週間で王都まで辿り着いた。
王城に着いて、辺りを見回してみたけど、もう舞踏会が始まるのか、外には着飾った人影は一つもなかった。
僕は外に待機している案内係に聞いて、急いで控え室に行って、舞踏会用の衣装に着替えた。と言っても、王都の貴族から見たら、随分古臭いデザインだと思われるだろう。
 

舞踏会では、爵位の高い順番に、玉座に座る王族に挨拶をしていく。
僕は田舎の末端貴族だから、当たり前だけど、挨拶は一番最後になる。

公爵家からの挨拶が進む中、貴族同士の腹の探り合いが始まる。
口許くちもとを隠し、目だけにやりと笑いながら、こそこそと噂話に花を咲かせる。

この時間が、僕は一番苦手だ。
さっさと挨拶を済ませて、領地に帰りたい。

僕は少しずつ進む人集ひとだかりの中、目立たないように下を向いて、1歩ずつ歩を進めた。

そしてようやく、僕の順番になった。
ふぅ、落ち着け、大丈夫、大丈夫。

「国王陛下、王妃陛下にご挨拶申し上げます。本日はお目にかかれて光栄にございます。ザカリー男爵家、ルディア・ザカリーにございます」

お腹から声を出したつもりだったけど、僕の口から出た言葉は、両陛下の耳に届く頃には、囁き声程に小さくなってしまった。

うぅ、恥ずかしい。

皆も僕を見て、呆気にとられたように、目を見開いて固まっている。
きっと僕が貴族らしくないから、驚いているのだろう。

僕は動揺しているのを気づかれないように、真っ直ぐ玉座に視線を向けた。
すると陛下は、貼り付けた笑顔ではなく、柔らかな笑顔を僕に向けると、うむ、と言って大きくうなずかれた。

「そなたがザカリー男爵か」
「はい。亡き父の跡を継ぎました」
「うむ、しっかりやるのだぞ」
「勿体ないお言葉、有り難く頂戴致します」
「ザカリー男爵、そんなに固くなるな」
「えっ?」
「ところでルディア」
「⋯っ!?」

挨拶が終わったら、すぐにこの空気から解放されると思っていたのに、何故か陛下は話を続けようとされている。

僕の順番がくるまでは、上辺だけの社交辞令のような会話をされただけなのに⋯。

僕がぐるぐると考えているのを気にも止めない様子で、陛下は言葉を続けられた。

「ルディアのその銀色の髪は、この国では見ない色だが、両親から何か聞いてはおらぬか?」
「髪⋯ですか?いいえ、何も。両親は私が幼い頃に亡くなりましたので」
「うむ、そうであったな。あれから15年か⋯。ルディア、ようやく20歳になったか」
「えっ?あっ、は、はい⋯」


陛下の言い方が、何か含みがあるように聞こえたけど、きっと気のせいだろうと、その時は深く考えていなかった。

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