公爵様、どうか僕を忘れてください

まんまる

文字の大きさ
29 / 34

28.降り注ぐ幸せ

王都に戻ってきてから10日が過ぎた。
今日は陛下に呼ばれて、王城に来ている。


みな、よく来てくれた。楽にしてくれ」

謁見の間に通されたのは、フィンセント様と僕、アイクとジル、そしてアイクのお父上のアーボルド侯爵の5人だった。
陛下は穏やかな笑みを浮かべ、僕達を見渡した。

「まず、ルディア、私はそなたに謝らなければならん」
「⋯っ!」
「私が下した命によって、そなたを苦しめる結果になってしまった」
「陛下、発言をお許しいただけますか?」
「よい、ルディア、何でも申せ」
「ありがとうございます、陛下」

僕は緊張で震える口のをどうにか上げて、陛下に一礼した。

「確かに、僕は苦しんだかもしれません。でもそれは、僕が弱かったのが原因で、取り返しのつかない結果を選んだのも、僕自身です。それでも、僕は陛下に感謝しております。陛下は、僕とフィンセント様を出会わせてくださいました。僕は今、とても幸せです」

陛下に心の内を話したら、何だか気持ちがすっきりした。
気づくと僕は、自然と笑みがこぼれていた。

「そうか、ルディアは幸せなのだな」
「はいっ」
「⋯ルディア、聞いてくれるか」

陛下の穏やかな表情かおに、逡巡の色が見え隠れした。

「はい」

何を言われるのか不安はあった。それでも僕は、真っ直ぐ陛下を見てうなずいた。
僕にはフィンセント様がいてくださる。
それだけで、僕は前を向くことができた。

「私は怖かったのだ」
「えっ⋯?」
「20年前、ザカリー領に銀色の髪を持った男児が生まれたと報告を受けた。«神の愛し子»が生まれたと。その時、私がどう思ったか⋯、私は、このままでは、国民の心が、王家から離れてしまうと思った。愛し子に民の心を奪われる、そう思ったのだ⋯」
「⋯っ!」
「本来ならルディアが生まれた時に、すぐにでも王家で保護するべきだった。だが、私は躊躇ためらってしまったのだ。王都から遠く離れたザカリー領に、ルディアを閉じ込め、護衛として仕向けたアイクの人生を台無しにし、王命を下して、フィンセントに愛し子を押し付けた。それに巻き込まれたアーボルド侯爵とジル、⋯みなを不幸にした責は全て私にある。すまなかった」

陛下は頭を深々と下げられた。

「陛下っ!いけませんっ!お願いです、顔を上げてください!」

僕は咄嗟に身を乗り出し、両手で制止しながら叫んだ。
それでも陛下は頭を下げたままだった。

「陛下」

フィンセント様の、低く凛とした声が謁見の間に響いた。

「確かに、ここにいる5人はみな、不幸でした」

この場にいる全員が、フィンセント様の言葉を聞いて、目を見開いて凍りついた。
でも、フィンセント様の顔は、言葉とは裏腹に、柔らかな笑顔をたたえている。

「ですが、陛下、侯爵とアイクは親子の深い絆を知り、アイクとジルは心から愛する者を得た」

アーボルド侯爵がアイクと肩を組み、アイクはジルを抱き寄せた。
そして3人は、うなずきながら陛下を見て、まばゆい笑顔を弾けさせた。

「そうか、そうであったか、うぅっ、くっ」

陛下は拳を握り締め、懸命に泣くのをこらえているようだった。

「陛下、私はルディアに会って、自分が感情のある人間だと思い出す事ができたんです。両親の死を悲しむ暇もなく爵位を継いだ私は、日々仕事に忙殺され、いつしか感情を失いました。代わりに得たのは人に対する不信感だけでした。でも私はルディアに会って、自分にも剥き出しの感情がある事を知ったんです。ルディアの死に絶望し、枯れるまで涙を流した。ルディアの笑顔を見ると、心が弾み、ルディアが他の男といると、醜い嫉妬もする、私は、そんな普通の人間だったのです」

僕はフィンセント様から優しく抱き寄せられ、思わずその胸に頬ずりをした。

「陛下、こんなにも愛おしい存在に会わせてくださり、心から感謝申し上げます」

フィンセント様はぐっと背筋を伸ばし、深々と頭を下げた。

「わわっ」

フィンセント様に思わず見惚れてしまった僕も、慌てて頭を下げた。

「皆は今、幸せなのか⋯?」

陛下の両の瞳から、せきを切ったように、涙があふれ出た。

僕達5人は、うなずき合った。


「「「「「はいっ!!」」」」」


「陛下」

アーボルド侯爵が初めて口を開いた。

「民は陛下が考えておられるより、ずっと強い。私も、まだまだ若い者には負けられません。孫のお馬さんごっこで、腰をやられている場合ではありませんな。あっはっはっ」

「ち、父上っ!」

アイクが慌てて、侯爵を制した。

「ぷふっ、あっ、も、申し訳ありません!」

ジルが思わず笑いを漏らして、慌てて口を押さえている。

「お馬さんごっこか、私も鍛えないとな」
「えっ!?フィンセント様がお馬さんになるんですか!?」
「ああ、楽しそうだ」
「ふっ、ふふっ、あははははは」

フィンセント様が、真剣な顔で、子供を背中に乗せている光景を思い浮かべ、僕は堪えきれずに、笑い声を上げた。


「そうか、そうか、皆、幸せか。良かった、良かった、皆、ありがとう」


陛下の涙が止まらず、傍に控えていた宰相がすっとハンカチを手渡していた。




僕は最後に陛下に申し上げた。

「陛下、神が仰っていました。自分は万能の神ではない。ただ子供が好きで、この世界を見守っているだけだと。ですから、僕に何か特別な力があるという訳ではないのです。それはジルも同じだと思います」

「そうか、神がそんな事を⋯。だが、ルディア、私はそうは思わんぞ」
「えっ⋯?」
「国にとって、子宝以上の宝がどこにある?愛し子がいる限り、いや、子供が生まれ続ける限り、きっと、神はこの世を見捨てはしないだろう。ルディア、これからも幸せでい続けよ。さすれば、民にも幸せが訪れるだろう」

「陛下⋯、はい、僕、幸せになりますっ!」

僕は溢れる涙を拭いもせず、フィンセント様の胸に飛びついた。

「民の幸せか⋯、私も責任重大だな」

フィンセント様が、ぽそっと呟いて、また考え込んでいる。

僕は可笑しくて、フィンセント様の胸に顔をぐりぐりと押し付けた。

「ルディア、どうした?ふっ、くすぐったいな」


フィンセント様の甘くて優しい口づけが、僕の頭に降り注いだ。






◇◇◇◇◇

「アイク、本当に良かったのか?」
「父上、俺が公爵なんて、分不相応です」

陛下から、長年ルディアの護衛として任務にあたった褒美として、席が一つ空いている公爵位を授けると提案があったが、俺は迷わず断った。

「そうか、お前がそう言うなら、私は何も言わない。だがなぜ、伯爵位にこだわったんだ?」
「ああ、それは、ジルの仇を討つ為です。その為に最低限の爵位が必要だったんです」
「仇!?アイク、まさか物騒な事を考えているのではないだろうな」
「ははっ、父上、安心してください。ちゃんと法に則って罰してもらいますから」

「アイクさん⋯」

ジルが心配そうに俺を見つめている。

「ジル、心配するな。俺にかかれば、あんな奴、一捻ひとひねりだ。ジルは俺の胸の中で、幸せでいてくれれば、それでいい」

俺はジルを抱き寄せて、一筋の銀色の髪に、唇を落とした。



ジルの柔肌に初めて触れた鬼畜伯爵、許すまじ!


首を洗って待ってろ!!






◇◇◇◇◇

「んんんっ!!うんんんっ!!」 

「ルディア、頑張れ!もう少しだ!」

「んんんんん!!!ふっうんんんんん!!!」 


「おぎゃあ、おぎゃあ、ふぎゃあ」


「ああ、なんて可愛いんだ。ルディア、ありがとう。疲れただろう?」
「はぁはぁ、フィンセント様、お子は元気ですか?」
「ああ、とても元気な男の子だ」

僕は、胸の上に乗せられた、小さくて温かな命をそっと抱き締めた。

「わあ、綺麗⋯」

僕の腕の中の赤ちゃんは、煌めく金色の髪をしていて、薄らと開いた瞳は、透き通ったエメラルドグリーンをしていた。

「私にそっくりだ」

フィンセント様は、照れ臭そうに頭を掻いて、目を細めて笑った。

「ふふっ、可愛いですね」
「ああ、可愛いな、ん?」
「フィンセント様、どうされました?」
「ルディア、この子をよく見てごらん」
「えっ?⋯あっ!」

すやすやと眠ってしまった我が子の顔をよく見ると、閉じられたまぶたから伸びる長い睫毛まつげが、きらきらと銀色に光っていた。

「ルディア、この子を絶対幸せにしよう」

「はい、フィンセント様。わあっ!フィンセント様、外を見てください!」

「ほお、これは美しいな」

窓からのぞき見た青空が、天から降り注ぐ銀色の光できらきらと煌めいていた。


僕とフィンセント様は、微笑み合いながら、どちらともなく、生まれたばかりの我が子の睫毛に、ちゅっと、同時に口づけをした。

感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する

スノウマン(ユッキー)
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。 そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。

劣等生の俺を、未来から来た学院一の優等生が「婚約者だ」と宣言し溺愛してくる

水凪しおん
BL
魔力制御ができず、常に暴発させては「劣等生」と蔑まれるアキト。彼の唯一の取り柄は、自分でも気づいていない規格外の魔力量だけだった。孤独と無力感に苛まれる日々のなか、彼の前に一人の男が現れる。学院一の秀才にして、全生徒の憧れの的であるカイだ。カイは衆目の前でアキトを「婚約者」だと宣言し、強引な同居生活を始める。 「君のすべては、俺が管理する」 戸惑いながらも、カイによる徹底的な管理生活の中で、アキトは自身の力が正しく使われる喜びと、誰かに必要とされる温かさを知っていく。しかし、なぜカイは自分にそこまで尽くすのか。彼の過保護な愛情の裏には、未来の世界の崩壊と、アキトを救えなかったという、痛切な後悔が隠されていた。 これは、絶望の運命に抗うため、未来から来た青年と、彼に愛されることで真の力に目覚める少年の、時を超えた愛と再生の物語。

【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい

雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。 延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。

没落令息はクラスメイトの執着に救われる

夕月ねむ
BL
突然父親の爵位がはく奪され、帰る屋敷も家名も失ったローレンス。貴族が集まる学院の寮からも放り出されるところだった彼を、クラスメイトのユリシーズが引き留める。 「侯爵家の私であれば、従者をひとり授業に同席させることができる」と言って。 ユリシーズの従者となったローレンス。けれどその二年後、彼らの関係は再び大きく変わることとなった。 ※FANBOXからの転載です。 ※他サイトにも投稿しています。

繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました

こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。