25 / 33
25
「シルティ、無事でよかった」
男が戦意喪失したのを確かめて、アリウスはすぐさま僕に駆け寄り、僕をその胸に掻き抱いた。
アリウスは騎士服の上からでも分かるくらい、じっとりと汗ばみ、小刻みに震えている。
アリウスの心臓、すごいドキドキしてる。
僕を心配して、急いで来てくれたんだ。
僕はアリウスの体温を感じ、ようやく心から安心した。
「シルティ、怪我はないか?乱暴な事はされてないか?怖かっただろ?傍にいてやれなくて、すまなかった。私が人夫の確認を怠ったばかりに」
アリウスが一つ言葉を発する度に、僕を抱き締める腕に力が入る。
「ア、アリウス、僕は大丈夫だよ、ハナがいてくれたし。それより、ちょっと苦し⋯」
「す、すまない!」
アリウスは慌てて僕を解放し、腰を屈めて僕の顔を覗き込んだ。
「アリウス、心配かけてごめんね」
僕がアリウスの瞳を見つめると、アリウスは、サファイアブルーの瞳に涙を滲ませ、僕の頬を大きな手で包み込んだ。
「シルティが無事で、本当によかった。シルティが恐ろしい目に遭っているかと思ったら、生きた心地がしなかった」
「アリウス、来てくれて嬉しかった。でも、どうして僕を連れ去ろうなんて思ったんだろう?この人、窃盗犯なの?」
「ああ、そうだ。こいつが指名手配されている窃盗団の一味なのは間違いないようだが、詳しい事は、この男が目を覚ましてからだな」
アリウスは、地面に伸びている男を、眉間に皺を寄せて、じろりと睨んだ。
「そう言えば、ねえアリウス、どうしてこの人、急に気を失ったの?アリウスの手袋って、そんなに威力があったのかな?」
「ああ、それは私も不思議に思ったんだ。私もクレナの声が聞こえて、咄嗟に言う通りにしただけなんだ」
「たしか、くさいとか言ってたような。あはは、まさかね。アリウスの手袋が、臭うはずないよね」
「ああ」
「ごほん、旦那様、よろしいでしょうか」
駆け付けたクレナも、心配そうに、僕に寄り添ってくれている。
「なんだ、クレナ、手袋の種明かしか?」
クレナはふぅと、溜息を吐いた。
「⋯かれこれもう11年になるでしょうか、旦那様が、シルティ様のお手に触れた手を、洗いたくないとおっしゃったのは覚えておいでですか?」
「あ、ああ、覚えている。それがどうした?」
「その時、シルティ様のお手に触れた旦那様の手が触れた手袋も、洗いたくないとおっしゃったのは、覚えておいでですか?」
んん?何回、手って言った?
「ああ、当たり前だろ?シルティの香りが染み込んでいるんだぞ。洗うわけないだろ?ああっ!こいつ、シルティの香りを嗅いだのか!?」
えっ⋯?
「まさか⋯、僕の匂いが臭くて、その人倒れちゃったの?」
僕は脳天に衝撃を食らった。
「なっ!?そんなわけ、ないだろ!」
アリウスが大慌てで、僕の肩を掴むと、クレナが一歩アリウスに近づいた。
「旦那様、その言い方では、とてつもなく語弊があります。シルティ様が、ひどくショックを受けておられます」
「なっ!?」
「旦那様、耳の穴かっぽじって、よく聞いてください」
「かっぽ⋯、な、何だ?」
クレナがすうっと、息を吸った。
「臭いのは、旦那様の手袋ですっ!いい加減、洗わせてくださいっ!!いいえ、この際ですので言わせていただきます。侯爵ともあろうお方が、いつまで、ぼろぼろの手袋をつけているんですか!新しいのを買ってくださいっ!!」
買ってください─ください─さい─
侯爵邸に、こだまが響いた。
「ぷふっ」
ハナ⋯よく笑えるね。
「く、くさ、臭い⋯」
ぽそっと呟いたアリウスが、口をあんぐりと開けて、立ち尽くしている。
僕はアリウスの背中をそっと撫でた。
「アリウス、今度一緒に買いに行こうね」
アリウスはこくんと頷いた。
「それよりアリウス、番のこと、なんで教え⋯」
「う゛ぅ⋯」
僕が大事なことを言いかけた時、地面に倒れて気を失っていた男が、ぼんやりと目を開けた。
男が戦意喪失したのを確かめて、アリウスはすぐさま僕に駆け寄り、僕をその胸に掻き抱いた。
アリウスは騎士服の上からでも分かるくらい、じっとりと汗ばみ、小刻みに震えている。
アリウスの心臓、すごいドキドキしてる。
僕を心配して、急いで来てくれたんだ。
僕はアリウスの体温を感じ、ようやく心から安心した。
「シルティ、怪我はないか?乱暴な事はされてないか?怖かっただろ?傍にいてやれなくて、すまなかった。私が人夫の確認を怠ったばかりに」
アリウスが一つ言葉を発する度に、僕を抱き締める腕に力が入る。
「ア、アリウス、僕は大丈夫だよ、ハナがいてくれたし。それより、ちょっと苦し⋯」
「す、すまない!」
アリウスは慌てて僕を解放し、腰を屈めて僕の顔を覗き込んだ。
「アリウス、心配かけてごめんね」
僕がアリウスの瞳を見つめると、アリウスは、サファイアブルーの瞳に涙を滲ませ、僕の頬を大きな手で包み込んだ。
「シルティが無事で、本当によかった。シルティが恐ろしい目に遭っているかと思ったら、生きた心地がしなかった」
「アリウス、来てくれて嬉しかった。でも、どうして僕を連れ去ろうなんて思ったんだろう?この人、窃盗犯なの?」
「ああ、そうだ。こいつが指名手配されている窃盗団の一味なのは間違いないようだが、詳しい事は、この男が目を覚ましてからだな」
アリウスは、地面に伸びている男を、眉間に皺を寄せて、じろりと睨んだ。
「そう言えば、ねえアリウス、どうしてこの人、急に気を失ったの?アリウスの手袋って、そんなに威力があったのかな?」
「ああ、それは私も不思議に思ったんだ。私もクレナの声が聞こえて、咄嗟に言う通りにしただけなんだ」
「たしか、くさいとか言ってたような。あはは、まさかね。アリウスの手袋が、臭うはずないよね」
「ああ」
「ごほん、旦那様、よろしいでしょうか」
駆け付けたクレナも、心配そうに、僕に寄り添ってくれている。
「なんだ、クレナ、手袋の種明かしか?」
クレナはふぅと、溜息を吐いた。
「⋯かれこれもう11年になるでしょうか、旦那様が、シルティ様のお手に触れた手を、洗いたくないとおっしゃったのは覚えておいでですか?」
「あ、ああ、覚えている。それがどうした?」
「その時、シルティ様のお手に触れた旦那様の手が触れた手袋も、洗いたくないとおっしゃったのは、覚えておいでですか?」
んん?何回、手って言った?
「ああ、当たり前だろ?シルティの香りが染み込んでいるんだぞ。洗うわけないだろ?ああっ!こいつ、シルティの香りを嗅いだのか!?」
えっ⋯?
「まさか⋯、僕の匂いが臭くて、その人倒れちゃったの?」
僕は脳天に衝撃を食らった。
「なっ!?そんなわけ、ないだろ!」
アリウスが大慌てで、僕の肩を掴むと、クレナが一歩アリウスに近づいた。
「旦那様、その言い方では、とてつもなく語弊があります。シルティ様が、ひどくショックを受けておられます」
「なっ!?」
「旦那様、耳の穴かっぽじって、よく聞いてください」
「かっぽ⋯、な、何だ?」
クレナがすうっと、息を吸った。
「臭いのは、旦那様の手袋ですっ!いい加減、洗わせてくださいっ!!いいえ、この際ですので言わせていただきます。侯爵ともあろうお方が、いつまで、ぼろぼろの手袋をつけているんですか!新しいのを買ってくださいっ!!」
買ってください─ください─さい─
侯爵邸に、こだまが響いた。
「ぷふっ」
ハナ⋯よく笑えるね。
「く、くさ、臭い⋯」
ぽそっと呟いたアリウスが、口をあんぐりと開けて、立ち尽くしている。
僕はアリウスの背中をそっと撫でた。
「アリウス、今度一緒に買いに行こうね」
アリウスはこくんと頷いた。
「それよりアリウス、番のこと、なんで教え⋯」
「う゛ぅ⋯」
僕が大事なことを言いかけた時、地面に倒れて気を失っていた男が、ぼんやりと目を開けた。
あなたにおすすめの小説
既成事実さえあれば大丈夫
ふじの
BL
名家出身のオメガであるサミュエルは、第三王子に婚約を一方的に破棄された。名家とはいえ貧乏な家のためにも新しく誰かと番う必要がある。だがサミュエルは行き遅れなので、もはや選んでいる立場ではない。そうだ、既成事実さえあればどこかに嫁げるだろう。そう考えたサミュエルは、ヒート誘発薬を持って夜会に乗り込んだ。そこで出会った美丈夫のアルファ、ハリムと意気投合したが───。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
長年仮番として務めてきましたが、王子は正式な番を娶るそうです
けふ
BL
王都を守る巨大結界は、王族の魔力によって維持されている。
第二王子アデルの傍らには、常に一人の騎士がいた。
近衛騎士レオン。
彼は長年、王子の「仮番」として特別な任務を担っている。
しかし王子は、他国の王女との正式な番契約が決まってしまった。
仮番の役目は、そこで終わるはずだった。
だが結界塔で行われる儀式の中で、
二人の関係は次第に変わり始める。
王族と騎士。
主と臣下。
越えてはならない境界を前にしても、
王子は騎士の手を取る。
「共に立て」
※オメガバースではありません
※ふんわり読んでください
※なんでも許せる方向け
※イラストはChatGPTさん
出世したいので愛は要りません
ふじの
BL
オメガのガブリエルはオメガらしい人生を歩む事が不満だった。出世を目論みオメガ初の官僚としてバリバリと働いていたは良いものの、些細な事で体調を崩す様になってしまう。それがきっかけで五年程前に利害の一致から愛の無い結婚をしたアルファである夫、フェリックスとの関係性が徐々に変わっていくのだった。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。番外編をちょこちょこ追加しています。