ぼんやり令息はひねくれ王子の溺愛に気づかない

まんまる

文字の大きさ
2 / 24
天使の困惑~sideシェラ~

2

「シェラ、このまま、部屋までエスコートさせてくれ」
「大丈夫です。僕、ちゃんとライアス殿下の後をついて行きます」

僕が殿下の手をほどこうとすると、逆に殿下から手を引き寄せされてしまった。

「あ、あの、殿下⋯?」
「手を離したら、シェラはふらふらとどこかに行ってしまうだろ?」
「そ、そんな事ないです。だから、手を離してください」
「⋯では、絶対俺についてこい。少しでも離れたら、すぐに手を繋ぐからな」

殿下の顔からは、さっきまでの笑顔がなくなっていた。
僕はまた怒鳴られるんじゃないかと思って身構えていると、殿下はくるっときびすを返して、早足で王城の中に入っていってしまった。

「えっ?殿下ぁ!待ってくださぁい!」

僕が呼び止めても、殿下の姿はみるみる小さくなって見えなくなってしまった。

「どうしよう、怒られるかも⋯。帰ろうかな⋯」

僕が門の方を向いて歩き出そうとすると、後ろからものすごい勢いの足音が聞こえてきた。

ドドドドドッ!

「ぜぇぜぇ、シェラ!なに勝手に帰ろうとしてるんだ!」
「えっと、殿下が見えなくなってしまったので、帰ろうかと⋯」
「はあっ!?」

殿下は苛立ちながら、僕の手を掴んできた。

「シェラが俺について来れなかったら、手を繋ぐ約束だからな!」
「あっ、そっか」
「シェラ、お前、そんなにぼやっとして、よく今まで無事でいられたな」
「無事⋯、ですか?はい、僕、元気です」
「くっ、そんな可愛い顔で首を傾げて、いったい俺をどうするつもりだ!」
「可愛⋯?えっと⋯、何の話でしたっけ?」
「ああっ!もういい!来いっ!」
「わわっ、殿下、引っ張らないでくださいっ」


僕は殿下にぐいぐい手を引かれながら、王城の中を右に左に振り回され、気づくと誰の部屋か分からない、重厚な扉の前に立っていた。

「ここは⋯?」
「シェラ、ここは俺の部屋だ。入るぞ」

殿下は僕の手を掴んだまま、扉を開けてずんずん中に入っていった。

「殿下、ちょ、ちょっと待ってください!」
「ここまで来て、待てるか」
「えっ?」

一瞬、殿下の顔が切なそうに見えたのは、僕の気のせいに違いない。


殿下は何故か僕をベッドに座らせて、横にぴったりくっついてきた。
僕が少し横にずれると、それに合わせるように、殿下も横にずれて、僕にくっついてくる。
それを3回繰り返して、僕は諦めた。

「シェラ、手紙は読んだか?」
「はい、父様から聞きました」
「⋯伯爵が目を通したんだな」
「はい、僕が1人で読んで、勘違いしたらいけないので」
「もしかして、シェラ宛ての手紙は、全部伯爵が目を通すのか?」
「はい。前に『広場の噴水の前で待ってます。絶対シェラ様一人で来てください』って書かれてあったので、その通りにしたら、さらわれそうになったんです」
「なっ!?どこのどいつだ!シェラに触れた奴は!俺が八つ裂きにしてやる!!」
「やつざき⋯?ええっと、その時は、伯爵家の護衛がすぐに助けてくれました。僕が気づかないうちに、護衛がついてきてくれてたんです」
「そうか、ふぅ、俺のシェラが無事でよかった」
「俺のシェラ?」
「ごほん、何でもない。だから伯爵は、シェラの手紙を全て確認しているんだな。ふふん、俺の手紙は合格だったと言う事か」
「合格?殿下は何か試験を受けたんですか?」
「まあ試験みたいなものだ。シェラがここに来る許しを、伯爵から得る試験だ」
「えっと、よく分かりませんが、合格おめでとうございます」
「⋯⋯ありがとう」

殿下は、ふぅっと溜め息をついた。

「シェラ、頼みたい事がある」
「はい。手紙に書いてあった事ですね」
「そうだ。シェラに、俺の恋人のフリをして欲しいんだ」
「恋人のフリ?」
「ああ、そうだ。俺に隣国の第3王女との婚姻の話が持ち上がっている。だが、俺はあの王女が苦手なんだ。昔からやたら俺にベタベタしてきて、俺を狙ってる感じが見え見えだったからな」
「そうなんですか。えっと、お断りします」
「はっ!?シェラ、俺が困っているのに、助けようとは思わないのか!?」
「ええっと、僕、男だから、無理だと思います」

僕は思った事を、素直に殿下に伝えた。

「そ、それは⋯、俺に考えがあるから大丈夫だ。父王の後継は王太子の兄上と決まっている。後々揉め事が起きないように、俺は男性と付き合って跡継ぎを作らないようにする、というていでいく」
「でも⋯」
「シェラ、これは命令だ!」

殿下から怒鳴られて、子供の頃のお茶会を思い出した。

「ふぇっ、ぐすっ、ごめんなさいぃ」
「ああぁっ!シェラ、泣くなっ!」

こうなれば、僕が何を言っても、きっと殿下から怒鳴られるんだ。


僕は、はい、と言うしかなかった。

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。 15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。 その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。 そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。 だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。 そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。 「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。 前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。 だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!? 「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」 初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!? 銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。

​転生したら最強辺境伯に拾われました

マンスーン
BL
現代日本人・東堂裕太が目を覚ますと、そこは異世界。クズな婚約者に魔力を限界まで搾取され、ボロボロになって森に捨てられる悲惨な青年・ルカに転生していた。 ​死を覚悟した裕太だったが、そんな彼を拾い上げたのは、帝国最強の武力を誇り「氷の死神」と恐れられる辺境伯・ラーク。

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

嫌われ者のオメガ領主は今日も夫に片想い

おもちDX
BL
オメガ系貴族のシェリールは、貧乏貴族でアルファのルイと結婚した。 家のため、いい噂のないシェリールに婿入りしたルイはいつも不機嫌そうだ。 でもシェリールは、長年の推しであるルイにどれだけ冷たくされようと、同じ屋根の下にいるだけで幸せいっぱい! 二人の関係は発情期を機に変わっていく。シェリールの仕事ぶりや意外な一面を目にするたび、ルイの態度は軟化していくが、オメガを狙った盗賊団の活動が二人の住む領に迫ってきて……? 真面目で無愛想な騎士アルファ✕推しが夫になって幸せすぎる敏腕領主オメガ 独自設定の異世界オメガバースです。ハッピーエンド。 基本明るい受け視点。中~長編になります。