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天使の困惑~sideシェラ~
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「あ、あの、ライアス殿下、もういいんじゃないですか?」
「⋯⋯」
「だって⋯、これはハグの練習ですよね?」
僕の練習の一言で、殿下の体からふっと力が抜けるのが分かった。
殿下は、僕の肩に手を置くと、すっと体を離し、僕の顔を覗き込んできた。
「シェラ、練習が辛いか?辛いなら⋯」
「いいえ!大丈夫、です⋯」
「では何故、そんな顔をしているんだ?」
顔?あれ⋯?
自分でも気づかないうちに、僕の頬に涙が伝っていた。
殿下は僕の頬を大きな手で包み込み、優しく微笑んで、親指でそっと涙を拭ってくれた。
「⋯シェラ、後で大事な話がある」
ああ、きっと僕はお役御免になるんだ。
僕が恋人のフリもちゃんとできない、頼りない奴だって、殿下は気づいたんだろう。
殿下の温かくて大きな手を、僕は忘れる事ができるだろうか。
それから殿下は、ペンを一緒に選んでくれたり、ついでだと言って、僕が見ていた大きな犬のぬいぐるみも買ってくれた。
ふふっ、この犬、何だか殿下に似てる。
帰りの馬車は、殿下が隣りにぴったり座っても、僕は驚かなかったし、むしろ嬉しかった。
「ライアス殿下、今日は楽しかったです。素敵なペンと可愛いぬいぐるみまで頂いて、ありがとうございました」
「シェラが喜んでくれて、俺も嬉しいよ。また今度一緒に出掛けよう」
「はい」
僕が笑顔を作ると、殿下は優しく見つめ返してくれた。
『また今度』が来ない事が、僕の胸をぎゅっと締め付けた。
僕が力なく目を伏せていると、殿下が急に真剣な声色で僕に話し掛けてきた。
「シェラ、大事な話がある」
僕は卑怯だ。
殿下の話を聞きたくなくて、きつく目を閉じ、俯いてしまった。
ごそごそ
何⋯?
「シェラ、来月の舞踏会、俺のパートナーとして参加してくれないか?俺にシェラをエスコートさせてくれ。シェラ、今度はフリじゃない。本当の恋人としてだ」
殿下から優しく手を握られ、そっと目を開けると、僕の胸には、殿下の瞳と同じ、澄んだ青い宝石が付いたブローチがキラキラと輝いていた。
よく見ると、殿下の胸には、ライムグリーンの宝石が付いたブローチが付けられていて、僕に優しく微笑みかけるように、キラリと光った。
「殿下のブローチ⋯、僕の瞳の色ですか⋯?」
「ああ、そうだ。シェラ、こんな馬車の中で悪いが、返事をくれるか?」
「本当⋯、ですか?」
「ああ、本気だよ。俺にはシェラしかいない」
「うっ、ぐすっ、ライアス殿下ぁ」
「俺のシェラ」
殿下は僕の耳元で甘く囁くと、僕を優しく抱き寄せてくれた。
「シェラ、返事をくれないか?」
「ぐすっ、はい、僕、頼りないですけど、ライアス殿下の恋人に、なりたいです。ふえぇん」
殿下はふわりと僕を抱き締めて、僕が泣き止むまで、何度も何度も額に口付けをしてくれた。
僕の家に着き、寄り添うそうに馬車から降りてきた僕達を見た父様から、顔は笑っているのに、声は怒っているという、何とも摩訶不思議な妙技を見せられた。
後日、王家から伯爵家に、ライアス殿下と僕の婚約の打診があった。
でも父様は、今までの殿下の僕に対する態度があるから、少しだけ待ってくれと返事をしたそうだ。決して反対という事ではない、と書き添えたと聞いて、胸を撫で下ろした。
ふふっ、僕だって、あのライアス殿下とまさか結婚するなんて、未だに信じられない。
殿下と想いが通じたあの日からひと月が過ぎ、今夜、殿下と約束をした舞踏会が王城で開かれる。
あの日、別れ際に、今までひどい態度を取ってきた言い訳をちゃんとさせてくれ、と殿下から言われた。でも、殿下も忙しいみたいで、あれから今日まで、一度も会えていない。
「シェラ、殿下はまだ来られないのか?」
「はい、父様にも何も連絡はないですか?」
「ああ、おかしいな。シェラ、このままでは間に合わないぞ。もう家の馬車で行きなさい」
今日は、ライアス殿下が伯爵家まで迎えに来てくれることになっていた。
それでは殿下が手間だろうと、一度は断ったけど、早く僕に会いたいから、と言ってくれた。
「何か連絡もできない急用ができたのかな⋯?」
王城に着くと、王家の侍従がすっと馬車の扉を開けて手を差し出してくれた。そのまま舞踏会の会場まで案内され、僕は会場を見回してライアス殿下を探した。
その時、会場がザワザワと騒がしくなった。
会場中に溢れんばかりにいた招待客が、まるで海が割れるように左右に分かれ、その分かれた先を食い入るように見ている。
「何だろう⋯、えっ⋯?」
僕の目に飛び込んできたのは、隣国の第3王女と仲睦まじく腕を組み、招待客に笑顔で応えるライアス殿下だった。
ライアス殿下⋯、どうして⋯?
氷のように冷たくなった血が、全身を駆け巡る。
喉がつかえて声が出ない。
こんな煌びやか場所で駄目だと分かっていても、涙が溢れて止まらなかった。
僕がその場から動けずにいると、一人の男性が心配そうに近づいてきた。確かダルトン伯爵家のご子息だったと覚えている。
「シェラ殿、大丈夫ですか?」
その男性が僕の顔を覗き込み、手を取ろうとした時、ライアス殿下が腕を組んでいた王女を引きずりながら、こちらに近づいてきて、男性の手をいきなり掴んだ。
パシッ
「触るな!!」
男性は殿下に何か言いたそうにしていたけど、眉間に皺を寄せ、言葉をごくりと飲み込むと、もう一度僕を心配そうに見つめて去って行った。
「⋯⋯」
「だって⋯、これはハグの練習ですよね?」
僕の練習の一言で、殿下の体からふっと力が抜けるのが分かった。
殿下は、僕の肩に手を置くと、すっと体を離し、僕の顔を覗き込んできた。
「シェラ、練習が辛いか?辛いなら⋯」
「いいえ!大丈夫、です⋯」
「では何故、そんな顔をしているんだ?」
顔?あれ⋯?
自分でも気づかないうちに、僕の頬に涙が伝っていた。
殿下は僕の頬を大きな手で包み込み、優しく微笑んで、親指でそっと涙を拭ってくれた。
「⋯シェラ、後で大事な話がある」
ああ、きっと僕はお役御免になるんだ。
僕が恋人のフリもちゃんとできない、頼りない奴だって、殿下は気づいたんだろう。
殿下の温かくて大きな手を、僕は忘れる事ができるだろうか。
それから殿下は、ペンを一緒に選んでくれたり、ついでだと言って、僕が見ていた大きな犬のぬいぐるみも買ってくれた。
ふふっ、この犬、何だか殿下に似てる。
帰りの馬車は、殿下が隣りにぴったり座っても、僕は驚かなかったし、むしろ嬉しかった。
「ライアス殿下、今日は楽しかったです。素敵なペンと可愛いぬいぐるみまで頂いて、ありがとうございました」
「シェラが喜んでくれて、俺も嬉しいよ。また今度一緒に出掛けよう」
「はい」
僕が笑顔を作ると、殿下は優しく見つめ返してくれた。
『また今度』が来ない事が、僕の胸をぎゅっと締め付けた。
僕が力なく目を伏せていると、殿下が急に真剣な声色で僕に話し掛けてきた。
「シェラ、大事な話がある」
僕は卑怯だ。
殿下の話を聞きたくなくて、きつく目を閉じ、俯いてしまった。
ごそごそ
何⋯?
「シェラ、来月の舞踏会、俺のパートナーとして参加してくれないか?俺にシェラをエスコートさせてくれ。シェラ、今度はフリじゃない。本当の恋人としてだ」
殿下から優しく手を握られ、そっと目を開けると、僕の胸には、殿下の瞳と同じ、澄んだ青い宝石が付いたブローチがキラキラと輝いていた。
よく見ると、殿下の胸には、ライムグリーンの宝石が付いたブローチが付けられていて、僕に優しく微笑みかけるように、キラリと光った。
「殿下のブローチ⋯、僕の瞳の色ですか⋯?」
「ああ、そうだ。シェラ、こんな馬車の中で悪いが、返事をくれるか?」
「本当⋯、ですか?」
「ああ、本気だよ。俺にはシェラしかいない」
「うっ、ぐすっ、ライアス殿下ぁ」
「俺のシェラ」
殿下は僕の耳元で甘く囁くと、僕を優しく抱き寄せてくれた。
「シェラ、返事をくれないか?」
「ぐすっ、はい、僕、頼りないですけど、ライアス殿下の恋人に、なりたいです。ふえぇん」
殿下はふわりと僕を抱き締めて、僕が泣き止むまで、何度も何度も額に口付けをしてくれた。
僕の家に着き、寄り添うそうに馬車から降りてきた僕達を見た父様から、顔は笑っているのに、声は怒っているという、何とも摩訶不思議な妙技を見せられた。
後日、王家から伯爵家に、ライアス殿下と僕の婚約の打診があった。
でも父様は、今までの殿下の僕に対する態度があるから、少しだけ待ってくれと返事をしたそうだ。決して反対という事ではない、と書き添えたと聞いて、胸を撫で下ろした。
ふふっ、僕だって、あのライアス殿下とまさか結婚するなんて、未だに信じられない。
殿下と想いが通じたあの日からひと月が過ぎ、今夜、殿下と約束をした舞踏会が王城で開かれる。
あの日、別れ際に、今までひどい態度を取ってきた言い訳をちゃんとさせてくれ、と殿下から言われた。でも、殿下も忙しいみたいで、あれから今日まで、一度も会えていない。
「シェラ、殿下はまだ来られないのか?」
「はい、父様にも何も連絡はないですか?」
「ああ、おかしいな。シェラ、このままでは間に合わないぞ。もう家の馬車で行きなさい」
今日は、ライアス殿下が伯爵家まで迎えに来てくれることになっていた。
それでは殿下が手間だろうと、一度は断ったけど、早く僕に会いたいから、と言ってくれた。
「何か連絡もできない急用ができたのかな⋯?」
王城に着くと、王家の侍従がすっと馬車の扉を開けて手を差し出してくれた。そのまま舞踏会の会場まで案内され、僕は会場を見回してライアス殿下を探した。
その時、会場がザワザワと騒がしくなった。
会場中に溢れんばかりにいた招待客が、まるで海が割れるように左右に分かれ、その分かれた先を食い入るように見ている。
「何だろう⋯、えっ⋯?」
僕の目に飛び込んできたのは、隣国の第3王女と仲睦まじく腕を組み、招待客に笑顔で応えるライアス殿下だった。
ライアス殿下⋯、どうして⋯?
氷のように冷たくなった血が、全身を駆け巡る。
喉がつかえて声が出ない。
こんな煌びやか場所で駄目だと分かっていても、涙が溢れて止まらなかった。
僕がその場から動けずにいると、一人の男性が心配そうに近づいてきた。確かダルトン伯爵家のご子息だったと覚えている。
「シェラ殿、大丈夫ですか?」
その男性が僕の顔を覗き込み、手を取ろうとした時、ライアス殿下が腕を組んでいた王女を引きずりながら、こちらに近づいてきて、男性の手をいきなり掴んだ。
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「触るな!!」
男性は殿下に何か言いたそうにしていたけど、眉間に皺を寄せ、言葉をごくりと飲み込むと、もう一度僕を心配そうに見つめて去って行った。
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