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「できた」
夜ご飯を作り終え、お皿に盛る。
そろそろ旦那が帰ってくる頃かなと、スマホを見た。
……連絡がない。
いつもなら、30分前にはメッセージがきてるのに。
多分忘れているのだろうと、しばらく待つことにした。
そして、数時間が経った。机に並べた料理は冷め、私の心はふつふつと煮えたぎっている。
電話も出ないし、一体何をしているのだろうか。まさか事故?
ヒヤリとした瞬間、ガチャリと玄関から音がした。慌てて入口に向かう。そのまま目の前の男に飛びついた。
「あー……良かった。本当に心配したんだから、連絡してって言ったじゃん!」
「わっ、ビビった、なんだよ」
グイグイと距離を取ろうとしてくる旦那。もとい山吹直也は、軽くため息をついてリビングへ進んだ。
七三分けの黒髪を、がしがしとかいている。エリはへたれ、白い首には汗が伝ってた。
190cm近くもある身長は、背中を丸めているからか、小さく見える。
「もう12時だよ……そんなに忙しかったの?」
「まぁそう。あ、飯食ってきたから、いらない」
「……え」
準備しちゃったんだけどと、言い終わる前に、直也は服を脱いで、お風呂場に入っていった。
流石に殴りたい。
こういう時は、どうすればいいんだろう。この前ネットで見たアンガーマネジメントでも試せばいいのかな。
無駄になった夜ご飯を先に片付け、洗濯をしようと、乱雑に置かれたワイシャツを掴んだ私は、思わず固まった。
「く……ちべに?」
え、偽物? と、疑ってしまうくらいに、くっきり。左胸に付着していた。
1.2.3.4.ビリッ
「あっ」
気持ちを落ち着かせるために、数をかぞえていた私は、いつの間にか布を破いていた。
これはダメだ。6秒ルールなんて嘘じゃないか。
でも、もしかしたら私の勘違いかも。そう思って、色々な場面を想像する。
例えば、すれ違った拍子にぶつかったとか、自作自演とか、女装趣味があったとか。
いくつも考えるが、直也がそうなるとは思えないものばかりで、落胆する。使い物にならなくなったワイシャツは、袋に突っ込んだ。
私は眠い目をこすりながら、椅子に座った。
チッチッと、時計の針が、部屋に響いている。やがて、半裸の直也が、タオルで顔を拭いながら出てきた。
「……なにしてんの沙羅、そんなところで」
口をぽかんとあけ、名前を呼んでくる。私は無理やり笑顔を作り、質問した。
「浮気ってさぁ……どう思う?」
「は?」
「いいと思う?」
直也は固まった。
でも、バレた、という表情はしていない。本当に意味が分からない。という感じ。だからあれと思った。もしかして私の早とちり?
急に申し訳なくなり、何も喋れずにいると、いきなり肩を掴まれた。
「もしかして……浮気してんの?」
眉間に皺を寄せた直也が聞いてくる。
私は慌てて否定した。
「ち、違うって。私がするわけないでしょ」
「……まぁ、それもそうか、沙羅は俺のこと大好きだもんな、俺から離れられないだろうし、そんなことするわけねーか」
手を離し、寝室へ歩いて行く。
圧迫感のなくなった肩は、まだ少し痛かった。
直也から見た私は、自分に依存している女。という認識なのだろう。交際する前から、好き好きとアピールをしていたからそう思ってしまうのかもしれないけれど。
今は別にそこまで熱狂的ではない。
というのも、昔は、直也の俺様なところがかっこよく見えたが、年月が経ち、だんだんめんどくさくなってきたのだ。
もう少しこちらの気持ちを考えてくれたらありがたいのに。
電気を消し、私も寝室へ向かう。
既に布団に入って、寝息を立てている直也をみつめる。
本当に、顔だけはいいんだよなぁ。
あくびをし、腰を下ろそうとした私の目に、直也のスマホが映った。
そういえば、最近やけに気にしていたな。
私の勘違いかもしれないが、もやもやとした疑惑が、再び現れる。
私は悩んだ末、ごめんと思いながら、手に取った。
直也の指紋でロックを解除し、連絡用アプリを開く。
1番上に私が固定されていて、下にスクロールして、息を飲んだ。
誰だ。
この女たち。
――今日はありがとう~♡めっちゃ気持ちよかったー!
――この前はどうもまた会いたいです
――連絡まだ?既読くらいつけてよ
確定で黒。絶対浮気。
しかも複数人と。
高頻度で会っている内容だ。どうりで最近、帰りが遅かったんだ。
ブチりと、私の何かが切れた。
枕を両手でつかみ、直也に叩きつける。
「……ん、わっ、は、え、な、なんだよ! いきなり」
「これ、どういうこと?」
顔面にスマホをぶつけると、いてっとつぶやき、受け取った。
「……あぁ、なんだこれか」
睨みつけても、はっと、軽薄な笑みを浮かべるだけ。焦った様子はない。
「ちょっと会っただけだよ。別にいいだろ、ただの性欲発散だし。妻は沙羅なのは変わらないんだからさ。……何、妬いてんの? 本当に俺のこと好きなんだから」
バチン
気づいたらに頬を叩いていた。こんな自意識過剰の化け物を生み出してしまったのは私の責任だ。正気に戻さないと。
「妬いてないんだけど。結婚してるのに、浮気していいわけがないでしょ」
「はぁ、言い訳すんなよ。てか、叩くほどじゃないだろ、俺が好きなのは沙羅だし、それならいいだろ」
言葉にならない怒りが湧く。
この先旦那とやっていける気がしない。
私は直也をベッドに倒した。
「な、なんだよ……急に」
「――だ」
「……なんて?」
「離婚だ! 離婚してやる!」
「はぁ?」
窒息死するのでは、というくらい布団を巻き付ける。
人を殺す時ってこんな感情なのかなと思った。
「っ……ぷはっ、ちょ、まじ、やめろよ」
隙間から叫ぶ直也に、私はだんだん馬鹿らしくなってきた。無駄な体力を使わされてるのが腹立たしい。
少し冷静になってきたので、そっぽを向いて目を瞑った。
「な、なぁ、無視すんなよ。離婚、とか、どうせ嘘だろ? だって沙羅が、俺から離れるわけないもんな。……ちょ、おい! なんとか言えよ」
耳元で喚くので、強制的に意識が引っ張られる。しかも、私の茶色いショートの髪に、顔を、擦り寄ってくる、というか、擦り付けてくるので、汚い。
「ねぇ……やめて」
横目で睨みつけると、直也は一瞬怯んだ。けれど、すぐに、いつもの威勢を取り戻した。
「し、しらねーからな!」
ボフンと効果音をたてて、直也は背中を向ける。結局、私たちは反対を見ながら眠りについた。
次の日の朝、いつもなら朝ごはんを作るが、私は起きなかった。
直也がブツブツと言っている声で、目は覚めたが、知らないフリをした。
扉を閉め、続いて鍵をかける音がしたので、私は地面に足をつける。
立ち上がって、洗面所で顔をあらった。
今日は気分転換にどこかに行きたい。でも、誘える友人がいない。
結婚してから、誰かと交流することがなくなってしまった。というのも、直也が、私が誰かと一緒にいようとすると、俺の妻なんだから、俺のために家にいろと言ってくるのだ。
そうだよね、仰せのままにと従っていたのだが、今になって考えると、おかしい気がする。
まぁ、もう取り返しがつかないのだけれど。
ひとりが嫌いな訳ではないし、いいかと思った時、あ、と思い浮かぶ人物がいた。
「そうだ、優希!」
幼なじみの、やさおとこ。
身長は確か185cmくらいで、ツーブロックの黒髪。
つり目の直也とは対照的に、タレ目だった。
最近会っていないから、記憶がおぼろげだ。
前に、仕事の休みは不定期だ。と言っていたから、もしかしたら今日会えるかもしれない。久しぶりに話したいと思い、私は連絡をした。
すぐに既読がつき、メッセージが返ってきた。
――全然空いてる。ご飯食べ行こ
ガッツポーズをする。
1時間後に駅前で待ち合わせをすることになり、鼻歌を歌いながら、軽いメイクをして、準備をした。
***
「ごめん! 電車遅延しちゃって、すごい待ったよね、暑かったでしょ」
全力ダッシュで向かい、頭を下げる。なんてついてないんだと、息を切らしながら思った。
「いいよ、気にしてないし。沙羅こそ走って疲れたでしょ、さっきそこで飲み物買ったからあげる」
そう言って渡してきたのは、カフェチェーン店の、新作のジュースだった。
「え、えぇ、奢るべきは私だよね。な、何円だった? 優希の分も払うから」
「いいって、俺が買いたかっただけだから」
仏か? と、口に出そうになる。
気を取り直して、どこに行こうかと尋ねれば、近くに美味しい飲食店があると言う。2人でそこに向かい、店の中に入った。
椅子に座り、頼んだ料理を待ってる間に、優希が聞いてきた。
「沙羅とこうやって喋るの久々だね。俺は嬉しいけど、旦那さんは大丈夫なの?」
「本当に! あ、そうなの……今日は旦那のことで話したいことがあって」
私が喋ると、優希は、氷の入ったグラスを置いて、「へー、何?」と頬杖をついた。
「実はね、昨日、直也が浮気してるの知っちゃって、本当にムカついてムカついて」
「浮気?」
「ワイシャツに口紅付けてきて、知らない女とやり取りしてたの、しかも複数人!」
前のめりになってしまい、ごめんと座り直す。目の前の男は、作り物みたいな笑みを浮かべて、口を開いた。
「じゃあさ、離婚しちゃえば?」
予想外の提案に、私は言葉を失う。
優希がそんなふうに言ってくるとは思わなかった。
返事をするよりも先に、「それか……俺と、浮気する?」と、とんでもない提案してきたので、え! と、思わず叫んだ。
何を考えてるのか分からない。じっと見つめるが、にっこりと笑ったままだ。
私はわざと明るい声を出した。
「え、あ、いや~、流石にそれだと直也と同じになっちゃうからさ。気を使わせて申し訳ない……。それに、優希だったら、わざわざ私選ばなくても、引く手あまたでしょ? 学生の頃も凄かったし、あ、今良い感じの人とかいないの?」
ちょっと無理やりだが、話題を変える。
優希は水を飲んだ後、考え込んだ。
「いないかな。というか、学生の頃も、今も、ずっと同じ人が好きでさ、彼女、作ったことないんだよね」
「……え、そうなの? ……知らなかった」
「そう。初めてもずっとその人のためにとってる。俺ってば一途だよねー」
「そ、そうなんだ。 え、私の知ってる人?」
「知ってるも何も、俺の目の前にいる人だけど」
理解が追いつかなくて。キョロキョロと辺りを見回す。優希はおかしそうに、あははと、声を漏らした。
目の前の……。
流れ的に、私の事を言っているが、冗談だろうか。
「や、やめてよー、び、びっくりするよ」
「うん。でも本気だから」
優希の向けてくる表情が真剣で、反応に困る。
「どうせ叶わないなら、伝えちゃおうと思って。あ、そうそう、結婚式に参列したときさ、俺の人生終わったー、って思ったけど、案外生きていけるもんなんだな。……まぁ、忘れらんないんだけど、昨日も夢で見たし」
ダラダラと、冷や汗が流れる。
何とか絞りだして、「えっと、なんか、今までごめん」と伝えれば、優希は、なんで謝るんだよ!と笑った。
いたたまれなくなった時、タイミングよく料理が運ばれてきた。思わずホッと息を吐く。
おー美味そうと、なんでもなかったように食べ始める優希が、ちょっとだけ怖かった。
私も黙って手を動かす。
そうして、いつの間にか時間は過ぎていった。店を出た私達は、帰り道を歩く。
最初に待ち合わせした場所に着き、今日はありがとうとお辞儀をした。
「こちらこそ。また誘ってよ。旦那さんのことでなんかあったりしたら、相談して、手伝うから」
「……その事なんだけど」
言いづらいなと思いながら、優希を見る。首をかしげ、どうしたの? という視線を送ってきた。
「実は、もう、というか私が勝手にそう決めてる事なんだけど。直也とは離婚しようと思ってるんだ」
「……え」
「だ、だから、えーと、まぁ、気が向いたら、独り身になった私のこともらってよ」
「うわ……まじか。……いや、うん。そりゃ、絶対もらうけど。まじか。10年以上待って、やっと……」
優希は、片腕で目元を隠し、顔を背けた。
こちらから見える耳は、ほんのりと赤くなっている。
私の体温も上がっていく。
「じゃ、じゃあ、またね!」
早口で喋りながら別れる。
そのまま自宅へ向かった。
大した時間もかからずに、家に着いた私は、バッグから鍵を取りだした。
扉をあけようとして、手を止める。
「なんで……」
ドアが、数センチ開いていた。
戸締りしたはずなのに、なぜ?
恐る恐る取っ手に触れる。
もし、空き巣だったら、股間を蹴ってやろうと思った。
ガチャリと音をたて、足を踏み入れた私の耳には、聞き馴染みのある声が飛んできた。
「あ、よかった……って、おい! どこ行ってたんだよ!」
「……え、直也? も、もう帰ったの?」
「そうだよ、昨日沙羅が、り、離婚とか変なこと言い出すから、仕事切り上げて、早く返ってきたんだよ……」
すごい勢いでやってきた直也は、私の腕を掴んだ。
あまりの力に、顔が歪む。
「ちょっとご飯食べてきただ――」
「お前、男と会っただろ?」
説明する前に、直也がこちらを見て、言い放った。
なんで分かったのと、体が強ばる。
「やっぱりそうなんだな、変な匂いするし……あぁもう、外出も禁止にしときゃ良かった。ふざけんなよ、浮気じゃねーか、……なぁ、……デート以外は、してないよな?」
私だけが悪いという内容に、カチンときた。
こうなったら、騙してやる。
「浮気したのは直也でしょ? あと、デート以外もしました。私も寝ました。性欲発散です! ……痛いから離してよ!」
べーと、舌を出し、直也の手を払う。
地団駄を踏みながら、前へ進んだ。
バタバタと、後ろから大きな音が迫ってくる。振り返る前に、何かがかぶさってきた。
「は、や、ヤったって、なぁ、う、嘘だろ? だって、沙羅が好きなのは俺だろ? ほ、他のやつとヤったとか、するわけねぇもんな?」
正体は直也だった。震えた声で、何度も質問してくる。
「ほんとだってば! もう、いいかげにして! それに私、まだ許してないから。離婚するし、関係ないでしょ!」
回された腕を解こうにも、がっちりと固定されていて、身動きひとつ取れない。
「り、離婚……? は、発散って、い……言ったけど、違う。わ、悪かった。な、なぁ、冗談だよな? な? ……違うんだ。だ、だって、最近沙羅とヤってなかったし、沙羅は、お、俺の事すげぇ好きだろ? だから、魔が差したっていうか、心配させてやろうと思って、怪しい動き見せたら、沙羅は、もっと俺のことだけ考えるだろ? そ、それに、ちゃんと言っただろ、俺の妻も、好きな人も沙羅だって」
あまりにふざけた理由に、私は黙った。数秒の沈黙が流れる。
直也は耐えきれなくなったのか、「わ、悪かった」と、再び謝罪した。
「も、もうしねーから、だから、誰かとするとか、まじやめろ。離婚も、お、俺を驚かせたくてした嘘なんだろ? だって、沙羅が俺のこと、嫌いなはずないし……」
さっきから、勘違いも甚だしい。
ふーと息を漏らした。後ろにいる男が、ビクリと震える。
私は、分かったと、首を縦に降った。
少し緩んだ腕から逃れ、直也と向き合う。
「もう誰かと寝たりはしないよ」
「ほ、本当に?」
「うん。だからこの話は終わり。ほら、お腹すいてるでしょ? 何か作るよ」
私が台所に向かうと、直也は、ベッタリと肩に抱きついてきた。
「じゃあ、沙羅の作るハンバーグが食べたい」
「うん……」
冷蔵庫から材料を取り出す。その間も、直也はずっと私に付いてきた。時折、ちゅ、ちゅ、と、キスをしてくる。
出来上がった料理を机に並べれば、それはそれは嬉しそうな顔をして、食べ始めた。
次の日、直也が仕事に行った後、私は荷物をまとめた。
記入済みの離婚届を、見えるところに置く。
そして私は、家を出た。
***
扉を開ける。
昨日は、沙羅を怒らせてしまったから、少しでも仲直りできるようにと、スイーツを買ってきた。
沙羅が嫉妬したのは分かっているが、流石に離婚の話をされた時は、肝が冷えた。
もう誰かとヤったりはしないと言っていたし。信じようと思う。もちろん、相手のことは、きちんと調べて始末する。
俺のことばかり考えてる沙羅は可愛いが、流石にやりすぎたなと自分でも反省している。
どこにも行かないように、監禁道具も揃えないと。
「ただいまー」
靴を脱いで、声を出す。
けれど、かえってきたのは、静寂のみだった。
おかしい。いつもなら、すぐにリビングからやってきて、愛くるしい表情を見せてくれるのに。
嫌な予感がしつつも、前に進む。
「……沙羅ー」
呼びかけるが、返事がない。
「沙羅?」
寝室、脱衣場、台所。全てを探すが、沙羅がいない。
ドッと、汗が吹き出る。
呼吸が乱れ、下を見た俺の目に、あるものが映った。
「……り、こん届?」
そばに置かれていた手紙には、「もう直也とはやっていけないから、離婚しよう。私のは記入済みだから、あとは直也が書いて。それと、私はもう、直也のことが好きじゃないから」と記されていた。
「は?」
どういうことだと、問いかけたいのに、相手がいない。
ガランとした部屋は、俺に現実を突きつける。
離婚届はいつの間にか、手の中で粉々になっていた。
夜ご飯を作り終え、お皿に盛る。
そろそろ旦那が帰ってくる頃かなと、スマホを見た。
……連絡がない。
いつもなら、30分前にはメッセージがきてるのに。
多分忘れているのだろうと、しばらく待つことにした。
そして、数時間が経った。机に並べた料理は冷め、私の心はふつふつと煮えたぎっている。
電話も出ないし、一体何をしているのだろうか。まさか事故?
ヒヤリとした瞬間、ガチャリと玄関から音がした。慌てて入口に向かう。そのまま目の前の男に飛びついた。
「あー……良かった。本当に心配したんだから、連絡してって言ったじゃん!」
「わっ、ビビった、なんだよ」
グイグイと距離を取ろうとしてくる旦那。もとい山吹直也は、軽くため息をついてリビングへ進んだ。
七三分けの黒髪を、がしがしとかいている。エリはへたれ、白い首には汗が伝ってた。
190cm近くもある身長は、背中を丸めているからか、小さく見える。
「もう12時だよ……そんなに忙しかったの?」
「まぁそう。あ、飯食ってきたから、いらない」
「……え」
準備しちゃったんだけどと、言い終わる前に、直也は服を脱いで、お風呂場に入っていった。
流石に殴りたい。
こういう時は、どうすればいいんだろう。この前ネットで見たアンガーマネジメントでも試せばいいのかな。
無駄になった夜ご飯を先に片付け、洗濯をしようと、乱雑に置かれたワイシャツを掴んだ私は、思わず固まった。
「く……ちべに?」
え、偽物? と、疑ってしまうくらいに、くっきり。左胸に付着していた。
1.2.3.4.ビリッ
「あっ」
気持ちを落ち着かせるために、数をかぞえていた私は、いつの間にか布を破いていた。
これはダメだ。6秒ルールなんて嘘じゃないか。
でも、もしかしたら私の勘違いかも。そう思って、色々な場面を想像する。
例えば、すれ違った拍子にぶつかったとか、自作自演とか、女装趣味があったとか。
いくつも考えるが、直也がそうなるとは思えないものばかりで、落胆する。使い物にならなくなったワイシャツは、袋に突っ込んだ。
私は眠い目をこすりながら、椅子に座った。
チッチッと、時計の針が、部屋に響いている。やがて、半裸の直也が、タオルで顔を拭いながら出てきた。
「……なにしてんの沙羅、そんなところで」
口をぽかんとあけ、名前を呼んでくる。私は無理やり笑顔を作り、質問した。
「浮気ってさぁ……どう思う?」
「は?」
「いいと思う?」
直也は固まった。
でも、バレた、という表情はしていない。本当に意味が分からない。という感じ。だからあれと思った。もしかして私の早とちり?
急に申し訳なくなり、何も喋れずにいると、いきなり肩を掴まれた。
「もしかして……浮気してんの?」
眉間に皺を寄せた直也が聞いてくる。
私は慌てて否定した。
「ち、違うって。私がするわけないでしょ」
「……まぁ、それもそうか、沙羅は俺のこと大好きだもんな、俺から離れられないだろうし、そんなことするわけねーか」
手を離し、寝室へ歩いて行く。
圧迫感のなくなった肩は、まだ少し痛かった。
直也から見た私は、自分に依存している女。という認識なのだろう。交際する前から、好き好きとアピールをしていたからそう思ってしまうのかもしれないけれど。
今は別にそこまで熱狂的ではない。
というのも、昔は、直也の俺様なところがかっこよく見えたが、年月が経ち、だんだんめんどくさくなってきたのだ。
もう少しこちらの気持ちを考えてくれたらありがたいのに。
電気を消し、私も寝室へ向かう。
既に布団に入って、寝息を立てている直也をみつめる。
本当に、顔だけはいいんだよなぁ。
あくびをし、腰を下ろそうとした私の目に、直也のスマホが映った。
そういえば、最近やけに気にしていたな。
私の勘違いかもしれないが、もやもやとした疑惑が、再び現れる。
私は悩んだ末、ごめんと思いながら、手に取った。
直也の指紋でロックを解除し、連絡用アプリを開く。
1番上に私が固定されていて、下にスクロールして、息を飲んだ。
誰だ。
この女たち。
――今日はありがとう~♡めっちゃ気持ちよかったー!
――この前はどうもまた会いたいです
――連絡まだ?既読くらいつけてよ
確定で黒。絶対浮気。
しかも複数人と。
高頻度で会っている内容だ。どうりで最近、帰りが遅かったんだ。
ブチりと、私の何かが切れた。
枕を両手でつかみ、直也に叩きつける。
「……ん、わっ、は、え、な、なんだよ! いきなり」
「これ、どういうこと?」
顔面にスマホをぶつけると、いてっとつぶやき、受け取った。
「……あぁ、なんだこれか」
睨みつけても、はっと、軽薄な笑みを浮かべるだけ。焦った様子はない。
「ちょっと会っただけだよ。別にいいだろ、ただの性欲発散だし。妻は沙羅なのは変わらないんだからさ。……何、妬いてんの? 本当に俺のこと好きなんだから」
バチン
気づいたらに頬を叩いていた。こんな自意識過剰の化け物を生み出してしまったのは私の責任だ。正気に戻さないと。
「妬いてないんだけど。結婚してるのに、浮気していいわけがないでしょ」
「はぁ、言い訳すんなよ。てか、叩くほどじゃないだろ、俺が好きなのは沙羅だし、それならいいだろ」
言葉にならない怒りが湧く。
この先旦那とやっていける気がしない。
私は直也をベッドに倒した。
「な、なんだよ……急に」
「――だ」
「……なんて?」
「離婚だ! 離婚してやる!」
「はぁ?」
窒息死するのでは、というくらい布団を巻き付ける。
人を殺す時ってこんな感情なのかなと思った。
「っ……ぷはっ、ちょ、まじ、やめろよ」
隙間から叫ぶ直也に、私はだんだん馬鹿らしくなってきた。無駄な体力を使わされてるのが腹立たしい。
少し冷静になってきたので、そっぽを向いて目を瞑った。
「な、なぁ、無視すんなよ。離婚、とか、どうせ嘘だろ? だって沙羅が、俺から離れるわけないもんな。……ちょ、おい! なんとか言えよ」
耳元で喚くので、強制的に意識が引っ張られる。しかも、私の茶色いショートの髪に、顔を、擦り寄ってくる、というか、擦り付けてくるので、汚い。
「ねぇ……やめて」
横目で睨みつけると、直也は一瞬怯んだ。けれど、すぐに、いつもの威勢を取り戻した。
「し、しらねーからな!」
ボフンと効果音をたてて、直也は背中を向ける。結局、私たちは反対を見ながら眠りについた。
次の日の朝、いつもなら朝ごはんを作るが、私は起きなかった。
直也がブツブツと言っている声で、目は覚めたが、知らないフリをした。
扉を閉め、続いて鍵をかける音がしたので、私は地面に足をつける。
立ち上がって、洗面所で顔をあらった。
今日は気分転換にどこかに行きたい。でも、誘える友人がいない。
結婚してから、誰かと交流することがなくなってしまった。というのも、直也が、私が誰かと一緒にいようとすると、俺の妻なんだから、俺のために家にいろと言ってくるのだ。
そうだよね、仰せのままにと従っていたのだが、今になって考えると、おかしい気がする。
まぁ、もう取り返しがつかないのだけれど。
ひとりが嫌いな訳ではないし、いいかと思った時、あ、と思い浮かぶ人物がいた。
「そうだ、優希!」
幼なじみの、やさおとこ。
身長は確か185cmくらいで、ツーブロックの黒髪。
つり目の直也とは対照的に、タレ目だった。
最近会っていないから、記憶がおぼろげだ。
前に、仕事の休みは不定期だ。と言っていたから、もしかしたら今日会えるかもしれない。久しぶりに話したいと思い、私は連絡をした。
すぐに既読がつき、メッセージが返ってきた。
――全然空いてる。ご飯食べ行こ
ガッツポーズをする。
1時間後に駅前で待ち合わせをすることになり、鼻歌を歌いながら、軽いメイクをして、準備をした。
***
「ごめん! 電車遅延しちゃって、すごい待ったよね、暑かったでしょ」
全力ダッシュで向かい、頭を下げる。なんてついてないんだと、息を切らしながら思った。
「いいよ、気にしてないし。沙羅こそ走って疲れたでしょ、さっきそこで飲み物買ったからあげる」
そう言って渡してきたのは、カフェチェーン店の、新作のジュースだった。
「え、えぇ、奢るべきは私だよね。な、何円だった? 優希の分も払うから」
「いいって、俺が買いたかっただけだから」
仏か? と、口に出そうになる。
気を取り直して、どこに行こうかと尋ねれば、近くに美味しい飲食店があると言う。2人でそこに向かい、店の中に入った。
椅子に座り、頼んだ料理を待ってる間に、優希が聞いてきた。
「沙羅とこうやって喋るの久々だね。俺は嬉しいけど、旦那さんは大丈夫なの?」
「本当に! あ、そうなの……今日は旦那のことで話したいことがあって」
私が喋ると、優希は、氷の入ったグラスを置いて、「へー、何?」と頬杖をついた。
「実はね、昨日、直也が浮気してるの知っちゃって、本当にムカついてムカついて」
「浮気?」
「ワイシャツに口紅付けてきて、知らない女とやり取りしてたの、しかも複数人!」
前のめりになってしまい、ごめんと座り直す。目の前の男は、作り物みたいな笑みを浮かべて、口を開いた。
「じゃあさ、離婚しちゃえば?」
予想外の提案に、私は言葉を失う。
優希がそんなふうに言ってくるとは思わなかった。
返事をするよりも先に、「それか……俺と、浮気する?」と、とんでもない提案してきたので、え! と、思わず叫んだ。
何を考えてるのか分からない。じっと見つめるが、にっこりと笑ったままだ。
私はわざと明るい声を出した。
「え、あ、いや~、流石にそれだと直也と同じになっちゃうからさ。気を使わせて申し訳ない……。それに、優希だったら、わざわざ私選ばなくても、引く手あまたでしょ? 学生の頃も凄かったし、あ、今良い感じの人とかいないの?」
ちょっと無理やりだが、話題を変える。
優希は水を飲んだ後、考え込んだ。
「いないかな。というか、学生の頃も、今も、ずっと同じ人が好きでさ、彼女、作ったことないんだよね」
「……え、そうなの? ……知らなかった」
「そう。初めてもずっとその人のためにとってる。俺ってば一途だよねー」
「そ、そうなんだ。 え、私の知ってる人?」
「知ってるも何も、俺の目の前にいる人だけど」
理解が追いつかなくて。キョロキョロと辺りを見回す。優希はおかしそうに、あははと、声を漏らした。
目の前の……。
流れ的に、私の事を言っているが、冗談だろうか。
「や、やめてよー、び、びっくりするよ」
「うん。でも本気だから」
優希の向けてくる表情が真剣で、反応に困る。
「どうせ叶わないなら、伝えちゃおうと思って。あ、そうそう、結婚式に参列したときさ、俺の人生終わったー、って思ったけど、案外生きていけるもんなんだな。……まぁ、忘れらんないんだけど、昨日も夢で見たし」
ダラダラと、冷や汗が流れる。
何とか絞りだして、「えっと、なんか、今までごめん」と伝えれば、優希は、なんで謝るんだよ!と笑った。
いたたまれなくなった時、タイミングよく料理が運ばれてきた。思わずホッと息を吐く。
おー美味そうと、なんでもなかったように食べ始める優希が、ちょっとだけ怖かった。
私も黙って手を動かす。
そうして、いつの間にか時間は過ぎていった。店を出た私達は、帰り道を歩く。
最初に待ち合わせした場所に着き、今日はありがとうとお辞儀をした。
「こちらこそ。また誘ってよ。旦那さんのことでなんかあったりしたら、相談して、手伝うから」
「……その事なんだけど」
言いづらいなと思いながら、優希を見る。首をかしげ、どうしたの? という視線を送ってきた。
「実は、もう、というか私が勝手にそう決めてる事なんだけど。直也とは離婚しようと思ってるんだ」
「……え」
「だ、だから、えーと、まぁ、気が向いたら、独り身になった私のこともらってよ」
「うわ……まじか。……いや、うん。そりゃ、絶対もらうけど。まじか。10年以上待って、やっと……」
優希は、片腕で目元を隠し、顔を背けた。
こちらから見える耳は、ほんのりと赤くなっている。
私の体温も上がっていく。
「じゃ、じゃあ、またね!」
早口で喋りながら別れる。
そのまま自宅へ向かった。
大した時間もかからずに、家に着いた私は、バッグから鍵を取りだした。
扉をあけようとして、手を止める。
「なんで……」
ドアが、数センチ開いていた。
戸締りしたはずなのに、なぜ?
恐る恐る取っ手に触れる。
もし、空き巣だったら、股間を蹴ってやろうと思った。
ガチャリと音をたて、足を踏み入れた私の耳には、聞き馴染みのある声が飛んできた。
「あ、よかった……って、おい! どこ行ってたんだよ!」
「……え、直也? も、もう帰ったの?」
「そうだよ、昨日沙羅が、り、離婚とか変なこと言い出すから、仕事切り上げて、早く返ってきたんだよ……」
すごい勢いでやってきた直也は、私の腕を掴んだ。
あまりの力に、顔が歪む。
「ちょっとご飯食べてきただ――」
「お前、男と会っただろ?」
説明する前に、直也がこちらを見て、言い放った。
なんで分かったのと、体が強ばる。
「やっぱりそうなんだな、変な匂いするし……あぁもう、外出も禁止にしときゃ良かった。ふざけんなよ、浮気じゃねーか、……なぁ、……デート以外は、してないよな?」
私だけが悪いという内容に、カチンときた。
こうなったら、騙してやる。
「浮気したのは直也でしょ? あと、デート以外もしました。私も寝ました。性欲発散です! ……痛いから離してよ!」
べーと、舌を出し、直也の手を払う。
地団駄を踏みながら、前へ進んだ。
バタバタと、後ろから大きな音が迫ってくる。振り返る前に、何かがかぶさってきた。
「は、や、ヤったって、なぁ、う、嘘だろ? だって、沙羅が好きなのは俺だろ? ほ、他のやつとヤったとか、するわけねぇもんな?」
正体は直也だった。震えた声で、何度も質問してくる。
「ほんとだってば! もう、いいかげにして! それに私、まだ許してないから。離婚するし、関係ないでしょ!」
回された腕を解こうにも、がっちりと固定されていて、身動きひとつ取れない。
「り、離婚……? は、発散って、い……言ったけど、違う。わ、悪かった。な、なぁ、冗談だよな? な? ……違うんだ。だ、だって、最近沙羅とヤってなかったし、沙羅は、お、俺の事すげぇ好きだろ? だから、魔が差したっていうか、心配させてやろうと思って、怪しい動き見せたら、沙羅は、もっと俺のことだけ考えるだろ? そ、それに、ちゃんと言っただろ、俺の妻も、好きな人も沙羅だって」
あまりにふざけた理由に、私は黙った。数秒の沈黙が流れる。
直也は耐えきれなくなったのか、「わ、悪かった」と、再び謝罪した。
「も、もうしねーから、だから、誰かとするとか、まじやめろ。離婚も、お、俺を驚かせたくてした嘘なんだろ? だって、沙羅が俺のこと、嫌いなはずないし……」
さっきから、勘違いも甚だしい。
ふーと息を漏らした。後ろにいる男が、ビクリと震える。
私は、分かったと、首を縦に降った。
少し緩んだ腕から逃れ、直也と向き合う。
「もう誰かと寝たりはしないよ」
「ほ、本当に?」
「うん。だからこの話は終わり。ほら、お腹すいてるでしょ? 何か作るよ」
私が台所に向かうと、直也は、ベッタリと肩に抱きついてきた。
「じゃあ、沙羅の作るハンバーグが食べたい」
「うん……」
冷蔵庫から材料を取り出す。その間も、直也はずっと私に付いてきた。時折、ちゅ、ちゅ、と、キスをしてくる。
出来上がった料理を机に並べれば、それはそれは嬉しそうな顔をして、食べ始めた。
次の日、直也が仕事に行った後、私は荷物をまとめた。
記入済みの離婚届を、見えるところに置く。
そして私は、家を出た。
***
扉を開ける。
昨日は、沙羅を怒らせてしまったから、少しでも仲直りできるようにと、スイーツを買ってきた。
沙羅が嫉妬したのは分かっているが、流石に離婚の話をされた時は、肝が冷えた。
もう誰かとヤったりはしないと言っていたし。信じようと思う。もちろん、相手のことは、きちんと調べて始末する。
俺のことばかり考えてる沙羅は可愛いが、流石にやりすぎたなと自分でも反省している。
どこにも行かないように、監禁道具も揃えないと。
「ただいまー」
靴を脱いで、声を出す。
けれど、かえってきたのは、静寂のみだった。
おかしい。いつもなら、すぐにリビングからやってきて、愛くるしい表情を見せてくれるのに。
嫌な予感がしつつも、前に進む。
「……沙羅ー」
呼びかけるが、返事がない。
「沙羅?」
寝室、脱衣場、台所。全てを探すが、沙羅がいない。
ドッと、汗が吹き出る。
呼吸が乱れ、下を見た俺の目に、あるものが映った。
「……り、こん届?」
そばに置かれていた手紙には、「もう直也とはやっていけないから、離婚しよう。私のは記入済みだから、あとは直也が書いて。それと、私はもう、直也のことが好きじゃないから」と記されていた。
「は?」
どういうことだと、問いかけたいのに、相手がいない。
ガランとした部屋は、俺に現実を突きつける。
離婚届はいつの間にか、手の中で粉々になっていた。
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