四季の祓姫

風音悠鈴

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第二話 そろわない呼吸

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 翌朝、大食堂はざわめきに満ちていた。
 全校生徒が集まる場所だけあって、壁一面の窓から差し込む朝日が床を照らし、長机が整然と並ぶ。巫女候補生たちが思い思いに食事を取りながら、昨日の任務の話や授業の愚痴を交わしていた。

 その中央近くに、一際目立つ卓がある。
 四神――朱雀、白虎、青龍、玄武。各寮を率いる者たちだけが座ることを許された特別席。自然と全員の視線が集まり、耳も向けられる。

「おはよう」
 朱音が席に着くと、対面の青龍、神園清夏がにこやかに微笑んだ。
 「昨日の任務、聞いたわよ。怪異が分裂したんですって?」
 その隣には玄武の雪村奏汰。静かに頷きながら器を置く。
 「二体同時は珍しいですね。お疲れさまでした」

 注目が集まる場で、朱音は自然と背筋を伸ばす。だが隣の隼人は、淡々と食事を進めるだけだった。
 清夏がちらりと隼人へ視線をやる。
 「新しい白虎君、ずいぶん無口ね」
 「……別に」
 短く答えるだけ。

 特別席の周囲から、クスクスと笑い声が漏れる。
 ――あの二人、全然噛み合ってないな。
 ――やっぱり旧白虎の方が安心感あった。
 そんな囁きが聞こえる気がして、朱音の胸がざわめいた。

 清夏はそれ以上追及せず、奏汰と目を合わせて微笑んだ。二人の間に漂う空気は柔らかく、周囲の視線すら自然に受け止める余裕がある。
 対して、朱音と隼人の席には重たい沈黙が流れていた。

 ――陽真となら違った。
 心の奥に浮かぶ影を、朱音は必死で飲み込んだ。

 ***

 その日の午後。学園から下された任務は「旧神社周辺で怪異の目撃情報」。
 四神ペアが二組で出動することとなった。

 森の奥にひっそりと佇む神社は、鳥居が崩れ、社殿も苔に覆われていた。瘴気の気配は濃い。朱音は札を構え、隼人は弓を背に歩を進める。

 「私たちは右から回るわ」
 清夏が軽やかに声をかけると、奏汰が頷く。
 「本体を見つけたら合流しましょう」

 二組は別れて行動開始。
 ほどなくして、黒い獣の形をした怪異が朱音たちの前に現れた。

 「来る!」
 朱音が札を放つと、炎が怪異を包み、隼人が矢で片目を撃ち抜いた。だが怪異は怒り狂い、なおも突進してくる。

 「もっと下がって支えて!」
 「先輩こそ突っ込みすぎ!」

 声を荒げながらも、二人は体を動かす。朱音が結界で防ぎ、隼人が至近距離から矢を撃つ。結果として怪異は倒せたが、周囲から見れば危うさばかりが目立った。

 そこへ遅れて清夏と奏汰が現れる。
 「ふふ、まだ呼吸が合ってないみたいね。ね、奏汰?」
 「そうですね。でも、きっと息は合うようになりますよ」

 優しい言葉に救われるはずなのに、朱音は悔しさで胸を締めつけられる。
 ――みんなの前で、こんな姿を見せてしまった。
 ――陽真となら……。

 夕暮れ。帰り道、隼人は黙って前を歩く。
 朱音は少し後ろからその背を見つめ、小さく拳を握りしめた。
 まだチームにはなりきれない。けれど、それでも歩みを止めるわけにはいかなかった。
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