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第五話 微睡む影
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翌朝。学園の中庭はまだ涼しく、澄んだ空気に鳥の声が響いていた。
朱音は早めに食堂へ向かい、窓際の席に腰を下ろす。まだ人は少なく、香ばしいパンの匂いが漂っている。
やがて隼人が現れた。制服のネクタイを片手で結びながら、少し眠そうな顔をしている。
「おはよう。…いつもより遅いんじゃない?」
「昨日、報告書を書いてたら夜更かししてしまって」
「……夜更かしは控えなさい。任務中に集中を切らしたら命取りよ」
そう言いながらも、朱音はふと口元を緩める。昨夜の戦いを思えば、彼が責任感から遅くまで書き物をしていたことは想像に難くなかった。
そのとき、背後から声がかかる。
「おやおや、二人とも朝から仲睦まじいこと」
軽やかな調子で現れたのは青龍寮の神園清夏だった。トレードマークの長い黒髪を揺らし、トレーを片手に立っている。
「ち、ちが……」
朱音が慌てて否定する前に、隼人が淡々と口を開いた。
「仲良くはありません」
あまりにも素直な返答に、清夏は吹き出して笑った。
「素直じゃないわねぇ。まぁ、そのくらいの方が可愛いけど」
賑やかなやり取りに、朱音は思わず苦笑する。ほんの少し前まで、隼人とは会話すらぎこちなかった。それが今では、こうして自然に言葉を交わせるようになっている。
***
午前中の授業は「陰陽術応用」。教室に張られた結界内で、学生たちが順に実技を披露する。
朱音は弓を構え、目隠しをされた状態で矢を放った。霊力の糸をたどり、標的を射抜く。矢は見事に中心を穿ち、周囲からどよめきが上がる。
「さすが朱雀。安定感があるな」
一方、隼人は札を操り、正確に霊力を練り込む。白い炎が花弁のように広がり、形を保ったまま空中に舞った。教師が満足げに頷く。
「……訓練の成果だね」
朱音は心の中で認めざるを得なかった。彼は確実に成長している。
***
放課後。食堂は全校生が集う大広間と化し、生徒会がいつもの長卓を占拠していた。
朱音と隼人が並んで料理を受け取り席を探していると、雪村奏汰が手を振った。玄武寮の寮長にして、落ち着いた雰囲気の青年だ。
「こっち、空いてますよ」
彼の隣に座ると、清夏が再び茶化すように笑う。
「朱音、最近ほんといい顔してるじゃない。隼人くんのおかげ?」
「なっ……ち、違う!」
反射的に否定する朱音に、清夏と奏汰は顔を見合わせて笑った。
そんな賑やかな空気の中で、隼人だけが静かに箸を進めていた。その横顔は淡々としているが、耳がわずかに赤いのを朱音は見逃さなかった。
***
夕刻。寮に戻った朱音は、報告書を書き終えた後、机に置かれた一冊の古文書に目を留めた。
それは陽真が最後に調べていた記録の写しだった。妖と人との混血――半妖について記された禁書の一部。
ページをめくる指が震える。陽真の行方、そして彼が抱えていた秘密。その答えが、ここにあるのではないか。
その瞬間、窓の外でざわりと気配が揺れた。
朱音は反射的に立ち上がり、札を構える。だが見えたのはただの影。夜の帳が落ち始めただけだった。
「……気のせい?」
そう呟いたが、背筋の冷えは消えない。まるで誰かに見られているような――。
***
夜更け。
廊下を歩く足音が一つ。影の中から、ひそやかな笑い声が漏れる。
「……春宮朱音。やはり、お前が鍵か」
誰にも届かぬ闇の声が、寮を包む静寂に消えていった。
朱音は早めに食堂へ向かい、窓際の席に腰を下ろす。まだ人は少なく、香ばしいパンの匂いが漂っている。
やがて隼人が現れた。制服のネクタイを片手で結びながら、少し眠そうな顔をしている。
「おはよう。…いつもより遅いんじゃない?」
「昨日、報告書を書いてたら夜更かししてしまって」
「……夜更かしは控えなさい。任務中に集中を切らしたら命取りよ」
そう言いながらも、朱音はふと口元を緩める。昨夜の戦いを思えば、彼が責任感から遅くまで書き物をしていたことは想像に難くなかった。
そのとき、背後から声がかかる。
「おやおや、二人とも朝から仲睦まじいこと」
軽やかな調子で現れたのは青龍寮の神園清夏だった。トレードマークの長い黒髪を揺らし、トレーを片手に立っている。
「ち、ちが……」
朱音が慌てて否定する前に、隼人が淡々と口を開いた。
「仲良くはありません」
あまりにも素直な返答に、清夏は吹き出して笑った。
「素直じゃないわねぇ。まぁ、そのくらいの方が可愛いけど」
賑やかなやり取りに、朱音は思わず苦笑する。ほんの少し前まで、隼人とは会話すらぎこちなかった。それが今では、こうして自然に言葉を交わせるようになっている。
***
午前中の授業は「陰陽術応用」。教室に張られた結界内で、学生たちが順に実技を披露する。
朱音は弓を構え、目隠しをされた状態で矢を放った。霊力の糸をたどり、標的を射抜く。矢は見事に中心を穿ち、周囲からどよめきが上がる。
「さすが朱雀。安定感があるな」
一方、隼人は札を操り、正確に霊力を練り込む。白い炎が花弁のように広がり、形を保ったまま空中に舞った。教師が満足げに頷く。
「……訓練の成果だね」
朱音は心の中で認めざるを得なかった。彼は確実に成長している。
***
放課後。食堂は全校生が集う大広間と化し、生徒会がいつもの長卓を占拠していた。
朱音と隼人が並んで料理を受け取り席を探していると、雪村奏汰が手を振った。玄武寮の寮長にして、落ち着いた雰囲気の青年だ。
「こっち、空いてますよ」
彼の隣に座ると、清夏が再び茶化すように笑う。
「朱音、最近ほんといい顔してるじゃない。隼人くんのおかげ?」
「なっ……ち、違う!」
反射的に否定する朱音に、清夏と奏汰は顔を見合わせて笑った。
そんな賑やかな空気の中で、隼人だけが静かに箸を進めていた。その横顔は淡々としているが、耳がわずかに赤いのを朱音は見逃さなかった。
***
夕刻。寮に戻った朱音は、報告書を書き終えた後、机に置かれた一冊の古文書に目を留めた。
それは陽真が最後に調べていた記録の写しだった。妖と人との混血――半妖について記された禁書の一部。
ページをめくる指が震える。陽真の行方、そして彼が抱えていた秘密。その答えが、ここにあるのではないか。
その瞬間、窓の外でざわりと気配が揺れた。
朱音は反射的に立ち上がり、札を構える。だが見えたのはただの影。夜の帳が落ち始めただけだった。
「……気のせい?」
そう呟いたが、背筋の冷えは消えない。まるで誰かに見られているような――。
***
夜更け。
廊下を歩く足音が一つ。影の中から、ひそやかな笑い声が漏れる。
「……春宮朱音。やはり、お前が鍵か」
誰にも届かぬ闇の声が、寮を包む静寂に消えていった。
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