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幸せのオムライス

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第二章 ヤマネコ商会、爆誕!:行列のできる露店

第111話 口コミで大行列! 嬉しい悲鳴と新たな課題『人手不足』

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 商品を受け取った貴婦人と娘さんは、ニコニコ顔で去っていく。

「ねえお母様、早く帰って食べましょう!」
「ええ、お父様もきっと驚くわ」

 その様子を見ていた周囲の人々が、ざわめき始めた。

「ねえ、見た? あの奥様、即決だったわ」
「こんないい匂いがするんだ、美味いに決まってる」
「私も試食してみようかな……」

 人が人を呼ぶ。
 「サクラ」ではない、本物の熱狂が、広場に伝播していく。

「よし、リックお兄ちゃん! 気合入れましょう!  忙しくなりますよ!」

「お、おう! 任せとけ!」

 ヤマネコ商会の伝説が、今、幕を開けた。

 ◇

「並んで! 列に並んでくれ! 押さないで!」

 開店からわずか数十分。
 優雅なティータイムを演出していたはずのヤマネコ商会の前は、いつの間にか戦場と化していた。

 きっかけは、最初のお客様であるあの貴婦人だ。
 彼女が満面の笑みで商品を抱え、周囲の人々に「こんな美味しいもの、初めてだわ!」と興奮気味に語ってくれたのが、決定打となった。
 サクラじゃない、本物の感動。それが一番の広告になる。

「ねえ、あの奥様、えらく褒めてたわ」
「なに、あのいい匂いは?」
「東の国の宝石だって?」

 人が人を呼び、興味を持った人が試食をし、そのあまりの美味しさに目を剥いて財布の紐を緩める。
 その連鎖反応(パンデミック)は、私の予想を遥かに超えるスピードで広場を飲み込んだ。

「これ、三つちょうだい!」
「私はクッキーもセットで!」
「孫への土産にするわ!」

 嬉しい悲鳴とは、まさにこのことだ。
 私は笑顔を張り付けたまま、試食を配り、商品説明をし、代金を受け取り、商品を渡す。
 その横で、コロも尻尾をフル回転させて「お手」や「おかわり」を披露し、客のハートを鷲掴みにしている。営業部長、働きすぎよ!

 しかし、問題はその後ろだ。

「おい! 割り込むな!」
「こっちが先よ!」
「最後尾はどこなんだ!」

 リックが声を張り上げているが、人の波に飲まれかけている。
 彼は商品の補充と列の整理を一人でこなさなければならない。
 明らかに、キャパシティオーバーだ。

「リックお兄ちゃん! 在庫の箱、もう一つ開けてもらえますか!?」

「わ、分かってる! くそっ、手が足りねえ! お前ら、押すなって言ってるだろ!」

 リックの悲鳴が聞こえる。
 無理もない。彼はただの力自慢の少年で、接客のプロじゃない。
 この怒涛のような客入りをさばくには、経験も、何より「人数」が足りなさすぎる。

(うーん、まずいわね……。このままだと、さばききれなくて客が帰っちゃうかもしれない。機会損失だ……)

 私は暗算で会計を済ませながら、チラリと行列の先を見る。
 列は伸びる一方だ。
 私の体は一つしかない。口も一つしかない。手は二本しかない。
 いくら中身が元OLで事務処理能力が高くても、10歳の子供の身体能力(スペック)では限界がある!

「お待たせしました! 大銅貨4枚のお返しです! 次の方どうぞ!」

 お金を数える指が攣りそうになる。
 喉もカラカラだ。
 でも、休むわけにはいかない。目の前には、銀貨の山(お客様)が待っているのだから!

(嬉しい! 嬉しいけど、これ完全にブラック労働だ! 経営者(わたし)が現場で過労死するパターンだわ!)

 私は、ジャムの瓶を渡しながら、心の中で固く誓った。

(従業員を雇いたい! それも、とびきり優秀な人を!)

 このカオスな状況が、私に「組織化」の必要性を痛烈に教えてくれていた。
 ヤマネコ商会、最初にして最大の経営課題――「人手不足」。
 それが解消されるのは、求人を出したり、面接したりでもう少し先の話だろう。

 今はただ、この嵐を乗り切るしかない!

「いらっしゃいませー! 『妖精の宝石』、まだまだありますよー!!」

 私のやけくそ気味な元気な声が、喧騒の中に響き渡った。
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