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幸せのオムライス

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第二章 ヤマネコ商会、爆誕!:激安の幽霊屋敷と二人の看板娘

第128話 究極のまかない『特製唐揚げ定食』! カリッ、ジュワッな肉汁に、二人の看板娘が陥落しました

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 翌日。
 今日から入ったミアちゃんとリアちゃんと共に、私は開店準備の追い込みに入った。

 ミアちゃんとリアちゃんは、私が四次元バッグから取り出す大量の商品に目を丸くしつつも、テキパキと袋詰めやリボンかけを進めてくれた。
 おかげで、開店日には店内の棚がキラキラした商品で埋め尽くされそうだ。
 そして、お昼。
 私はパン、と手を叩いて、作業中の二人に声をかけた。

「はい、そこまでです!  お昼休みにしましょう!」

「えっ、でもまだ仕事が……」
「キリのいいところまでやります」

 遠慮する二人に、私はにっこり微笑む。
 忘れたの? うちの求人の一番のウリを。

「『美味しいまかない付き』。契約書にそう書いてあったはずでしょう? 休憩も仕事のうちですよ」

 私は厨房に入り、前日の夜から仕込んでおいた『特製ダレの唐揚げ』を揚げ始める。
 たっぷりの片栗粉をまぶし、180℃に熱した油の中へ、次々と投入していく。

  ジュワァァァ……!!

 小気味よい油の音と共に、醤油の香ばしさとニンニクの食欲をそそる香りが、換気扇のない異世界の店内に爆発的に充満する。

「な、なになに!? すごい音!」
「……っ! なんですかこの、お腹の底を刺激するような……暴力的なまでのいい匂いは……!」

 リアちゃんとミアちゃんが、作業の手を止めて吸い寄せられるように厨房へやってくる。

「さあ、揚がりましたよ!」

 私は油を切った熱々の唐揚げを、大皿に山盛りにする。狐色に揚がった衣はカリカリで、中は肉汁でパンパンに膨らんでいる。

 そして、その横には……。

「炊きたてのご飯と、お味噌汁!」

 土鍋(通販)で炊き上げた、ツヤツヤと輝く白米。湯気を上げる豆腐とわかめのお味噌汁。

 うん、完璧な布陣だ!

「さあ、冷めないうちに、どうぞお召し上がりくださいな!」

 初めて見る「異世界の定食」を前に、二人は目を輝かせた。

「い、いただいていいんですか?」

「もちろんです。いただきまーす!」

 全員でテーブルを囲み、私が「いただきます」の手本を見せると、二人はおそるおそる、箸(練習用)で唐揚げを掴み、口へと運んだ。

 ザクッ……ジュワッ。

 衣が砕ける軽快な音。

「……んんっ!!」

 二人の目が、これ以上ないほど大きく見開かれた。

「な、何これ!? 外側はカリカリなのに、中から肉のスープが溢れてきたわ!?」

「……美味しい。しょっぱいような、甘いような……噛めば噛むほど、味が染み出してくる……」

「それをご飯と一緒に食べるのですよ! さあ!」

 私に促され、二人は白米を口に運ぶ。

「……っ! 合う! すごい合うわ!」

「この白い……穀物?……パンより甘みがあって、お肉の脂をさっぱりさせてくれる……。止まらない……」

 そこからは、無言の戦いだった。
 リアちゃんもミアちゃんも、唐揚げとご飯の無限ループに突入し、頬をリスのように膨らませて夢中で食べている。

 この世界のパン食文化では味わえない、「濃い味のおかず」と「淡白な白米」の最高の組み合わせに、二人の味覚中枢は完全に陥落したようだ。

 ひとしきり食べたところで、ミアちゃんがふう、と息をつき、不思議そうに私を見た。

「……コトリちゃん。このお料理、ハルモニアでは見たことがないわ。それに、お店にある不思議な道具や、コトリちゃんが荷物を出し入れする『魔法の鞄』も……」

「ええと、それはですね……」

 私は唐揚げをかじりながら、用意していた「設定」を話すことにした。
 これから一緒に働く仲間だ。ある程度の「背景(という名のカバーストーリー)」は共有しておいた方がいい。

「実は私、ずっと遠くにある『東の国』から来たのです」

「東の国……?」

「そうです。私の故郷では、商人として一人前になるために、若いうちに旅に出て、異国の地で力を証明するっていう慣わしがあるんです」

  私はもっともらしい顔で嘘をつく。
  まあ、バルガスさんにも話した設定だし、これで通すのが一番丸い。

「この料理も、私が使う魔法や道具も、全部向こうの国の技術なんです。ただ……」

 私はそこで言葉を切り、少しだけ声を潜める。

「詳しい作り方や仕組みは、一族だけの『秘伝』にするっていう厳しい掟があって……。私にも詳しくは教えてもらえないし、誰かに話しちゃいけないことになってるんです。ごめんね……?」

 私は首をこてんと傾げて、にっこりと微笑んでみせた。
「教えたいけど教えられないの」というニュアンスを込めた、渾身の10歳スマイルだ。

 すると、二人は顔を見合わせて、それから深く納得したように大きく頷いた。

「なるほど……! 一族秘伝の技、ということね! 職人の世界ではよくあることだわ!」

 リアちゃんが目を輝かせて、口の周りについた米粒を取りながら言った。

「ねえコトリちゃん、コトリちゃんの故郷って、こんな美味しいものばかりなの?」

「ええ、そうですよ。美味しいものを食べることに、みんな命をかけてる国ですからね」

「すごい……。魔法もすごいですけど、料理も魔法みたいです」

 ミアちゃんがお味噌汁を啜りながら、しみじみと言う。

「コトリちゃんは、どうしてそんなに色んなことを知ってるの? 商売のことも、こんなお料理も」

「うーん、そうですね……」

 私は唐揚げをかじりながら、少し考える。
 面倒なことになるかもしれないから、転生者だとは言えないけれど、これからの仲間には、ある程度「私という人間」を知っておいてほしい。

「昔から、色んなものを見るのが好きだったんです。便利な道具とか、美味しいものとか。『どうしたらもっと楽に、楽しく暮らせるかな』って考えるのが趣味みたいなものですよ」

「ふふ、コトリちゃんらしいわね」
「……うん。だから、こんなに素敵なお店が作れるんですね」

 二人が笑いかけてくれる。
 まだ出会って数日だけど、同じ釜のご飯を食べるだけで、ぐっと距離が縮まった気がした。

 ふと見ると、二人の茶碗が空になっている。
 視線は、まだ大皿に残っている唐揚げに釘付けだ。けれど、遠慮しているのか、箸を置こうとしている。

「ふふふ、おかわりもありますよ。遠慮しないで言ってくださいね。午後の仕事のためにも、エネルギー充填しなきゃです!」

  私がそう言うと、二人は顔を見合わせ、そして照れくさそうに笑った。

「じゃ、じゃあ……あと一個だけ!」
「……私も、ご飯半分だけ」

 そう言ったはずなのに。
 結局、「あと一個」「あと一口」が続き、大皿の唐揚げは綺麗になくなり、土鍋のご飯も空っぽになった。

「うぅ……食べすぎた……」
「……美味しかったけど、お腹が苦しい……」

 食後、椅子にもたれかかってお腹をさする二人。
 その幸せそうな顔を見て、私は心の中でガッツポーズをする。

(よし、胃袋は完全に掴んだわね!)

「美味しいまかない」という福利厚生は、予想以上に効果絶大のようだ。

 これなら、明日からの開店準備も、そしてオープン後の接客も、きっと笑顔で乗り切ってくれるはずだ。

 もちろん、前世のブラック企業みたいにこき使うつもりは毛頭ない。
 私の目指すスローライフのためには、従業員が疲弊してしまっては元も子もないのだ。
 むしろ、暇すぎてお茶を飲む時間があるくらいが、理想的な職場環境よね。

 でも、まずはチームとしての結束(チームビルディング)が固まったことが一番の収穫だ。

「さあ、少し休憩したら、ラストスパートですよ! がんばりましょう!」

「「はーい……」」

 二人とも幸せそうに返事をする。

 こうして、ヤマネコ商会の結束は、特製唐揚げによって強固なものとなったのだった!
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