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幸せのオムライス

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第二章 ヤマネコ商会、爆誕!:電力革命! 魅惑の家電と至福のバスタイム

第131話 まかないは『厚切りベーコンと完熟トマトのパスタ』! 異世界パスタ革命、勃発です

 その時、時計の針が12時を回った。
 私はカランとベルを鳴らした。

「はい、そこまでです! お昼休みに入りまーす!」

「えっ!?」

 驚くリアちゃんとミアちゃんをよそに、私はドアに『LUNCH BREAK(休憩中)』の札をかけ、鍵を閉める。
 お客様の波が一段落したこのタイミングこそが、休息の時だ。

「さあ、みんな! エネルギー充填の時間ですよ!」

 開店準備期間中に始まったこの「みんなで食べるお昼ご飯」は、今やヤマネコ商会の欠かせない日課だ。
 たとえどんなに忙しくても、お昼は店を閉めて、温かいご飯を囲む。
 それが私のポリシーであり、最高のチームビルディングなのだ。

 今日のメニューは、通販の高級パスタソースを使った『厚切りベーコンと完熟トマトのパスタ』と、野菜の旨味が溶け込んだ『コンソメスープ』。

 私は厨房に立ち、大きな鍋の中で踊るパスタを、最高のタイミングで引き上げた。 そこへ湯気を立てて温まったソースを投入する。熱々の麺と真っ赤なソースが絡み合った瞬間、ガーリックの香ばしいパンチと、完熟トマトの濃密な甘い香りが爆発的に立ち上がった。

「どうぞ、お召し上がりくださいな! 特製『厚切りベーコンと完熟トマトのパスタ』ですよ!」

 テーブルに置かれた皿の上では、たっぷりのソースを纏(まと)った麺が艶やかに輝いている。その脇を固めるのは、表面をカリッと焼き上げ、脂の旨味を閉じ込めた極厚のベーコンだ。

「わあ……っ! 宝石みたいに真っ赤で、ツヤツヤしてる……!」 
「暴力的なほどいい匂い……。燻製の香りと、この鼻を抜ける香辛料がたまらないわ……」

 二人がたまらずフォークを突き立てた。 リアがパスタをくるくると巻き取り、大きく口を開けて吸い込む。

「んん~~~~~~っ!!!」

 弾けるようなリアちゃんの叫び。

「おいしすぎるわ、これ! 噛んだ瞬間、トマトの果汁がジュワッて溢れて、その後にこのお肉の濃厚な脂が追いかけてくるの……。口の中が幸せの洪水よ!」

「……驚いた。この麺、どうなってるの?」

 ミアちゃんもまた、目を丸くして咀嚼(そしゃく)を繰り返している。

「この街で食べるパスタは、どれもふにゃふにゃで柔らかいものばかりなのに……。これは、外側は滑らかなのに、噛みしめると中心に心地よい『コシ』があるわ。噛むのがこんなに楽しいパスタ、初めて……」

 ふふん、と私は心の中で胸を張る。 この世界のパスタは、きっと「のびたうどん」のようなものだろう。対してこれは、中心にわずかな芯を残した『アルデンテ』という究極の茹で加減。 そして、この絶妙な食感の麺に、ベーコンの塩気とトマトの酸味が完璧に調和して絡みつく――。 この『マリアージュ(最高の相性)』こそが、彼女たちにとって未知の衝撃なのだ。

「くぅ~ッ! この酸味とニンニクが、疲れた体にガツンと効くぜ!」

 リックは巨大な塊肉のようなベーコンを口に放り込み、ワイルドにパスタを啜(すす)っている。 黄金色のコンソメスープを一口飲めば、野菜の優しい旨味が口の中をリセットし、また次の「一口」が止まらなくなる。

 コロも、自分用のボウルに入ったドッグフード(茹でササミトッピング付き)をハフハフと美味しそうに食べている。

 ……と思っていたら、私たちがパスタの味に感動している間に、コロのボウルは早々に空っぽになっていた。
 そして、あろうことか彼はすでに次のターゲットへ移動していた。
 リアちゃんとミアちゃんの足元にちょこんと座り、潤んだ瞳でじっと二人を見つめ上げているのだ。
 必殺、上目遣い。

「まぁ……! なにこの可愛い生き物は……!」

 リアちゃんが胸を押さえて悶絶する。

「……お肉、欲しいの?」

 ミアちゃんが自分の皿からベーコンの端っこを切り分けて差し出すと、コロはパクッと一口で食べた。そして、嬉しそうに二人の手に頬をすり寄せている。

「か、可愛い……! 毛がふわふわ……!」

「あはは、くすぐったいわよ、コロちゃん!」

 二人はメロメロになってコロを撫で回し、コロも『もっと撫でて!』と尻尾を振って応えている。
 うん、営業部長、従業員の士気向上(メンタルケア)も完璧ね。

 やっぱり美味しいご飯ともふもふは笑顔を作るわね。

 これだけの福利厚生があれば、午後の戦場も乗り切れるはずよ!

  「ごちそうさま!」

 1時間の休憩を終えた私たちは、満たされたお腹と心で、再び午後の営業へと向かった。

 ◇

 緊張と興奮が入り混じった初日営業が、無事に終了した。
 用意した在庫の半分以上が売れ、売上も上々。露店のような爆発力はないけれど、客単価が高い分、利益率は悪くない。まさに狙い通りのスタートだ。

「……はぁ~……疲れたー! でも、楽しかった!」

 リアちゃんが椅子に座り込みながらも、充実した笑顔を見せる。
 初めての本格的な接客で、緊張していたのだろう。
 その横で、ミアちゃんが指先を気にするようにさすっていた。

「どうしたのですか、ミアお姉ちゃん?」

「あ、いえ……。袋詰めをする時に、紙の端で少し指を切ってしまったみたいで」

 見ると、ミアちゃんの指先に赤い滲みがある。
 この異世界には存在しなかった、堅いクラフト紙の袋を扱ったのだ。慣れない作業で手元が狂うのも無理はない。

「大変! ちょっと待っててください!」

 私は反射的に四次元バッグに手を突っ込み、通販で購入しておいた『救急絆創膏(高機能・治癒促進タイプ)』を取り出した。
 前世からの習慣だ。怪我をしたら、消毒して絆創膏。これが鉄板。

 ミアちゃんの指を《清潔》でサッと消毒してから、ペタリと貼る。
 汚れを落とす魔法くらいなら、「生活魔法が得意」という設定の範囲内だから怪しまれないはずだ。

「はい、これで大丈夫です。痛みもすぐ引くはずですよ」

「……わぁ。なんですかこれ、ぷにぷにしてて、肌に吸い付くみたい……。痛みも消えました」

「私の故郷の『魔法のシール』ですよ。頑張ってくれた勲章ですけど、無理はしないでくださいね」

「……はい! ありがとうございます、店長」

 ミアちゃんが嬉しそうに絆創膏を撫でているのを見て、私はホッと息をつく。
  ……と、そこでハタと気づいた。

  (……あれ? 私、生活魔法で《治癒》使えなかったっけ?)

 森でコロを助けた時、確か使ったはずだ。
 すっかり忘れてた! 現代人としての条件反射恐るべし!

(ま、まあいいわ! 紙で指を切ったくらいで治癒魔法なんて大げさだし! もしこの世界で治癒魔法が貴重だったりしたら、騒ぎになって面倒だしね!)

 私は内心で自分に言い訳をして、深く頷いた。
 結果オーライ。これは「高度なリスク管理」ということにしよう。

 リックは「ま、今日はこんなもんか。明日も警備は任せとけ」と、落ち着いた様子で言いつつも、どこか誇らしげだ。
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