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悪役令嬢は気苦労が絶えない

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 作品名的にもう少し好待遇を受けてもいいはずなのに、なかなかスポットライトを当ててもらえなかった不憫な悪役令嬢のターンです。
 キャメリアの一人称視点で書くのは初めてですね。ドキドキ。

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 「えっと……これはどういう状況なのかしら? アイリスさん」

 その日の授業を終え、アイリスさんたちが見当たらないので寮に直帰したわたくしは、その場で思わず固まってしまいました。
 どうせ、いつものように二人でさぼっているのだろうとは予想していたものの、さすがにこの状況は斜め上すぎですわ。
 最近のアイリスさんはどこか様子が怪しい、そんな風には薄々感じていましたが、まさかもう手遅れな事態になってしまったのでしょうか?

「ちちち違うんだキャメリア! これは少し調子に乗りすぎてしまったというか、我を忘れてしまったというか……」

 言い訳を聞く限りでは、どうやらシランさんが気を失ったことで、アイリスさんも我に返ったということのようですが……あのシランさんが気を失うほどとは、一体どんな恐ろしいことが起こっていたのでしょうか?
 シランさんが実は相当にウブだった、なんて可能性は1ミリも頭にないまま、わたくしはシランさんの方に顔を向けます。

「いやホントに! 大体、シランがあんなに無抵抗になるとは思ってなかったし……」

 それはそうでしょう。信じ切っていた友人から突然迫られたら、さすがのシランさんだって動けなくなるはずですわ。
 シランさんの気持ちを想像して居た堪れなくなったわたくしは、思わず彼女のもとへ駆け寄ります。アイリスさんはさらに釈明を続けているようですが、そんなものは無視でいいでしょう。

「うぅん……キャ、キャメリア?」
「シランさん……! もう大丈夫ですわよ」
「あっ…………」

 目を覚ましたシランさんは、一瞬戸惑いの表情を浮かべましたが、すぐに真っ赤な顔になります。きっと、先ほどの出来事を思い出したのでしょう。
 こんなに弱っている様子のシランさんを見るのは初めてですわ……などと状況にそぐわない考えが頭を過りましたが、そんなことを言っている場合ではありませんね。

 さらに涙目になり始めたシランさんは、それを隠すかのようにわたくしにしがみついてきました。
 思わずギュッと抱きしめ返しながら、この状況をどうするべきか考えます。
 こんな状態のシランさんを、そのまま寮室に帰してしまうのは良くない気がします。なにせ、シランさんのルームメイトはリリーさんですから。何だかいつもより可愛ら……いえ、弱弱しいシランさんをリリーさんに差し出しては、トラウマがひとつ増えかねません。

「アイリスさん。シランさんは今夜一晩わたくしが慰めて差し上げますので、貴女はリリーさんの寮室に泊めてもらいなさい」
「えっ……マジかよ!? うー、わかったよ……」

 アイリスさんとは少し距離をとるべきですが、かといって寮室に帰すのも危険……そんな状況で出した結論に、アイリスさんも渋々同意せざるを得ません。そもそもアイリスさんが原因なのですから、有無を言わせるつもりはありませんでしたが。
 肩をがっくりと落としたアイリスさんは、重そうな足取りで寮室を出ていきました。

「もう大丈夫ですわよ」
「うん……ごめん」

 ようやく落ち着きを取り戻したシランさんは、やはり普段よりもしおらしいです。
 何だか調子が狂わなくもないですが、それ以上に、無性に抱きしめてあげたくなりました。何故でしょう……

 閑話休題。

 よく見れば、汗や涙でぐしょぐしょのシランさん。乙女として、さすがにこのまま寝かせてしまうわけにはいきません。ですから、人の少ない時間を見計らって浴場へ連れていきました。
 そういえば、入浴中のシランさんが時折壁の方を見てびくびくしている様子でしたが、あれはなんだったのでしょう? あの壁の向こうには、物置部屋があったような気がしますが、そんなことは関係ないでしょうし。
 それと、普段はがさつな印象のシランさんですが、その白く透明な肌は思いのほか繊細で、触ると割れてしまう陶器のようでした。胸の辺りは慎ましいものの、それはそれでまた……

 閑話休題、ですわ。

 ……いえ、とりあえず閑話休題と言っておけばいい、なんて思っているわけではありませんよ?
 ただ、最近シランさんやアイリスさん、それにリリーさんと関わる中で、少し良くない影響を受けてしまっているのかもしれません。気をつけるべきですね。

 その後のシランさんは、寮室に戻るなり眠ってしまいました。よほど疲れていたのでしょう。
 普段のジト目とはギャップのある無防備な寝顔で、微笑ましく感じて眺めていると、シランさんにパジャマの袖を掴まれてしまいました。
 起きた様子はありませんが、ギュッと掴まれていて離してくれそうにありません。
 仕方がありませんので、わたくしもそのまま隣で眠ることにしました。おやすみなさい。




 
 翌朝、ある程度立ち直ったようにも見えたシランさんですが、学院に着いてからもわたくしに密着して離れようとしません。

「頼むよ、あたしと目くらいは合わせてくれよぉ。こんなの辛すぎるって……」
「ひっ…………」
「あのシランさんがここまで怯え続けるなんて、あのとき本当に何をしてましたの? まさか、やはり一線を……」
「ぐすんっ…………」
「違う違うっ! それはまだ超えてねぇって!」

 アイリスさんもこの状況は想定外なのか、だいぶ焦っている様子ですが……わたくしに甘えてくるシランさんというのは珍しく、正直守ってあげたくなりますね。
 もう暫くだけ、この状態が続くのも悪くないかもしれません。



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「悪役令嬢に『ママ』の属性が付与されました」

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