転生したら悪役令嬢……の取り巻きだったけど、自由気ままに生きてます

こびとのまち

文字の大きさ
18 / 28

母と娘とそれからボクと-後編-

しおりを挟む
「では、単刀直入に言いましょう。キャメリア。貴女が学院内で生徒を襲っている、との噂を耳にしました」

 なるほど、なるほど。キャメリアが学院の生徒を襲って……んんんんん?

 想像の遥か斜め上を行く発言に、ボクとキャメリアの目が大きく開く。ボクの脳内は混乱を極め、ぐるぐると視界が回る感覚に襲われる。
 何? キャメリアって、実はそういう人物だったの? ぶっちゃけ悪役令嬢らしさなんて1ミリも感じないと思ってたけど、裏ではそんな恐ろしい行為に及んでいたとでもいうのか?
 ……いやいや、それはさすがに信じ難い。

「なんでも、特定の生徒に対して執拗に嫌がらせをしているのだとか」
「お母様、身に覚えがありませんわ」

 執拗に嫌がらせ……ふむ。たしかに、それなら悪役令嬢らしいっちゃらしいか。というか、『フラワーエデン』では実際にやたら嫌がらせをしていたからね。
 とはいえ、この世界でリリーに対してそんな素振りを見せているところなんて、ボクは目にしたことがない。

「例えば、その生徒を自室に連れ込み、無理やり身体中を虐め倒したそうですわ」
「お母様……えっ?」

 おっと、どこかで聞いたことがある話のような。なんだっけ?

「他にも、寮の廊下で公衆の面前にも関わらず、せせ、せ……接吻を強要したり」
「……」

 あー、うん。完全に理解した。
 聞き覚え……というか、身に覚えがあって当然だ。つまるところ、その生徒ってボクのことだよね。ほぼほぼ間違いなく。

「執拗に付きまとって、ストーキング紛いの嫌がらせをしたとも聞いています」
「……」

 スカーレット様。それ、全部ボクの知り合いの仕業なんですよ……
 大方、それぞれの場面に遭遇した生徒の噂が混ざり合ううちに歪曲してしまい、それがそのままスカーレット様の耳にまで届いてしまったのだろう。
 アイリスの件だって、学院内でそれなりに騒いでいたのだから、ボクたちのやりとりを見ていた誰かが邪推したって、特段おかしな話ではない。
 その噂がスカーレット様の耳にまで届いたというのは、ちょっと驚きだけど。フアネーレ公爵家の情報網は凄いのか凄くないのか、はっきり言ってよく分からない。

 とりあえず、事実とは異なる以上、キャメリアに対する疑惑は解けるだろう。
 実際の出来事を把握しているキャメリアが全て詳細に話せば、あっさり納得してもらえるはずだ。

「ねぇ、何か反論はないのかしら、キャメリア」
「……」

 なのに、キャメリアは下を向いたままで、一向に口を開こうとしない。
 いや、なんでなのさ。そこはズバッと反論しなきゃ、キャメリアの立場的にもマズいよね。

「わたくしは、貴女の口から直接真実を聞きたかったのです。しかし、そのような態度を取るようであれば、この噂を事実として受け止めざるを得ませんよ?」
「……」

 キャメリアが沈黙を続ける中、状況は確実に悪い方向へと流れていく。
 そのとき、キャメリアがボクの方をちらりと見て、困ったように笑った。そして、まるで罪を受け入れる覚悟でも決めたかのような表情になり、母親の次の言葉を待っている。

 ……ああ、そういうことなのか、キャメリア。
 彼女の表情を目にして、ボクはようやくキャメリアという少女を理解した。あなたは悪役令嬢なんて役割を背負うには優しすぎる。
 彼女は、母である公爵夫人に事実を伝えてしまうことで、自分の友人たちが処罰を受けるかもしれないことを恐れているのだ。そして、それによってボクが傷ついてしまうことも。

 って、いやいや、だからってありもしない罪を受け入れちゃダメでしょ。それはあまりにも悪手だ。
 そもそも考えすぎだって。たぶん、いやきっと間違いなく、そんな面倒なことにはならないはずだ。フラグも立っていないのに、自ら破滅の道を選ぶなんて、不器用にも程がある。
 そんな馬鹿なこと、させるわけにはいかない。ボクはこの、悪役とはほど遠い令嬢の……取り巻きなのだ。

「……スカーレット様、聞いてください。その特定の生徒とは、ボクのこと、なんです」
「お嬢様!?」

 ボクは、メイドの皮を脱ぎ捨てて前に踏み出し、勢いそのままに口を開いた。驚いたマグノリアさんが声を上げるが、今はそっちに構う余裕がない。
 ハッとした表情のキャメリアも、ボクを止めようと慌てて立ち上がるが、それを遮るようにしてスカーレット様が言葉を返す。

「もしその話が本当なのであれば、わたくしは被害者である貴女に謝罪しなければなりません。詳しく話していただけますか?」
「はい、もちろん。だけど、謝罪は必要ない、です。というか、逆。キャメリアには、いつも助けられて、いるから」

 ボクは、噂の真相を全て……はさすがに恥ずかしいので一部ぼかしつつ、なるべく詳細に説明していった。もちろん、何度もキャメリアに救われている、ということも。
 アイリスやリリー、それにアネモネも、恐らく誰も悪意で行動はしていない。ちょっとした悪ふざけの延長線上なんだろう。まあ、正直やりすぎな感は否めないけれど。何故あそこまで暴走してしまうのか、ボクには理由が分からない。

「きっと、説明するのも恥ずかしいでしょうに……娘の為に全てを話してくださって、ありがとうございます」

 最後までボクの説明に耳を傾けていたスカーレット様が、キャメリアによく似た優しい表情で微笑みかけてくる。
 驚くほどすんなりと受け入れてもらえたのは、拙いながらも精一杯に説明した結果だろうか。そうであれば、勇気を振り絞った甲斐がある。
 ……いや、それだけが理由ではないようだ。

「わたくしの見立て通り、貴女はただのメイドではありませんでしたね」
「やっぱり、気づいてた……んですね」

 ボクとスカーレット様のやり取りに、キャメリアとマグノリアさんが驚きの表情を浮かべる。

「お母……様?」
「メイド服には収まりきらないほど、お嬢様は可愛らしいですからね。バレてしまっても当然といえば当然ですね」

 ええっと、マグノリアさん、そういうことじゃないんだよ。
 よく考えてみてほしい。もし本当にキャメリアが嫌がらせをしていたのだとすれば、それは由緒あるフアネーレ公爵家の名前に傷がつきかねない事態である。
 そんな危ない話が漏れてしまう恐れのある場に、初対面のメイドを同席させるはずがない。
 公爵夫人の目は欺けない、ということだ。

 それに、これはボクの憶測にはなってしまうけど、恐らくスカーレット様は最初から娘を疑ってなどいなかったのだろう。
 それどころか、ボクが娘と何らか親しい関係であることを見抜き、いざという場合にはボクから説明させるつもりだったのかもしれない。

「わたくしは、自分の娘のことをよく理解しているつもりなのですのよ」
「お母様……」
「公爵家の令嬢である貴女は、ときに悪意に晒されることもある立場なのです。ですから、娘を貶める可能性がある噂から守ってあげることが、貴女を生んだ母の務めだと思っています。ただ、対処する前には、きちんと事実確認をしておかなければなりませんからね」

 それならそうと、正直もう少し上手い確認の仕方があったんじゃないかとは思うけど……この際、まあいいか。
 優しくて、頼もしい。そんなところがとてもよく似ている母娘だが、どうやら不器用なところも瓜二つのようだ。

「ねぇ、可愛らしくて友人想いのメイドさん。貴女の名前を伺っても良いかしら」
「……シラン、といいます」

 ボクの名前を聞いて、夫人が微笑んだ。

「そう、貴女がシランさん、なのね」
「……?」
「素敵な友人に巡り会えたわね、キャメリア。シランさん、今後ともぜひ、うちの娘をよろしくお願いいたします」

 ボクは静かに頷く。
 そのままキャメリアの方を見ると、何故か顔を真っ赤にして、両手で頰を覆っていた。
 せっかく友情のアイコンタクトでも送ろうかと思ったのに、何してるんだろう?





 その後、しばらくスカーレット様と雑談を楽しみ……気がつけば、学院へ戻らなければならない時間になっていた。楽しい時間というのは、あっという間だよね。
 すっかり気に入られて親しくなったスカーレット様に別れを告げ、ボクたちは屋敷の外へと出る。

 ふいに気配を感じ視線を横へと向けると、ボクの耳元にキャメリアが顔を寄せていた。

「今日のこと、本当に感謝しておりますわ。もしよろしければ、これからもわたくしの側にいてくださいまし」

 耳元での囁きにこそばゆさを感じ、思わずキャメリアの方へ顔を向けたその瞬間、ボクの唇に別の唇が触れる感覚が襲う。
 ……く、くちびる?

「これは……ちょっとした感謝の気持ちですわ」

 唇の相手、キャメリアはいたずらに成功しような表情を浮かべた後、すぐに顔を逸らして足早に前を歩き出した。
 これは感謝の気持ち、つまりお礼ってことかぁ。な、なるほどね。
 横からマグノリアさんの叫び声が聞こえる気もするけど、気のせいだろう。うん。



ーーーーーーーーーーー



はい。ここに着地させるための16話17話、そして18話でした(やりきった顔)

お気に入り登録やコメント、評価なんかをいただけると大変喜びます。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた

歩く魚
ファンタジー
働きたくない元社畜、異世界で見つけた最適解は――「助成金で生きる」ことだった。 剣と魔法の世界に転生したシンは、冒険者として下積みを積み、ついに夢を叶える。 それは、国家公認の助成金付き制度――ギルド経営によって、働かずに暮らすこと。 そして、その傍で自らの歪んだ性癖を満たすため、誰に頼まれたわけでもない人助けを続けていたがーー 「ご命令と解釈しました、シン様」 「……あなたの命、私に預けてくれるんでしょ?」 次第にギルドには、主人公に執着するメンバーたちが集まり始め、気がつけばギルドは、愛の重い最強集団になっていた。

1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました

竹桜
ファンタジー
 誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。  その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。  男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。   自らの憧れを叶える為に。

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

義姉をいびり倒してましたが、前世の記憶が戻ったので全力で推します

一路(いちろ)
ファンタジー
アリシアは父の再婚により義姉ができる。義姉・セリーヌは気品と美貌を兼ね備え、家族や使用人たちに愛される存在。嫉妬心と劣等感から、アリシアは義姉に冷たい態度を取り、陰口や嫌がらせを繰り返す。しかし、アリシアが前世の記憶を思い出し……推し活開始します!

俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風
ファンタジー
気がついたら、俺は乙女ゲーの悪役令嬢になってました。 こいつは悪役令嬢らしく皆に嫌われ、周囲に味方はほぼいません。 完全没落まで一年という短い期間しか残っていません。 この無理ゲーの攻略方法を、誰か教えてください。 ライトオタクを自認する高校生男子・弓原陽が辿る、悪役令嬢としての一年間。 彼は令嬢の身体を得て、この世界で何を考え、何を為すのか……彼の乙女ゲーム攻略が始まる。 ※書籍化に伴いダイジェスト化しております。ご了承ください。(旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...