4 / 43
3
しおりを挟む「イナリ、あとの説明は頼む。俺はデートプランを練ってくるから」
そう言った男の顔は笑っていた。
純白の長い袖を翻すと、颯爽と歩き去っていく。
横に流れる視線が僕と絡みあい、さらさらと揺れる銀髪が、美しい川の流れを思わせた。
あまりにも衝撃的な出来事に、僕は放心状態で、ぽかんとした顔のまま、ただ立ち尽くすのみ。頭のなかは真っ白で、
「はじめまして……」
と、もう一人の男から声をかけられるが、なかなか返す言葉が浮かばず、吐息だけが漏れる。
「……あ、あ」
とにかく状況を飲み込もうと、残された男を観察する。
優雅な立ち振る舞いをする面長のイケメン、肩まである長い髪は黄金色で頭には、なんと耳が生えていた。
「耳、耳……!?」
僕は思わず指をさして連呼した。
ああ、これ? と訊き返す男はつづけて語り始める。
「私は、ここ獣人旅館の執事を務めているイナリと申します。元は狐なのですよ。以後お見知りおきのほどを」
「は、はあ……」
「この度は、召喚して頂きありがとうございます。もっとも強制的ではございましたが、まずはお礼を申し上げます」
深々と頭を下げるイナリと称する金髪の男。
口調が女性っぽくて、所謂、ゲイ、なのかなと察したが、きちっとした袴や裃が折り目正しく、律儀さから醸し出されるものとも思えた。
さらに元は狐というだけあって、話すことがしたたかというか、掴み所がないというか、とにかく胡散臭い。
眉をひそめた僕は、首を傾けて訊いた。
「あの……ここはどこですか? 獣人旅館とは?」
「えっと、簡単に申しますと、ここは魔界です。人間界からは見えない場所にある混沌とした世界です」
「……地獄ってこと? 僕は死んだの?」
「いいえ、そうではありません。召喚したのです」
しょうかん? と僕は聞き返した。
「はい。百年に一人、生贄を人間界から召喚しているのです」
いけにえ? と僕はまた訊き返した。
「はい。先ほどいたリュウ様の生贄となってもらいます」
……!?
稲妻のような衝撃が走り、身が震えた。
ありえない非現実的な事象に頭がついていかない。
いったい、なにが起こっているのか、まるでわからない。
やがて、冗談だろ?
という結論に達し、これは夢だとも思った。
すると、イナリと名乗る男が、やおら口を開く。
「生贄と言っても安心してください。私どもに協力して頂ければ、いつでも人間界に戻れますゆえ」
僕は首を振って狼狽えた。
言葉では何とでも言える、本当は僕を殺すつもりかもしれない。
「嘘だっ、ぼ、僕をどうするつもりだ? どうやってここまで連れてきた? 僕はおばあちゃんの家でお参りしてたんだ。それなのにいきなり、こんなところにいるなんてありえないだろ? そのあげくに召喚って、ラノベでもあるまいし、アハハハ」
人って混乱すると、勝手に笑いが込み上げてくることがわかった。僕は狂ったように首を振り、
「ありえない、ありえない」
と連呼する。
あらあら、といったイナリは肩をすくめると、説明をつづけた。
「いいですか。人間界はあらゆる自然災害で悩まされていますよね。それは、リュウ様の欲望が溜まって起きる現象なのです」
「はあ? 欲望が溜まる? それに生贄が必要?」
「はい。ちゃんとリュウ様の欲望というストレスが解消されれば、人間界に平和と安泰がもたらされるでしょう。よって、あなたはそのための生贄なのです」
「はあ?」
僕はだんだんイラついてきた。
イナリの説明に納得がいかない。
なぜなら僕は一応、理数系の商業高校を卒業しているので、こういう非科学的でありえない話は、まったく信用できない。
だが、ほとんど受け入れられないかといえば、そうではなく。子どものような好奇心は、いまだに健在なので、僕は腕を組み、金髪の優男に訊き返してやる。
「で、具体的に僕になにをやれと?」
すると、イナリはにっこりと笑って答えた。
「まずはリュウ様とデートして欲しいのです」
「え? デート?」
「はい、仲良くなってほしいのです」
「冗談だろ?」
「いいえ、本気です。それでも、その衣装ではいささかムードがないですねえ。なんなんですか、その英国紳士のような衣装は?」
「これはスーツだけど?」
僕はジャケットを摘んで広げて見せる。
コンコン、とキツネっぽい鳴き声をあげるイナリは口元を手で隠しながら、
「公爵でもあるまいし、西暦二〇二〇年の日本女性のファッションは、まさか男装が流行っているのですか?」
と訊いた。
僕は強烈な違和感を覚え、眉間に皺が寄った。
「ちょっと待って! 僕は男なんだけど」
「……!?」
イナリは目を剥いた。と同時に、
「……ミスった」
という言葉が漏れていた。
13
あなたにおすすめの小説
転生黒狐は我が子の愛を拒否できません!
黄金
BL
幼馴染と一緒にトラックに撥ねられた主人公。転生した場所は神獣八体が治める神浄外という世界だった。
主人公は前世此処で生きていた事を思い出す。そして死ぬ前に温めていた卵、神獣麒麟の子供に一目会いたいと願う。
※獣人書きたいなぁ〜で書いてる話です。
お気に入り、しおり、エールを入れてくれた皆様、有難う御座います。
氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います
黄金
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻!
だったら離婚したい!
ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。
お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。
本編61話まで
番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。
※細目キャラが好きなので書いてます。
多くの方に読んでいただき嬉しいです。
コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。
ド陰キャが海外スパダリに溺愛される話
NANiMO
BL
人生に疲れた有宮ハイネは、日本に滞在中のアメリカ人、トーマスに助けられる。しかもなんたる偶然か、トーマスはハイネと交流を続けてきたネット友達で……?
「きみさえよければ、ここに住まない?」
トーマスの提案で、奇妙な同居生活がスタートするが………
距離が近い!
甘やかしが過ぎる!
自己肯定感低すぎ男、ハイネは、この溺愛を耐え抜くことができるのか!?
悪役令息に転生したらしいけど、何の悪役令息かわからないから好きにヤリチン生活ガンガンしよう!
ミクリ21 (新)
BL
ヤリチンの江住黒江は刺されて死んで、神を怒らせて悪役令息のクロエ・ユリアスに転生されてしまった………らしい。
らしいというのは、何の悪役令息かわからないからだ。
なので、クロエはヤリチン生活をガンガンいこうと決めたのだった。
婚約破棄されて森に捨てられたら、フェンリルの長に一目惚れされたよ
ミクリ21 (新)
BL
婚約破棄されて森に捨てられてしまったバジル・ハラルド。
バジルはフェンリルの長ルディガー・シュヴァに一目惚れされて、フェンリルの村で暮らすことになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる