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3話

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 朝、俺が登校すると二瓜さんたちは既に登校して、席に座って話していた。二人共、茶髪が混じった髪を後ろで結んでいる。今日もやはり見分けがつかない。

 俺の席を挟んで二人で話しているが、そこは俺の席!!誰が話していようが俺はお構いなく座る。


「あっ、おはよう正義くん!今ちょうど正義くんの話を葵としてたんだー!」


 きっと二瓜さんたちは、俺のカッコいい所について話してたのだろう。きっとそうだ。絶対そうだ!確認も兼ねて何の話をしていたか聞いてみるか。


「何の話してたの?もしかして俺のカッコ………」

「正義くんのあだ名何にしようかなーって」

「えっ、俺のカッコいい所じゃなくて!?」

「茜、この人のあだ名私思いついた」

「おっ、なになに?」

「勘違い野郎」

「いいじゃんそれ!なんで『勘違い野郎』か分からないけど、良いと思う。響きもいいし」


 勘違い野郎から、一つ言いたいことがある。それは、響きだけであだ名を決めないで欲しい!


「できれば、勘違い野郎以外のものでお願いします」

「えー、文句多いな~、勘違い野郎。なんか良いあだ名ある?茜」

「うーーん………。逆に、勘違い野郎くんは、『このあだ名じゃなきゃ嫌!』とか『このあだ名じゃないと生きていけない!』とか『このあだ名じゃないと俺じゃない!』とかある?」


 そんなの無いです。ほんとに勘違い野郎以外なら何でも良いです。

 そして、しばらくの沈黙。茜さんも、葵さんも真面目な顔をして考えている。“真面目な顔”なだけで、実際は何を考えているか分からないけど。

 そして、なんの前触れも無く、茜さんが手をあげた。


「はい!はい!良いの思いついた!私自信あるコレ!言っていい?言っていい?」

「分かった、分かった。落ち着いて茜。あだ名は逃げないから安心して」

「確かに!あだ名は逃げないもんね。よし、落ち着いた!」

「それでは発表をお願いします!」


 なぜ葵さんは、司会者みたいな話し方なんだ?


「でででででーでででーでーーーーでーーーーーでん!」


 そして茜さんの謎のセルフBGM。


「正義くんのあだ名は、セイギです!」

「おぉー、パチパチパチー」


 あだ名より、葵さんのわざとらしい歓声と拍手が気になる。


「茜、いいじゃん!確かに正義って、セイギって読むもんね」

「でしょでしょー!なかなかセンスあると思うんだー。正義君はこのあだ名でいい?」

「えっ、あっうん」


 正義だから、セイギ。そのまんまだけど、覚えやすいしいっか。少なくとも"勘違い野郎"よりはマシだし。


「じゃあ、正義くんのあだ名はセイギで決定ーーー!」

「おぉー、パチパチパチー!」


 葵さんのわざとらしい歓声と拍手も気になったが、気になったことがもう一つ。それは、『わざわざあだ名を決める必要があったか』ということだ。別に正義のままでも、不便ではないはずだ。


「あだ名を考えてくれて、嬉しんだけどさ、一つ質問」

「なんですか?」

「なんで、茜さんと葵さんはあだ名を俺のために考えてくれたのかなーって」

「理由は一つだけだよ!ねぇ茜?」

「そりゃもちろん」

「セイギくんと仲良くしたいからだよ!」
「セイギさんと仲良くしたいからですよ」 


 セイギは、思わず二瓜さんたちにキュンとしたのであった。

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