したっぱの日常

きりたんぽ

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おわりとはじまり

プロローグのプロローグ_2/3

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 軽く身支度を済ませてリビングに入ると既に料理がテーブルに並んでいた。


 うちは両親が仕事で海外にいるので今は家に兄と二人暮らしだ。料理など家事は殆ど兄がしてくれている。
 当初は俺も料理をしていたのだが、卵焼き(製作者:俺)と味噌汁(製作者:俺)を食べた兄がアルカイックスマイルのまま固まってしまったことがあった。オブラートマシマシの言葉を噛み砕くと、「お前の作った料理は人に食わせるな」だった。
 どうも俺は味音痴というやつらしいとそのとき初めて知った。どうりで俺の作ったものを食った人が変な顔をすると思ったぜ。


「太郎ー?あいつどこいったんだ」

 先にリビングに来たはずの太郎の姿が見えない。ここから移動したとしたらキッチンの方か。太郎の分の朝飯がないから催促に行ったんだろう。





「ジルバ、お味はいかがですか?今日はジルバの好きな地鶏のモモ肉です。手羽元はディナーでお出ししますね」

 兄の姿も見えないと思っていたら台所でタマ太郎に食餌を与えていたらしい。目尻が下がりきった表情でしゃがみこみ、猫に敬語で語りかけるイケメンがいた。
 その隣ではお預け状態で放置されたポチ太郎が前足でスリッパをてしてしと踏んでいる。クーンクーンと鼻を鳴らして空腹を訴えているがガン無視されている。ちょっとザマァwと思ってしまったのは内緒だ。



 弟の俺が言うのもなんだが兄はいわゆるイケメンで女性にもモテる。ついこの間もスーパー帰りに大きなおっぱいのお姉さんに話しかけられていた。地味で忘れられがちな俺とは大違いだ。

 しかしあれは見事なおっぱいだった。2人が話している間、空気になっているのをいいことにとても目が幸せでした本当にありがとうございます。



 思い出し眼福で幸せな気持ちになっているとタマ太郎との触れ合い(非接触)に満足した兄が立ち上がって振り向いた。

「おはよう兄さん」

「ああ、おはよう。ちょっと待ってくれ。今ハウトの分を用意するから」

「は、はう?」

 ハウト?って誰だっけ。疑問が顔に出ていたのか、俺の顔を見た兄がため息を吐いた。

「お前はいい加減に自分の飼い犬の名前くらい覚えろ。」

「おお、太郎の名前だった!」

 ポンと手を叩くと兄が半目になった。よ、横文字は苦手なんだよ。


「お前、ジルバも太郎などと呼んでみろ。衣裳ケースの底のものがどうなるか…」

「怖い怖い怖い!呼んでないし呼ばないよ!っていうかなんで俺のお宝の場所知ってるの!?」

 中学生の頃、家に帰ると大切にしまっておいたはずのお宝がテーブルに放置されていたことがあった。兄が犯人か!

「お前はわかりやすいんだよ。こたつに洗面台に食器棚に…。だいたい、なんでお前は食べ物を家中に隠すんだ」

「もう自分の部屋でしかやってないよ!」

「違うそうじゃない。そこじゃないんだ」

「じゃあどこに隠せと」

「だから問題は場所じゃなくてだな。いや、場所も問題だが。だいたいお前、隠した物を忘れるだろ。一昨日は靴箱から干からびた羊羹が出てきたぞ」

 そういえば、1年くらい前に入れた記憶がある。干羊羹ってきんつばとか干芋みたいにならないかと思ったんだったかな。ちょっとした出来心です。

「冬支度です」

「栗鼠かお前は。せめて秋に言え」




「もう10年以上一緒にいるんだ。いい加減名前くらい覚えてやれ」

「は、ハイドロ?とかよりナントカ太郎って呼んだ方がわかりやすくていいじゃないか」

「もう忘れたのか。…ハウトは構わんがジルバは許さん」

「わかってるから!睨まないで!」

 猫派というわけでもないのに、タマ太郎のことは溺愛する兄。不思議に思って訊いてみたときには「ジルバ相手なら当然」と言われて「なるほど変態の一種か」と納得した。と同時に兄の行く末が心配になった。
 顔面偏差値の無駄遣いめ。俺にも点数を分けてくださいお願いします。たまに本当に兄弟なのか不思議になる。


 朝ごはんを貰って興奮しているポチ太郎と虎視眈々と狙うタマ太郎を放置して朝飯の待つテーブルへ戻った。

「キャイン!?」
 とられたな。



「今日は帰りが遅くなるんだったかな」

「うん。文化祭の準備があるからね。帰る前にメールするよ」

 今日の予定を話しながら朝食をとる。
 おお、ベーコンエッグの卵が半熟だ。ベーコンの塩気が淡白な白身にあっていて美味しい。濃厚な半熟の黄身がたまらん。うむ。完璧なグルメレポートだ。
 サラダには柚子味噌が一番だな。うん。うまい。
 ホットミルクにはメープルシロップを入れてご飯にかける。ココアパウダーをトッピングして…っと。完璧じゃないか。

 ふと前を見ると兄さんがなんともいえない表情をしてこっちを見ていた。

「……それ、なんとかならないのか」

 ああ、メープルシロップのことかな。
 味にこだわる俺はちょっとお高めのメープルシロップを使っている。おかげで小遣いの大半がこのメープルシロップに使われている。お宝おやつもいろいろ買ってくるから俺のエンゲル係数はほぼ100%だ。(ドヤ顔)
 兄さんにはこのメープルシロップの素晴らしさがわからないのかな。ふふん。教えてあげよう。


 得意になってメープルシロップの素晴らしさを語ってみたけれど、兄の反応はイマイチだった。何か言いたいことを我慢しているような顔だ。蜂蜜派だったっけか?


「あっ。もうこんな時間だ。そろそろ行かないと」

「忘れ物はないか?体操服は?」

「ふふん。準備は昨日のうちにしたからね。完璧さ」

「威張るな。当然のことだ。もう一度確認しておけよ。一昨日はハンカチを忘れただろ」

「ぐっ…」

 昔から忘れ物が多いから信用がない。ちくしょう。
 でも今日の俺は完璧…のはず!大丈夫だ!多分。





 玄関戸を開けるといい天気だった。空が真っ青だ。
 下駄箱の鏡で襟元を整えていると兄が傘を差し出してきた。

「今日は傘を持って行け」

「こんなに晴れてるのに?」

「今はな。今日は、持って行きなさい」

 いつもなら濡れ鼠で帰ろうが、顔に大リーグで1号なタオルをぶつけてくるだけの兄がここまで言うなんて珍しい。台風でも来るんじゃないか。
 …ふむ、台風か。傘を持って行こう。

「念のためだね。わかったよ」

「よろしい」









 いつも通りの時間の電車に乗って外をぼんやり眺める。
 車内は冷房で涼しいが、背中を汗が伝っていく。額に浮かんだ汗を拭いながら頭を抱えてしまう。

「抜かった…今日は英単語帳か…!」

 今日は小テストがあるのに英単語帳を忘れてしまった。張り切って昨夜勉強したのはいいが、鞄に仕舞うのを忘れていたのだ。
 無事に電車に乗って座席につき、さて復習しようと鞄の中をいくら探しても見つからなかった。おそらく自室の椅子の上だ。なんてこった!

 片手に持った傘を見つめながら、「これが英単語帳ならば…」などと益体も無い考えが頭を過ぎる。
 青タヌキのポケットが欲しい。何もかも詰め込んでおけば忘れ物ともサヨナラだ。

  英語の先生は熱心な人で、小テストでは満点を取るまで昼休みに再テストがあるのだ。しかも、授業ごとに小テストを行うのでうっかりしていると再テストがどんどん増える。
 増えすぎると今度は放課後にも呼ばれるようになるが、それだけは避けたい。

 文化祭の準備で賑わうクラスから、クラスメイトに見送られて再テストに通うなんてごめんだ!なんだか寂しいじゃないか!

 そうなるとなんとかして単語帳を見せてもらうしかない。

「あ、見せてもらえばいいのか…」


 とりあえずすんなり解決策が見つかったところで電車が駅に着いた。



 駅から出ると強い日差しで目が痛い。なんでこう夏は暑いんだ。視線を下にずらしても、横断歩道の白い部分が日光を照り返してくる。アスファルトはアスファルトで熱くなっている。革靴越しにじんわりと熱を感じる。

 電車内での冷房の余韻は既にない。全力で照りつけて来る太陽が忌々しい。誰だ今日がいい天気なんて思ったやつ。曇りのほうがいいじゃないか。
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