したっぱの日常

きりたんぽ

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おわりとはじまり

プロローグ

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 どれくらい歩いただろうか。遠くに見える星は相変わらず同じ位置にある。

「遅かったな」

「えっ。誰」

 口を開けて上を見ながら歩いていると不意に声をかけられた。驚いて前を見るとさっきまでは誰もいなかったはずの場所に人がいた。
 腕を組んで仁王立ちをしている女の子だ。同じくらいの歳だろうか、目鼻立ちのはっきりした美人だ。スラックスと半袖のワイシャツという男子制服姿なのにどう見ても男にはみえない。着崩された襟元から見える景色が素晴らしいです。

 美女ちゃんはどこからか出した椅子によっこいせとどっかりと座ると座面で胡座をかいた。動くたびに揺れる塊のせいで、仕草はおっさんなのにどうみても(略)
 吸引力の変わらない渓谷に釘付けになっていると顔に紙くずが飛んできた。俺の顔はゴミ箱じゃないですよ。

「誰?じゃねぇよ。ここまでくるのにどんだけ時間がかかってんだよノロマめ」

「スミマセン」

 はっ。咄嗟に謝ってしまった。
 ここで俺を待ってたってことはこの子がGPSや扉を用意したんだろう。「もっとわかりやすくしろ!わかりにくいだろ!」って文句を言うつもりだったのに。

「文句ありげだな。もう一発いっとくか?」

「滅相もございません」

 躊躇なく椅子を持ち上げる姿に電光石火でひれ伏した。だめだ。勝てる気がしねぇ。



「何か聞きたいことがあるんじゃねぇか?」

 椅子に座りなおした女の子がチョコ菓子を食べながら問いかけてきた。さっき顔に投げられた紙くずはお菓子の空箱だったようだ。

 ここはお近づきになるチャンスかな!

「彼氏は、じゃなくて…好きなタイプ、でもなくて…名前は、じゃなく……うん?名前?」

 あれ。今、何か違和感があった。

「ん。じゃあそこから説明するか。お前、親の名前言ってみろ」

「個人情報なので本人の許可なしにはちょっと」

「…自分の名前言ってみろ」

「俺の名前は、名前は……うん?」

 名前が、思い出せない?
 なんとかして思い出そうとしても、大方とっかかりがない。ど忘れとは違い、そこに何かがあったという感覚さえないのだ。

「思い出そうとしても無駄だ。ないものはない」

「名前が無いなんて、そんなはずは」


「そんなはずがあんだよ。いいか、お前は死んだんだ」





 美女ちゃん曰く、今いるのはいわゆるあの世というところらしい。死んだ者はここで現世の柵をなくしてから輪廻の輪にのって転生する。俺が名前を無くしたのもそのせいで、魂のコアから生きていた頃の記憶を引き剥がして次の生への準備とするそうだ。
 言われて初めて気づいたが、両親や兄の名前も思い出せなかった。家族の、友達の名前、顔、声。思い出そうとするたびに、記憶があるはずの場所に何もないことに気づいただけだった。
 自分が死んで記憶が消えていると聞いてもあまりショックを受けていないことには驚いた。記憶が消えているせいで未練がなくなっているのか。うっすらと喪失感のようなものを感じるだけだ。混乱の方が大きいかもしれない。

 今更だけど、こんなことを知っている子が人間とはとてもじゃないが思えない。神、とかなんだろうな。
 空になった箱を丸めて放り投げ、空中から次の箱を取り出した美女ちゃん改め神ちゃんがビシッ!と箱をつきつけてきた。

「けど、ここで問題が起こった。お前を輪廻の輪にのせようとしてもうまくのらねぇし、現世じゃお前に関する事象の消滅が始まっちまった」

「わかりやすく言うと?」

 神ちゃんが箱を持っている手をずらすと、箱の陰から新たにデザインの違う2つの箱がでてきた。両方とも限定物のフレーバーじゃないか。意外とミーハーだな。

「お前は現世からはじき出されて、転生すらできねぇ」

 おお、ゲダツというやつかな。

「つまり世界規模のエンガチョだ」

「なにそれヒドい」

 覚えてないけど俺そんなに悪いことしたの?ジャックなの?ウィリアムなの?

「そんなエンガチョ野郎に選択させてやる。このまま消滅するか異世界で再生するか選べ」

「再生で!」

 脊髄反射的に返答してしまった。後悔はしていない。
 これは、ワビチートでオレツエーでハーレムでウハウハという流れだな!なぜかはわからないけれど、この手の話はたくさん知っているぞ。なんだかこう、わくわくすることだったはずだ。
 ところでワビチートってなんだろう。言葉は浮かんでくるのに意味はイマイチわからない。神ちゃんに訊けばわかるかな。

「ワビチートってなんですか?」

「エンガチョのくせに図々しい……ちょうど魂2個分のリソースができたからショボいのひとつくらいならなんとかなるぞ」

 うむ?意図せず話が進んでしまった。日本語って難しいなぁ。何かもらえるらしいしまあいいか。

 神ちゃんが両手を広げると胸の前に白っぽい光が灯った。光の中を覗き込むと妙に懐かしいような、既視感のある影が2つ見える。犬と猫だろうか。

「これは?」

「お前が消えたことで死んだ魂だ。こっちの犬はお前が拾っていたら生き延びたし、こっちの猫は犬が見つけてお前に知らせたら助かってた命だ」

「ん、んん!?ポチ太郎とタマ太郎じゃないか!えっ。お前ら俺がいないせいで死んじゃうの!?」

 嘘だろ。さっきまでは特に未練なんてなかったけれど、こんなの知ったら知らんぷりなんかできないだろ。2匹ふたりとも俺の大事な家族なんだから。家族が死ぬって聞いて黙っていられるか。

「こいつらを生き返らせたりはできないんですか。俺とは違ってエンガチョされてるわけじゃないんでしょ」

「死んだもんが生き返るわけないだろ」

「でも俺は生き返るんじゃ、」

「蘇生じゃねぇよ『再生』っつっただろ。何回も言わせんな。その耳は飾りか」

 耳なんて飾りです。偉い人にはそれが…ってそうじゃない。
 再生って生き返るってことじゃないのか。てっきり身体が復活することだと思ってたわ。
 生き返るのは無理でも何かできないだろうか。俺のみちづれで一緒に、なんてあんまりだろ。
 ……一緒?それだ!駄目で元々。土下座でもなんでもして頼んでみよう。

「じゃ、じゃあこいつらも再生させたりできないんですか」

「できるぞ」

「できるの!?」

 そんなにあっさり?いいの?

 思わず神ちゃんの目を見つめると、神ちゃんもじっと目を合わせてきた。そんな場合じゃないとわかってるけどちょっと照れる。神ちゃんかわいいからな。人に媚びない猫を彷彿とさせる目についつい頬が熱くなるのはしかたないと思うんだ。

「ただし、こいつらを再生させんならチートはつけらんねぇぞ。それでいいのか」

 そういえばワビチートの話だったっけ? 太郎のことが衝撃的ですっかり忘れていた。そんな、意味もよくわからんものより太郎の方が重要に決まってる。

「太郎が生き返、じゃなくて、再生?するならいらんでし!」

 テンションが上がりすぎて噛んでしまった。魂だけのはずなのになんでこんなとこばっかりリアルなんだ。

 神ちゃんは太郎と俺を交互に見て、しばらく考えてから口を開いた。

「オマケで言語魔法のスキルだけはつけておいてやる。スキルといっても万能じゃねぇから過信はすんなよ」

「! ありがとうございます」

 神ちゃんってば結構
「超優しい。ツンデレ?」

「黙れエンガチョ」

 おっと。心の声が漏れてしまった。
 って、あれ?なんか床部分の星が消えっ、て

 ふわっ

「のおおおぉぉぉおぉおおー!?  おとしあなあああああ!!」
ここで?なんで今このタイミングなの!?どう考えても神ちゃんのしわざですよねえ!

「しまっ、ゲフン。よいジンセイを!あとでまた会おう!」

 今しまったって言った!?これはミスなのか。何やってんだ神ちゃん。

 そういえば聞きそびれていたけど俺はなんで死んだんだ。…まさかな。
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