最強になりたい奴が多すぎる

アゲインスト

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第十七話 そして試験当日

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 ――まだ始まってもいないにも関わらず、そこは既に人が放つ熱により沸き立っていた。
 
 ここは闘技場。
 
 いつもは訓練場として解放されている敷地を教師たちの魔法によって改築し、生徒たちが全力で戦うことができるようにしたものだ。
 
 
 ――そう、今日はチーム対抗試験当日。生徒たちがこの一週間の成果を披露する日だ。
 
 
 円形の闘技場の中に四角く作られた戦闘領域には既に第一試合に出場する二つのチームが出揃っている。
 特に注目を集めているのは紅い髪色が戦場にて鮮明に映える――レイシア=スカーレッドのチームの方であろう。
 
 彼女――レイシアはこの学園でも有名な生徒だ。
 成績、実力もさることながらその美貌。鋭利な刃物を思わせる顔の造形とすら言われている。
 年齢は同じぐらいだとしてもその内から滲み出る心の力強さ、はっきりとした性格で物怖じせずに発言する姿に惚れた隠れ愛好家たちが多くいるのはここだけの話。
 
 ただその分だけ彼女を嫌う者も多い。
 特に貴族たちにとって彼女は目の上のたん瘤とでもいうべき存在だ。
 特に今回彼女と対決することになる相手チーム――ガルドロフ=バーンリングスにとっては不倶戴天の天敵とも言える間柄だ。
 
 入学初日にあった新入生同士の手合わせ。
 その時に初めて顔は会わせた二人の顛末はそこにいた者だけでなく学園でも広く知られている。
 だがそれを公に話すことはない。
 もしそんなことをすれば本人がどこからともなく現れて口にした人物を血祭りにあげるからだ。
 実際にその現場にいた者から――『あれは魔物よりも怖かった……』――との発言が青ざめた顔と共に呟かれ、そのあまりの形相に本格的にヤバイとなって以来、この話題は学生たちの間で禁句という扱いのなる。
 
 が、しかし。
 その二人がこうしてまた、公の舞台で対面している。
 これまでの小競り合いなどとは比べ物にならない事態になるのは目に見えて確実。
 それによって起こる事柄に、彼ら生徒は嫌がおうにも盛り上がっていた。
 
 しかもそれだけではない。
 学園ではここ数日に渡ってある噂が広まっている。
 それはある女生徒を襲おうとし、それを助けたレイシア=スカーレッドをあろうことか昏倒させたというのだから。
 その騒ぎの内に紛れるようにして逃げたことによって正体は分からなかったものの、教師陣は状況からこれを内部の犯行と推測。
 早速警備を強化して確保に当たる――というまさのその隙を狙ったかのように、その日の夜に再び犯行が行われた。
 
 狙われたのは何とレイシア=スカーレッドのチームメイト。
 訓練場での出来事くらいでしか知られず、学園ではあまり有名ではなかったがこの時のことが一部で囁かれ――彼の扱う魔法から『足手まといマッドマン』という侮蔑の称号と共に、ネルスという存在も周知されることとなった。
 人命救助を成したレイシアに比べ自分の身も満足に守れないような奴――部屋ごと爆破というどうやっても隠しきれないこの事件によって広まった噂は様々な憶測を呼び生徒たちの注目を集めた。
 
 
 そんななかで行われる今回の試験。
 多くの生徒は先の件で更に知名度を高めたレイシア……彼女の奇跡の復活に沸き、そこから続く劇的な勝利を予想し期待している。
 その反面、貴族出身の者たちは
遂に醜態を晒したレイシアへ止めを刺す好機としてガルドロフへと声援を送っていた。
 中にはお荷物――ネルスのことだろう――を抱えるレイシアチームなど相手ではないという意味のものも混じっている。
 
 怒号、応援、侮蔑、称賛。
 色とりどりの感情が渦巻く闘技場のその中心で――されど静かに、彼らはその時を待つ。
 視線の先には倒すべき相手。
 逸らせばそこで既に負けとでもいうように目だけで刃をぶつけ合う。
 緊張感が高まるにつれ徐々に小さくなる会場の声、それを待っていたかのように舞台の上へと一人の教師が登る。
 
「――静まれ!!」
 
 立場を表すように豪華、されど華美に過ぎないその装束を完璧に着こなす壮年の教師。
 彼こそはこの学園の長、あらゆる魔法士の頂に座する一人。
 その名も――ベイツェール=アルフォンス=フォン=ヒッツガルド。
 彼の声はあまり大きなものではなかったのだが、不思議と全ての生徒たちへと届いた。思わず耳を傾けてしまうその声によって静かとなった闘技場で、改めて学園長の挨拶が始まる。
 
「諸君、我々が神々に加護を与えられ、邪神の勢力からこの大地を守るようになってから幾年の時が過ぎた。
 これは一重に多くの先達たちの血の滲むような研鑽と努力、そして時に命を惜しまぬ献身によるものである。
 そうやって我々はこの平和を受け継ぐことができたのだ。
 
 しかし、これは現状維持に甘んじていいということではない。
 この試験もまた、学園の停滞を危険視した私の発案によるものだ。
 最善とされた教育が時に才能を潰すことがある。魔物の脅威は絶えず進化し、それまでの定石が通用しないことがあるからだ。
 故にこそ、教育もまたその形を変えていかねばならない時がある。
 
 生徒たちよ、変化を恐れてはいかん。
 常に進化し、己の道を突き進む。そして時には前ばかりを見ず、横や後ろを向いてみるのだ。
 そこには自分ではない誰かが、自分では思いもよらなかった方法で進んでいる。
 そのことを、今回の試験を通じて感じてほしい。
 
 ――私からは以上、諸君らの健闘と成長を期待している」
 
 そういって壇上から降りていった学園長へと、誰からともなく拍手が送られた。
 会場全体で巻き起こる拍手の波はしばしの間続いた。
 
 
 
 
 ――そうして拍手がまばらとなり、やがて止んだその瞬間を見計らうようにして。
 
「それでは第一試合、レイシアチームとガルドロフチームの試合を始めます」
 
 ――試合の合図が始まろうとしていた。
 
「まずはルールの確認をいたします。
 
 ――【一、原則として三対三のチーム戦とする】
 ――【二、防具型魔法具を使用し、魔石が壊れた者はその時点で戦闘不能と見なす】
 ――【三、制限時間は十五分。相手を全員戦闘不能にすれば勝利】
 ――【四、制限時間までに決着が着かなかった場合、戦闘可能な人数が多い方を勝者とする】
 ――【五、戦闘不能になった者に故意に攻撃をした場合、その者を即失格とみなし、審議の下厳重な処罰を行うものとする】
 
 以上の五つを守り、学園の生徒として誇りある戦いをしてください」
 
 そこまで言って審判役の教師は両方のチームへと視線を飛ばした。全員の戦闘の準備が整っていることを確かめた教師は右手を天に掲げた。
 

 
「全力を尽くすように――始めぇ!!」
 
 振り下ろされる手と共に、戦いの火蓋が落とされる。
 そしてそれを合図にして――
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――会場へと河が現れた。
 
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