63 / 72
第二章 腐れ剣客、異世界の街に推参
潜入せしナターシャ、腐れ剣客目覚める
しおりを挟む
暗闇に中、壁に掛かった灯りに照らされその姿を表したその人物。
それはこれまでずっと潜入する機を伺い潜んでいた――ナターシャであった。
効果が切れる時間ギリギリで何とか相手がいなくなってくれたと、潜んでいたのがバレなかったことに一安心しながら、周囲に所狭しと設置された牢屋に視線を巡らす。
「……まさか本当に、店の地下にこんなところがある何てね」
調べを進めていっている内にそういう噂を聞いてはいたけど、冗談だと思って聞き流していた。
でもそれがまさか本当のことだったなんて、と彼女は商会が抱える予想以上の闇に恐怖を抱きながらも、こうしちゃいられないと顔を振って気を紛らし行動を始めた。
足音を消しながら三人が消えた扉の方へと駆ける。
そして先ほどクレーリアたちが居た牢屋の前まで来たナターシャ。
ちらりと視線を向ければ、中には鴎垓が静かに寝息を立てて居る姿が見える。
ここ暫くは商会の動向を探りに店の周囲に潜伏していた彼女は今日に限って店に出入りする人員が多く騒がしいのを感じていた。
一体何が起こっているのかと思っていたところに、度肝を抜かれるような光景が飛び込んできた。
商会の裏手に止まった馬車、その中から出てきたのは何と自分達の保護者であるクレーリアの血に染まった姿。
一瞬思考が停止し、すぐにそれを上回る混乱が彼女を襲い動機が激しくなる。
――どうしてあの人がこんなところに。
――孤児院にいるはずじゃ。
――あの血は何?
様々な考えが浮かんでは消えしている間に馬車からは大男に担がれた血塗れ姿のぐったりとした様子の鴎垓がクレーリアと共に支店長テレンスの案内で店の中に消えていく。
まるで抵抗する様子もないクレーリアに居ても立ってもいられず。
予定にない展開に混乱する商会の警備の隙を突いて店の中へと侵入することに何とか成功したナターシャ。
中にいる者たちに気づかれぬよう三人の後を追いかけ、そうして彼女も地下へと足を踏み入れるたのだった。
そして牢屋の中の三人の会話を聞き、ここまであったことをある程度理解している。
鴎垓がこんなことになってしまっているのがクレーリアを助けるために必死になってくれたからだということもそうだ。
「……ごめんね、お兄さん。
悪いけどアタシには……何もできないから」
だが、ナターシャにとっての優先順位はクレーリアが第一なのだ。
この人が命懸けでクレーリアを助けようとしてくれたことは理解しているし、感謝もしている。
それでも。
それでも今は、あの人を助けるために行かなくちゃ。
「絶対後で助けるから、それまで待っててね」
「いや、それには及ばん」
――ズサァ……!!
びっくりした。
びっくりし過ぎて飛び退いてしまった。
「――ひぃ……!! び、びっくりした……なに起きてんのっ!?」
「いや、起こされた」
牢屋の中、仰向けの姿勢のまま言葉を返す鴎垓。
普通寝ている、というか意識を失ってると思っていた相手から返事が返ってくるとは思わないだろう。
しかも寝言ではないしっかりとした返答。
こいつ一体いつの間に。
「え、なにどういうこと?」
「そんなもんあいつに決まって……いや、あいつとは何だ。誰のことを言っている?」
傷も癒え無事に目覚めたのはいいが、どうにも様子のおかしな鴎垓。
ナターシャには意味の分からないことを口走って自分でもよく分かっていない様子、ぼお……っと天井を見上げ視線は虚ろだ。
「ちょっと、大丈夫なの? 怪我のせいで頭までおかしくなったんじゃないよね」
「ううぅ……分からん、何も分からん」
仰向けに姿勢のままうわ言のようにそういう鴎垓、本当に大丈夫かと思いつつもナターシャはこれはチャンスだと檻に近寄って声を掛ける。
「ねぇちょっと、折角目覚めたんなら手伝ってよ。
アタシお姉ちゃんを助けたいの!」
「……」
ナターシャの訴えに、何故か黙り込む鴎垓。
じれったい態度は彼女の焦りをくすぐり、静かにしなければという思いとは裏腹に声が荒げる。
「ねぇ聞いてる! こっちは一刻も早く助けに行きたいの!
出たくなきゃ置いてくだけだけどどうなの!
手伝ってくれるの!?」
「少し落ち着け……お前一人で行ったところで死ぬだけだぞ」
「だから動くなって?
そんなこと言ったって、お姉ちゃんが今どうなってるか分からないんだよ! それなのに何もしないなんて出来るわけないでしょ!」
落ち着くようにいう鴎垓だったが、ナターシャにとっては逆効果となり更に煽るような結果になってしまった。
興奮する彼女に対し、現実としてある障害のことについて口にする。
「お主とてあの男の力量が分からんわけでもあるまい。
無策で挑めばそれこそ本当に死ぬぞ」
「おあいにくさま、こっちだって何も考えてないわけじゃないの。
誘ったのはあくまで成功させる確率を上げたいからでお姉ちゃん一人助けるくらい、あんたの協力がなくたってできるわ!」
しかしそれでも怯む様子のないナターシャ。
その手段によほど自信があるのだろうが、実際に戦っていない彼女はギースの力量を大まかにしか認識できていないことだろう。
それでは駄目だ。
「どうかな、あいつの強さはお主程度の小細工なんぞ簡単に破るぞ」
「……それでも、それでもアタシはやる。
そうじゃなきゃ、ここまで生きてきた意味がない」
「アタシのせいなんだ、アタシが居たからお姉ちゃんは……」
それはこれまでずっと潜入する機を伺い潜んでいた――ナターシャであった。
効果が切れる時間ギリギリで何とか相手がいなくなってくれたと、潜んでいたのがバレなかったことに一安心しながら、周囲に所狭しと設置された牢屋に視線を巡らす。
「……まさか本当に、店の地下にこんなところがある何てね」
調べを進めていっている内にそういう噂を聞いてはいたけど、冗談だと思って聞き流していた。
でもそれがまさか本当のことだったなんて、と彼女は商会が抱える予想以上の闇に恐怖を抱きながらも、こうしちゃいられないと顔を振って気を紛らし行動を始めた。
足音を消しながら三人が消えた扉の方へと駆ける。
そして先ほどクレーリアたちが居た牢屋の前まで来たナターシャ。
ちらりと視線を向ければ、中には鴎垓が静かに寝息を立てて居る姿が見える。
ここ暫くは商会の動向を探りに店の周囲に潜伏していた彼女は今日に限って店に出入りする人員が多く騒がしいのを感じていた。
一体何が起こっているのかと思っていたところに、度肝を抜かれるような光景が飛び込んできた。
商会の裏手に止まった馬車、その中から出てきたのは何と自分達の保護者であるクレーリアの血に染まった姿。
一瞬思考が停止し、すぐにそれを上回る混乱が彼女を襲い動機が激しくなる。
――どうしてあの人がこんなところに。
――孤児院にいるはずじゃ。
――あの血は何?
様々な考えが浮かんでは消えしている間に馬車からは大男に担がれた血塗れ姿のぐったりとした様子の鴎垓がクレーリアと共に支店長テレンスの案内で店の中に消えていく。
まるで抵抗する様子もないクレーリアに居ても立ってもいられず。
予定にない展開に混乱する商会の警備の隙を突いて店の中へと侵入することに何とか成功したナターシャ。
中にいる者たちに気づかれぬよう三人の後を追いかけ、そうして彼女も地下へと足を踏み入れるたのだった。
そして牢屋の中の三人の会話を聞き、ここまであったことをある程度理解している。
鴎垓がこんなことになってしまっているのがクレーリアを助けるために必死になってくれたからだということもそうだ。
「……ごめんね、お兄さん。
悪いけどアタシには……何もできないから」
だが、ナターシャにとっての優先順位はクレーリアが第一なのだ。
この人が命懸けでクレーリアを助けようとしてくれたことは理解しているし、感謝もしている。
それでも。
それでも今は、あの人を助けるために行かなくちゃ。
「絶対後で助けるから、それまで待っててね」
「いや、それには及ばん」
――ズサァ……!!
びっくりした。
びっくりし過ぎて飛び退いてしまった。
「――ひぃ……!! び、びっくりした……なに起きてんのっ!?」
「いや、起こされた」
牢屋の中、仰向けの姿勢のまま言葉を返す鴎垓。
普通寝ている、というか意識を失ってると思っていた相手から返事が返ってくるとは思わないだろう。
しかも寝言ではないしっかりとした返答。
こいつ一体いつの間に。
「え、なにどういうこと?」
「そんなもんあいつに決まって……いや、あいつとは何だ。誰のことを言っている?」
傷も癒え無事に目覚めたのはいいが、どうにも様子のおかしな鴎垓。
ナターシャには意味の分からないことを口走って自分でもよく分かっていない様子、ぼお……っと天井を見上げ視線は虚ろだ。
「ちょっと、大丈夫なの? 怪我のせいで頭までおかしくなったんじゃないよね」
「ううぅ……分からん、何も分からん」
仰向けに姿勢のままうわ言のようにそういう鴎垓、本当に大丈夫かと思いつつもナターシャはこれはチャンスだと檻に近寄って声を掛ける。
「ねぇちょっと、折角目覚めたんなら手伝ってよ。
アタシお姉ちゃんを助けたいの!」
「……」
ナターシャの訴えに、何故か黙り込む鴎垓。
じれったい態度は彼女の焦りをくすぐり、静かにしなければという思いとは裏腹に声が荒げる。
「ねぇ聞いてる! こっちは一刻も早く助けに行きたいの!
出たくなきゃ置いてくだけだけどどうなの!
手伝ってくれるの!?」
「少し落ち着け……お前一人で行ったところで死ぬだけだぞ」
「だから動くなって?
そんなこと言ったって、お姉ちゃんが今どうなってるか分からないんだよ! それなのに何もしないなんて出来るわけないでしょ!」
落ち着くようにいう鴎垓だったが、ナターシャにとっては逆効果となり更に煽るような結果になってしまった。
興奮する彼女に対し、現実としてある障害のことについて口にする。
「お主とてあの男の力量が分からんわけでもあるまい。
無策で挑めばそれこそ本当に死ぬぞ」
「おあいにくさま、こっちだって何も考えてないわけじゃないの。
誘ったのはあくまで成功させる確率を上げたいからでお姉ちゃん一人助けるくらい、あんたの協力がなくたってできるわ!」
しかしそれでも怯む様子のないナターシャ。
その手段によほど自信があるのだろうが、実際に戦っていない彼女はギースの力量を大まかにしか認識できていないことだろう。
それでは駄目だ。
「どうかな、あいつの強さはお主程度の小細工なんぞ簡単に破るぞ」
「……それでも、それでもアタシはやる。
そうじゃなきゃ、ここまで生きてきた意味がない」
「アタシのせいなんだ、アタシが居たからお姉ちゃんは……」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる