リーズ・ナブルは此れにて御免 ~ 元軍人付与士は冒険者として成り上がる~

アゲインスト

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ダボンナ王国独立編 ~リーズ・ナブルの馬事《まこと》騒ぎ~

リーズ・ナブルの通過儀礼

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 剣と魔法、人とそうでない者たちが生きるこの世界。
 魔物が生息域を変え、人の行き来を邪魔することもしばしば。
 目的地までの進行方向に魔物の群れがいることもまた、この世の常でございます。
 さて、それでは私たち人間がこの時どうするか?
 
 逃げる?
 傍観する?
 
 なんとも消極的なことだ、それではいつまで経っても行きたい所にいけないではないですか。
 
 じゃあ戦うと?
 
 まあ、それは、最終的には必要でしょうな。
 なんと言っても相手は魔物、こちらの言葉を聞くような相手ではございません。強行手段に打って出ることも時には考えなければなりませんな。
 しかし、ねぇ、ご不安でございましょう?
 もし、それで命を落としてしまったら、なんて。
 いえいえ、そういった考えがある、というだけのこと。決してあなた様が臆病だとかそういう話ではございません。生きる者として当然のことでございます。
 
 そこで、あなた様によいお話があるのですよ。
 
 いやいや、何も裏のあるお話ではございません。
 あなた様が不安に思っておられることを、代わりにやってあげようというだけのことですよ。
 
 あなたはお金を払って私どもに依頼をする。
 私どもはそれを受け取って、依頼に沿った腕自慢を派遣する。
 見事依頼を果たせたら、依頼金をそれぞれ分け合う。
 あなた様はそうして前へと進めるようになる。
 ほら、誰も損はしていないでございましょう。
 
 お?
 依頼をなさる?
 それはいい!
 あなた様はいい判断をなされた!
 それでは契約をいたしましょう…なに? 『お前は何なんだ』って?
 こいつはなんとも失礼いたしました。
 
 私、『冒険者ギルド』のギルド員でございます。
 お金次第でどんな仕事も請け負いいたします。
 家の修理や犬の散歩、外壁補修や夜間の警備、果てには強大な魔物の相手まで。
 ご要望に合う人材を派遣して、ご期待に応える冒険者ギルド。
 あなたのお側に冒険者ギルド。
 頼りになります冒険者ギルド。
 
 さあさあ、こちらへ。
 あなた様は大事なお客様にございます。
 お茶でも飲みながらゆっくりと内容を吟味いたしましょう。
 
 
 ------冒険者ギルドの商談の一場面より
 
 
 
 
 
 
 ガタゴトと。
 車輪が地面との接地によって鳴る音が、ゆるやかになり次第に静かになっていく。
 それが今回の依頼の地へと到着したことを知らせる合図であることは事前に知らされている。準備は整っている、抜かりなく戦闘に挑めるだろう。
 
 今回の依頼は王都へと繋がる道に出現した魔物の群れの討伐である。あの高位の魔物の出現によって一部の生息域が変わっているようで、普段見ないようなのが森の奥から出てきているらしい。
 それがこの俺、リーズ・ナブルが次の街に行くために請け負うこととなった依頼の内容である。
 
「---いました」

 俺に依頼のことを教えてくれた御者が目標の存在が視認できたことを告げてくる。
 
「数は?」
「およそ十、というところ」
「種類は?」
「四足獣」
「妥当なところだ」
 
 会話を切り上げて馬車の中から日の光の当たる外へと体を晒す。
 相手は四足獣、獣の中でも鼻の利くタイプ、風下のここから近づいていこう。
 草むらに身を沈め、風で揺れるのに紛れて気配を誤魔化す。
 そうしているとそろそろ射程の内に侵入できた。
 
 視線の先には目標の相手、報告通りに十匹の群れ。
 今は狩りの成果だろう、中央で屍を晒している獲物を貪り食いついていた。
 これは好都合、血の臭いで嗅覚が鈍っている。
 食事のお邪魔は心が痛むが、せめて苦しまないように始末してやらねば。
 
 一際強い風が吹く。
 それを合図にして一気に近寄った。
 
「---KYANッ!?」
 
 向かい風を突き破りながらの突撃で、まずは一匹。首の後ろにナイフを突き刺し、動けなくした。
 狙ったのはその中で一番体格のいい、おそらくボスであろう存在。
 抵抗など全く感じないその切れ味に、素材になったものの強度もさることながら製作者の技量に驚愕を禁じ得ない。
 いきなりの敵の出現、群れの統率者の負傷によって思考が乱されてしまった群れはその動きを鈍らせてしまう。
 それは、彼らが狩る側から狩られる側となったことが決定した瞬間であった。
 
 
 
 
 
 
「……お見事」
「大したことじゃねぇさ」
 
 あの程度なら何度も掃討したことがあるからな。
 あれから五分と掛からず依頼は完了、死体は使えるところを剥ぎ取って討伐の証明となる物を回収し、個人的に使える物を一通り袋に納めてあとは地面に埋めておいた。
 
「預ける」
「…しかと受け取りました」
 
 証拠の牙をまとめたものを御者に預け、俺は馬車へと帰還した。
 これでほぼ依頼は達成、あとは街までいってギルドに報告すればそれで任務完了というわけである。
 この依頼によって二三日分の生活費は稼ぐことができる。至れり尽くせりで頭が上がらんね、ほんと。
 
「…しかし」
「ん?」
 
 次に行く街のことを考えていると、馬車を前に進めていた御者から呟くような声が掛けられる。
 少し震えるような声音はどうしてだろうか。
 
「あそこまでする必要がありましたか」
 
 ああ、さっきのことか。
 
「心臓抉り出すやつか、見えてたか」
「え、ええ…」
 
 それはなんともいい眼をしている。
 この距離から処理の様子が分かるとは、生来の能力か何かでなければできないことだろう。
 で、まあ、何でやったか、か。
 それはあれだよ、必要なことだったさ。
 
「使えるところは骨までだ、でないと生きてこれなかった」
「…苛烈ですな」
「この世の摂理さ、甘かねぇんだよ」
 
 失った付与魔法のための素材はあって困るものではない。戦いで失った分の補充はどこかでしなかればならないことだった。
 それが今だっただけのこと。
 
「瓶詰めしてっから必要以上に臭いをばら蒔くこともねぇ、なんだったら水場にいってもらえりゃ体の臭いも流してくるが?」
「…いえ、お手間でしょう。…失礼をいいました」
「こっちも驚かせた、悪かったな」
 
 実際俺は通常しなくていいことをしている。
 処理については慣れたからか出血は少なく済むものの、それでも気持ちのいいものじゃないことは理解している。
 それでも、俺が生き抜いていくためにはこの力が必要なのだ。
 
 特定部位還元式付与魔法---『アナロギア』
 
 それは『屍霊術』にも似た、死体を利用する俺独自の技術。
 聖職者が見れば叫び声でも上げるんじゃないかと思うね。
 
 それきり会話がすることもなく、馬車はまたガタゴトと音を立てながら道を進んでいく。
 昼には見えてくるだろう、次なる街『イナナキ』。
 王都とも交流が深く、キャリアを積むために多くの冒険者が集っていると聞く荒くれ者共の集合地。
 
 はてさて、どうなることだろうかね。
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