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ダボンナ王国独立編 ~リーズ・ナブルの馬事《まこと》騒ぎ~
リーズ・ナブルに凶刃迫りて
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頭上より容赦なく迫る鈍光。
反射した剣は鏡面の如くあるにも関わらず、そうなるのはよほど血を啜ったためか。
淀みを纏うが故に、決してそのままに輝くことがないこの剣が、持つ者の性質をまざまざと表している。
血に、剣に狂っている。
あるいは暴力に、か。この類いの人間を見たのは貧民街での暮らしで幾度かある。
奴等は弱者に対して、欠片の良心もない。
それに対し、そういう質としか言えないと俺は思っている。
この世界では珍しくもない、容易く命が失われることを特別なことだと勘違いしている。
そんなことができる自分に酔っているのだと、俺はそいつらを見て学んだ。
などと、そんな思考が流れたのは、過去の体験がフィードバックしていたからで。
いきなり襲いかかられる、というのは幼少の頃の俺にはかなり恐怖であった。そのときは何とか事なきを得たが、あの時の浮浪者の瞳は今でも忘れることができていない。
そういえば、あの時もこうしていたか。
振り下ろされる凶器に対し、俺は考える前に鎖を取りだし両手で持って頭上へと構えた。
間を置かず長剣とぶつかり、金属が擦れる嫌な音を響かせて停止する。かなりの勢いがあったが、体を後方へと転がすことで鍔迫り合いのような形から逃れる。
直ちに体勢を立て直し、襲撃者へと向き直れば剣を振りきったままであった。それでも追撃を警戒し、注意深く動向を探る。
「うわ、生意気。大人しく斬られといてよ」
自分の攻撃を防がれたからか、不満を漏らす赤い髪の小僧。
言動、体格から見てどうやら成人を迎えて間もないといったところだろうか。
若干高い声音、低めの身長。
およそ戦闘とは無縁に見える風貌ながら、醸し出す雰囲気は殺伐としている。滲み出るような死臭、これは臭いそのものではなく重ねた業によるものだろう。
無邪気ゆえの、天然とも言える殺戮者の気質。それを隠すこともなく、その殺意の象徴たる長剣へと宿しこの場へと君臨していた。
「駄目でしょ、何かあったら報告だっていつもいってるじゃん。いくら十位だからって、勝手にそれを破っちゃ下に示しがつかないでしょ?」
「……っあんたって人はっ!!」
「何? 三位の僕に楯突く気?」
「そうじゃねぇだろ! いきなり何仕出かしてんだって言ってんだ!!」
「邪魔だから壊そうと思っただけじゃん。こいつにも責任があるんだからさ。じゃなきゃ昼間からこんな豪勢にできないよね、万年十位のベン・ブリッチ先輩」
「このっ……!」
武器はこちらに構えながらも、視線はベンの方へと向けられている。その会話を聞く限り、どうやら彼との関係者であるようだった。
立ち上がって剣の柄に手を添え、今にも抜き放ちそうなベンの姿を薄笑いの表情で眺めながら、嘲笑うかのように会話を続ける。
「おいおい、抜く気かい?」
「……先に仕掛けてきたのはそっちだ」
「そっちの鎖の奴を当てにしているのか知らないけど、二人掛かりで勝てるとでも?」
「勝手にまとめてんじゃねぇ……! 俺一人で十分だ!!」
「病み上がりが大口叩くなよ、だから弱いのさ」
「……っやってやんぞコラァ!!!」
明らかな挑発であるにも関わらず、それがベンにとって言ってはならないことだったのか途端に激情し彼を安易に近づいていってしまう。抜いた剣を中腰に構え、一直線に斬りかかる。
「ははっ!」
それを待っていたかのように即座に対応する小僧、両手で仕掛けるベンの一撃に対し右手の剣一本でそれを受ける。
「くっ…!」
「やっぱり軽いね、もっと気張らなきゃ」
それは通常では考えられないことだった。
自分より大きな相手の攻撃、それも前進の勢いを十分に乗せた一撃だ。それを事も無げに防いでみせるその仕組み、奴の体に魔力の流れが見えることからおおよその検討がついた。
「クソ…がようっ……!!」
「ちなみにさあ、こういうことも……できるんだよねっ!」
鍔迫り合いすら余裕の表情であった小僧が体を強張らせたと思った途端、乱雑に振り切られた腕によって凄まじい力が加わったのか体ごと吹き飛ばされてこちらへと投げ出されるベン。
それまで座っていた椅子や机をひっくり返し、散乱する皿と料理の残骸。狙ったのかそうでないのかはわからないが、まっすぐに俺に向けて迫るものだから対処せざるを得ない。
「『スライムの核』の効果発動」
自分の体を対象にして効果を付与、与えられるのは『衝撃耐性』。これによって受け止めた際のダメージを軽減する。
真正面からしっかりと受け止めることに成功し、若干仰け反った程度でその場から動くこともない。
何が起こったのか分からないであろうベン、俺はそれよりもまずどうしてこんなことになっているかの説明が欲しかったためにそのままの姿勢で質問をすることにした。
「おいベン。あのガキ何なんだよ」
「……まずこの格好どうにかしろ」
吹き飛ばされたということにそこまで驚いている様子はなく、こちらの声に反応できるぐらいには冷静である。
もし怒り心頭のままならこのまま拘束しておくかと考えていたが、これなら大丈夫だろうと手を放し二人で立ち上がる。
その間掛かってくることなく俺たちの様子を伺っていた小僧が、何が面白いのか素敵な笑顔で語りかけてくる。
「あんたやるね。最初も防いだし、案外凄腕なのかな?」
「まずは自己紹介しな小僧。飯時に失礼した件はそれで許してやる」
寛容な俺はまず相手のことを知ることから始めることにした。こいつのせいで散らばってしまった昼食のことは後で弁償させるとして、今はこの事態を解決させたい。
そういう意図の名乗りの要求であったが、何故だかこいつは歯を剥き出しにした笑みを浮かべ、剣を真っ直ぐに頭上へと掲げて告げるのだった。
「クラン『青き鬣』所属、第三位。鋼級、ケイン・ガーゼル。クランリーダー、ドイル・ガーゼルの息子にして後継者さ」
反射した剣は鏡面の如くあるにも関わらず、そうなるのはよほど血を啜ったためか。
淀みを纏うが故に、決してそのままに輝くことがないこの剣が、持つ者の性質をまざまざと表している。
血に、剣に狂っている。
あるいは暴力に、か。この類いの人間を見たのは貧民街での暮らしで幾度かある。
奴等は弱者に対して、欠片の良心もない。
それに対し、そういう質としか言えないと俺は思っている。
この世界では珍しくもない、容易く命が失われることを特別なことだと勘違いしている。
そんなことができる自分に酔っているのだと、俺はそいつらを見て学んだ。
などと、そんな思考が流れたのは、過去の体験がフィードバックしていたからで。
いきなり襲いかかられる、というのは幼少の頃の俺にはかなり恐怖であった。そのときは何とか事なきを得たが、あの時の浮浪者の瞳は今でも忘れることができていない。
そういえば、あの時もこうしていたか。
振り下ろされる凶器に対し、俺は考える前に鎖を取りだし両手で持って頭上へと構えた。
間を置かず長剣とぶつかり、金属が擦れる嫌な音を響かせて停止する。かなりの勢いがあったが、体を後方へと転がすことで鍔迫り合いのような形から逃れる。
直ちに体勢を立て直し、襲撃者へと向き直れば剣を振りきったままであった。それでも追撃を警戒し、注意深く動向を探る。
「うわ、生意気。大人しく斬られといてよ」
自分の攻撃を防がれたからか、不満を漏らす赤い髪の小僧。
言動、体格から見てどうやら成人を迎えて間もないといったところだろうか。
若干高い声音、低めの身長。
およそ戦闘とは無縁に見える風貌ながら、醸し出す雰囲気は殺伐としている。滲み出るような死臭、これは臭いそのものではなく重ねた業によるものだろう。
無邪気ゆえの、天然とも言える殺戮者の気質。それを隠すこともなく、その殺意の象徴たる長剣へと宿しこの場へと君臨していた。
「駄目でしょ、何かあったら報告だっていつもいってるじゃん。いくら十位だからって、勝手にそれを破っちゃ下に示しがつかないでしょ?」
「……っあんたって人はっ!!」
「何? 三位の僕に楯突く気?」
「そうじゃねぇだろ! いきなり何仕出かしてんだって言ってんだ!!」
「邪魔だから壊そうと思っただけじゃん。こいつにも責任があるんだからさ。じゃなきゃ昼間からこんな豪勢にできないよね、万年十位のベン・ブリッチ先輩」
「このっ……!」
武器はこちらに構えながらも、視線はベンの方へと向けられている。その会話を聞く限り、どうやら彼との関係者であるようだった。
立ち上がって剣の柄に手を添え、今にも抜き放ちそうなベンの姿を薄笑いの表情で眺めながら、嘲笑うかのように会話を続ける。
「おいおい、抜く気かい?」
「……先に仕掛けてきたのはそっちだ」
「そっちの鎖の奴を当てにしているのか知らないけど、二人掛かりで勝てるとでも?」
「勝手にまとめてんじゃねぇ……! 俺一人で十分だ!!」
「病み上がりが大口叩くなよ、だから弱いのさ」
「……っやってやんぞコラァ!!!」
明らかな挑発であるにも関わらず、それがベンにとって言ってはならないことだったのか途端に激情し彼を安易に近づいていってしまう。抜いた剣を中腰に構え、一直線に斬りかかる。
「ははっ!」
それを待っていたかのように即座に対応する小僧、両手で仕掛けるベンの一撃に対し右手の剣一本でそれを受ける。
「くっ…!」
「やっぱり軽いね、もっと気張らなきゃ」
それは通常では考えられないことだった。
自分より大きな相手の攻撃、それも前進の勢いを十分に乗せた一撃だ。それを事も無げに防いでみせるその仕組み、奴の体に魔力の流れが見えることからおおよその検討がついた。
「クソ…がようっ……!!」
「ちなみにさあ、こういうことも……できるんだよねっ!」
鍔迫り合いすら余裕の表情であった小僧が体を強張らせたと思った途端、乱雑に振り切られた腕によって凄まじい力が加わったのか体ごと吹き飛ばされてこちらへと投げ出されるベン。
それまで座っていた椅子や机をひっくり返し、散乱する皿と料理の残骸。狙ったのかそうでないのかはわからないが、まっすぐに俺に向けて迫るものだから対処せざるを得ない。
「『スライムの核』の効果発動」
自分の体を対象にして効果を付与、与えられるのは『衝撃耐性』。これによって受け止めた際のダメージを軽減する。
真正面からしっかりと受け止めることに成功し、若干仰け反った程度でその場から動くこともない。
何が起こったのか分からないであろうベン、俺はそれよりもまずどうしてこんなことになっているかの説明が欲しかったためにそのままの姿勢で質問をすることにした。
「おいベン。あのガキ何なんだよ」
「……まずこの格好どうにかしろ」
吹き飛ばされたということにそこまで驚いている様子はなく、こちらの声に反応できるぐらいには冷静である。
もし怒り心頭のままならこのまま拘束しておくかと考えていたが、これなら大丈夫だろうと手を放し二人で立ち上がる。
その間掛かってくることなく俺たちの様子を伺っていた小僧が、何が面白いのか素敵な笑顔で語りかけてくる。
「あんたやるね。最初も防いだし、案外凄腕なのかな?」
「まずは自己紹介しな小僧。飯時に失礼した件はそれで許してやる」
寛容な俺はまず相手のことを知ることから始めることにした。こいつのせいで散らばってしまった昼食のことは後で弁償させるとして、今はこの事態を解決させたい。
そういう意図の名乗りの要求であったが、何故だかこいつは歯を剥き出しにした笑みを浮かべ、剣を真っ直ぐに頭上へと掲げて告げるのだった。
「クラン『青き鬣』所属、第三位。鋼級、ケイン・ガーゼル。クランリーダー、ドイル・ガーゼルの息子にして後継者さ」
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