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ダボンナ王国独立編 ~リーズ・ナブルの馬事《まこと》騒ぎ~
かくしてリーズ・ナブルはこの街の問題に足を踏み入れる
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壁に叩きつけられてぐったりとした様子のケイン少年。
殴り飛ばされ、叩きつけられた体勢のまま、踞るようにして座っている。
身体強化は耐久力、防御力も上げるが、腹部への一撃はそれを越え確実に意識を刈り取るダメージを与えているだろう。本気ではないとはいえ、かなりの勢いでぶちこんだのだ感触から相手へのダメージぐらい予想できる。
さて、まずは囮扱いしてしまったベンの方にいかなくては、いろいろお話した方がいいだろうしな。
戦いのせいで散乱してしまった床のあれこれを避けながら、吹き飛ばされたときに打ったのだろう背中を擦りながらむせているベンへと歩み寄った。
「よう、ナイスな囮だったぜ」
「……うるせぇ、ざけんなちくしょう」
こちらもまた座った体勢で息を整えている。
勢いはいいのだが、何だかそれ任せとも言える戦い方なもんで見ていて心配になる。今回は運が良かったのかもしれん。
「お前…あいつを殴り飛ばすなんて、そんなに強かったのかよ」
「大先輩なら秒も掛からずだろうな」
「すげーなユルゲン・ハワード……」
そもそも戦闘になっていたかどうか。
何はともあれ一先ずここから退散するとして、
「---だと思ったよ」
「あれま」
きっちり決着つけなきゃならんのかね、この小僧は。
背後からの奇襲に、俺はあのナイフによって迎撃を行っていた。先程の長剣はその刀身を大きく減らし、最早短剣よりも使い物にならない。
わかっていたさ、そういうタイプだってのは。
ベンへと手を差し出して立たせようと伸ばした手。背後から忍び寄る気配に気付いたときには既にその軌道を変えていた。
流れるように懐に向かい、取り出したのはご存じ切れ味抜群万能ナイフ。
よろずのことにつかいけり、などと過去の人間は言ったそうだが実際有能。振り返り際に見事相手の武器を破壊し、身を守る役割を果たしてくれている。
蹴りでの追撃を狙うが上手く避けられ、そのまま距離を空けられてしまう。
「うわー、凄い切れ味だ。こんな断面めったに見れないや」
斬られ、回転していた刀身が落下によって床に刺さると同時に相手も着地する。
手に持つ剣の残骸に、自分の攻撃が決まらなかったことよりもそれを成立させたものに対しての興味の方が強いようだ。
「結構いい武器持ってるね」
「だろう? 先輩の覚えがいいといろいろ可愛がってもらえるんだ。お前も覚えといた方がいいぞ」
「……これじゃあ今は無理かな」
無視かよ。
どうやらお互いの戦力差について考察が終わったらしく、使い物にならなくなった剣をぽいと捨てたかと思えば、こちらに対して獰猛な笑顔になって語りかけてくる。
「あんたが強いのはよくわかったよ。外に出れなくてイライラしてたけど、いい遊び相手が見つかったからいいや。リーズ・ナブル……またやろうね、じゃあバイバーイ」
そうやって一方的に告げたあげく、自分がやった惨状には目もくれずにそのまま立ち去っていってしまった。
脅威となる奴がいなくなったことで思考から殺伐とした感情が消えていくのを感じながら、やっと一息つくことができると肩の力が抜けていく。
「で、話してもらえるんだよな?」
ようやく、とでもいうべきか。
一気に事態が変わったことでいろいろと聞いておかなければならないことができたようだ。よもやこんな展開に巻き込まれることになるなんて、幸先にいい旅とは言えなくなってきてしまった。
少しばかりの非難の感情を視線に乗せ、事情を知っているだろう人物へと向き直る。
苦いものでも食べたような顔をしたベン・ブリッチは、立ち上がりつつこう言った。
「ここじゃなんだ。別の場所で話そう」
さんざん荒らしてしまった宿屋の食堂から場所を移した俺たちは、俺の予想とは違う以外な場所へと来ていた。
安心してほしい、宿屋の主人には相応の金を支払っている。今後の状況次第ではまたお世話になるかもしれないので少しお話もしておいた。抜かりはない。
さて、場所を移すというベンに誘導され、来たのは街の中央に位置する領主の館の近く、外で働いている警備兵たちの兵舎であった。
正直なところ、街で有名なクランともなればそれなりに関係はあるのもだとは思っていたが、この状況でくることになるとは考えていなかった。
少なからず困惑している俺をよそに、ベンは慣れた様子で手続きを行っている。
ぐるりと中央の建物を囲むように外壁があり、門や壁の周囲を外の奴らと同じ格好の兵士が巡回し警備をしている。
「いくぞ、来てくれ」
「あいよー」
まったく向かう先についての説明がなく、ここまでついてきたのだが結構簡単に入れるようで何か伝でもあるのだろうか。
まあ、それはまた別の話だ。
今はあの小僧のことについて、話をしなければ。
ベンの先導につれられて、いくらか歩いた先にある部屋へと案内されてそこに入る。
何かの会議室のようでそれなりに広い作り、真ん中に備えられたいくつかの椅子と大きな丸いテーブル。なかなかいい素材を使っているようで頑丈そうだ。
「まあ、適当に座ってくれよ」
「ほんじゃ失礼して」
それぞれ対面になるようにして椅子に座り、ようやく説明を受けることができる。
椅子に腰を下ろしたベンは、一つ大きなため息を吐いて沈痛な面持ちで口を開きだした。
「まず、俺たちクランの問題に巻き込んだことを謝罪する。すまなかった」
「あの小僧の様子だと遅かれ早かれ出会ってたさ、そこを気にすることはねぇ」
「すまん……あいつも、最初からああだったわけじゃねぇんだ」
そして、語られる。
この地で起きた悲劇、かつて純粋な少年だったケインがどうしてああなってしまったのかを。
それをずっと見てきた、ベン・ブリッチという男の後悔を。
俺はこうしてまた関わるのだ、人それぞれに思いがあるからこそ起こってしまった確執に。
殴り飛ばされ、叩きつけられた体勢のまま、踞るようにして座っている。
身体強化は耐久力、防御力も上げるが、腹部への一撃はそれを越え確実に意識を刈り取るダメージを与えているだろう。本気ではないとはいえ、かなりの勢いでぶちこんだのだ感触から相手へのダメージぐらい予想できる。
さて、まずは囮扱いしてしまったベンの方にいかなくては、いろいろお話した方がいいだろうしな。
戦いのせいで散乱してしまった床のあれこれを避けながら、吹き飛ばされたときに打ったのだろう背中を擦りながらむせているベンへと歩み寄った。
「よう、ナイスな囮だったぜ」
「……うるせぇ、ざけんなちくしょう」
こちらもまた座った体勢で息を整えている。
勢いはいいのだが、何だかそれ任せとも言える戦い方なもんで見ていて心配になる。今回は運が良かったのかもしれん。
「お前…あいつを殴り飛ばすなんて、そんなに強かったのかよ」
「大先輩なら秒も掛からずだろうな」
「すげーなユルゲン・ハワード……」
そもそも戦闘になっていたかどうか。
何はともあれ一先ずここから退散するとして、
「---だと思ったよ」
「あれま」
きっちり決着つけなきゃならんのかね、この小僧は。
背後からの奇襲に、俺はあのナイフによって迎撃を行っていた。先程の長剣はその刀身を大きく減らし、最早短剣よりも使い物にならない。
わかっていたさ、そういうタイプだってのは。
ベンへと手を差し出して立たせようと伸ばした手。背後から忍び寄る気配に気付いたときには既にその軌道を変えていた。
流れるように懐に向かい、取り出したのはご存じ切れ味抜群万能ナイフ。
よろずのことにつかいけり、などと過去の人間は言ったそうだが実際有能。振り返り際に見事相手の武器を破壊し、身を守る役割を果たしてくれている。
蹴りでの追撃を狙うが上手く避けられ、そのまま距離を空けられてしまう。
「うわー、凄い切れ味だ。こんな断面めったに見れないや」
斬られ、回転していた刀身が落下によって床に刺さると同時に相手も着地する。
手に持つ剣の残骸に、自分の攻撃が決まらなかったことよりもそれを成立させたものに対しての興味の方が強いようだ。
「結構いい武器持ってるね」
「だろう? 先輩の覚えがいいといろいろ可愛がってもらえるんだ。お前も覚えといた方がいいぞ」
「……これじゃあ今は無理かな」
無視かよ。
どうやらお互いの戦力差について考察が終わったらしく、使い物にならなくなった剣をぽいと捨てたかと思えば、こちらに対して獰猛な笑顔になって語りかけてくる。
「あんたが強いのはよくわかったよ。外に出れなくてイライラしてたけど、いい遊び相手が見つかったからいいや。リーズ・ナブル……またやろうね、じゃあバイバーイ」
そうやって一方的に告げたあげく、自分がやった惨状には目もくれずにそのまま立ち去っていってしまった。
脅威となる奴がいなくなったことで思考から殺伐とした感情が消えていくのを感じながら、やっと一息つくことができると肩の力が抜けていく。
「で、話してもらえるんだよな?」
ようやく、とでもいうべきか。
一気に事態が変わったことでいろいろと聞いておかなければならないことができたようだ。よもやこんな展開に巻き込まれることになるなんて、幸先にいい旅とは言えなくなってきてしまった。
少しばかりの非難の感情を視線に乗せ、事情を知っているだろう人物へと向き直る。
苦いものでも食べたような顔をしたベン・ブリッチは、立ち上がりつつこう言った。
「ここじゃなんだ。別の場所で話そう」
さんざん荒らしてしまった宿屋の食堂から場所を移した俺たちは、俺の予想とは違う以外な場所へと来ていた。
安心してほしい、宿屋の主人には相応の金を支払っている。今後の状況次第ではまたお世話になるかもしれないので少しお話もしておいた。抜かりはない。
さて、場所を移すというベンに誘導され、来たのは街の中央に位置する領主の館の近く、外で働いている警備兵たちの兵舎であった。
正直なところ、街で有名なクランともなればそれなりに関係はあるのもだとは思っていたが、この状況でくることになるとは考えていなかった。
少なからず困惑している俺をよそに、ベンは慣れた様子で手続きを行っている。
ぐるりと中央の建物を囲むように外壁があり、門や壁の周囲を外の奴らと同じ格好の兵士が巡回し警備をしている。
「いくぞ、来てくれ」
「あいよー」
まったく向かう先についての説明がなく、ここまでついてきたのだが結構簡単に入れるようで何か伝でもあるのだろうか。
まあ、それはまた別の話だ。
今はあの小僧のことについて、話をしなければ。
ベンの先導につれられて、いくらか歩いた先にある部屋へと案内されてそこに入る。
何かの会議室のようでそれなりに広い作り、真ん中に備えられたいくつかの椅子と大きな丸いテーブル。なかなかいい素材を使っているようで頑丈そうだ。
「まあ、適当に座ってくれよ」
「ほんじゃ失礼して」
それぞれ対面になるようにして椅子に座り、ようやく説明を受けることができる。
椅子に腰を下ろしたベンは、一つ大きなため息を吐いて沈痛な面持ちで口を開きだした。
「まず、俺たちクランの問題に巻き込んだことを謝罪する。すまなかった」
「あの小僧の様子だと遅かれ早かれ出会ってたさ、そこを気にすることはねぇ」
「すまん……あいつも、最初からああだったわけじゃねぇんだ」
そして、語られる。
この地で起きた悲劇、かつて純粋な少年だったケインがどうしてああなってしまったのかを。
それをずっと見てきた、ベン・ブリッチという男の後悔を。
俺はこうしてまた関わるのだ、人それぞれに思いがあるからこそ起こってしまった確執に。
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