リーズ・ナブルは此れにて御免 ~ 元軍人付与士は冒険者として成り上がる~

アゲインスト

文字の大きさ
53 / 109
ダボンナ王国独立編 ~リーズ・ナブルの馬事《まこと》騒ぎ~

かくしてリーズ・ナブルはこの街の問題に足を踏み入れる

しおりを挟む
 壁に叩きつけられてぐったりとした様子のケイン少年。
 殴り飛ばされ、叩きつけられた体勢のまま、踞るようにして座っている。
 身体強化は耐久力、防御力も上げるが、腹部への一撃はそれを越え確実に意識を刈り取るダメージを与えているだろう。本気ではないとはいえ、かなりの勢いでぶちこんだのだ感触から相手へのダメージぐらい予想できる。
 さて、まずは囮扱いしてしまったベンの方にいかなくては、いろいろお話した方がいいだろうしな。
 戦いのせいで散乱してしまった床のあれこれを避けながら、吹き飛ばされたときに打ったのだろう背中を擦りながらむせているベンへと歩み寄った。
 
「よう、ナイスな囮だったぜ」
「……うるせぇ、ざけんなちくしょう」
 
 こちらもまた座った体勢で息を整えている。
 勢いはいいのだが、何だかそれ任せとも言える戦い方なもんで見ていて心配になる。今回は運が良かったのかもしれん。
 
「お前…あいつを殴り飛ばすなんて、そんなに強かったのかよ」
「大先輩なら秒も掛からずだろうな」
「すげーなユルゲン・ハワード……」
 
 そもそも戦闘になっていたかどうか。
 何はともあれ一先ずここから退散するとして、
 
「---だと思ったよ」
「あれま」
 
 きっちり決着つけなきゃならんのかね、この小僧は。
 背後からの奇襲に、俺はあのナイフによって迎撃を行っていた。先程の長剣はその刀身を大きく減らし、最早短剣よりも使い物にならない。
 わかっていたさ、そういうタイプだってのは。
 
 ベンへと手を差し出して立たせようと伸ばした手。背後から忍び寄る気配に気付いたときには既にその軌道を変えていた。
 流れるように懐に向かい、取り出したのはご存じ切れ味抜群万能ナイフ。
 よろずのことにつかいけり、などと過去の人間は言ったそうだが実際有能。振り返り際に見事相手の武器を破壊し、身を守る役割を果たしてくれている。
 蹴りでの追撃を狙うが上手く避けられ、そのまま距離を空けられてしまう。
 
「うわー、凄い切れ味だ。こんな断面めったに見れないや」
 
 斬られ、回転していた刀身が落下によって床に刺さると同時に相手も着地する。
 手に持つ剣の残骸に、自分の攻撃が決まらなかったことよりもそれを成立させたものに対しての興味の方が強いようだ。
 
「結構いい武器持ってるね」
「だろう? 先輩の覚えがいいといろいろ可愛がってもらえるんだ。お前も覚えといた方がいいぞ」
「……これじゃあ今は無理かな」

 無視かよ。
 どうやらお互いの戦力差について考察が終わったらしく、使い物にならなくなった剣をぽいと捨てたかと思えば、こちらに対して獰猛な笑顔になって語りかけてくる。
 
「あんたが強いのはよくわかったよ。外に出れなくてイライラしてたけど、いい遊び相手が見つかったからいいや。リーズ・ナブル……またやろうね、じゃあバイバーイ」
 
 そうやって一方的に告げたあげく、自分がやった惨状には目もくれずにそのまま立ち去っていってしまった。
 脅威となる奴がいなくなったことで思考から殺伐とした感情が消えていくのを感じながら、やっと一息つくことができると肩の力が抜けていく。
 
「で、話してもらえるんだよな?」
 
 ようやく、とでもいうべきか。
 一気に事態が変わったことでいろいろと聞いておかなければならないことができたようだ。よもやこんな展開に巻き込まれることになるなんて、幸先にいい旅とは言えなくなってきてしまった。
 少しばかりの非難の感情を視線に乗せ、事情を知っているだろう人物へと向き直る。
 苦いものでも食べたような顔をしたベン・ブリッチは、立ち上がりつつこう言った。
 
「ここじゃなんだ。別の場所で話そう」
 
 
 
 
 
 
 さんざん荒らしてしまった宿屋の食堂から場所を移した俺たちは、俺の予想とは違う以外な場所へと来ていた。
 安心してほしい、宿屋の主人には相応の金を支払っている。今後の状況次第ではまたお世話になるかもしれないので少しお話もしておいた。抜かりはない。
 
 さて、場所を移すというベンに誘導され、来たのは街の中央に位置する領主の館の近く、外で働いている警備兵たちの兵舎であった。
 正直なところ、街で有名なクランともなればそれなりに関係はあるのもだとは思っていたが、この状況でくることになるとは考えていなかった。
 少なからず困惑している俺をよそに、ベンは慣れた様子で手続きを行っている。
 ぐるりと中央の建物を囲むように外壁があり、門や壁の周囲を外の奴らと同じ格好の兵士が巡回し警備をしている。
 
「いくぞ、来てくれ」
「あいよー」
 
 まったく向かう先についての説明がなく、ここまでついてきたのだが結構簡単に入れるようで何か伝でもあるのだろうか。
 まあ、それはまた別の話だ。
 今はあの小僧のことについて、話をしなければ。
 
 ベンの先導につれられて、いくらか歩いた先にある部屋へと案内されてそこに入る。
 何かの会議室のようでそれなりに広い作り、真ん中に備えられたいくつかの椅子と大きな丸いテーブル。なかなかいい素材を使っているようで頑丈そうだ。
 
「まあ、適当に座ってくれよ」
「ほんじゃ失礼して」
 
 それぞれ対面になるようにして椅子に座り、ようやく説明を受けることができる。
 椅子に腰を下ろしたベンは、一つ大きなため息を吐いて沈痛な面持ちで口を開きだした。
 
 
「まず、俺たちクランの問題に巻き込んだことを謝罪する。すまなかった」
「あの小僧の様子だと遅かれ早かれ出会ってたさ、そこを気にすることはねぇ」
「すまん……あいつも、最初からああだったわけじゃねぇんだ」
 
 そして、語られる。
 この地で起きた悲劇、かつて純粋な少年だったケインがどうしてああなってしまったのかを。
 それをずっと見てきた、ベン・ブリッチという男の後悔を。
 俺はこうしてまた関わるのだ、人それぞれに思いがあるからこそ起こってしまった確執に。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら実は神の息子だった俺、無自覚のまま世界を救ってハーレム王になっていた件

fuwamofu
ファンタジー
ブラック企業で過労死した平凡サラリーマン・榊悠斗は、気づけば剣と魔法の異世界へ転生していた。 チート能力もない地味な村人として静かに暮らすはずだった……が、なぜか魔物が逃げ出し、勇者が跪き、王女がプロポーズ!? 実は神の息子で、世界最強の存在だったが、その力に本人だけが気づいていない。 「無自覚最強」な悠斗が巻き起こす勘違い系異世界英雄譚、ここに開幕!

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...