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ダボンナ王国独立編 ~リーズ・ナブルの馬事《まこと》騒ぎ~
リーズ・ナブルと鍛冶師の工房
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店の中から聞こえてきた騒々しい物音。
何かが地面に落ちるような類いの音が、何度も表に聞こえてきている。
表に出てきていた弟子の一人は先ほどよりも真っ青な顔になっている。もう死んでしまいそうなほど、目の前の人物が恐ろしいのだろう。
中で何が起こっているのかはまだ分からないが、どうせろくなことじゃないのはシャハトも理解しているようで、眉間にシワを寄せて今にも人を殺しそうな気配を醸し出している。
「……」
「あ、あの……師匠…これにはわけが」
おいおい、あいつ死んだわ。
そんな感想が素直に浮かんでくるほどこの場の空気は悪いものだった。マチルダもこれには容易に口を出せないのか、シャハトの動向を見守ることしかできないでいる。
「……入るぞ」
「は、はいぃ!!」
この場での制裁は止したのか、恐ろしい形相のままに自分の店の中に入って行くのに抵抗などできるはずもなく、弟子の男は軍人みたく敬礼して後を着いていく。
まるで地獄の入り口かのような店内へと飲み込まれていった彼らの姿を視線で追い、次に聞こえてきたシャハトの怒鳴り声に、ああやっぱりかと傍観の念が込み上げてしまう。
東方の儀式でいうところの祈りに用いるという、掌を合わせて拝むという所作を行って彼らの冥福を願うことにする。どうか迷い出て来ませんように。
「姉さん、どうします? 運び入れるにゃ人手が足りませんぜ」
「待つしかないだろう。というかリーズ、そろそろその言葉遣いはやめろ。お前にその媚びた感じは合わん」
「おっと、こいつは失礼」
結構気に入ってたんだけどな、この子分みたいな口調。
思わず従ってしまいそうになる彼女の風格に合わせていたんだが、お気に召さないようだった。
とりあえず中の喧騒が収まるのを待ちながら一先ず馬車の中の荷物を外に出しておくことにした。
そうこうしている内に、怒りを撒き散らすシャハトの声が収まるころには荷物は店の軒先に積み上げられ、御者の人を交えて談笑するくらいには時間が経っていた。
三人で談笑しつつ中からのアクションを待っていたら、低い音程で入ってくるように呼び掛けてくるシャハトの声が聞こえてくる。
入らなきゃならないが、正直嫌だ。
でも行かねばなるまい、マチルダも目線でそういってる。御者の兄ちゃんも頷いてる。
先に行けってことですね分かります。
嫌だなー、と思いつつも動かねば事態の改善はできないので何とか踏ん切りをつけてまずは一人で店内へと潜入した。
鍛冶屋、というよりは武器屋というような壁一面に陳列された武器の数々。
しかし、壁を飾っていたであろう武器はほとんどが床へと落ちてしまっている。辛うじて幾つかはそのままだが、これがあの音の正体ということか。
これは怒り心頭だろうなー、とシャハトの爺さんに顔を向ければまあ予想通りというか。
「……おう、待たせたな」
「あー、生きてる? そいつら」
「ギリギリな、折檻で殺しはやらねぇ」
むしろ生きてるのが奇跡なくらいズタボロなんですけど。
五人いる弟子と思わしき奴らは例外なく顔面が崩壊している、なのに正座の姿勢を崩すことはない。染み付いてるんだろうな、どんだけ怒られてきたんだろう。
「何があった?」
「ふん。こいつら、儂がおらんのを良いことに、飾ってあったものを勝手に使っておったのじゃよ。あれだけ勝手なことをするなと言い聞かせておいたというのに……」
自分の言葉に自分で怒りが湧いてきたのか、今度は顔が赤くなっていくので落ち着いてほしい。
これ以上の暴行は彼らの命に関わりかねん。それは流石に見逃せない。
「落ち着こうぜ爺さん、こいつらもいち早くあんたに追い付きたかっただけかもしれんだろ? 武器なんざ使ってみなきゃ分からんことが多いだろうしさ」
「……それなら堂々としとればいい。こんな風に隠そうとするのが気に食わん」
「まあまあ、こいつらも悪いとは思ってんだよ本当のところは。人あっての物だろ? ここは経験を積んだと前向きにな? 表の荷物も運び込まなきゃならんし、今はそれを終えてからにしようぜ?」
なあ?
と弟子の五人に呼び掛ければ、首が取れるんじゃないかってぐらいに勢いよく頭を振って肯定している。
「こいつらの姿に免じてここは抑えてくれよ爺さん」
ついでに俺も頭を下げてやる。ここで話が付かないのであればさらに時間が掛かり、本日の目的であるお見舞いが出来なくなるかもしれない。
それは困る。
どのくらい困るかというと、現在思考中のあることに対してかなり不都合が出るというくらいには困る。
「……はぁ、そうじゃの。こいつらはまだしも表の荷物は大事なものじゃ。運び入れるのに人手が要るのも確かじゃしな。
お前ら! さっさと行かんか!!」
「「は、はいぃいい!!!」」
シャハトの一喝でそれまで生気の無かった五人はきびきびとした動きで表に飛び出ていく。
何とか説得できてよかったが、床の武器はどうするんですかね。
「邪魔にならんように横に避けておいてくれんか。儂は奥の荷物置き場にに行っとるから頼んだぞ」
「マジかよ爺さん」
え、嘘?
この大量の、明らかに重そうなこれらを俺一人でですか?
しかし、シャハトは何も答えてくれない。奥へと引っ込んでしまった。
「……やりますか」
ここは諦めて素直にやりましょう。
出来るだけ通路の邪魔になるものを優先して避けていき、どうにか安全に人が行き来できるくらいになった。
次々と運ばれていく木箱を見ながら、疲労した体を休める。
かなり疲れたがこれでここでのお仕事が終わり、というところで爺さんからお呼びが掛かった。
どうやら見せたいものがあるらしく、マチルダと一緒に奥に行けば、今運んできた物とは違う、古い横長の木箱を抱えたシャハトが。
これが何なのか分からない、が、しかし。
それを見つめるマチルダの表情が寂しげなのが、それの中身を物語っているようだった。
何かが地面に落ちるような類いの音が、何度も表に聞こえてきている。
表に出てきていた弟子の一人は先ほどよりも真っ青な顔になっている。もう死んでしまいそうなほど、目の前の人物が恐ろしいのだろう。
中で何が起こっているのかはまだ分からないが、どうせろくなことじゃないのはシャハトも理解しているようで、眉間にシワを寄せて今にも人を殺しそうな気配を醸し出している。
「……」
「あ、あの……師匠…これにはわけが」
おいおい、あいつ死んだわ。
そんな感想が素直に浮かんでくるほどこの場の空気は悪いものだった。マチルダもこれには容易に口を出せないのか、シャハトの動向を見守ることしかできないでいる。
「……入るぞ」
「は、はいぃ!!」
この場での制裁は止したのか、恐ろしい形相のままに自分の店の中に入って行くのに抵抗などできるはずもなく、弟子の男は軍人みたく敬礼して後を着いていく。
まるで地獄の入り口かのような店内へと飲み込まれていった彼らの姿を視線で追い、次に聞こえてきたシャハトの怒鳴り声に、ああやっぱりかと傍観の念が込み上げてしまう。
東方の儀式でいうところの祈りに用いるという、掌を合わせて拝むという所作を行って彼らの冥福を願うことにする。どうか迷い出て来ませんように。
「姉さん、どうします? 運び入れるにゃ人手が足りませんぜ」
「待つしかないだろう。というかリーズ、そろそろその言葉遣いはやめろ。お前にその媚びた感じは合わん」
「おっと、こいつは失礼」
結構気に入ってたんだけどな、この子分みたいな口調。
思わず従ってしまいそうになる彼女の風格に合わせていたんだが、お気に召さないようだった。
とりあえず中の喧騒が収まるのを待ちながら一先ず馬車の中の荷物を外に出しておくことにした。
そうこうしている内に、怒りを撒き散らすシャハトの声が収まるころには荷物は店の軒先に積み上げられ、御者の人を交えて談笑するくらいには時間が経っていた。
三人で談笑しつつ中からのアクションを待っていたら、低い音程で入ってくるように呼び掛けてくるシャハトの声が聞こえてくる。
入らなきゃならないが、正直嫌だ。
でも行かねばなるまい、マチルダも目線でそういってる。御者の兄ちゃんも頷いてる。
先に行けってことですね分かります。
嫌だなー、と思いつつも動かねば事態の改善はできないので何とか踏ん切りをつけてまずは一人で店内へと潜入した。
鍛冶屋、というよりは武器屋というような壁一面に陳列された武器の数々。
しかし、壁を飾っていたであろう武器はほとんどが床へと落ちてしまっている。辛うじて幾つかはそのままだが、これがあの音の正体ということか。
これは怒り心頭だろうなー、とシャハトの爺さんに顔を向ければまあ予想通りというか。
「……おう、待たせたな」
「あー、生きてる? そいつら」
「ギリギリな、折檻で殺しはやらねぇ」
むしろ生きてるのが奇跡なくらいズタボロなんですけど。
五人いる弟子と思わしき奴らは例外なく顔面が崩壊している、なのに正座の姿勢を崩すことはない。染み付いてるんだろうな、どんだけ怒られてきたんだろう。
「何があった?」
「ふん。こいつら、儂がおらんのを良いことに、飾ってあったものを勝手に使っておったのじゃよ。あれだけ勝手なことをするなと言い聞かせておいたというのに……」
自分の言葉に自分で怒りが湧いてきたのか、今度は顔が赤くなっていくので落ち着いてほしい。
これ以上の暴行は彼らの命に関わりかねん。それは流石に見逃せない。
「落ち着こうぜ爺さん、こいつらもいち早くあんたに追い付きたかっただけかもしれんだろ? 武器なんざ使ってみなきゃ分からんことが多いだろうしさ」
「……それなら堂々としとればいい。こんな風に隠そうとするのが気に食わん」
「まあまあ、こいつらも悪いとは思ってんだよ本当のところは。人あっての物だろ? ここは経験を積んだと前向きにな? 表の荷物も運び込まなきゃならんし、今はそれを終えてからにしようぜ?」
なあ?
と弟子の五人に呼び掛ければ、首が取れるんじゃないかってぐらいに勢いよく頭を振って肯定している。
「こいつらの姿に免じてここは抑えてくれよ爺さん」
ついでに俺も頭を下げてやる。ここで話が付かないのであればさらに時間が掛かり、本日の目的であるお見舞いが出来なくなるかもしれない。
それは困る。
どのくらい困るかというと、現在思考中のあることに対してかなり不都合が出るというくらいには困る。
「……はぁ、そうじゃの。こいつらはまだしも表の荷物は大事なものじゃ。運び入れるのに人手が要るのも確かじゃしな。
お前ら! さっさと行かんか!!」
「「は、はいぃいい!!!」」
シャハトの一喝でそれまで生気の無かった五人はきびきびとした動きで表に飛び出ていく。
何とか説得できてよかったが、床の武器はどうするんですかね。
「邪魔にならんように横に避けておいてくれんか。儂は奥の荷物置き場にに行っとるから頼んだぞ」
「マジかよ爺さん」
え、嘘?
この大量の、明らかに重そうなこれらを俺一人でですか?
しかし、シャハトは何も答えてくれない。奥へと引っ込んでしまった。
「……やりますか」
ここは諦めて素直にやりましょう。
出来るだけ通路の邪魔になるものを優先して避けていき、どうにか安全に人が行き来できるくらいになった。
次々と運ばれていく木箱を見ながら、疲労した体を休める。
かなり疲れたがこれでここでのお仕事が終わり、というところで爺さんからお呼びが掛かった。
どうやら見せたいものがあるらしく、マチルダと一緒に奥に行けば、今運んできた物とは違う、古い横長の木箱を抱えたシャハトが。
これが何なのか分からない、が、しかし。
それを見つめるマチルダの表情が寂しげなのが、それの中身を物語っているようだった。
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