リーズ・ナブルは此れにて御免 ~ 元軍人付与士は冒険者として成り上がる~

アゲインスト

文字の大きさ
87 / 109
ダボンナ王国独立編 ~リーズ・ナブルの馬事《まこと》騒ぎ~

決勝戦 その4 side ベン

しおりを挟む
 ふらつき、ボヤける視界のせいで周りの様子が分からない危険な状態だが、俺は中々そこから回復できなかった。何とも凄い蹴りだったなと、まるで他人事のように思う自分がいることに何故か笑えてくる。
 さて、相手さんを待たせておくのも申し訳ねぇ。さっさと立ち上がるとしますかね。
 ちょっとずつ、白けていた視界が回復していく。
 体の方もどうにか動いてくれそうで、少しずつ四肢に力が戻っていく。ずりずりと情けねぇ限りだが、どうにかこうにか。
 多少ふらつきが押さえられていないが、それでも二本の足で立つ。
 
「……悪いな、待たせて」
「……」
 
 ああ、まだ黙りか。
 いい加減、台詞の一つでも聞きたいもんだが。だがまあ、所在なさげに長剣を眺めてんのはいい気味ってな具合だね。
 もう武器とは呼べなくなったそれにまじまじと眺めているジョンに向かって、どうやったかを説明してやる。
 
「よかったぜ……色々やらせてもらったが……あんたの武器を奪えたんなら上手く行ったと、言えるからな」
 
 俺も武器なんぞこれ一本以外になくしちまったが、それも勝利のためなら惜しくはねぇ。それも含めて対策の一部だからな。
 
「あんたに勝つには、って考えた。こいつはあんたが負かしたケインって奴より難しいことだ。何をやってどう攻めれば、とかが実力が離れすぎててどうにもならん。俺も作戦だとか対策だとか言ってるが、考える頭のあるあんた相手にどこまで通用する確証もなかったからよ」
 
 だからまず、目に見えて分かり易い弱点を突かせてもらった訳だ。
 
「まず始めに足を狙った。あんたの体力を削るのもそうだが、あんたに俺の攻撃を印象着ける役割もあった」
 
 対策第一弾「格下」は、次の対策全ての布石だった。
 奇抜な行動をするってこと前提とした戦いをするっていうこと、俺はこいつに見せつけた。
 
「第二弾じゃあもっと奇抜だったろ。ちょいと参考にしてる奴がいてな、効果の程はこの目で確かめてるからこれは驚いたんじゃねぇの?」
 
 ケインとの戦いで奴が披露した、視界を奪う戦い方。
 経験の少ないケインにとって剣で切り合うことが戦いであったが、それに対して別の技術で戦う奴ってのはなかなかに厄介だと思い知らされた。
 
「体力を削り、思考を削り。そこまでやって今の結果だってのに納得いかないか? でも見てみろよ。あんた手には使いようがなくなった長剣の残骸っていうのに対し、俺は切れ味抜群のナイフときてる」
 
 前の二つに合わせ、武器も奪った。さらに言えばさっきの蹴りで足にもそれなりにダメージがあるはずだ。頭っていう体の中で堅い部類に入るところを攻撃したんだからよ。
 
 散々動かした。
 散々翻弄した。
 削れるだけその戦力を削り、力を発揮できる時間すら削った。
 もう、あんたは無敵とは言えなくなってる。もちろんそれで勝てると思う程、俺も夢見てるわけじゃねぇさ。
 でもな。
 
「もう、避けられねぇな。今のあんたじゃ」
 
 ジョンへと向け、俺はチェックを掛けた。
 奴はもう肩で息をしているのを隠せないでいる。俺を蹴ったであろう足は体を支えられないのか力のない様子で小刻みに震えている。
 半分になった剣も、何とか握っているといった感じでだらりと下げられている。「格下」戦法で無駄に振らせた甲斐がある。
 
 見れば見るほど、戦えるとは思えないような姿となっている。これまでジョンの戦いを見てきた奴らからしてみたら、ここまで弱体化するとは夢にも思わなかっただろというぐらいに、弱々しい姿となっている。
 ……はず、なんだが。
 
「ここまできてんのに諦めてる感じが微塵もねぇとは、見上げたもんだよほんと」
 
 戦力を削がれ、体力を削がれ、それでもこの男に敗戦を認めるような気配は存在していなかった。
 寧ろ逆。
 その表情は以前として見えないのにも関わらず、溢れ出る覇気のようなものは戦う前よりも激しく強いものとなっている。
 今にも倒れそうな奴がこんなにも恐ろしく感じるなど、それこそ魔物との戦いででもなければ味わえないだろう。
 
「……生憎、俺もそこまで余裕があるわけじゃねぇ」
 
 それでも、ここまでして負けを認めるなんざできやしねぇ。
 お前と完全な勝敗を着けるために、ここで逃げるわけにはいかねぇんだよ。
 
「こっちからいかせてもらう……それでしまいにしようぜ」
 
 胸元に構えたナイフの切っ先がジョンへと向けられる。
 腰を落とし、最後の一撃のために力を溜める。
 呼吸から何から、全ての機能をこの一撃のために集中させる。
 
 相手もまた、それに応えるようにして気配を強烈になっていく。そしてケインに見せた構えでもって対峙する。
 そのどこまでも自分の戦い方を曲げない姿勢に、俺は敬意のようなものを胸に抱きながら準備を整え終わった。
 
「……いくぜ!!」
 
 渾身の力を込めた第一歩。
 大きく俺の体を押し出し加速させる。まるでケインと同じような展開、あの神速の一撃がくるのは間違いない。対策はこの時もために、少しでも勝利の確率を広げるためにあった。
 なら俺は、その可能性を信じて刃を突き立てるだけだ……!
 
「ぉおおおおおおおおおおおおお!!!」
 
 雄叫びを上げ迫る俺に対し、ジョンは覇気を放ちながらも静かにその時を待っている。
 駆ける俺が後一歩でナイフが届くいうところで、遂に奴は動いた。
 
 相も変わらず恐ろしい速度の一撃が、切れた断面を突き立てるかのようにして俺の腹を狙って迫る。
 しかし、それはケインに放ったときとは格段に劣った速度での一撃。作戦は確実にこいつの動きから繊細さを失わせていた。
 
(……ごぉっ!?)
 
 それでも最後の攻防だからだろう、避けようなどと考える前にはもうすでに俺の体に突き当てられていた。
 傷を負ったところを正確にぶち当てられ、激痛が全身を支配する。
そしてその一撃が俺の立っていられる力を根こそぎ奪い去っていったことを直感で理解する。
 ああ、負ける。
 負ける。
 このままじゃあ……
 
 
「……まけられっかよぉおおおおおお!!!」
 
 それがどうしたと言わんばかりに、無理矢理に突きだした俺の攻撃は、本来当てようとしたところから掛け離れたところにすり抜けていってしまった。
 でもそれは―――
 
 
「うそ……だろ」
 
 俺の放った最後の一撃は、この男の秘密を思いもよらず明らかにした。
 その事実は、勝敗がついたことよりも俺に衝撃を与えていた。
 最後の交差によって、ジョンの顔を隠していたフードに俺のナイフが当たり中ほどまで切り裂いていた。
 フードは風に煽られ、その中身である素顔が露になっている。
 受けた一撃によって、地面に転げた俺は起き上がる力すらもうないにも関わらず、今まで戦っていた相手の顔をじっと見ることしかできない。
 それほどまでに、ジョンの素顔はありえない人のものであったからだ。
 
 
「なんであんたが……」
 
 どうしてだ、どうしてあんたがここにいる。
 
 
 
 
「―――なんでだ、ドイルさん」
 
  
 会場内にて一人立ち竦む、勝者であるはずの男。
 正体不明の男の真実は、全くもって予想できない人物であった。
 痩せ細った顔で俺を見るその人は、しかしその弱々しい印象からは考えられないほど気さくな笑みを浮かべていた。
 それは俺が見慣れた、ドイルさんそのものと言える彼の癖のようないつもの顔だった。
 何が何だか分からない俺は勝敗だとかを気にする余裕はなく、司会が割って入ってくるまで混乱しているだけだった。
 一体、何がどうなっているんだ?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら実は神の息子だった俺、無自覚のまま世界を救ってハーレム王になっていた件

fuwamofu
ファンタジー
ブラック企業で過労死した平凡サラリーマン・榊悠斗は、気づけば剣と魔法の異世界へ転生していた。 チート能力もない地味な村人として静かに暮らすはずだった……が、なぜか魔物が逃げ出し、勇者が跪き、王女がプロポーズ!? 実は神の息子で、世界最強の存在だったが、その力に本人だけが気づいていない。 「無自覚最強」な悠斗が巻き起こす勘違い系異世界英雄譚、ここに開幕!

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...