精霊電車

機巧往亀

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一 世界有数の大都市

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 夜、大都市のターミナルに向かう列車の中で、チャイムに続いて自動音声のアナウンスが流れる。
『まもなく、終点、東京です。中央線、山手線、京浜東北線・・・・・・・、東北、上越、北陸新幹線と地下鉄線はお乗り換えです。お降りの時は足元にご注意ください。今日も新幹線をご利用くださいましてありがとうございました。Ladies and gentlemen, ・・・ 』
 どこか無機的なアナウンスが終わり、列車は減速を始める。窓際の席に座る一人の青年は、夜を知らない街が放つLEDの光を眺めながら、列車から降りる用意を始めた。大半が前の駅で降りてしまったのか、彼の乗る車両に客はほとんど残っていない。荷物をまとめながら、彼はふと呟いた。
「相変わらずこの街はぶっ飛んでやがる。」
地方出身の彼にとって、ここは何度来ても慣れない街である。超高層ビルの間を縫うように走るハイウェイやモノレール、地下深くまで続くショッピングセンター、青く輝く電波塔、これらは彼にとって異世界か未来都市の光景であった。
 改札の外へ出ると、複数ののぼりが彼の目に入った。
『祝 つくばエクスプレス東京延伸決定!早期実現を求む』、『列車運転完全自動化で変わる未来』、『列車乗務員の職を奪う自動運転化反対!』、『電車・バスの24時間営業を実現せよ!』、『戦争反対!』、『原発反対!』、『リニア反対!』、『外国人労働者が職を奪う!奴らを追い出せ!』・・・。これらを眺めながら、彼は嘆息した。故郷では唯一の鉄道の廃線が決まり、バスも撤退を決定、住民はこれらの撤回を求めて行動をしているらしいというのに、この街の連中は贅沢な事で争っている。だが、その余裕がまた羨ましいのである。
 迷路のような駅構内を歩き回りながらインターネットで調べた地下鉄の名前を探す。が、見当たらない。仕方なく人に聞こうとするも、この街の人間は皆せわしなく、声をかけることも彼には難しい。
「はぁ、駅員にでも聞いてみるか、ん、あれは確か・・・」
案内板とのにらめっこを切り上げ、駅員を探そうとした彼の目に、一体のロボットが飛び込んできた。それは最近この街で行われた世界的なイベントを機に導入された、警備・案内・掃除を兼用するロボットであった。当然、実物と会うのは初めてである。 彼は案内板から離れ、ロボットのところへ向かう。意外にも、先に口を開いたのはロボットの方だった。
「こんばんは、どうされましたか?ご用件をどうぞ」
ロボットの胸にはタッチディスプレイがあり、様々な言語に対応している旨と、言語の切り替え方法が流れている。それを見て、ちょっと彼は遊んでみたくなった。
「プリーズ、スピーク、イングリッシュ」
「Hello, Welcome to Tokyo Station. May I help you?.」
「今のウソ、撤回。」
「I'm sorry I could not catch your words. Are you speak Japanese?」
「えっと、日本語でお願いします。」
「こんばんは、どうされましたか?ご用件をどうぞ、つか二度も三度も同じこと言わせんなや。あと遊ぶな」
なにやら急にロボットが怒り出したので、彼は慌てて要件を言う。
「地下鉄千代田線に乗りたいのですが、どちらに行けばいいか教えてくれませんか。」
「お安い御用だ。ついてきな。」
どこか彼の抱くロボットのイメージとは違う話し方であったが、これが都会の流行なのだろうと勝手に納得し、ロボットについて行く彼。歩き始めると、再びロボットが話しかけてきた。相変わらずロボットらしくない口調だが。
「お兄さんはどちらからいらしたんで?」
「大阪だよ。」
かつて情報セキュリティに関する仕事をしていた彼は、咄嗟に適当な嘘をつく。この手のロボットや自販機が個人情報を収集していることは彼らの業界では常識であり、情報を収集されるとロクな事がないこともまた知っている。
「大阪ですか、あそこはいろいろありますからねぇ、お好み焼きとか、たこ焼きとか、串カツとか、こっちでも食えますけどやっぱ本場の一度食べてみたいですねぇ。」
「・・・(こいつほんとにロボットか、妙な奴もいたもんだ)・・・き、君はどこ出身なの?」
彼は聞いてみてから、いやロボットにこれ聞いてどうすんだよと自分に問いただすが、以外にも返答があった。
「本体のほとんどはタイで、主要電子回路と仕上げは山梨の国内工場で、育ちはここ東京らしいですねえ。あ、このエレベータに乗りますよっと。」
エレベータの前に立ち止まる二人。駅の中でも端の方だからか、人通りは少ない。エレベータに乗り込み、さらに地下深くへと降りる。出身地の会話は終わっても世間話は続く。
「・・・こないだ発表された去年の貿易統計は黒字らしいですねぇ。でも今年は中東でまたドンパチやってるおかげで原油価格は高止まり。地方は大変でしょうね。あ、ここ改札ですぅ。」
まじめな経済の話をしていたと思ったら、改札を抜けてからは流行の芸能人の話になる。
「・・・で、あの人はテレビに出るようになってからつまらなくなったんですよ。ネット出身の彼が規制ガチガチのところに出てくるから失敗したんです。あ、このエレベータですね。」
「それにしてもよくしゃべるなぁ。そういえば人がいないな。さっきの改札も無人だったし。」
改札を抜けた所から人通りはさらに減り、今はとても世界有数の大都市とは思えない。いや、地方都市の駅ですらもう少し人がいるだろう。
「いやぁこの時間帯は穴場でね。人はまばらなんですよ。改札の無人化はもうずいぶんと進みましたしね。で、お兄さんは北千住と代々木上原のどっちに向かうんで?」
「北千住方面かな。」
エレベータがやってきて、また二人で乗り込む。ホームに降りると、いくらか人がいた。
「ほんじゃこっちのホームに来る電車に乗ればいいよ。どーせ各停しか来ないから次の電車に乗ればいいね。それじゃまた会おう旅の人。」
最後までマイペースかつ妙なテンションのロボットは、再びエレベータに乗り、元来た道を戻ってゆく。それを見送りながら、彼は素直な感想をつぶやく。
「何だったんだあいつは・・・」
とりあえず、ホームの案内を見直し、探していた路線であることを確認する。ベンチがあったので腰かけ、彼は次の電車を待つこととする。とても大都市の駅とは思えない静けさの中で。

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