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第四章 砂塵の都編
第一話「決断」
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謎の男に連れられ、体の傷を癒してから五日と半日が経った。
火傷は大方快復したが、心の傷は癒えない。
目前で仲間たちが消えたのだ。その光景が脳裏から焼き付いて離れない。
生気を失い、魂が身体という器から零れ落ちたかのようなジュドに男は語り掛ける。
「俺の名前はシャステイル。とある理由で邪神教十二使徒を探している」
「この都市に不穏な動きがあると情報を聞きつけやってきたが、一体何があった?」
全身をローブで隠しているが、その下からは動作の合間に金属の擦れる音が聞こえる。
いずれにせよ素性がわからないその男の言葉に体が震える。
邪神教…。
その響きを聞いただけであの光景が蘇る。
本当の意味で失うことの恐ろしさを知ったジュドの口は言葉を発することを拒絶する。
かつて憧れ、夢を抱くきっかけとなった祖父の冒険譚には輝かしき日々が綴られており、きっと旅をすることは楽しいことだと思い込んでいた。だが、現実は非情で時に残酷に牙を向くことを知ってしまった。
〝怖い〟。
一つの感情が自身の心を支配していた。
トントン。
不意に扉が叩かれ、二人の女性が部屋へと入ってきた。
「お邪魔します。お加減はいかがですか、ジュドさん」
見覚えのあるその女性は椅子へと座る。
この都市の主神である漠水神フィオーネと近衛兵団の長オーレダリアだ。
「知り合いか。だったら、外そう」
シャステイルは椅子から立ち上がり、扉の前で振り返った。
「ジュド…といったか。部屋の外で待っている。話が終わった後でいい、さっきの問いに答えてくれ」
「お前と俺の目的は同じだ。問いに答えてくれるというなら、こちらも相応の情報を提供すると約束する」
そういって部屋の外へと出ていく。
「彼が負傷した君をここまで運んで来たようだな…彼は知り合いか?」
オーレダリアがジュドへと問いかけるが、ジュドは首を横に振る。
「珍しい人が訪ねてきていたようですね」
「…フィオーネ様?」
オーレダリアが不思議そうな顔でフィオーネを見る。
「さて、この話はここまでにして。あなたが…いえ。‶あなただけ〟がこうしてここにいるということはどういうことか。こちらもある程度は察しがついています」
悲しげな表情でこちらを見ている。
オーレダリアは少し俯き、握りしめた拳からは鈍い音が鳴っている。
「大変な戦いでしたね。この都市のために命をかけて戦っていただき感謝しています」
その言葉を聞いた時、頬から涙が滴る。
「俺は…みんなを…」
必死に絞り出した感情は塞き止めていた言葉を外へと排出する。
「海上で呼び声の迎撃を行っていた我々がジュドさんたちの元へと駆け付けた頃には焼け焦げた跡と血痕のみが残っており、衛兵からあなたがここへ運び込まれたということを知りました」
「オーレダリア。水門都市で起こった事の詳細をお願いします」
フィオーネの一言でオーレダリアが続けて話し始める。
「今回の強襲で都市の中央大通りから居住区を含めた一帯が壊滅状態。邪神教幹部の十二使徒と応戦したフォーレタニア王和国護衛のバハトナ殿、第二王女のティアナ様が意識不明の重体。救援に向かったセノ殿により十二使徒の一人の撃破に成功した。現在は母国で治療を行う旨から三名は帰路に着いている」
「封楼灯台の結界は三か所とも健在で、海上の呼び声はほぼ殲滅。現在も残った呼び声を掃討しているが、いずれの個体も頭を討ったことにより徐々に散開している状況だ。ガタノゾアの復活も阻止できたものとしてこちらは判断している」
被害の報告にジュドは絶句した。
封楼灯台前の避難民の多さから覚悟はしていたものの、地底都市よりも甚大な被害が出ていたのだ。
すかさず窓のカーテンを取り払い、外を見る。
「…!」
だがそこには、必死に都市を再建しようとする人々の姿があった。
「突然の強襲とはいえ、私が考えていたよりも多くの被害、そして犠牲者が出ました。彼らの中には大切な人、大切なもの、そして思い出を失った方も大勢います。ですが、失ったものを取り戻そうと彼らは日々この都市のために働き続けてくれているのです」
「ジュドさん。あなたには私がなぜこの都市の統治から退いたかを話していませんでしたね」
「私は、神という人々に可能性を与える存在はこの世界にもう必要ないのではないかと思っています。この景色を見てあなたも感じたことでしょう。人や亜人といった生命たちはすでに一人で歩くだけの力を十分持っているのです」
「時に喜び、時に失い、そうして彼らは前へと進み続けてきました。もう与えられるのではなく自分たちで生み出す事ができるのだと私はこの千年で知りました」
一呼吸置いた後、フィオーネの手から一冊の本が手渡される。
「戦闘が起こった後の封楼灯台前にこれが落ちていました」
それは烈火に焼かれてもなお原型を保ち、ボロボロになりながらも崩れることがなかった。
「少々煤けてしまっていますが…あなたが大切にしていたものではありませんか?」
〝アイザックの冒険譚・三〟。
それは娘を村に残したまま旅立ち、孫に夢の抱かせた一人の…そう、ジュドの祖父の冒険譚だった。
風が窓から吹き込み、開いていたページがパラパラとめくられていく。
止まったそのページの言葉を見てジュドは目を見開く。
(―これを読んだ全ての者へ。私はある日、〝希望〟と呼ばれる一本の大木を見つけた。そこは夢の中のような心地だった。触れてみると何とも温かな気持ちになり、気が付くと今までの不安や葛藤は瞬きする間に消えていた。私はこの木に未来を感じたのだ。いつか平和なこの世が終わりを迎えるかもしれない、そう感じた時には手が動いていた。この世界にはまだまだ未知の謎が残っている。この木のようにな。私は知りたい、この世界の全てを。そして冒険という夢を追う素晴らしさを書き記し、伝えたい。私は冒険譚を作った。冒険を夢見た少年少女よ、いつか私と世界の果てで巡り合わんことを―)
今まで何度も読み返したその本には空白のページがあり、ずっとそのページを不思議に思っていた。だが今、本は文字でびっしりと埋まっている。
「傷を忘れろとは言いません。でも、もしあなたが外の彼らのように失ったものを取り戻したいというのなら亡き仲間のためにも、その絶望から立ち上がって前を向いてください」
傷は深く、きっと癒えることはないのかもしれない。
だが、心には変化があった。
まだ立ち上がる足が俺にはある。
邪神教の陰謀を阻止し、この世界に隠された真実に辿り着くこと。
そして、行方知れずの祖父に会うこと。
仲間たちも必ず…そこへ連れていってみせる。そう決意した。
「落ち着くまではここで休んでもらって構いません。ここから先の道のりはより困難とぶつかることでしょうから…あと」
フィオーネは操った水で扉を開ける。
「入って構いませんよ」
向かいの壁へと腕を組み、もたれ掛かっていたシャステイルは扉が開いたことに気づく。
「もういいのか?」
「ここからはあなたにも関係がある話です」
「…部屋の前に遮音魔術をかけていなかったのはそういうことか」
シャステイルは再び部屋へと入って来る。
「その前にお名前を聞いても?」
ジュドの時と同じように、名前を名乗るシャステイル。
「今度は俺の番だ。話す気になってくれたか?」
こちらに目をやるシャステイルにジュドは頷く。
そこからはシャステイルを含め、その場にいた三人にありのままの出来事を話した。
十二使徒・カフカと戦ったこと。敵の大技で火傷を負ったが、追い詰めることができたこと。
突然目の前に裂け目が現れて中から二人の十二使徒が登場したこと。
その敵に仲間を…殺されたこと。
途中、場面を思い出し息が詰まることもあったが…ゆっくりと自分のペースで話すことで何とか全てを伝えることができた。
「フィアンデルマと呼ばれる使徒の能力でこの都市へと転移してきたんだろう」
シャステイルは考える仕草をしながら、話す。
「あなたは邪神教についてどこまで知っているのですか?」
フィオーネが疑問に感じていたことをシャステイルへ尋ねる。
「過去に奴らと因縁があって、俺は奴らを追う中で何人かの十二使徒の情報を得た」
「その中の二人は既に殺している」
「…!」
十二使徒の強さは常軌を逸している。その強さはこの場にいる人物全員が理解していることだ。
その十二使徒を二人も倒しているということに三人は驚いた。
「そう驚くことじゃない、十二使徒といっても強さには偏りがある。戦闘用に特化した能力から補助に特化した能力まで様々だ。俺が殺した奴らは今回の使徒よりも実力は下だっただろう」
「最も抜けた穴はもう補填されている可能性が高いがな。どういった経路であんな怪物集団を構成しているかがわからない以上、中核を成している使徒を仕留めない限り奴らは植物のように根を張り続ける」
「邪神教は今、邪神が封印されている箇所を狙って襲撃をかけている可能性が高い。地底都市ラース、水門都市フィオーネ…流れから考えると残りは不落の城塞と名高い〝荒炎都市マグダラキア〟、そして天に最も近い都と呼ばれる〝風嵐都市ファル=ファレラ〟だ」
フィオーネの表情が曇る。
「漠水神フィオーネ、他の旧神は今何をしている」
他の旧伸…。未だ会ったことがない神。彼らはこの異常事態を把握しているのだろうか。
「件の二都市にいる神の内、荒炎神マグダラは現在も昔と変わらず酒と戦に耽っている所でしょう。風嵐神ファーファレラは元々控えめな性格だったので今は何をしているかわかりません」
フィオーネはジュドとシャステイルに他の善神との関係を説明した後、二人に提案をした。
「ジュドさん、シャステイルさん。お二人とも目的は近しいはずです。なので、ここからは二人で旅を共にするというのはいかがでしょうか?」
「二人で…?」
ジュドは驚いた顔をする。
「流石にここからの道のりを一人で越えていくことは困難を要するでしょう。十二使徒と戦闘になった際、ジュドさんの力は非常に有効だと言えます。シャステイルさんもそれは理解されているはずです。シャステイルさんはかなりの手練れですが、目的を成し遂げるためにそれぞれの力が必要になる時が来るでしょう」
ジュドは考え込む。まず間違いなくシャステイルはかなりの実力者だ。
それはわかるが、自分の実力がそこに釣り合っているのか…そこを気にしていた。
だが、このまま一人でいてもこの先の旅は難しいことも現実だということをジュドは感じている。
「共に行くのは構わないが、これだけは約束してくれ。…十二使徒は全員殺す」
真っすぐジュドの方を見て、シャステイルは告げる。
「わかった…。俺も同行させて欲しい」
悩んだ末、ジュドはシャステイルと共に行くことを決める。
シャステイルもそれを了承し、二人はここから共に旅することにする。
「どちらの国も北大陸に位置する場所にあり、ここより遠く離れた場所です。両国から近い位置にある〝砂塵の都・マハ〟を目指してみるといいでしょう」
「砂塵の都…か」
「詳しいことはジュドさんが完全に快復した後に、シャステイルさんと決めもらうのがいいですね」
ファイオーネはオーレダリアに手で合図すると、二人は席を立つ。
「ジュド。君は…いや君たちはこの都市の英雄だ。今回の戦いで使い物にならなくなった装備などはこちらで補填させて欲しい。多くはないが砂塵の都までの資金も用意させてもらおう」
オーレダリアから感謝の意を伝えられる。
「それでは、私たちはお先に失礼します。また何かあれば遠慮なく訪ねて下さい」
花瓶の水を入れ替えたあとに彼女たちは部屋を去っていった。
◇ ◇ ◇
二人が部屋を去った後、シャステイルはジュドに話しかける。
「突然現れたという使徒の能力…聞いた情報から予想するに〝物の転移〟。仮にそうだった場合、お前の仲間はまだ生きているかもしれない」
ジュドは目を見開く。
「だが、出口が奴らの拠点に繋がっているとするならまず間違いなく殺される。もし違う場所だったとしても野生の魔物に食い殺されている可能性もあるだろう」
「砂塵の都は情報の流通も盛んな街と聞く。ジュドが望むなら、仲間の情報も探ってみよう」
仲間が生きているかもしれない。そんな希望は頭のどこにも存在せず、それを聞いた時にハッとした。
一縷の望みだったとしても…その可能性に賭けたいと思わされた。
「…やれることはやっておきたい」
シャステイルはふっと微笑み、「いいだろう」そう一言放つ。
ジュドの止まっていた時間は再び脈動を始めた。
火傷は大方快復したが、心の傷は癒えない。
目前で仲間たちが消えたのだ。その光景が脳裏から焼き付いて離れない。
生気を失い、魂が身体という器から零れ落ちたかのようなジュドに男は語り掛ける。
「俺の名前はシャステイル。とある理由で邪神教十二使徒を探している」
「この都市に不穏な動きがあると情報を聞きつけやってきたが、一体何があった?」
全身をローブで隠しているが、その下からは動作の合間に金属の擦れる音が聞こえる。
いずれにせよ素性がわからないその男の言葉に体が震える。
邪神教…。
その響きを聞いただけであの光景が蘇る。
本当の意味で失うことの恐ろしさを知ったジュドの口は言葉を発することを拒絶する。
かつて憧れ、夢を抱くきっかけとなった祖父の冒険譚には輝かしき日々が綴られており、きっと旅をすることは楽しいことだと思い込んでいた。だが、現実は非情で時に残酷に牙を向くことを知ってしまった。
〝怖い〟。
一つの感情が自身の心を支配していた。
トントン。
不意に扉が叩かれ、二人の女性が部屋へと入ってきた。
「お邪魔します。お加減はいかがですか、ジュドさん」
見覚えのあるその女性は椅子へと座る。
この都市の主神である漠水神フィオーネと近衛兵団の長オーレダリアだ。
「知り合いか。だったら、外そう」
シャステイルは椅子から立ち上がり、扉の前で振り返った。
「ジュド…といったか。部屋の外で待っている。話が終わった後でいい、さっきの問いに答えてくれ」
「お前と俺の目的は同じだ。問いに答えてくれるというなら、こちらも相応の情報を提供すると約束する」
そういって部屋の外へと出ていく。
「彼が負傷した君をここまで運んで来たようだな…彼は知り合いか?」
オーレダリアがジュドへと問いかけるが、ジュドは首を横に振る。
「珍しい人が訪ねてきていたようですね」
「…フィオーネ様?」
オーレダリアが不思議そうな顔でフィオーネを見る。
「さて、この話はここまでにして。あなたが…いえ。‶あなただけ〟がこうしてここにいるということはどういうことか。こちらもある程度は察しがついています」
悲しげな表情でこちらを見ている。
オーレダリアは少し俯き、握りしめた拳からは鈍い音が鳴っている。
「大変な戦いでしたね。この都市のために命をかけて戦っていただき感謝しています」
その言葉を聞いた時、頬から涙が滴る。
「俺は…みんなを…」
必死に絞り出した感情は塞き止めていた言葉を外へと排出する。
「海上で呼び声の迎撃を行っていた我々がジュドさんたちの元へと駆け付けた頃には焼け焦げた跡と血痕のみが残っており、衛兵からあなたがここへ運び込まれたということを知りました」
「オーレダリア。水門都市で起こった事の詳細をお願いします」
フィオーネの一言でオーレダリアが続けて話し始める。
「今回の強襲で都市の中央大通りから居住区を含めた一帯が壊滅状態。邪神教幹部の十二使徒と応戦したフォーレタニア王和国護衛のバハトナ殿、第二王女のティアナ様が意識不明の重体。救援に向かったセノ殿により十二使徒の一人の撃破に成功した。現在は母国で治療を行う旨から三名は帰路に着いている」
「封楼灯台の結界は三か所とも健在で、海上の呼び声はほぼ殲滅。現在も残った呼び声を掃討しているが、いずれの個体も頭を討ったことにより徐々に散開している状況だ。ガタノゾアの復活も阻止できたものとしてこちらは判断している」
被害の報告にジュドは絶句した。
封楼灯台前の避難民の多さから覚悟はしていたものの、地底都市よりも甚大な被害が出ていたのだ。
すかさず窓のカーテンを取り払い、外を見る。
「…!」
だがそこには、必死に都市を再建しようとする人々の姿があった。
「突然の強襲とはいえ、私が考えていたよりも多くの被害、そして犠牲者が出ました。彼らの中には大切な人、大切なもの、そして思い出を失った方も大勢います。ですが、失ったものを取り戻そうと彼らは日々この都市のために働き続けてくれているのです」
「ジュドさん。あなたには私がなぜこの都市の統治から退いたかを話していませんでしたね」
「私は、神という人々に可能性を与える存在はこの世界にもう必要ないのではないかと思っています。この景色を見てあなたも感じたことでしょう。人や亜人といった生命たちはすでに一人で歩くだけの力を十分持っているのです」
「時に喜び、時に失い、そうして彼らは前へと進み続けてきました。もう与えられるのではなく自分たちで生み出す事ができるのだと私はこの千年で知りました」
一呼吸置いた後、フィオーネの手から一冊の本が手渡される。
「戦闘が起こった後の封楼灯台前にこれが落ちていました」
それは烈火に焼かれてもなお原型を保ち、ボロボロになりながらも崩れることがなかった。
「少々煤けてしまっていますが…あなたが大切にしていたものではありませんか?」
〝アイザックの冒険譚・三〟。
それは娘を村に残したまま旅立ち、孫に夢の抱かせた一人の…そう、ジュドの祖父の冒険譚だった。
風が窓から吹き込み、開いていたページがパラパラとめくられていく。
止まったそのページの言葉を見てジュドは目を見開く。
(―これを読んだ全ての者へ。私はある日、〝希望〟と呼ばれる一本の大木を見つけた。そこは夢の中のような心地だった。触れてみると何とも温かな気持ちになり、気が付くと今までの不安や葛藤は瞬きする間に消えていた。私はこの木に未来を感じたのだ。いつか平和なこの世が終わりを迎えるかもしれない、そう感じた時には手が動いていた。この世界にはまだまだ未知の謎が残っている。この木のようにな。私は知りたい、この世界の全てを。そして冒険という夢を追う素晴らしさを書き記し、伝えたい。私は冒険譚を作った。冒険を夢見た少年少女よ、いつか私と世界の果てで巡り合わんことを―)
今まで何度も読み返したその本には空白のページがあり、ずっとそのページを不思議に思っていた。だが今、本は文字でびっしりと埋まっている。
「傷を忘れろとは言いません。でも、もしあなたが外の彼らのように失ったものを取り戻したいというのなら亡き仲間のためにも、その絶望から立ち上がって前を向いてください」
傷は深く、きっと癒えることはないのかもしれない。
だが、心には変化があった。
まだ立ち上がる足が俺にはある。
邪神教の陰謀を阻止し、この世界に隠された真実に辿り着くこと。
そして、行方知れずの祖父に会うこと。
仲間たちも必ず…そこへ連れていってみせる。そう決意した。
「落ち着くまではここで休んでもらって構いません。ここから先の道のりはより困難とぶつかることでしょうから…あと」
フィオーネは操った水で扉を開ける。
「入って構いませんよ」
向かいの壁へと腕を組み、もたれ掛かっていたシャステイルは扉が開いたことに気づく。
「もういいのか?」
「ここからはあなたにも関係がある話です」
「…部屋の前に遮音魔術をかけていなかったのはそういうことか」
シャステイルは再び部屋へと入って来る。
「その前にお名前を聞いても?」
ジュドの時と同じように、名前を名乗るシャステイル。
「今度は俺の番だ。話す気になってくれたか?」
こちらに目をやるシャステイルにジュドは頷く。
そこからはシャステイルを含め、その場にいた三人にありのままの出来事を話した。
十二使徒・カフカと戦ったこと。敵の大技で火傷を負ったが、追い詰めることができたこと。
突然目の前に裂け目が現れて中から二人の十二使徒が登場したこと。
その敵に仲間を…殺されたこと。
途中、場面を思い出し息が詰まることもあったが…ゆっくりと自分のペースで話すことで何とか全てを伝えることができた。
「フィアンデルマと呼ばれる使徒の能力でこの都市へと転移してきたんだろう」
シャステイルは考える仕草をしながら、話す。
「あなたは邪神教についてどこまで知っているのですか?」
フィオーネが疑問に感じていたことをシャステイルへ尋ねる。
「過去に奴らと因縁があって、俺は奴らを追う中で何人かの十二使徒の情報を得た」
「その中の二人は既に殺している」
「…!」
十二使徒の強さは常軌を逸している。その強さはこの場にいる人物全員が理解していることだ。
その十二使徒を二人も倒しているということに三人は驚いた。
「そう驚くことじゃない、十二使徒といっても強さには偏りがある。戦闘用に特化した能力から補助に特化した能力まで様々だ。俺が殺した奴らは今回の使徒よりも実力は下だっただろう」
「最も抜けた穴はもう補填されている可能性が高いがな。どういった経路であんな怪物集団を構成しているかがわからない以上、中核を成している使徒を仕留めない限り奴らは植物のように根を張り続ける」
「邪神教は今、邪神が封印されている箇所を狙って襲撃をかけている可能性が高い。地底都市ラース、水門都市フィオーネ…流れから考えると残りは不落の城塞と名高い〝荒炎都市マグダラキア〟、そして天に最も近い都と呼ばれる〝風嵐都市ファル=ファレラ〟だ」
フィオーネの表情が曇る。
「漠水神フィオーネ、他の旧神は今何をしている」
他の旧伸…。未だ会ったことがない神。彼らはこの異常事態を把握しているのだろうか。
「件の二都市にいる神の内、荒炎神マグダラは現在も昔と変わらず酒と戦に耽っている所でしょう。風嵐神ファーファレラは元々控えめな性格だったので今は何をしているかわかりません」
フィオーネはジュドとシャステイルに他の善神との関係を説明した後、二人に提案をした。
「ジュドさん、シャステイルさん。お二人とも目的は近しいはずです。なので、ここからは二人で旅を共にするというのはいかがでしょうか?」
「二人で…?」
ジュドは驚いた顔をする。
「流石にここからの道のりを一人で越えていくことは困難を要するでしょう。十二使徒と戦闘になった際、ジュドさんの力は非常に有効だと言えます。シャステイルさんもそれは理解されているはずです。シャステイルさんはかなりの手練れですが、目的を成し遂げるためにそれぞれの力が必要になる時が来るでしょう」
ジュドは考え込む。まず間違いなくシャステイルはかなりの実力者だ。
それはわかるが、自分の実力がそこに釣り合っているのか…そこを気にしていた。
だが、このまま一人でいてもこの先の旅は難しいことも現実だということをジュドは感じている。
「共に行くのは構わないが、これだけは約束してくれ。…十二使徒は全員殺す」
真っすぐジュドの方を見て、シャステイルは告げる。
「わかった…。俺も同行させて欲しい」
悩んだ末、ジュドはシャステイルと共に行くことを決める。
シャステイルもそれを了承し、二人はここから共に旅することにする。
「どちらの国も北大陸に位置する場所にあり、ここより遠く離れた場所です。両国から近い位置にある〝砂塵の都・マハ〟を目指してみるといいでしょう」
「砂塵の都…か」
「詳しいことはジュドさんが完全に快復した後に、シャステイルさんと決めもらうのがいいですね」
ファイオーネはオーレダリアに手で合図すると、二人は席を立つ。
「ジュド。君は…いや君たちはこの都市の英雄だ。今回の戦いで使い物にならなくなった装備などはこちらで補填させて欲しい。多くはないが砂塵の都までの資金も用意させてもらおう」
オーレダリアから感謝の意を伝えられる。
「それでは、私たちはお先に失礼します。また何かあれば遠慮なく訪ねて下さい」
花瓶の水を入れ替えたあとに彼女たちは部屋を去っていった。
◇ ◇ ◇
二人が部屋を去った後、シャステイルはジュドに話しかける。
「突然現れたという使徒の能力…聞いた情報から予想するに〝物の転移〟。仮にそうだった場合、お前の仲間はまだ生きているかもしれない」
ジュドは目を見開く。
「だが、出口が奴らの拠点に繋がっているとするならまず間違いなく殺される。もし違う場所だったとしても野生の魔物に食い殺されている可能性もあるだろう」
「砂塵の都は情報の流通も盛んな街と聞く。ジュドが望むなら、仲間の情報も探ってみよう」
仲間が生きているかもしれない。そんな希望は頭のどこにも存在せず、それを聞いた時にハッとした。
一縷の望みだったとしても…その可能性に賭けたいと思わされた。
「…やれることはやっておきたい」
シャステイルはふっと微笑み、「いいだろう」そう一言放つ。
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