暗澹のオールド・ワン

ふじさき

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第四章 砂塵の都編

第五話「砂塵闘技場(コロッセオ)」

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 夜が明け、二人は今日の方針を決めていた。


「ここでは殺しは手段の一つで、コミュニケーションの一環として許されている。くれぐれも油断するな」


 シャステイルはジュドに注意喚起する。


「昨日はすまない。国が違えばこんなにも雰囲気やルールが変わるってことを再認識したよ。この砂漠地帯の過酷な生存競争を生き抜くために彼らは力を身につけた。だから俺もここのルールに従うつもりだ」


 二人は荷物を背負う。


「昨日酒場で話していた〝遺物〟はおそらく〝邪神の遺物〟だ。ジュドも知っていると思うが、あれは人の手に余る代物だ。他人の手に渡る前にここで破壊する」


 ジュドにとっても魔装は地底都市での苦い記憶を彷彿とさせる。
 表情から見てシャステイルも何か過去にあったのだろう。


「あれって壊せるのか?」


 破壊方法を知らないジュドが問いかけた。


「ああ、方法はある。破壊は俺に任せてくれ」


 何か考えがあるのだろう。シャステイルを信じてここは任せてみることにする。
 突如明るみとなった事実は見過ごすには影響力が大きく、二人は身支度を済ませた後、気を引き締めて武闘祭への参加を決める。
 砂塵闘技場コロッセオのエントランスは大勢の観客と参加者で溢れかえっていた。
 長蛇の列は砂塵闘技場の外まで伸びており、早朝から並んだジュドたちは比較的早い順序で受付まで辿り着く。


「こんにちは!武闘祭の参加ですか?観戦ですか?」


 受付の女性が二人へと参加の有無を訊ねる。


「二名の参加で頼めるか?」


 シャステイルとジュドは参加の意を示す。


「金貨一枚と銀貨三枚…っと。参加金はこれで問題ありません。それではこちらが参加証になります」

「対戦表については開会式が終わった後、試合開始時間の三十分前に開示します。試合開始までに参加者本人がいらっしゃらなかった場合は無条件での敗退になりますのでご注意ください」

「なお、武闘祭の試合で起こった事につきましてはこちらでは保障はできかねます。試合の勝敗につきましては相手選手の降参、戦闘不能の場合に決着。武器や防具に関しましても参加者の実力を尊重する観点から個人での持参となっておりますのでその点もよろしくお願いいたします」


 戦闘不能…。つまり死んでも文句は言えない、まさに無法地帯というわけか。


 大会について説明を一通り終えた後、参加の署名を記入し、参加証を渡される。

 受付を終え、しばらく辺りを見回っていると観客席へのゲートが開く。
 門をくぐると円形の闘技場が全貌を明かし、中央向かいには砂塵の都の管理者が鎮座していた。


「戦士たちよ、この良き日に集まってくれて感謝する!」

「私は砂塵の都、砂漠の民の族長・バルタザールだ!」


 歓声があがり、バルタザールは手を下ろす。


「我々四部族はかつて、この白銀の砂漠で争い合っていた!だが、争いは何も生まぬことを知った!この武闘祭は何か別の手段で力を誇示し合えないかを四部族が模索したことが発祥だ!」

「今回は優勝賞品も特別なものを用意してある故、四部族だけでなく一般参加者のみなも今宵は存分に戦い、存分に盛り上がってくれたまえ!!!」


 会場は最大級の盛り上がりを見せる。
 この開会式では遺物が大衆の目前に晒されることはなかった。


「さあ…!!戦いの幕開けだ!!」




      ◇ ◇ ◇ 




「それでは!予選の対戦表ドローを開示します!」


 エントランス中央に対戦表が開示される。
 A~Hブロックまで用意された対戦表にはAブロックにジュド、Gブロックにシャステイルが配置されていた。


「一試合目と二試合目、続けてか。試合展開が早いな」


 大勢の参加者が試合に組み込まれているため、試合数もかなりのスパンで組み込まれている。


「またあとでな」


 シャステイルとはブロックが離れていたため、一旦別れてジュドは試合控え室へと向かうことにした。
 時間になるとスタッフが該当選手を呼び出し、砂塵闘技場のステージへと案内する。


 〝末の光〟。

 俺は光の力をそう名付けた。この力はできるだけ使わないようにしないといけない。
 もし観客の中に邪神教がいた場合に対策されるわけにはいかないからだ。
 拳を強く握りしめ、真っすぐと歩いていくと対岸に相手が見えた。


 大柄の男が一人。


「お前が俺様の相手かぁ?なぁんだ、ただのひよっこじゃねえか!」

「おい、そこのガキ。俺様はC級冒険者、鉄拳のカゥアード。伝説に足を踏み入れし、レッジェンドな男だぁ!!俺様と戦えることを喜ぶと共に後悔しな!」


 一戦目からあからさまに変なやつと当たってしまった。
 ジュドは呆れて声も出ない。

 これはあれだ、俺でもわかる。こいつは…間違いなく弱い。

 困惑しながらも試合が始まってしまう。


「おおおお!!これが俺様の切り札!!必殺…!《鉄・鋼・拳》!!」


 いきなり走り出したカゥアードは勢いよく飛び上がり、決めセリフを叫んだ。
 ジュドは剣を手にしたまま拳に力を込める。

 握られた拳はカゥアードの頬を確実に捉え、渾身の必殺技を避けた後に頬へと直撃した。


「ごぶへッ…!!」


 一撃で決着が着いた。


「……」

「嘘だろ……」


 そういえば、忘れていたが…地底都市や水門都市の件で俺はCランク冒険者からAランク冒険者へと昇格していたんだった。
 成長しすぎたジュドは難なく一戦目を突破した。


 二戦目も苦戦することなく勝ち上がり、観客席でシャステイルと合流した。
 あっちも無事に勝ち進んでいたみたいだ。
 最もシャステイルが負ける心配はしていなかったが…。
 砂塵闘技場では初日の最終試合が始まろうとしていた。


「あれって戦巫女様じゃない?」

「あ!ほんとだ、ハヅキ様だ!」


 目の前の観客が舞台に立った踊り子姿の女性を指す。
 彼女が有名人なのか周りの観客も盛り上がり始めた。


「ふふ、みんな盛り上がってくれてるみたい」


 戦巫女は手持ちの武器を巧みに扱い、相手の武器を宙へと弾く。
 武器を失った相手の男は素手で殴りかかってくるが、攻防は数分間と持たなかった。

 流れるように喉元に添えられた剣を前に相手の男は降参を申し出る。


「お…俺の負けだ」


 大盛り上がりを見せた一日目の全試合が終了した。




      ◇ ◇ ◇ 




 試合が終わり、砂塵闘技場コロッセオを後にしたジュドとシャステイルは街の市場を歩いていた。
 何やらこの道少し進んだ道で開催を記念した舞いが披露されるらしい。
 昨日泊まっていた宿までの道に人がごった返している。

 少し歩くと、特設会場が見えてきた。


「みんな、今日は集まってくれてありがとう!武闘祭を楽しんでますか~?」


 最終試合で見かけた服装の少女が観客に問いかけている。


「今から開催を祝して恒例の〝火宴の舞い〟を披露するよ!目を離しちゃ、ダメだからね」


 観客に向けてウィンクをすると、一気に会場の暑さが増す。
 両手に蒼と緋の片手剣を持ち、踊り子のような装束を着ているその少女はまさしく。


「あの時の戦巫女!」


 歓声と同時にジュドは目前の少女が最終試合で戦っていた砂漠の民代表選手、戦巫女・ハヅキだと知る。



 ―ドドン。



 大型の楽器に合わせて、ハヅキは踊り始めた。

 さっきまでの歓声はどこに行ったのだろうか。
 全員がその舞いに見惚れて静まり返っている。

 静寂を打ち破るように様々な楽器が音色を奏で始め、巫女に握られている剣からは緋と蒼の炎が繰り出される。



 




「うぉおおおおお!」


 黙っていた観客たちは手をかかげ、声を上げる。
 中には踊り出す者もいた。


「あの武器、〝フラムベルジュ〟か」


 シャステイルは使用していた武器に気が付いた。


「確かあの戦巫女、Bブロックだったな。明日はおそらくジュドと当たるだろう。強いぞ」


 シャステイルがこんなこと言うとは、それほどの手練れなのだろう。
 …負けるわけにはいかない。

 遺物の破壊、そして消えた仲間を探し、安否を確認するためにも。

 炎舞が舞われている最中、ふと後ろから声をかけられた。


「お兄さん方、宿をお探しではありませんか?」


 ジュドが振り返ると一人の青年が立っている。


「急にすみません!見慣れない格好をしていたので旅の方かと思い、声をかけさせていただきました」

「私はナジーム。すぐそこにある宿場の亭主をしています。良ければ今晩の宿にどうですか?」


 目を瞑ったままの青年は額に大きな傷跡がある。


「ああ…、これはすみません。昔、目を失明してしまって。それ以来盲目なんです」

「見えてないのに大丈夫か?」


 人の多さからジュドは彼を気にかける。


「ご心配をおかけしてすみません…!住み慣れていますし、音で大体の位置がわかるので大丈夫ですよ」

「それより、これも何かの縁です!一杯奢るのでうちで泊っていってください」


 二人はナジームに手を引かれて宿へと案内される。
 案内された宿は大きくはないが、部屋は昨日よりも綺麗に掃除されており、家具も一つ一つこだわりを感じるものばかりが並んでいた。


「いい宿でしょう?夢だったんですよ。出会った旅人に安らぎを提供できたらなって」

「いい夢だな。俺は祖父の冒険譚がきっかけで旅に出たんだ」


 ジュドたちは一階の食堂でナジームと酒を交わしていた。


「ジュドさんたちも感じたかもしれませんが、ここは結構血気盛んな人が多いですからね」


 ナジームは宿を経営することにした理由など、この街の事を色々と教えてくれた。
 治安は確かに良くないかもしれないが、みんなで助け合って生きてきたという。


「ただいま~」


 入口から少女が入って来た。


「お疲れ、ハヅキ!あ、この人たちはお客さんで…」


 本日三度目の戦巫女・ハヅキだった。
 遠目では何度も見ていたが、初めて対面で彼女と話す。

 ジュドとシャステイルが自己紹介したあとは飲みの席にメンバーが一人加わった。


「そっか!ジュドとシャステイルも武闘祭に参加してるんだね!しかも明日はジュドと私が当たるって…よろしくね!」


 武闘祭の事で話は弾む。
 ハヅキとナジームは小さい頃からの幼馴染で、この宿を時々利用しているらしい。


「昔はね、こう見えてナジームは剣士だったんだよ?すっごい強くて砂漠の民代表選手として武闘祭の出場を推薦されてたくらいだったんだから!」

「道理で剣を腰に差していたわけか」

「ははは、これは護身用ですよ。シャステイルさん」


 謙遜するナジームにハヅキは声をあげる。


「そんなことないよ!ナジームは今でも…」


 言葉の途中でハヅキは俯く。


「……」

「ほ、ほら!そんなことよりもこの街のおすすめ料理は!」


 気まずい雰囲気に耐えかねたナジームは話題を変えようとした。


「そ、そうだね…!二人に美味しい食べ物いっぱい教えてあげて!私は明日もあるし…先に部屋に戻ろうかな!」


 ハヅキは席を立ち、自分の代金を置いたあと手を振りながら二階へと去って行った。


「聞いてもいいか?」


 ジュドはナジームに尋ねる。


「僕が十五の頃、この街に魔物が侵入したことがあって…たまたまその場に居合わせたハヅキとハヅキの両親がその魔物に襲われました」

「近くにいた僕が助けに入ったのですが、その時にはハヅキの両親は魔物に殺されてしまっていて…。僕の目も魔物と相討ちになる形で光を失いました」

「あれからハヅキは僕の目が見えなくなったのが自分のせいだと責めていて。目が見えなくたって楽しいよって、安心してもらうために宿の経営を始めたんです」


 ナジームはハヅキとの気まずさの訳を話してくれた。


「ナジーム、その傷は勇気の勲章だ。恥じることはないさ」


 ジュドの言葉にナジームは照れる。


「お二人も明日があるでしょうから、今日はここまでにしましょうか」


 ナジームは机の上に広がった空の皿を回収して、それをキッチンへと運ぶ。


「美味しかったよ。ありがとう」


 ジュドとシャステイルも感謝を告げ、机の上に代金を置いて二階へと上がっていった。

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