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第四章 砂塵の都編
第七話「万象の宝球」
しおりを挟む「みな楽しんでいるか!とうとう、明日から本選が始まる!!」
「本選に出場した戦士たちはこの四人だ!獣族代表・ララ=ルナーラ=リリエッタ!白亜族代表・ハインケル=ベルフダート!冒険者・ジュド=ルーカス!冒険者・シャステイル!」
四部族の代表が二人。錚々たるメンバーが名を呼ばれた。
「バルタザール様、準備が整いました」
「そうか。下がっておれ」
バルタザールの背後からスタッフが台座を差し出し、それを両手に持ち、掲げた。
観客たちは一同に〝それ〟を見上げ、歓声を上げる。
「これが優勝賞品の古代の〝遺物〟だ…!!!」
鈍く輝く〝それ〟は歪な装飾が施された球体だった。
シャステイルの剣幕が鋭くなる。
「間違いない…あれは魔装十二振だ」
直感的にあれはただの球体ではないと二人は感じ取る。
どんな効果があるかわからない以上、素人の手に渡る事、ましてや邪神教に回収されることはあってはならない。
バルタザールは遺物を椅子の横へと置く。
「これにて今宵の戦いは幕引きだ!ゆっくり英気を養い、明日に備えよ!」
武闘祭の二日目が終了した。
◇ ◇ ◇
三日目、砂塵闘技場を訪れていたジュドに白亜の少年が話しかけてくる。
シャステイルは試合の準備をしに、先に控え室へと向かっていた。
「あの…もしかして、ジュドさんですか?」
拳闘士の装いをしたその少年はどこか見覚えのある顔だ。
「ああ、俺はジュドだ。君は…」
「失礼しました…!いつも兄者がお世話になっております」
兄上と聞いてすぐにピンと来る。
「まさか、ダグラスの弟か!?」
彼はダグラス=ベルフダートの弟、ハインケル=ベルフダートだったのだ。
「ハインケルと言います!ジュドさんのお噂は兄者からの手紙で拝見していました」
「兄者からの手紙が最近届いていないのですが、ご一緒では…ないみたいですね」
ジュドの周りを見て、兄がいないことを確認する。
ハインケルは手紙に書かれていたメンバーよりも明らかに人数が少ないことを疑問に感じた。
こちらへ向き直すハインケルにジュドの表情は曇る。
「すまない…、ダグラスは…」
ハインケルはジュドの表情から察した。
「あっ…。すみません!僕の方こそ、無神経…でした」
あの時の事を思い出すと今でも挫けそうになるが、意志を強く持ち直す。
「俺は…生死不明のダグラスたちを探すためにもこの街に来たんだ」
邪神教のことを話せない分、ハインケルには十分な説明をすることができなかった。
ハインケルもきっと悲しいはずなのに、兄の死を悔やむことはしない。
〝死は戦士の誇り〟代々受け継がれてきた部族の掟を遵守しているのだろう。
「僕もようやく部族の長に実力を認めてもらうことができ、今回の武闘祭では代表として出場することになりました。優勝すれば兄者のように、一族の紋様を身体に刻むことができるはずなんです」
ダグラスの体の紋様は武闘祭で得たものなのか気になったジュドはハインケルに尋ねる。
「ダグラスも身体に紋様があったが、武闘祭で優勝したことがあるのか?」
「白亜族には武闘祭か部族内の武闘大会で優勝したものを旅に出すという風習があります。兄者は武闘祭ではなく部族内の大会で優勝したんですよ。兄者に敵う者は部族内にはいませんでしたからそれはもう無双状態で」
兄の武勇伝を語るハインケルはとても楽しそうだった。
ジュドはハインケルに冒険の話をし、あっという間に試合開始時間になってしまう。
「良かったらまた後で話の続きを聞かせてください」
「シャステイルは手強いぞ。頑張れ」
ハインケルの相手はシャステイル、どちらも強者だ。
ジュドは観客席へと向かう。
◇ ◇ ◇
試合開始前、会場は歓声で満ち溢れていた。
しかし、一向に試合が始まらない。
周りを忙しなく走り回るスタッフの声が聞こえてくる。
「バルタザール様は見つかった…!?」
「まだ見つからないわ…!そっちは?」
(…バルタザールが見当たらない?トラブルか?)
次第に観客たちが異変に気付き始めていた。
ステージ上のシャステイルとハインケルもざわつき始めた観客を目にし、トラブルが起こっていることに気付く。
「どうなってんだ!試合を早く始めろ!!!」
「バルタザール様はまだいらっしゃらないの!?」
事態を鎮静化させるためスタッフたちが奔走している。
中央奥の高所席にバルタザールの姿はない。
すると、高所席の奥にあるカーテンから一人のスタッフらしき男がゆっくりと歩いて来る。
観客たちもそれに気付き、視線が彼に注がれた。
―パチッ。
男は指を一回鳴らす。
「!?」
ジュド含め、会場の全員の動きが止まる。
身体が鉄のように固まって動かない。
コツコツと音を立てて歩いて来るその男の顔が日の下に晒された。
「お初にお目にかかります、紳士淑女のみなさま」
男の姿はスタッフからやがて奇術師のような身なりへと変化する。
「おや、ちょうどいいタイミングでカフカ殿の変身が解けましたか…」
後ろに手を回して立つ男は孤を描くように指を動かした。
何かが奥から引きずられてくる。
「あれ、は…」
固まった口を何とか動かす。
宙を浮遊したまま引きずられているそれは青白く変質し、至る所に霜が付着している。
変わり果てた姿のそれは、砂漠の民・族長のバルタザールだった。
身動きが取れない観客たちは衝撃的な光景を前に辺りは静まり返っている。
「安心して下さい。この人数を《硬直拘束》で静止させるのはもっと数時間が限界です。みなさん、直に動けるようになりますよ」
男は周辺を見回す。
「…ふむ。何人か今にも動き出しそうな方たちがいるので手短に用件を済ませましょうか」
バルタザールの席の横に置いてある球体を手にする。
「ほほう。これが…件の遺物、〝万象の宝球〟」
男はコートを靡かせ大衆に告げる。
「これより、みなさまには〝万象の宝球〟の贄となっていただきます」
「この宝球は辺りの魂を吸収し、真価を発揮する。ですが、魂の吸収条件は対象の生命活動の停止させること…」
瞬間、砂塵闘技場の外に数匹の邪悪な気配を感じる。
「今、街に三匹の魔物を放ちました。魔物には《呼び集める的》を込めた〝コア〟を埋め込んでいます。このコアに施した魔術は周囲の魔物の注意を引く効果がある。私自らの能力で範囲を拡大したものなのでこのままでは大量の魔物がこの砂塵の都・マハを襲い、血の海に染まるでしょう…!」
―ドン!!
外の街から絶叫する声が聞こえてきたと同時にステージに何者かが跳躍してくる。
フードで身を隠したその人物は高所席にいる奇術師へ声を荒げる。
「手筈通り、強者をこのステージに集めろ!」
「…まったく、あなたの出番はもう少し後のはずですよ?」
ジュドや四部族の各代表がサークル状の魔術でステージに引っ張り出される。
「大丈夫か…?」
敵に聞こえないくらいの小声でシャステイルがジュドに話しかける。
「俺の拘束はすでに解けている。動けるか?」
シャステイルはすでに自力で敵の拘束を解除していた。
「まだ…思うように動かない…」
喋れるようにはなったが依然として身体の自由は効かないままだ。
「合図をしたら敵へ仕掛ける。地面を三回叩いたら、だ。拘束が解けるまでの時間を稼ぐ、動けるようになったら加勢してくれ」
ジュドは静かに頷く。
一回目の合図。
二回目の合図。敵は合図に気づいていない。
三回目。合図を鳴らしたシャステイルは目前にいるフードの男に攻撃を仕掛ける。
「…!」
男の着ていたローブは繰り出された一撃によってビリビリと裂けていく。
「おっと、拘束が解けていた者がいたとは…」
「……」
頭上で嘲笑する奇術師を睨みつける。
「こいつらの相手は俺だ。邪魔をしたら…貴様も殺す。さっさと自分の使命を全うしろ」
シャステイルの剣を腕で受け止めながら奇術師に忠告した。
「…わかりました。あとは好きにして下さい、こちらはこちらでやることがありますので」
再度指を鳴らすと、ステージを球場で透明な壁が覆った。
防護魔術だ。それもかなりの強度。二重詠唱の能力を持ったルシアでも突破するのは困難なほどだろう。
遺物を手に、奇術師はその場を去って行く。
筋骨隆々の姿が日の下に露わとなり、大男の全貌が明かされた。
どこかで見たことのある顔と身体。この威圧感。
数秒間考えた末に思い出す。この砂塵の都へ来た時、酒場の乱闘で相手を殺害したあの男だ。
斬りかかってきたシャステイルを弾き飛ばした大男は、その勢いで砂塵闘技場の外へと繋がっている出口部分の障壁を粉砕する。
「戦う意志のない者は去れ」
そう一言、その場にいる全員に言葉を放つ。
「誰も残らなければ俺は街を破壊しに外へ出る。俺と戦う意志がある者はここに残れ」
大男は鬼神の如き形相で一行を見る。
「何者だ」
ジュドは大男に問いかけた。
最も恐れていた最悪の名が告げられる。
「邪神教、十二使徒・ウーフェイ」
シャステイルの目からは静かな殺意が漂い、四部族の代表でステージに引きずり出されたナガレ、ララ、そして元々ステージにいたハインケルはその名前を聞いて驚愕する。
「ウーフェイ…!?あなたは武闘祭の覇者、武神と言われたあのウーフェイですか…!?」
ハインケルが声をあげた。
「違うにゃ。だってウーフェイは獣族だにゃ。こいつは人族の成りをしてるじゃにゃい」
獣族の代表選手、ララがそれを否定する。
「…俺は街を守るためにも俺は外に出させてもらうぞ」
ナガレは出口に向かって歩いていく。
「…僕は」
ハインケルが迷いを見せる。
「行ってくれ、ハインケル!」
ジュドは拘束の解けた身体でハインケルの前に立つ。
「俺とシャステイルのことは気にしなくていい。外の…、仲間を助けてやるんだ」
一度は失った仲間。ハインケルには自分と同じ轍を踏んでほしくなかった。
ジュドはそんな彼の背中を押す。
「…ここはお願いします」
兄が信じたジュドを信じ、闘技場を出ることを決める。
「行きますよ…!ララさん!」
「え!!あたしも!?せっかく獣族の強い人と戦えるチャンスにゃのに!!」
ララを引っ張り、出口へと走っていくハインケル。
「さて、残ったのは二人か。会場の観客たちも、もうじき拘束が解け始める」
ウーフェイが爆発的な闘気を開放し、崩れた変身はその姿を人から獣へと変化させる。
「《狂化》」
獣族本来の姿に戻ったウーフェイ。
手加減はなし、正真正銘の全力を解放する。
二メートルを超える巨体が格闘の姿勢を取った。
「戦いに酔いしれようではないか…!」
ジュドは覚悟を決め、武器を握る。
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