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16:帰宅後の身悶え(2)
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あやめは抱き枕を手放して上体を起こした。
散々暴れたせいで乱れた髪がバラバラと落ちて来て視界を縦に遮る。
それを手櫛で整えながらも、思考の暴走は止まらない。
(その前に私が別れを切り出すべきではなかろうか。姫野くんは真面目な人だ、自分から彼女になってくれと言い出した手前、別れを切り出すことに罪悪感を覚えてしまうだろう。人選ミスだったと自覚しても、私に気を遣ってなかなか言い出せないに違いない。うむ、そうだ。ここは私が年上として動くべき! 彼氏彼女として本格的に交流を始める前に、そう、彼の恋愛遍歴に汚点として私の名が刻まれる前に別れるべきだ! まだカップルらしいことを何もしていないいまなら間に合う!)
あやめは決然と立ち上がった。
扉の前に放置されたままの鞄を開け、中から携帯を引っ張り出す。
ホームボタンを押すと、尚からラインのメッセージが届いていた。
『今日は本当にありがとうございました。先輩のおかげでとても楽しい一日になりました。仮とはいえ、先輩がぼくの彼女になってくれるなんて夢のようです。これからよろしくお願いします』
メッセージに続いて、頭を下げるクマのスタンプも送られていた。
「………………。」
尚からのメッセージを見て、おかしな方向に大暴走していた思考回路が停止した。
冷水を浴びせられたような気分になり、落ち着きを取り戻したあやめはすとんとその場に腰を下ろした。
(……愚かしいな。姫野くんはこんなにも誠実に私と向き合おうとしてくれているというのに、私は何を一人で勝手に思い詰めていたんだろう。信じなければ彼に失礼だよな。すまない姫野くん。ついさっきよろしくお願いしますと言っておきながら、舌の根も乾かないうちに別れを切り出し、君を傷つけるところだった)
猛省しながら、あやめは携帯を操作した。
(決めたぞ。私はもう揺らがない。この先何があろうと、姫野くんの彼女役をまっとうしてみせる!)
『こちらこそよろしくお願いします』とメッセージを打ちかけて、消す。
これでは姫野家でのやり取りの繰り返しになるだけだと思い直し、あやめはメッセージの代わりにスタンプを押してみた。
思い切って、ウサギが投げキスをするスタンプを。
(ちょ、ちょっと大胆だっただろうか。ドン引きされたらどうしよう)
送信してすぐに後悔が押し寄せて来た。
スタンプの送信を取り消したくなったが、やり方がわからず、あやめは携帯を床に置いて膝を抱えた。
(やっぱり無難に彼と同じく、丁寧に頭を下げるクマのスタンプを返すべきだったよな? だったよな!? なんでちょっと調子に乗った!? 告白されたからって浮かれすぎじゃないか私!?)
抱えた膝にガンガン頭をぶつける。
(いやでも、生まれて初めて、しかもあんなイケメンに告白されたら浮かれるのは人として当然では? いやでもちょっと待てよ、考えてみれば姫野くんはハッキリ『好き』とは言ってなくないか? でも、私に好意があるとは言ってたし、可愛いって言ってくれたし、それはつまり好きと言われたも同然だよな? でもそこはハッキリ言って欲しかったなーなんて思うのは贅沢か? いややっぱり贅沢だよな、たとえもし姫野くんに好きだと言われても、自分は好きだと即答できないくせに相手には決定的な言葉を求めるなんて、お前は何様なんだという話……って、だからなんで私はこんなことで思い悩んでいるんだ……あああああもう疲れる。ある意味フルマラソンよりしんどいぞこれは……!!)
ジンジンする頭を両手で抱えていると、ラインの着信音が聞こえた。
「!!!」
光の速さで携帯を引っ掴み、確かめてみる。
あやめがさきほど送ったものと全く同じ、ウサギが投げキスをするスタンプが送られてきていた。
(ええええ意外!! 姫野くんが乗ってきた!! 彼にはこういうお茶目な一面もあったのか!!)
つい、噴き出してしまう。
(案外私たち、上手くいったりして……って、『私たち』ってなんだ!? 仮の彼女の分際で調子に乗るな!! しっかりしろ、大事なのはこれからだ!! 彼女役を演じると決めた以上はきちんと頑張らねば……きちんとって何? 頑張るって、何をどう頑張れば良いんだ? ああもう、誰か教えてくれ!!)
結局、あやめはこの日、あれこれ考えすぎて眠れなかった。
散々暴れたせいで乱れた髪がバラバラと落ちて来て視界を縦に遮る。
それを手櫛で整えながらも、思考の暴走は止まらない。
(その前に私が別れを切り出すべきではなかろうか。姫野くんは真面目な人だ、自分から彼女になってくれと言い出した手前、別れを切り出すことに罪悪感を覚えてしまうだろう。人選ミスだったと自覚しても、私に気を遣ってなかなか言い出せないに違いない。うむ、そうだ。ここは私が年上として動くべき! 彼氏彼女として本格的に交流を始める前に、そう、彼の恋愛遍歴に汚点として私の名が刻まれる前に別れるべきだ! まだカップルらしいことを何もしていないいまなら間に合う!)
あやめは決然と立ち上がった。
扉の前に放置されたままの鞄を開け、中から携帯を引っ張り出す。
ホームボタンを押すと、尚からラインのメッセージが届いていた。
『今日は本当にありがとうございました。先輩のおかげでとても楽しい一日になりました。仮とはいえ、先輩がぼくの彼女になってくれるなんて夢のようです。これからよろしくお願いします』
メッセージに続いて、頭を下げるクマのスタンプも送られていた。
「………………。」
尚からのメッセージを見て、おかしな方向に大暴走していた思考回路が停止した。
冷水を浴びせられたような気分になり、落ち着きを取り戻したあやめはすとんとその場に腰を下ろした。
(……愚かしいな。姫野くんはこんなにも誠実に私と向き合おうとしてくれているというのに、私は何を一人で勝手に思い詰めていたんだろう。信じなければ彼に失礼だよな。すまない姫野くん。ついさっきよろしくお願いしますと言っておきながら、舌の根も乾かないうちに別れを切り出し、君を傷つけるところだった)
猛省しながら、あやめは携帯を操作した。
(決めたぞ。私はもう揺らがない。この先何があろうと、姫野くんの彼女役をまっとうしてみせる!)
『こちらこそよろしくお願いします』とメッセージを打ちかけて、消す。
これでは姫野家でのやり取りの繰り返しになるだけだと思い直し、あやめはメッセージの代わりにスタンプを押してみた。
思い切って、ウサギが投げキスをするスタンプを。
(ちょ、ちょっと大胆だっただろうか。ドン引きされたらどうしよう)
送信してすぐに後悔が押し寄せて来た。
スタンプの送信を取り消したくなったが、やり方がわからず、あやめは携帯を床に置いて膝を抱えた。
(やっぱり無難に彼と同じく、丁寧に頭を下げるクマのスタンプを返すべきだったよな? だったよな!? なんでちょっと調子に乗った!? 告白されたからって浮かれすぎじゃないか私!?)
抱えた膝にガンガン頭をぶつける。
(いやでも、生まれて初めて、しかもあんなイケメンに告白されたら浮かれるのは人として当然では? いやでもちょっと待てよ、考えてみれば姫野くんはハッキリ『好き』とは言ってなくないか? でも、私に好意があるとは言ってたし、可愛いって言ってくれたし、それはつまり好きと言われたも同然だよな? でもそこはハッキリ言って欲しかったなーなんて思うのは贅沢か? いややっぱり贅沢だよな、たとえもし姫野くんに好きだと言われても、自分は好きだと即答できないくせに相手には決定的な言葉を求めるなんて、お前は何様なんだという話……って、だからなんで私はこんなことで思い悩んでいるんだ……あああああもう疲れる。ある意味フルマラソンよりしんどいぞこれは……!!)
ジンジンする頭を両手で抱えていると、ラインの着信音が聞こえた。
「!!!」
光の速さで携帯を引っ掴み、確かめてみる。
あやめがさきほど送ったものと全く同じ、ウサギが投げキスをするスタンプが送られてきていた。
(ええええ意外!! 姫野くんが乗ってきた!! 彼にはこういうお茶目な一面もあったのか!!)
つい、噴き出してしまう。
(案外私たち、上手くいったりして……って、『私たち』ってなんだ!? 仮の彼女の分際で調子に乗るな!! しっかりしろ、大事なのはこれからだ!! 彼女役を演じると決めた以上はきちんと頑張らねば……きちんとって何? 頑張るって、何をどう頑張れば良いんだ? ああもう、誰か教えてくれ!!)
結局、あやめはこの日、あれこれ考えすぎて眠れなかった。
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