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99:死者の伝言(1)
「昨日は私たちの帰りが気になって眠れなかったのでしょう? 有事に備え、着くまで仮眠を取っておきなさい」
アマーリエのアドバイスを受け、新菜はフィーネと掛布を共有し、しばらく眠っていた。
馬車の上部には結界維持装置があり、後方の馬車には頼もしい護衛が乗っているため、魔物に襲われる心配はせずに済んだ。
ふと目を覚ますと窓の外はまだ暗く、アマーリエやフィーネは瞼を閉じていた。
壁にもたれかかったフィーネの頭の猫耳を見て、連想するのは侯爵邸に残したトウカ。
まだ彼は昨日起きたことを知らず、幸せな夢の中だろう。
自分が拾って来た猫が実は敵のスパイで、ハクアが攫われたと知れば、どれほどショックを受けることか。
でも、ハクアを救出した後に真実を明かすならば、まだショックは少なくて済む。和解の機会だって生まれる。
(トウカのためにも絶対にハクアさんを助けなきゃ)
意を固めていると、何の前触れもなくフィーネの瞼が開いた。
目が合う。
フィーネは咎められたように身を縮め、目を伏せた。
後悔と自責の念に駆られているらしく、この子はいつもびくびくしている。
出会ったばかりのトウカのようだ。
「……そんなに怯えなくてもいいよ。もう怒ってないから」
気づけばそう言っていた。
ハクアはフィーネを許したという。
傷つけられた当人がそう言うのなら、新菜がどうこう言う筋合いはない。
「……ごめんなさい、です」
蚊の鳴くような声でフィーネは言った。
面と向かって直接謝られるのは初めてだ。
「うん」
新菜は頷いた。
フィーネとのわだかまりは、それで終わりだった。
感情はどうあれ、終わりにするべきだった。
窓の外を見る。
窓は濡れていくつも滴が垂れているが、雨は止んでいた。
東の空が少し明るい。もうすぐ夜明けだ。
馬車は平原を抜けて森の街道を走っていた。
辺りには鬱蒼と茂る木々が立ち並び、遠くになだらかな稜線が見え――
(――ん?)
近くから遠くへと視線を移動しかけた新菜は、気になる現象を目撃し、急いで目を戻した。
左手に乱立する木々。
そのうちの一本の木の下に、白い何かがいる。
ぼんやりと白く光る、長細い発光体のような――あれは。
新菜は目を見開き、跳ねるように立ち上がった。
アマーリエの隣に膝をつき、御者台に繋がる小窓を開けて叫ぶ。
アマーリエのアドバイスを受け、新菜はフィーネと掛布を共有し、しばらく眠っていた。
馬車の上部には結界維持装置があり、後方の馬車には頼もしい護衛が乗っているため、魔物に襲われる心配はせずに済んだ。
ふと目を覚ますと窓の外はまだ暗く、アマーリエやフィーネは瞼を閉じていた。
壁にもたれかかったフィーネの頭の猫耳を見て、連想するのは侯爵邸に残したトウカ。
まだ彼は昨日起きたことを知らず、幸せな夢の中だろう。
自分が拾って来た猫が実は敵のスパイで、ハクアが攫われたと知れば、どれほどショックを受けることか。
でも、ハクアを救出した後に真実を明かすならば、まだショックは少なくて済む。和解の機会だって生まれる。
(トウカのためにも絶対にハクアさんを助けなきゃ)
意を固めていると、何の前触れもなくフィーネの瞼が開いた。
目が合う。
フィーネは咎められたように身を縮め、目を伏せた。
後悔と自責の念に駆られているらしく、この子はいつもびくびくしている。
出会ったばかりのトウカのようだ。
「……そんなに怯えなくてもいいよ。もう怒ってないから」
気づけばそう言っていた。
ハクアはフィーネを許したという。
傷つけられた当人がそう言うのなら、新菜がどうこう言う筋合いはない。
「……ごめんなさい、です」
蚊の鳴くような声でフィーネは言った。
面と向かって直接謝られるのは初めてだ。
「うん」
新菜は頷いた。
フィーネとのわだかまりは、それで終わりだった。
感情はどうあれ、終わりにするべきだった。
窓の外を見る。
窓は濡れていくつも滴が垂れているが、雨は止んでいた。
東の空が少し明るい。もうすぐ夜明けだ。
馬車は平原を抜けて森の街道を走っていた。
辺りには鬱蒼と茂る木々が立ち並び、遠くになだらかな稜線が見え――
(――ん?)
近くから遠くへと視線を移動しかけた新菜は、気になる現象を目撃し、急いで目を戻した。
左手に乱立する木々。
そのうちの一本の木の下に、白い何かがいる。
ぼんやりと白く光る、長細い発光体のような――あれは。
新菜は目を見開き、跳ねるように立ち上がった。
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