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15:ひとつ屋根の下で(1)
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運動会から一か月後。
本格的に暑くなってきた七月の上旬。
「おお……」「わあ……」
私と千聖くんは感動に打ち震えていた。
私たちがいるのは十階建ての時坂マンションの一階、エレベーターの前。
「「エレベーターがある!!」」
私と千聖くんは後ろに立っている皆を振り返り、同時に叫んだ。
「十階建てのマンションだからね。この高さになると設置義務があるからね」
麻弥さんの傍に立ち、ジロさんが入ったキャリーケースを抱えてお父さんは苦笑している。
「もう重い荷物を抱えて階段を上り下りしなくていいんだな……」
「こんにちは文明……」
私はエレベーターの階数表示ボタンに頬擦りをするフリをした。
「私たちの部屋は五階だって言ったでしょう? さすがに階段がないと辛いわ」
「三階でも大変だったもんね」
言い合っているうちに、エレベーターが一階に着いた。
五人で乗り込むと、エレベーターも少々狭く感じる。
エレベーターの後ろには鏡があった。
「なんで鏡がついてるんだろ? 移動時間を利用して、身だしなみを整えるため?」
「防犯とか?」
「車いすの利用者をサポートするためについているんだよ。自分がいま車いすに乗っていると考えてごらん。乗り込むときは問題なく正面から乗り込めるだろうけど、狭いエレベーターの中じゃ方向転換はできないだろう?」
穏やかな声でお父さんが言う。
「うん」
私はエレベーターを見回して頷いた。
この狭さじゃ、方向転換するのは確かに難しい。
「だからね。後ろを確認しながら下りられるように鏡がついてるんだ」
「車のバックミラーみたいな感じですか?」
「そう、そんな感じ。千聖くんは理解が早いね」
「知りませんでした。誠二さんは物知りなんですね」
麻弥さんは感心したように言った。
「いやいや、そんな。聞きかじった話ですよ」
「誠二さんさあ。母さんもだけど。そろそろお互いに敬語使うの止めたらどうですか? お試しとはいえ、これから家族として一緒に暮らすっていうのに、敬語を使うのはおかしくありません?」
千聖くんがそう言うと、お父さんと麻弥さんは上昇するエレベーターの中で顔を見合わせた。
それから、二人して照れくさそうに笑う。
「そうね、そうしましょう。これから敬語は禁止ってことで」
「うん。そうだね。麻弥さん。千聖くんも敬語は止めてくれると嬉しいな」
「……」
自分のことを言われるとは思わなかったのか、千聖くんは目をぱちくりした。
「ああ、はい。じゃない。うん。わかった」
「敬語はなし。それが私たちの最初のルールね」
麻弥さんが微笑んだ直後、エレベーターの上昇が止まって、扉が開いた。
本格的に暑くなってきた七月の上旬。
「おお……」「わあ……」
私と千聖くんは感動に打ち震えていた。
私たちがいるのは十階建ての時坂マンションの一階、エレベーターの前。
「「エレベーターがある!!」」
私と千聖くんは後ろに立っている皆を振り返り、同時に叫んだ。
「十階建てのマンションだからね。この高さになると設置義務があるからね」
麻弥さんの傍に立ち、ジロさんが入ったキャリーケースを抱えてお父さんは苦笑している。
「もう重い荷物を抱えて階段を上り下りしなくていいんだな……」
「こんにちは文明……」
私はエレベーターの階数表示ボタンに頬擦りをするフリをした。
「私たちの部屋は五階だって言ったでしょう? さすがに階段がないと辛いわ」
「三階でも大変だったもんね」
言い合っているうちに、エレベーターが一階に着いた。
五人で乗り込むと、エレベーターも少々狭く感じる。
エレベーターの後ろには鏡があった。
「なんで鏡がついてるんだろ? 移動時間を利用して、身だしなみを整えるため?」
「防犯とか?」
「車いすの利用者をサポートするためについているんだよ。自分がいま車いすに乗っていると考えてごらん。乗り込むときは問題なく正面から乗り込めるだろうけど、狭いエレベーターの中じゃ方向転換はできないだろう?」
穏やかな声でお父さんが言う。
「うん」
私はエレベーターを見回して頷いた。
この狭さじゃ、方向転換するのは確かに難しい。
「だからね。後ろを確認しながら下りられるように鏡がついてるんだ」
「車のバックミラーみたいな感じですか?」
「そう、そんな感じ。千聖くんは理解が早いね」
「知りませんでした。誠二さんは物知りなんですね」
麻弥さんは感心したように言った。
「いやいや、そんな。聞きかじった話ですよ」
「誠二さんさあ。母さんもだけど。そろそろお互いに敬語使うの止めたらどうですか? お試しとはいえ、これから家族として一緒に暮らすっていうのに、敬語を使うのはおかしくありません?」
千聖くんがそう言うと、お父さんと麻弥さんは上昇するエレベーターの中で顔を見合わせた。
それから、二人して照れくさそうに笑う。
「そうね、そうしましょう。これから敬語は禁止ってことで」
「うん。そうだね。麻弥さん。千聖くんも敬語は止めてくれると嬉しいな」
「……」
自分のことを言われるとは思わなかったのか、千聖くんは目をぱちくりした。
「ああ、はい。じゃない。うん。わかった」
「敬語はなし。それが私たちの最初のルールね」
麻弥さんが微笑んだ直後、エレベーターの上昇が止まって、扉が開いた。
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