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79:その優しさはわかりにくいけれど
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「エミリオ。無茶言うなよ。初対面の相手を信頼するなんて無理だって、お前もわかってるんだろ? ウィンディアを困らせるな」
「うるさい。フィルは黙ってて」
エミリオ様はピシャリと言ってフィルディス様を黙らせ、改めてウィンディアに向き直った。
「信頼なんてなくたって真名があれば契約はできるでしょう? つべこべ言わずにとっとと教えろ」
笑顔で命令した!?
『むう。無礼な……』
『しかし精霊が先に無礼を働いたわけですし……』
『先に、というなら、最初にウィンディアを呪ったのはハルンでしょう。悪いのは人間なのでは……』
『だがそれはエミリオには関係ない話だろう。奴は他国から来た人間だと聞いたぞ』
『……どうします?』
大精霊たちがヒソヒソ相談し合った結果、エミリオ様はウィンディアの新たな契約者となった。
「はっはっは。これでハルンの元・契約相手はぼくのもの。後でハルンがいる牢屋に行って『ねえいまどんな気持ちー?』って言ってやろ」
契約を交わすために少し離れた場所に行っていたエミリオ様はウィンディアを引き連れて戻ってきた。
『精霊眼』を外したその顔には一片の曇りもない、それはそれは晴れやかな笑みが浮かんでいる。
対して、ウィンディアはこの世の終わりのような顔で俯いていた。
『また人間に支配されるのか……』という心の嘆きが聞こえてくるようだった。
『ごめんなさい。私のせいで』
白い精霊はウィンディアの傍でおいおい泣いている。
『いいのですよ、全ては私のためにしてくれたことなのですから』
ウィンディアは諦めたように笑って白い精霊の頭を撫でた。
「お前、時々ものすごく性格悪いよな……」
げんなりしたような顔でフィルディス様が言う。
「そりゃ、元を辿れば全部あのおじさんが悪いわけだし。王子と王女の前で醜態を晒す羽目になったぼくの気持ちを考えてみてよ。白精霊が無知な幼子だったから良かったものの、もし魔法の知識を持ってたら、ぼくは知らない間にフィルたちを殺してたかもしれないんだよ? ごめんなさいの一言で片づけられて堪るか」
エミリオ様は笑顔で毒を吐いた。
『……本当にすみません。全ては私がハルンに支配されたせいなのです。ルギスも私の解放を条件に真名を明かし、ハルンの呪術に囚われてしまいました……私とルギスの命を盾にされては、アクシスもロットも何もできず……ただハルンに従うしかなく……』
ウィンディアはますます深く項垂れた。
白い精霊も彼女の傍で項垂れている。
「もういいよ。ウィンディアはぼくと契約を交わしてくれた。最大限の誠意を見せてくれた以上、ウィンディアも白精霊も許す。これからはぼくがウィンディアの主だ。もう二度とハルンみたいなアホにつけこまれないように、ぼくがしっかり守らないとね」
『……。守ってくださるつもりで契約されたのですか?』
ウィンディアは元々大きな目をさらに大きくした。
白い精霊もびっくりしたような顔でエミリオ様を見つめている。
「なんで意外そうな顔をするんだよ。ハルンみたいに支配するつもりなんかないよ。行動を制限するつもりもない。好きなように生きればいいさ」
エミリオ様は肩を竦めて歩いて行った。
浮遊島で遊ぶ精霊たちの前で止まり、興味深そうに観察している。
『……もしかして、彼は実は良い人だったりしますか?』
『俺も気になる。弱みにつけ込んでウィンディアを支配しようとする暴君じゃなかったのか?』
ウィンディアと、やりとりを見ていたルギスが小声で尋ねてきた。
『ボークンってなに?』と、白い精霊は首を捻っている。
「はい。わかりにくいですが、本当はとても優しい方ですよ。さきほど憎まれ役を演じたのは白精霊の罪悪感を軽減するためだと思います」
半分は本気だったかもしれないけど、それは言わないでおこう。
実際に精霊を傷つけるようなことはしなかった、その行動こそが全てだ。
「きっと有事の際は全力でウィンディア様を守ってくださいます。ご安心ください」
それは自信を持って言えるため、私は微笑んだ。
「うるさい。フィルは黙ってて」
エミリオ様はピシャリと言ってフィルディス様を黙らせ、改めてウィンディアに向き直った。
「信頼なんてなくたって真名があれば契約はできるでしょう? つべこべ言わずにとっとと教えろ」
笑顔で命令した!?
『むう。無礼な……』
『しかし精霊が先に無礼を働いたわけですし……』
『先に、というなら、最初にウィンディアを呪ったのはハルンでしょう。悪いのは人間なのでは……』
『だがそれはエミリオには関係ない話だろう。奴は他国から来た人間だと聞いたぞ』
『……どうします?』
大精霊たちがヒソヒソ相談し合った結果、エミリオ様はウィンディアの新たな契約者となった。
「はっはっは。これでハルンの元・契約相手はぼくのもの。後でハルンがいる牢屋に行って『ねえいまどんな気持ちー?』って言ってやろ」
契約を交わすために少し離れた場所に行っていたエミリオ様はウィンディアを引き連れて戻ってきた。
『精霊眼』を外したその顔には一片の曇りもない、それはそれは晴れやかな笑みが浮かんでいる。
対して、ウィンディアはこの世の終わりのような顔で俯いていた。
『また人間に支配されるのか……』という心の嘆きが聞こえてくるようだった。
『ごめんなさい。私のせいで』
白い精霊はウィンディアの傍でおいおい泣いている。
『いいのですよ、全ては私のためにしてくれたことなのですから』
ウィンディアは諦めたように笑って白い精霊の頭を撫でた。
「お前、時々ものすごく性格悪いよな……」
げんなりしたような顔でフィルディス様が言う。
「そりゃ、元を辿れば全部あのおじさんが悪いわけだし。王子と王女の前で醜態を晒す羽目になったぼくの気持ちを考えてみてよ。白精霊が無知な幼子だったから良かったものの、もし魔法の知識を持ってたら、ぼくは知らない間にフィルたちを殺してたかもしれないんだよ? ごめんなさいの一言で片づけられて堪るか」
エミリオ様は笑顔で毒を吐いた。
『……本当にすみません。全ては私がハルンに支配されたせいなのです。ルギスも私の解放を条件に真名を明かし、ハルンの呪術に囚われてしまいました……私とルギスの命を盾にされては、アクシスもロットも何もできず……ただハルンに従うしかなく……』
ウィンディアはますます深く項垂れた。
白い精霊も彼女の傍で項垂れている。
「もういいよ。ウィンディアはぼくと契約を交わしてくれた。最大限の誠意を見せてくれた以上、ウィンディアも白精霊も許す。これからはぼくがウィンディアの主だ。もう二度とハルンみたいなアホにつけこまれないように、ぼくがしっかり守らないとね」
『……。守ってくださるつもりで契約されたのですか?』
ウィンディアは元々大きな目をさらに大きくした。
白い精霊もびっくりしたような顔でエミリオ様を見つめている。
「なんで意外そうな顔をするんだよ。ハルンみたいに支配するつもりなんかないよ。行動を制限するつもりもない。好きなように生きればいいさ」
エミリオ様は肩を竦めて歩いて行った。
浮遊島で遊ぶ精霊たちの前で止まり、興味深そうに観察している。
『……もしかして、彼は実は良い人だったりしますか?』
『俺も気になる。弱みにつけ込んでウィンディアを支配しようとする暴君じゃなかったのか?』
ウィンディアと、やりとりを見ていたルギスが小声で尋ねてきた。
『ボークンってなに?』と、白い精霊は首を捻っている。
「はい。わかりにくいですが、本当はとても優しい方ですよ。さきほど憎まれ役を演じたのは白精霊の罪悪感を軽減するためだと思います」
半分は本気だったかもしれないけど、それは言わないでおこう。
実際に精霊を傷つけるようなことはしなかった、その行動こそが全てだ。
「きっと有事の際は全力でウィンディア様を守ってくださいます。ご安心ください」
それは自信を持って言えるため、私は微笑んだ。
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