【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

星名柚花

文字の大きさ
46 / 66

46:メルトリンデとの対話(2)

しおりを挟む
「ああ。駐屯場所も確保できそうだ」
 紅茶片手に、シャノンが頷いた。

「良かった……あら? シャノン、目の下にクマができてるわ。眠れないほど仕事が忙しいの? 大丈夫?」
 心配になり、私は持っていたティーカップをソーサーに置いた。

「大丈夫。明後日の夏祭りまでには意地でも片付けるよ」
「……無理はしないでね?」
「ああ。体調管理には気を付ける。そういうアンジェリカも、ここしばらく働きづめだっただろう。ちゃんと休めよ」
 明日のモートンさんとの会談に向けて、私はシャノンと一緒に関係各所を駆けずり回っていた。

「ええ、そうするわ」
 私たちが話している間に、メルトリンデはケーキを食べきった。
 彼女が紅茶を飲み始み始めたタイミングで、私は切り出した。

「ねえ、メルトリンデ。あなたに一つだけ言っておきたいことがあるの」
「……何?」
 メルトリンデは眉をひそめ、少しだけ身を引いた。
 でも、身構える必要はないのだと、いい加減わかってほしい。
 私はメルトリンデを害するつもりなど、これっぽっちもないのだから。

「百年前、人間が放った炎によってロードリンデさんや多くの亜人たちが亡くなったことはどうしようもない事実よ。私は神様じゃないから、どんなに願っても時を戻すことはできない。でも、過去は変えられなくても、未来なら変えられる」
 私はアメジストの瞳を見つめながら、はっきりと言葉を紡いだ。

「もしもまた百年前と同じようなことが起こりそうになったら。私は絶対に止める。誰ひとり傷つけさせない、そのために全力を尽くすわ。それだけは、信じてほしいの」
 メルトリンデは目を見張った。

「亜人を虐げる人間に対しても、私は目をつむらない。大切な人を傷つける人は、たとえ誰であろうと許さない。有事の際は、あなたと共に戦わせて。私は人間だけど、亜人の側に立って戦うことを許してほしいの」
「……なんであたしに許可を求めるのよ。四大精霊を従えるあんたは何だってできるでしょう。その気になればエレギアを地上から消し去ることだってできるくせに」
「そんなこと、絶対にしないわ」
 その気になればエレギアを消し去ることだってできる――メルトリンデの台詞は誇張でも何でもない。
 四大精霊には、たった一体だけでそれを可能とするほどの絶大な力がある。
 けれど。

「それができる力があるからって、する理由にはならない。精霊たちは私を信じて力を貸してくれている。彼らに失望されるような情けない人間にはなりたくないの」
「メルト」
 どういえば伝わるのだろうと悩んでいたそのとき、シャノンが横から口を挟んだ。

「この一か月、アンジェリカが献身的に亜人に尽くしてきたのはメルトも知ってるだろう。アンジェリカは言葉だけじゃなく、実際の行動で人間性を示した。それでもメルトはアンジェリカを信じられないのか? そのケーキは美味しいと、毒なんて入っていないと、メルト自身が認めたじゃないか」
「…………」
「力で屈服させるつもりなら最初からそうすればいいのに、なんでアンジェリカはそうしないんだと思う? 人間嫌いの亜人に罵倒されても暴言や暴力で返すことなく、真正面から真摯に向き合って、友好関係を築く努力をしているんだと思う?」

 シャノンの目は真剣そのものだった。
 私の周りにいる精霊たちも、息をひそめて成り行きを見守っている。

「…………ああ、もう……わかった、わかったわよ」
 メルトリンデは空になった皿を見下ろし、小さく吐息した。

「あたしの負けよ。疑うのはもう終わりにする。あんたを信じるわ」
「本当に!?」
「ええ。もうとっくにわかってたのよ。あんたは悪い奴じゃないって。神殿に来る亜人たちからは、毎日のようにあんたの話を聞かされるし。精霊たちは『アンジェリカを信じろ』ってしつこく言ってくるし。監視役につけた精霊まで言い出すんだもの、参っちゃうわよ」
「え」
 メルトリンデが監視をつけていたなんて知らなかった。
 なにしろ私の周りにはたくさんの精霊がいる。
 精霊は気まぐれに寄ってきたり離れたりするため、いつも傍にいる馴染みの精霊以外はいちいち覚えていられないのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

【完結】追放された私、宮廷楽師になったら最強騎士に溺愛されました

er
恋愛
両親を亡くし、叔父に引き取られたクレアは、義妹ペトラに全てを奪われ虐げられていた。 宮廷楽師選考会への出場も拒まれ、老商人との結婚を強要される。 絶望の中、クレアは母から受け継いだ「音花の恵み」——音楽を物質化する力——を使い、家を飛び出す。 近衛騎士団隊長アーロンに助けられ、彼の助けもあり選考会に参加。首席合格を果たし、叔父と義妹を見返す。クレアは王室専属楽師として、アーロンと共に新たな人生を歩み始める。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

偽聖女の汚名を着せられ婚約破棄された元聖女ですが、『結界魔法』がことのほか便利なので魔獣の森でもふもふスローライフ始めます!

南田 此仁@書籍発売中
恋愛
「システィーナ、今この場をもっておまえとの婚約を破棄する!」  パーティー会場で高らかに上がった声は、数瞬前まで婚約者だった王太子のもの。  王太子は続けて言う。  システィーナの妹こそが本物の聖女であり、システィーナは聖女を騙った罪人であると。  突然婚約者と聖女の肩書きを失ったシスティーナは、国外追放を言い渡されて故郷をも失うこととなった。  馬車も従者もなく、ただ一人自分を信じてついてきてくれた護衛騎士のダーナンとともに馬に乗って城を出る。  目指すは西の隣国。  八日間の旅を経て、国境の門を出た。しかし国外に出てもなお、見届け人たちは後をついてくる。  魔獣の森を迂回しようと進路を変えた瞬間。ついに彼らは剣を手に、こちらへと向かってきた。 「まずいな、このままじゃ追いつかれる……!」  多勢に無勢。  窮地のシスティーナは叫ぶ。 「魔獣の森に入って! 私の考えが正しければ、たぶん大丈夫だから!」 ■この三連休で完結します。14000文字程度の短編です。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

殿下、私の身体だけが目当てなんですね!

石河 翠
恋愛
「片付け」の加護を持つ聖女アンネマリーは、出来損ないの聖女として蔑まれつつ、毎日楽しく過ごしている。「治癒」「結界」「武運」など、利益の大きい加護持ちの聖女たちに辛く当たられたところで、一切気にしていない。 それどころか彼女は毎日嬉々として、王太子にファンサを求める始末。王太子にポンコツ扱いされても、王太子と会話を交わせるだけでアンネマリーは満足なのだ。そんなある日、お城でアンネマリー以外の聖女たちが決闘騒ぎを引き起こして……。 ちゃらんぽらんで何も考えていないように見えて、実は意外と真面目なヒロインと、おバカな言動と行動に頭を痛めているはずなのに、どうしてもヒロインから目を離すことができないヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID29505542)をお借りしております。

婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。 それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。 黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。 叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。 ですが、私は知らなかった。 黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。 残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗 「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ! あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。 断罪劇? いや、珍喜劇だね。 魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。 留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。 私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で? 治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな? 聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。 我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし? 面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。 訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結まで予約投稿済み R15は念の為・・

処理中です...