【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

星名柚花

文字の大きさ
60 / 66

60:悪の商会が潰れたようです

しおりを挟む
 ――大事な話がある。
 遠距離通話を可能とする魔導具『通話水晶』を通してモートンさんがそう言ったのは、二十日後のことだった。
 シャノンを呼んでほしいと言われた私は、すぐさまシャノンの執務室へ飛んだ。

 書類仕事をしていたシャノンは執務を放り出し、私の手を引いて廊下を爆走した。
 洗濯籠を抱えた侍女や箒を手にした侍従たちが目を剥いているが、シャノンは全てを無視して『通話水晶』のある部屋に飛び込んだ。

 テーブルに置いてある『通話水晶』は、表面に複雑な紋様が刻まれた立方体の箱だ。
 受信があれば、光と音と振動でそれを伝える。
 再びモートンさんから通話が入ったらしく、『通話水晶』の紋様は光り輝き、身を震わせながら軽快な音楽を奏でていた。

「おれだ! シャノンだ!」
『通話水晶』を奪うように手に取り、シャノンが早口で言った。

『ああ、こんにちは、王子。モートンです。アンジェリカちゃんもそこにいますか?』
 聞こえてくる声に合わせて、『通話水晶』の紋様が光っている。

「はいっ……います」
 結構な距離を走って来たため、私は呼吸を荒らげながら答えた。
 この部屋には椅子も置いてあるけれど、とても座る気になれない。
 それより何より『大事な話』とやらが気になり、私はシャノンとほとんどくっつくような形で、『通話水晶』から聞こえるモートンさんの声に耳を傾けた。

『朗報です。王命により、グラフト商会に対し強制執行が行われました』
「……つまり」
 シャノンが息を呑んだ。

『はい。事実上、グラフト商会は潰れました』
 私とシャノンは無言で顔を見合わせて。

「「やっっ、たあ――――!!!」」
 子どものように大はしゃぎしながら抱き合い、快哉を叫んだ。

『いやあ、ここに至るまで本当に大変だったんですよ。改革派貴族たちと密会して、精霊と一緒に裏帳簿や不正取引の証拠を集めたんです。グラフト商会も慎重だから、精霊の力借りても裏帳簿を引っこ抜くのに三日かかりました――』 
「ああ、本当に良かった! これで苦しむ亜人も減るわよね!」
 喜びに浮かれた私は、モートンさんの声を遠くに聞きながら、シャノンの腕の中で満面の笑みを浮かべた。

「間違いない。グラフト商会はミグロム最大の亜人奴隷売買組織だからな。グラフト商会の背後には、多くの権力者や腐敗した政治家がいる。商会の崩壊は奴らの権力構造を大きく揺るがしたはずだ。うまくいけば内部抗争が始まるかもしれない」 
「だとしたら嬉しいわ。この際、みんなまとめて潰れてほしい」
 自分でも過激な発言だと理解しているけれど、亜人を人間扱いしない人たちにかける情けなんてない。

『――それから告発文書ね。これもまた厄介で。市民からの自発的な告発って形を整えるのが大変で――』 
「ああ、でも、商会の崩壊によって生じた空白を狙って、新たな亜人奴隷売買組織が台頭したりしないかしら」
 ハッとして、私は唇に手を当てた。

「それは困るわ。グラフト商会を潰した意味がなくなってしまう」
「そうだな。だが、逆に、グラフト商会の崩壊をきっかけに、権力者が本格的に亜人奴隷解放の法案を通す動きが加速する可能性もある」
「なら、私たちでその流れを作りましょう。亜人が鎖に繋がれる未来なんて見たくないもの」
 私たちは真剣に話し合った。

『――で、証拠も告発も揃えて、いざ査察ってなったら、グラフト側も当然抵抗するわけですよ。裏から手を回して役人抱き込もうとしたり、証拠隠滅を図ったり……って、ねえ。オレの話、聞いてます?』 
 そこでようやく、私の脳細胞にモートンさんの声が届いた。

「ああ、ごめんなさい。モートンさん。頑張ってくれて、本当にありがとうございました」
『うわあ、適当……二十日間に及ぶおじさんと精霊たちの奮闘記、絶対聞いてなかったでしょ』
 モートンさんの声には、呆れと疲労が滲んでいる。

「すみません」
 私は素直に謝った。

「すまないモートン。おれも全然聞いてなかったが、とにかくありがとう。本当に助かった」
『……王子は素直ですね。まあいいです、浮かれる気持ちもわかりますから。でも、ただ喜んでばかりもいられませんよ。グラフトが潰れたことにより、行き場を失った亜人たちがいるんです。王子は本気で彼らを引き取る気なんですか?』
「ああ。居住区はできた。あとは議会の承認を得るだけ……そこが一番難しいところだが、必ず認めさせてみせる」

 この一か月の間に、私たちは精霊や他の亜人たちの協力を得て、犬族と狸族の村の間に新しい居住区を築いていた。
 犬族と狸族は、亜人の中でも比較的温厚な種族だ。
 国の外部からやってきた者たちとも上手くやっていけるはずだと、私たちは信じている。

「たとえ生まれや育ちが違っても、亜人はおれの同胞だ。全ての亜人を救うのは夢物語だとわかってる。でも……それでも、おれはエレギアに生まれた王子として、出来る限りを救いたい。困ってる亜人を見捨てることなんてできない」
『……王子の覚悟に敬意を表します。それと、もう一つお伝えしたいことがあります。グラフトが潰れたことでルベリオ王子がシャノン王子に強い関心を示されました。お会いしたいと仰っています』

「!!」
 私とシャノンは再び顔を見合わせた。

 ルベリオ王子――ミグロムの政権中枢に名を連ねる、改革派の中心人物。 
 彼と直接話ができるなら、情勢は大きく動く。
 いや、動かさねばならない。なんとしても!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

【完結】追放された私、宮廷楽師になったら最強騎士に溺愛されました

er
恋愛
両親を亡くし、叔父に引き取られたクレアは、義妹ペトラに全てを奪われ虐げられていた。 宮廷楽師選考会への出場も拒まれ、老商人との結婚を強要される。 絶望の中、クレアは母から受け継いだ「音花の恵み」——音楽を物質化する力——を使い、家を飛び出す。 近衛騎士団隊長アーロンに助けられ、彼の助けもあり選考会に参加。首席合格を果たし、叔父と義妹を見返す。クレアは王室専属楽師として、アーロンと共に新たな人生を歩み始める。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

偽聖女の汚名を着せられ婚約破棄された元聖女ですが、『結界魔法』がことのほか便利なので魔獣の森でもふもふスローライフ始めます!

南田 此仁@書籍発売中
恋愛
「システィーナ、今この場をもっておまえとの婚約を破棄する!」  パーティー会場で高らかに上がった声は、数瞬前まで婚約者だった王太子のもの。  王太子は続けて言う。  システィーナの妹こそが本物の聖女であり、システィーナは聖女を騙った罪人であると。  突然婚約者と聖女の肩書きを失ったシスティーナは、国外追放を言い渡されて故郷をも失うこととなった。  馬車も従者もなく、ただ一人自分を信じてついてきてくれた護衛騎士のダーナンとともに馬に乗って城を出る。  目指すは西の隣国。  八日間の旅を経て、国境の門を出た。しかし国外に出てもなお、見届け人たちは後をついてくる。  魔獣の森を迂回しようと進路を変えた瞬間。ついに彼らは剣を手に、こちらへと向かってきた。 「まずいな、このままじゃ追いつかれる……!」  多勢に無勢。  窮地のシスティーナは叫ぶ。 「魔獣の森に入って! 私の考えが正しければ、たぶん大丈夫だから!」 ■この三連休で完結します。14000文字程度の短編です。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

殿下、私の身体だけが目当てなんですね!

石河 翠
恋愛
「片付け」の加護を持つ聖女アンネマリーは、出来損ないの聖女として蔑まれつつ、毎日楽しく過ごしている。「治癒」「結界」「武運」など、利益の大きい加護持ちの聖女たちに辛く当たられたところで、一切気にしていない。 それどころか彼女は毎日嬉々として、王太子にファンサを求める始末。王太子にポンコツ扱いされても、王太子と会話を交わせるだけでアンネマリーは満足なのだ。そんなある日、お城でアンネマリー以外の聖女たちが決闘騒ぎを引き起こして……。 ちゃらんぽらんで何も考えていないように見えて、実は意外と真面目なヒロインと、おバカな言動と行動に頭を痛めているはずなのに、どうしてもヒロインから目を離すことができないヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID29505542)をお借りしております。

婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。 それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。 黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。 叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。 ですが、私は知らなかった。 黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。 残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗 「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ! あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。 断罪劇? いや、珍喜劇だね。 魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。 留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。 私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で? 治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな? 聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。 我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし? 面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。 訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結まで予約投稿済み R15は念の為・・

処理中です...