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05:雨降って地固まる?
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「そんなの悪いよ。もっと他に――」
「被害者がいいって言ってるんだからいいんだよ。しつこい」
「………………」
そう言われては黙るしかなく、私は申し訳なさを抱えたまま言葉を飲み込んだ。
しばらくの沈黙。
雨の音が聞こえる。
保健の先生が棚の整理でもしているのか、部屋を仕切ったカーテンの向こうでカチャカチャという音がする。
俯いて、何を言おうか迷っていると、拓馬が口を開いた。
「……考えてみれば」
「?」
私は顔を上げ、拓馬の言葉に耳を傾けた。
「野々原とまともに話すのって初めてだな。アパートでも何度か顔を合わせたりしてるのに」
「……うん。そうだね」
これまでは一方的にあなたに避けられてきましたから、などという余計なことは言わずにおく。
「悪かったな」
「えっ」
まさか謝罪されるとは思わず、私は目をぱちくりさせた。
「いや、なんていうか。野々原って、馬鹿正直だし。これまでの対応を見る限り、悪い奴じゃなさそうだなと思って」
気まずさをごまかすように、拓馬は頬を掻いた。
「おれさ。他人が作った飲食物って苦手なんだ。何入ってるかわからねえし」
「何か入ってたことあるの?」
尋ねると、拓馬は口をへの字に曲げてから手を下ろした。
「……おれって格好良いだろ?」
「うん。モテそう」
というか、現在進行形でモテている。
「モテたよ。幼稚園児の頃からモテた。女子からは色々もらった。で、小学生のとき、バレンタインデーにもらったチョコに髪の毛が入ってた」
「うえ……」
想像して、私は呻いた。
「その半年後には、女子からもらったジュースで腹を壊した。ネットで見た惚れ薬だかなんだかを調合して混ぜたらしい。凄い味だった。ザラザラした謎の粒みたいなのも入ってたし、あれはもはや劇薬だったな。丸一日寝込む羽目になった。あのときのことは思い出したくない」
拓馬は苦虫でも噛み潰したような顔をした。
「うわあ……」
手料理が苦手になるわけだ……。
そういえば乃亜が初めて拓馬に差し入れをしたとき、微妙な反応をしていたような気がする。
あれはそういう過去があったからなんだ。
「だから、他人の、特に女子の手料理は信用できない。それが見知らぬ相手となればなおさら、毒でも入ってんじゃないかって思えて……とにかく嫌いなんだ」
「うん。わかった。もう手料理が余っても持って行ったりしないよ」
となると、私の存在意義が失われてしまうんじゃないかと不安だけれど。
差し入れはもう少し交流を深めてから、様子を見ることにしよう。
乃亜みたいに信頼されたなら、いつか食べてくれるよね?
「でも、信じて欲しい。私は毒なんて入れてないし、この先一生、黒瀬くんを害するつもりはない」
拓馬は皮肉めいた笑みを浮かべ、とんとん、と人差し指で頬のガーゼを叩いた。
言動が矛盾してると言いたいようだ。
「……あー。暴投の件に関しましてはその、申し開きのしようもございませ」
頭を下げようとしたとき、拓馬が小さく噴き出した。
驚いて見れば、拓馬は笑っている。
「アパートで初めて挨拶したときも思ってたんだけど、野々原って大人びた言葉遣いするよな。実は人生二週目とかだったりして」
「!!!? ま、まさかあ!」
私はひっくり返った声で否定した。
何なのこの人、鋭すぎる!
「何動揺してんの、冗談だよ。そろそろ行こう。着替えなきゃいけないし、休憩時間終わる」
「うん。あ、黒瀬くんの服は教室にあるよ。緑地くんが運んでおいてくれたから」
「わかった」
私は部屋を仕切っていたカーテンを開け、そこにいた先生に断って、拓馬と一緒に保健室を出た。
保健室に来たときとは全く逆の、軽やかな足取りで。
「被害者がいいって言ってるんだからいいんだよ。しつこい」
「………………」
そう言われては黙るしかなく、私は申し訳なさを抱えたまま言葉を飲み込んだ。
しばらくの沈黙。
雨の音が聞こえる。
保健の先生が棚の整理でもしているのか、部屋を仕切ったカーテンの向こうでカチャカチャという音がする。
俯いて、何を言おうか迷っていると、拓馬が口を開いた。
「……考えてみれば」
「?」
私は顔を上げ、拓馬の言葉に耳を傾けた。
「野々原とまともに話すのって初めてだな。アパートでも何度か顔を合わせたりしてるのに」
「……うん。そうだね」
これまでは一方的にあなたに避けられてきましたから、などという余計なことは言わずにおく。
「悪かったな」
「えっ」
まさか謝罪されるとは思わず、私は目をぱちくりさせた。
「いや、なんていうか。野々原って、馬鹿正直だし。これまでの対応を見る限り、悪い奴じゃなさそうだなと思って」
気まずさをごまかすように、拓馬は頬を掻いた。
「おれさ。他人が作った飲食物って苦手なんだ。何入ってるかわからねえし」
「何か入ってたことあるの?」
尋ねると、拓馬は口をへの字に曲げてから手を下ろした。
「……おれって格好良いだろ?」
「うん。モテそう」
というか、現在進行形でモテている。
「モテたよ。幼稚園児の頃からモテた。女子からは色々もらった。で、小学生のとき、バレンタインデーにもらったチョコに髪の毛が入ってた」
「うえ……」
想像して、私は呻いた。
「その半年後には、女子からもらったジュースで腹を壊した。ネットで見た惚れ薬だかなんだかを調合して混ぜたらしい。凄い味だった。ザラザラした謎の粒みたいなのも入ってたし、あれはもはや劇薬だったな。丸一日寝込む羽目になった。あのときのことは思い出したくない」
拓馬は苦虫でも噛み潰したような顔をした。
「うわあ……」
手料理が苦手になるわけだ……。
そういえば乃亜が初めて拓馬に差し入れをしたとき、微妙な反応をしていたような気がする。
あれはそういう過去があったからなんだ。
「だから、他人の、特に女子の手料理は信用できない。それが見知らぬ相手となればなおさら、毒でも入ってんじゃないかって思えて……とにかく嫌いなんだ」
「うん。わかった。もう手料理が余っても持って行ったりしないよ」
となると、私の存在意義が失われてしまうんじゃないかと不安だけれど。
差し入れはもう少し交流を深めてから、様子を見ることにしよう。
乃亜みたいに信頼されたなら、いつか食べてくれるよね?
「でも、信じて欲しい。私は毒なんて入れてないし、この先一生、黒瀬くんを害するつもりはない」
拓馬は皮肉めいた笑みを浮かべ、とんとん、と人差し指で頬のガーゼを叩いた。
言動が矛盾してると言いたいようだ。
「……あー。暴投の件に関しましてはその、申し開きのしようもございませ」
頭を下げようとしたとき、拓馬が小さく噴き出した。
驚いて見れば、拓馬は笑っている。
「アパートで初めて挨拶したときも思ってたんだけど、野々原って大人びた言葉遣いするよな。実は人生二週目とかだったりして」
「!!!? ま、まさかあ!」
私はひっくり返った声で否定した。
何なのこの人、鋭すぎる!
「何動揺してんの、冗談だよ。そろそろ行こう。着替えなきゃいけないし、休憩時間終わる」
「うん。あ、黒瀬くんの服は教室にあるよ。緑地くんが運んでおいてくれたから」
「わかった」
私は部屋を仕切っていたカーテンを開け、そこにいた先生に断って、拓馬と一緒に保健室を出た。
保健室に来たときとは全く逆の、軽やかな足取りで。
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