少し不思議な日向くんと、一つ屋根の下で

星名柚花

文字の大きさ
26 / 97

26:距離が縮まりました(2)

しおりを挟む
「いいなー私も見たいなー。なんで私には見えないんだろう」
 窓の外、さきほど悠紀くんが見ていた辺りに目をやるけれど、私には何の異常も見つけられない。
 ただ美しく手入れされた庭の風景が広がっているだけだ。

 ふと視界の端に映ったものに興味を惹かれて、私は視線を悠紀くんに戻した。
 悠紀くんは小さく笑っていた。

「気味悪がられたり、馬鹿にされることはあったけど。羨ましがられたのは初めてだ。俺はあの橋の上でも『なんでこんなものが見えるんだろう』って思ってたのに」
 悠紀くんは口元の笑みを隠すようにグラスに口をつけ、カフェオレを飲んだ。

「この際だから打ち明けるけど。俺、出会った日の夜、戸川さんのおばあさんから戸川さんのことを頼まれた」
「ええええええ!!!?」
 私は素っ頓狂な声で叫んで立ち上がり、テーブルに手をついて身を乗り出した。

「頼まれたって――おばあちゃんの幽霊に!? 会ったの!?」
「ああ。孫をよろしくお願いしますって頭を下げられた。戸川さんの身元を調べるために調査員を雇ったのも本当だけど、詳しい事情はおばあさんから聞いた。いくら調査員が優秀でも、近所に住んでた犬の名前まで俺が知ってるのはおかしいと思わなかった?」

「やけに詳しいな、とは思ったけど……まさかそんな裏事情があったなんて……」
 呆然と呟き、崩れ落ちるように椅子に腰を下ろす。
 突きつけられた事実に理解が追い付かず、私は酷く戸惑い、片手で頭を抱えた。

「誤解しないでくれ」
 私がショックを受けたと勘違いしたのか、珍しく焦ったように、悠紀くんがいつもより早口で言った。

「おばあさんに頼まれたから戸川さんを引き取ったわけじゃない。順序が逆だ。俺が戸川さんのことを気にして、兄貴や父さんに相談したのは頼まれるより先。戸川さんをこの家に呼んだのは俺の意思。俺がここにいて欲しいと思ったんだ」

 殺し文句に心臓が跳ねる。
 悠紀くん、そんなこと思っててくれたんだ。

「中野家で虐げられて、声が出なくなるほどのストレスを抱えていながら、それでも戸川さんは俺を気にかけてくれた。純粋に凄いと思った。尊敬すらしたよ」

 黒曜石のような瞳でまっすぐに見つめられて、胸の奥がざわめく。

 一言一句聞き逃したくない。
 私は高鳴る胸を押さえ、全神経を耳に集中させた。

「俺が戸川さんの立場だったら、あの状況で他人を気遣うなんて無理。自分のことだけで手一杯だ。でも、戸川さんは俺を見て足を止めた。雨の中、俺に向かって笑顔で手を振った。あの笑顔が強烈に印象に残ってて……」
 いつになく熱心に話していた悠紀くんは、急に声のトーンを落とした。

 隣の席から注がれる生暖かい視線を意識してしまったようだ。

「…………」
 悠紀くんは顔をしかめて口を閉じ、

「……まあ、ともかく。そんな感じ」
 なんとも大雑把に締めくくった。

「どんな感じ!?」
 力が抜けたようにかくんと肩を落とした後、亜紀くんがテーブルを両手で叩いて喚いた。

「なんだよもー、いまいいところだったじゃん! オレずっと空気を読んで黙ってただろ!? オレのことは置物だと思っていいから続きを! 続きを是非!!」

「お前は存在そのものがうるさいんだよ。いいから黙れ」
 悠紀くんは冷たく言ってそっぽ向いた。
 自分の言動を思い出して恥ずかしいのか、形の良い耳が赤くなっている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います

あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。 化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。 所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。 親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。 そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。 実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。 おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。 そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

処理中です...