少し不思議な日向くんと、一つ屋根の下で

星名柚花

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97:お祭り騒ぎは終わらない(3)

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 数十分後。
 私たちは第三校舎を出て、中庭のベンチに座っていた。
 よく朱莉と悠紀くんが座って会話していた場所だ。

 悠紀くんの右手には屋台で買ったコーラが、私の手にはアイスコーヒーがある。

「たまに思うんだ」
 髪を風になびかせながら、悠紀くんが静かに語り出す。

「もし俺じゃなく、亜紀にあやかしを見る力があったとしたら。あいつは変人扱いされて嫌われた俺と違って、いまと変わらず愛されてたんだろうなって。見たあやかしを面白おかしく語って笑いを誘い、異界に閉じ込められた話をしたときは心配されるんだ。あいつは絵が上手いから、あやかしの画集を出したりしたかもしれない。きっとバカ売れするんだろうな」
 想像したのか、悠紀くんは小さく笑った。

 悠紀くんの控えめな笑顔とは対照的に、魔女のコスプレをした二人の女子生徒が向かいのベンチで友達と大笑いしている。

「当たり前みたいに人の輪の中心にいて、万事をそつなくこなす亜紀を見てると、自分がいかに不器用なのか思い知らされて悲しくなる。いつも俺はあいつにフォローされる側だ。敵わない」

 悠紀くんは目の前の花壇を見つめた。
 ピンクのコスモスが気持ちよさそうに風に揺れている。
 花壇の向こうで噴水が噴き上がり、向かいのベンチに座る女子生徒たちの姿をぼやけさせた。

「確かに亜紀くんは素敵な人だけど、優しさなら悠紀くんだって負けてないよ。私と玲央くんを家に招いてくれたのは悠紀くんでしょう? 悠紀くんは私たちの恩人なんだよ。もし悠紀くんがいなかったら、私たちはきっといまも灰色の毎日を過ごしてた。この声だって、永遠に出ないままだったかもしれない」

 私は右手で持っていたアイスコーヒーのカップを左手に持ち替え、空いた右手で悠紀くんの左手を握った。
 悠紀くんは拒むことなく、私の指に自分の指を絡めた。

「不器用だっていいじゃない。人にフォローされて何が悪いの。私だって、きっと玲央くんだって、もし悠紀くんが困ってたら全力で助けるよ。悠紀くんには良いところがたくさんあるんだから、自分を卑下しないで。私はありのままの悠紀くんが好き。大好きだから、ずっと笑っていて。私は誰よりも傍で悠紀くんの笑顔を見ていたい」

「……。ありがとう」
 それ以上の言葉は要らなかった。

 青空の下、涼しい秋の風を受けて手を繋ぎ、ただ好きな人の傍にいる。

 穏やかで、泣きたくなるくらい幸せな時間。

 校舎からは絶えず音楽と喧噪が聞こえているけれど、校庭のほうから聞こえていたヴァーチャル・アイドルの歌声が止んでいた。ライブが終わったようだ。

「そういえば、さっき校内放送が流れてたよね。2時から講堂で吹奏楽部がスペシャルゲストを招いたコンサートを行うって。始まるまで絶対シークレットな超スペシャルゲストって誰だろうね。放送してた女の子、『とにかく絶対に来てください! この機会を逃せば一生後悔します!』って熱弁してたよね。あそこまで言われると気になるな」

「もしかしたら兄貴かもしれない。亜紀が『次いつ会える?』って聞いたら『そのうち会える予感がする』って意味深なことを言ってたらしい」
「えっ!? あ、でも、そうか。真紘さんはこの学園の卒業生だもんね。スペシャルゲストとして登場してもおかしくないんだ。この学園は各業界にコネがあって、顔が利くだろうし。ちょっと待って、いま何時?」
 私は慌ててスカートのポケットからスマホを引っ張り出した。

 現在時刻は13時42分。
 走れば開場には間に合うだろうが、講堂の収容人数には限界がある!

「やばい! もし真紘さんがゲストとして登場したら講堂に人が殺到する! 入れなくなっちゃう!!」
 私たちは大急ぎでカップの中身を飲み干し、残った氷を捨ててから中庭に設置されていたゴミ箱に入れた。

「行こう!」
「うん!」
 差し出された手を強く握る。

 私はうさぎのぬいぐるみを胸に抱いてお揃いの水風船を持ち、悠紀くんと手を繋いで駆け出した。


《END.》
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