萌やし屋シリーズ4 異世界召喚されたがギフトは無いし何をしたらいいのかも聞かされていないんだが 第一部

戸ケ苫 嵐

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第十九話 やっぱり女の子なんだな

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 それから数日、俺たちは予定通り最低ランクの洞窟に通った。
「ほらな、言うた通り、大丈夫やろ? いつまでもビビってられんわ」
「そうなのか? 妙にキョロキョロしてないか?」

「す、するかいな!」
 言いながら、微妙に眼が泳ぐミスズ。
「無理をするなよ、ミスズさん? 俺たちは洞窟に挑んだばかりなんだ。死なないだけでも、確実に前進してるんだからな?」

「…うん、分かった」ミスズの素直な反応に、つい顔がほころぶ。それを見て憤るミスズ。「なんやその顔!」
「いや、なんでもないよ。はは」

 といった馬鹿話をしながらも、俺は周囲への注意を怠らなかった。ミスズが先に見つけると、パニックになって危ないからだ。

「…居た!」
 俺が発見したのは、”ヨートーク”という、頭が羊で胴体が犬のバケモノである。
 解説本によると頭突きが痛いらしい。

 早く駆け寄り、頸の皮を僅かに残した状態で切断する。
 もじゃもじゃした頭の毛に、お宝が紛れ込んでいることが多いため、指で梳ったところコロコロとアブリが転がり出た。

「…なぁおっちゃん?」
 ヨートークの頭を弄くっている俺を見ながら、ミスズが言った。
「なんだ?」

「首の皮一枚つながるって言葉あるけど、皮一枚じゃ手遅れよな?」
「…そうだな。もう死んでるな」
「そんだけなんやけどな。オチ無しなんや、ごめんな」

「いや、確かに変な言葉だな」
 馬鹿話をしている間に、ヨートークの死体は、以前ミスズが言っていた通り、煙のように消えた。
 昨日はミスズが赤い石で速攻爆殺していたから、普通に倒すのはこれが初めてだ。

「おぉ…、本当に消えたぞ」
「せや。なんで消えるんか、解説本に出てへん?」
 俺は赤い石で解説本を照らした。

「出てるぞ。これによるとだ、バケモノの心臓には”魔核”というものが入っていて、死んだバケモノは一定時間が経過すると、魔核心臓、略して核心としておこうか。これに繋がった部分は核心と一緒に消えてしまうそうだ」

「そういう原理やったんか。ほんで皮が欲しいときは、消える前に急いで核心から切り離したら、皮だけは消えんで済むわけなんか」
「ミスズさんは、知らずに経験則でそれをやっていたわけだな」

「けど、なんでそんなことになってんのやろ?」
「洞窟内で死体が消えないと腐るだろう? 腐ると空気が悪くなって、病気が発生したりして、環境が悪化してしまうからだろうな。この洞窟の主はキレイ好きなんだろう」

「主ってなんなん?」
「…いや、そこは俺の感想だ。建物や土地に主がいるみたいに、洞窟に居てもおかしくないだろう?」

 などという馬鹿話をしながら、ヨートークの頭から転がり出たアプリを拾い集めた。
「これって、消えるまで放っといたらアプリだけ残るんちゃう?」
「あっ…」

「ゴメン。今までのおっちゃんの苦労を台無しにするとこやった」
「いや、十分台無しになった。どうしてもっと早く言わない…」
 苦笑いのミスズ。

 アプリを集め終わって歩き出したが、バケモノはそれほど頻繁に出るものではない。なので、本当は危険なんだが、解説本を読みながら歩いたりもする。

「なお、魔核自体も高く売れるとミスズさんも言っていたが、核心から魔核を取り出すと死体が消えなくなるので、洞窟内での魔核取りは禁止されているそうだ。昨日から俺たちはこの洞窟をくまなく歩いたが、死体はひとつも残っていなかったから、このルールは守られているようだな」

「まぁ、臭かったり、病気になったりすんの嫌やもんな」
 言った後で気付いたことがあったらしく、続けて言った。
「あ、けど、トニカクみたいに全部持って帰るときは魔核取ってもええんやろ?」

「えーと。その通り、問題ないそうだ」
 戦闘と戦闘の間が空くと、どうしてもだらけた感じになる。
「探索者が少ないとは言え、続けて来ると流石に実入りが少ないな」
「せやな。…とか言うてる間に、ドンツキまで来たで」

 直径十メートルほどの円形のホール。
 ここがこの洞窟の、いくつかに枝分かれした最奥部のひとつである。
 俺たちは、こういった最奥部のひとつと入り口の間を、何回も往復していた。

「この洞窟はしばらく寝かした方がいいな。河岸を変えるか」
「んん? そろそろ洞窟の位を上げるときが来たってことかや?」
 ミスズがキラキラした眼を俺に向けた。

「まぁそういうわけなんだが、腹の空き具合からして、まだ昼前だ。今から別の洞窟に行くには微妙な時間だし、夕方までここで狩るのは徒労感半端ない。どうする? ミスズさんの判断に任せるが…」

「んー。ほな別のとこ行くことにしよか。冷やかしって言うん?」
「ははは、俺たちは初心者だし、冷やかせる立場じゃないからな。ここは謙虚に、様子見としておこうか」

「んじゃ様子見で! ゴー、ヨースミー!」
 腕を上げて前を指差し、率先してホールから出ようとして、自分が後衛だったことに気付くミスズ。

 照れくさげに振り返ったところ、何かを見てしまったらしい。
「んぎゃああぁ!」
 赤い石を一握り、ホールの天井に向けて投げる。

ダガガガァン!

「くっ!」
 素早く駅弁スタイルでミスズを抱き上げ、ホールから駆け出した。
 閃光が俺を追い抜き、目前の回廊に長い影を浮かび上がらせる。

 閃光を追いかけて来た爆風に背中を蹴られた俺は、ミスズに覆いかぶさるように地面に倒れ込んだ。天井が崩れ、岩石が落ちてきたが、対応が早かったお陰で埋もれずに済んだ。
 爆発をやり過ごしたのを確認し、ミスズに問いかけた。

「大丈夫か? ミスズさん?」
「う、うん。…あんがと、おっちゃん」
 ばつが悪いのか、赤い顔をして眼をそらすミスズ。

「ケガはないか?」
「だ、大丈夫やから、…はよどいて」
「ああ、悪い」

 ミスズを抱いたまま起き上がり、その場に下ろした。
 俺の体重はミスズの三倍はあるので、ミスズ分の荷重が増えたところで、ひとりで起き上がるのと大して変わらないのだ。

「背中は痛くないか?」
「…背中?」
「ここは地面がボコボコだが、背中を打ったりはしていないかと…」

「…あっ!」
 短く叫ぶと、素早く外套を脱ぎ、バサバサと埃を叩いた。
 その後、背中の金糸模様を穴があくほど見つめる。そして安堵の吐息をついて一言。

「…良かったわ、模様は壊れてない」
 俺はその姿を見てふっと笑ってしまった。
「服に必死になるなんて、やっぱり女の子なんだな」

「高かったんやで、このうわっぱり! 年代モンなんやからな!」
 ミスズが”うわっぱり”と呼んだ外套は、全体的に地味な色ではあるものの、肌触りの良い布地の各部は革で補強されており、そこには目立たないが、ミスズが“模様”と呼んだ意匠が凝らされている。

 特に袖から肩、更に僧帽筋にかけて金糸であしらわれた幾何学的な文様は、なにやら曰くありげである。
「確かに、よく見たら高そうな品だ。大魔法使いミスズ様には安物の服は似合わないな」

「おっちゃん、茶化しとらん?」
「滅相も無い」
 両手を振って否定した。

「それはそうと、何を見た? 何が居たんだ?」
「何か知らんけど、天井からじゅわーって、染み出るみたいに変なんが出てきたんよ」
「天井…?」

 恐る恐るホールに戻り、崩落した天井を見上げる。赤い石で照らすと、広い空間があることが分かった。
「これは…凄い発見だぞ、ミスズさん。ここに二階以上があるなんて、解説本にも載っていない情報だ!」

「これって怒られるやろか? 規約とかはなんて書いたぁるの?」
「元々洞窟は自然にできたものだし、今現在誰のものでもない。そもそも探索の結果壊れたものだから、責められる謂れもない」

「けど、互助会がシキってるやん?」
「それは互助会が力を持っているから、みんなそれに従っているだけだ。従ったほうが楽だし安全なだけで、強制力はない。ミスズさんだって便利だから互助会を使っていたのだし、エーリカも言っていただろう? はみ出すのは自由だけど、助けないよって」

 言葉を切り、瓦礫の山をよじ登る。
「まぁ、怒られたとしても、この発見でチャラだよ」
 元々ホールの天井には、何らかの方法で隠された出入り口があったようだが、赤い石の爆発で岩盤ごと崩落している。

 俺は懸命に背伸びして、赤い石の灯りで上を照らした。
「ミスズさん、上に通路があるみたいだ!」
 瓦礫の上でジャンプしたり背伸びしたりする。

「くそ、上に登れればいいんだが…」
「登れるで?」
 食い気味に答えるミスズ。

「どうやって…って、あぁ、緑の石か!」
「ご名答~」
 言うと、ミスズは瓦礫の上に緑の石を置いた。

「おっちゃん、これ、がいに踏んで」
「お、おう」
 えいやとばかり、緑の石を踏むと、足の裏から風が吹き出した。

「おおお、身体が浮くぞ!」
 前触れもなく俺に飛びついてくるミスズ。
「うぉ、ちょちょっ」

 慌てながらも、ミスズを抱きかかえ、片足でうまくバランスを取る。タコ踊りしながらも、ホール天井の穴を潜り抜け、上階に降り立った。
「おっとっとぉ」

「おっちゃんすごいやん。エエバランスしとる!」
「…危ないから遊ぶなよ?」
 怖すぎるためか、ミスズが変なテンションになっている。

「ここの洞窟で怖がる人が多い理由が分かったよ。ここまで来ると、俺でも分かる。なんだかゾクゾクするぜ」
「せやろ? ここまで来たら図太いおっちゃんでも分かるやろ?」

「……」
 今までは単にミスズが怖がりなだけだと思っていたが、ここに来るとミスズが言うことは本当らしいと分かった。実際自分は鈍いのかも知れない。いや、鈍いよな。
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