妖精と初恋

りかちゃん

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伯爵令息視点3

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 貴族学院とはいえ、学院内では爵位がそれ程重要視されない今ぐらい彼女と話してみたいと思うものの、勇気もきっかけもない毎日を過ごしていたある日、偶然にも食堂で彼女を見かけた。

 彼女は食事をのせたトレーを持ちながら、辺りを見回していた。
 最初は一緒に食べる誰かを探しているのかと思ったが、一向にその相手は現れなかった。
 それから俺も周りを見渡してみて、あぁ、食べる場所を探しているのか。と思った。
 幸い俺の近くは空いていて、彼女に声をかけるチャンスなのではないかと思った。
 しかし、俺のような外見の奴がいきなり話しかけて彼女を怖がらせたり気持ち悪がらせたりするのではないかと迷った。
 けれど、これは一生に一度のチャンスだと、もし彼女が不快に思うようであれば場所を譲って自分が移動すればいいだけだと自分に言い聞かせて声をかけることにした。


「初対面で声をかける無礼をお許しください。自分はニコライ・ルフナーと申します。もし、食事をなさる場所を探しておられるようでしたら、私の近くが空いているので、よろしかったらお使いください。」


「私はエレーミア・フィスターと申します。ルフナー様、よろしいのですか?どこに座ればいいのか分からなかったので、お声がけ頂けて嬉しいですわ。」


 初めて聞く彼女の声は、どこまでも澄んでいて綺麗だった。しかも家名とはいえ自分の名前を呼んでくれた!何と嬉しいことだろうか!
 にこりと笑いかけてくれた顔もとても可憐で、俺は見惚れてしまった。
 
 彼女は、見惚れて動かないでいる俺の隣にすっと座りこちらを見ると、

「ルフナー様、お言葉に甘えて、お隣に座らせていただきますね。」

と笑顔で声をかけてくれた。

 それなのに俺は、

「はい、どうぞ。」

とその一言しか返すことが出来なかった。しかも、無表情でだ!
 折角の彼女の笑顔に、言葉に、そんな表情や言葉でしか返せない自分がとても情けなかった。


 しかし、彼女はそんな俺にも終始優しい笑顔で話しかけてくれた。
 俺もあまり記憶はないが、何とか返事を返せていたと思う。




 そんな素晴らしい時間はあっという間に過ぎていってしまった。


 あっという間すぎて悲しくもあったが、おかげでその日の食事は今までの人生で一番美味しい食事となった。多分。
舞い上がりすぎて味など全く覚えていないが、彼女と隣で食べる食事が美味しくない筈がないので、間違いなく人生で一番美味しい食事だった。
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