世界最後の1日に。

こいづみ

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「ただいま」

 勇人と小春と遊び自宅へと帰ってきた弘樹、三人での遊びは最終的にスポーツ系のアミューズメントパークに行くことに決まり、久しぶりに体を動かした弘樹はへとへとだった。

 夕方の街中はいつも通り賑わっていて人類が滅亡するなんて微塵も感じられず、昨日の発表が夢なのではないかと思えるほどだった。

「お帰りなさい」

 洗濯物を畳んでいたのであろう宗一がバスタオルを片手に玄関まで弘樹を迎えにきた。

「ヒロくん今日はどうだった?」

 後ろに花が咲きそうなほどの笑顔を浮かべたまま宗一が尋ねた。

 その雰囲気で宗一が今日の放課後の出来事について聞きたがっていることが察せられる。

「楽しかったですよ」

 疲れはしたものの久しぶりに幼なじみと遊んだ弘樹は十二分に楽しむことが出来た。

「そっかぁよかったねぇ」

 先程以上にその顔に笑みを咲かせ弘樹の返答に嬉しそうに頷く宗一。

 それを見た弘樹も思わず顔がほころんだ。

 昨日は話し合いが終わりすぐに部屋に戻り、今朝は最低限のやり取りだけで外に出てしまったせいでテレビを見てから宗一とまともに会話をしていなかったため気まずさを感じていた弘樹だったが、それが自分だけだと知り少し恥ずかしい気持ちになる。

「お風呂沸いてるから入ってきちゃって」

「ありがとうございます」

 宗一がバスタオルを片手に居間に戻ったのを確認してから自分の部屋に戻り荷物を置いてから入浴を済ませる。

 タオルで頭を擦りながら居間に入ると宗一が紅茶を飲みながらテレビを見ていた。

 テレビの中では昨日の会見について特集されていて、急な発表をした国に対して批判が飛び交っている。

「どこ見ても同じ事やってるよ」

 テレビに視線を向けながら宗一が呟くように言った。

 弘樹は手を止めタオルを首に掛けて宗一の向かいに腰を下ろした。

「ヒロくんのも淹れてくるね」

 宗一は立ち上がり台所に向かっていった、紅茶をいれている最中二人は喋ることもなく部屋にはテレビの音だけがこだまする。

 紅茶の入ったカップを弘樹の前に置き宗一は再び椅子に腰かけた。

「これからどうなっちゃうんだろうね」

 紅茶入りのカップを両手で持ちその水面に目を落としながら宗一が小さく呟いた。

 答えが見つかるはずもなく何と声を掛けていいかもわからず弘樹は静かに紅茶に口をつけた。

「わからないけど、俺は、とりあえず姉さんが帰ってくるまではいつも通り生活します」

 それでも何か話をしないわけにもいかず宗一の言葉に対して答えにならない返答をする。

 世界がどうなるかなんてわからないがそれでも家族の今後については家族全員で話して決めたいと思ったことを口にした。

「そうだね、僕も香里さんがいつ帰ってきてもいいようにしっかりしなきゃ」

 弘樹の気持ちが届いたかはわからないが宗一が先程よりも明るい声でうなずいた。

 昨日から家に帰ってきていない香里からの連絡はほとんどないが無事でいることは弘樹と宗一に送られてきていた。

 ただいつ帰れるかなど具体的な内容は送られてきていないのでまだまだ忙しくなるだろうということは二人とも察している。

「今日はもう寝ようか」

 紅茶を飲み終わり夜も更けてきた頃宗一が静かに口を開いた。

 相変わらず会見の話題で盛り上がっているテレビを消し空のカップを片付けてお互いの寝室まで戻っていく。

 慣れない運動に思ったより疲れていたようでベッドに入るなりすぐに眠りについた。

 翌朝弘樹は昨日と同じように随分と早くに目が覚めた。

 時計を見ると目覚ましが鳴るまでまだ大分時間がある。

 一つ寝返りをうちもう一度眠りにつこうと努力してみるも変に目が冴えてしまって全く眠れそうにない。

 仕方なくベッドから降りて顔を洗い居間の扉を開けた。

「おはよう、今日も早いね」

「おはようございます」

 お互いに挨拶を交わした後弘樹は椅子に座り特に何をするわけでもなく、ぼんやりと昨日の朝の事を思い出していた。


 九条仁美


 彼女と話したことが何故だかとても強く印象に残っていた。

「何か考え事?」

 宗一がフライパンで卵とベーコンを焼きながらどこか上の空な弘樹に声をかけた。

 その声に我に返り宗一に一度視線を移す。

 手を動かしながらも弘樹の返答を待つ宗一に少し迷い視線をさまよわせたが、やがて真っ直ぐに宗一を見据え。

「宗一さん俺今日も早めに出ます」

 弘樹は力強くそう宣言した。
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