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すれ違いの話
どこぞの王子様の手
「小鳥遊、ここに替えの服置いとくからな~!」
「…うん、」
浴室のドアの向こうから、彼の声がする。
俺は、先程の冷たい雨とは違う、シャワーの温かい雨に打たれる。
ここは、人んちである。
そんでもって…元"同級生"の家。
俺はシャワーを借りている。
どうやら彼は、小学校の頃、俺と知り合いだった…らしい。
…らしいと言うのは、俺が小4から、ちぃちゃんにいじめられて、誰も助けてくれなかった事から、俺がちぃちゃん以外の人間に興味が無くなったから、
今でも、同級生の名前はよく覚えていない。
雨の中、彼は、俺のせいで肩を濡らしたのにも関わらず、俺に傘を渡して、俺を見捨てられない、と言って家まで上がらせてくれた。
道中で、彼は、自分が怪しいものではないと証明するため、彼と俺の関係について話してくれた。
「俺は…洸人と小3まで小学校一緒で!ちょうど小4に上がる頃に転校しちゃって…ギリギリ学区が違かったから、中学も洸人と一緒のところ行けなくて…」
彼は、もの哀しげに話す、
…なんで、そんな表情するんだ
俺は君のことめっちゃ覚えてないのに、
それに、洸人って!
名前呼びってことは相当仲良かったんじゃないのか?…いやでも、仲良かったら覚えてるはずなんだけどなぁ…
…あ、名前聞けば、思い出すかも?
「えっと…君、の名前は…」
距離感掴めなくて、君とか呼んじゃったし、名前は…ってなんだよ、どこぞの王子?
そんな、申し訳なさに、おずおずとそう聞くと、彼は優しく俺に笑いかける
「…幸!」
こう…幸、
まったくもって覚えがない。
俺たちどんな関係でしたっけ、とか彼の様子的に聞けるわけもないし、
…てか、幸って名前だよな?…苗字は?
こんなん、幸って呼ぶしかないじゃないですか…いや、彼…
幸も洸人って呼んでるから?俺も呼べって?
「あ、ここ曲がったら、もうすぐそこ」
そんな事考えてると、もう幸の家に着いたようだった。
彼は傘を閉じて、扉を開けようと鍵を取り出していた、それを1歩後ろで見つめていると、家の表札に目がいった。
「かみの、のろい…?」
そこには、"神呪"と記してある。
読み方が分からず、文字通りに呟くと、俺の声に気づいたであろう、幸が振り返り、俺に向けて苦笑いをする。
「そう書いて、かんのって言うの、」
「…へぇ、」
初めて見る苗字に思わず、へぇ、と声が出た。
…この、苗字を言わなかったのには、何か理由があったんだろうか、
そこまで考えたが、幸が鍵を回して、扉開けたところで、考えは切れた。
「どうぞ、上がって、」
シャワーを浴びて、冷えた体を温めると、幸は脱衣場に着替えを用意してくれていた。
Tシャツに着替えると、なんとなくで、明かりのついている部屋に向かった。
リビングであろう、そこには幸が、ダイニングテーブルでお茶を飲んでいた。
…幸の向かい側にもお茶が置かれている、とりあえず、幸の向かい側の席に座った。
「えっと、あの、ありがとう…着替えも、シャワーも貸してくれて」
改めて、頭を下げて感謝をした。
すると、幸は、いえいえ~と、謙遜をする
…彼は、どこまでいい人なんだろうか…
「あ、温かいお茶入れたから、良ければ、」
幸は自身のお茶を飲んで、
俺にも良ければ飲むよう勧めた。
カップに手を添える、熱くない、ちょうど良い、温かい温度だった。
…もしかして、あの時、俺が震えていたからだろうか、しかも、お茶は、おいしいし…
優しい気遣いに少し緊張が解れて、
頬が緩むのが分かる。
カップを見つめていると、視線を感じた、
幸の方を見ると、目が合う、
それに、幸は優しく微笑む。
目を逸らしたら、失礼な気がして、不自然に幸を見つめていると、幸は口を開いた。
「…洸人は、まだ…神宮寺と、仲良い?」
…ん?神宮寺?
千透星くん…の事、だよな?
…なんで?
「仲良い…のかな?…わかんない」
誤魔化すように目線を逸らし、カップに目をやった。
幸がどんな顔してるかなんて分からない、けど、多分、困らせるようなことを言ったかもしれない。
今、取り乱したら、
変に気を遣わせるかもしれない、探られるかもしれない。
…そう思うと、我慢するようにお茶を1口、飲み込む
沈黙に、幸が息を吸って吐くのが、嫌に聞こえる。そして幸が口を開いた。
「あのさ、もしかして…洸人…」
「神宮寺に、いじめられてたりする?」
そう言われて、思わず、お茶を飲んでいたのがむせてしまった。
必死に胸を叩いていると、幸は焦って、自身の椅子を引いて、こちらに駆け寄ってきた。
幸は俺の背中を摩る
…顔を上げられない、
今ので、もう確証になってしまったのだろう。
俺は落ち着くと、カップを置いて、すぐ俺の隣にいる幸を、横目でチラリと見た。
目が合って、幸は心配そうにこちらをみていた、
「洸人、大丈夫?」
「…いや、うん、もう大丈夫だから…」
…もう帰ろう、逃げるように去ろうか、
あぁ、けど制服、わざわざ室内で乾かしてくれてるんだよな、
…うーん、俺ってクソだな、
なんで恩を仇で返すようなことばっかり、
探られそうになったからって…
幸から目を逸らし、俯いて、
ぐるぐると考える…
自分がカスすぎて、拳を握った。
すると、すぐ隣にいる幸が、視界の端でしゃがみ込んだのがわかった。
幸は、俺の強く握った拳を解すように優しくふれる、
向き合ってないのに、優しかった。
「…っ、」
視線を感じる、
幸は俺の顔を見つめて、息を吸って吐くと、口を開いた。
「俺さ…小3の頃、神宮寺に…」
「いじめられてたんだよ」
「え…?」
急な告白に、思わず、顔だけで見下ろす形で、幸の方を見た。
幸は目を伏せて、ただ俺の手を見つめていて、どんな表情かだけは分からない。
静かになった空間で、ただ幸が俺に語りかける。
「名前の事で、神宮寺にいじられててさ…俺その時、身長も気も小さかったから…弱くて何も出来なくて、そんな時…」
「洸人が手を差し伸べてくれて…俺は、この手に…洸人に助けて貰ったんだよ、」
幸は俺の手を撫でた、
それに驚いて、俺は体ごと幸の方を向く、
幸はただじっと、俺の手を握ったり撫でたりして、見つめている。
「こう…くん、」
そう呼ぶと、幸は顔を上げて、嬉しそうに頬を緩めた。
「そうだよ、俺、幸だよ…思い出した?」
「え、いや…全く…?」
そうだ、全く思い出していない。
ただ、俺以外に千透星くんにいじめられていた人が居るという事実に、それをまさかの俺が助けたという事実に、驚いている。
そんな俺に、幸は少し目を見開くと、目を伏せて、再度、俺の手を見つめる。
「…俺、自分のこと洸人に思い出して欲しくなかった。俺って、洸人にとって、ただのいじめられっ子だったから、神呪とか特徴的な苗字言ったら、あの時のってなっちゃうかなって…」
「でも、そっか、覚えてないか…」
そう言う幸が、表情が見えないからか、心做しか悲しそうに見えて、
「えっと、いやごめ…」
謝ろうとした時、
幸がパッと顔を上げて、俺を見上げる。
「やっぱり、洸人は…ヒーローだ!」
「…は?」
幸は、満面の笑みで、
こちらの顔を見つめた。
「だって、覚えてないくらいってことは、人助けなんて当たり前なんだろ?…洸人は凄いなぁ…」
「えっ…いや!ちょっと待って!」
急なことに頭がパンクした。
手を前に出して、幸を制止させる。
「何?」
「ヒロくんはヒーローじゃないんですよ!なんつって!…でもないんだよ!え!補正かかり過ぎじゃね!?」
主人公補正が、かかり過ぎである!
いや…俺は主人公でもない、むしろ俺は…
「ただの!…いじめられっ子だっつの!」
そう、声を張って行った後、
数秒経って気がついた。
…なんで俺、自分から暴露してんの?
…終わった
俺は、幸の前に手を出して、そちらを見ないように、汗ダラダラの顔を逸らす。
…そんな俺に、幸は、何も言わずに、
前に出されている、俺と手を合わせた。
「…っ?」
「…ずっと、気がかりだったんだ、俺が居なくなったら、誰かがまた、いじめられるんだろうって…」
「それに、洸人は、俺の事助けたから…」
幸は、小さく、細い声で呟いた。
そんな声に、顔を逸らして居られなくて、幸を見下ろした。
幸は、俺の手と合わせている手を見つめる。
「けどさ…洸人、見て?」
「俺さ、もう洸人より、手が大きいんだよ。」
…たしかに
手を合わせても、幸は、俺よりずっと、手が大きくて、幸の掌では俺の手がすっぽりと隠れてしまう。
だからなんだ?
「…うん、」
「だからもう、守ってもらわなくても平気なんだ。」
守った覚えないけどな…
そんな考えは飲み込んだ、
幸は、合わせていた俺の手を取って、自身の手で包み込むと、じっと手を見つめた後、
俺を見上げた。
「…その代わり、俺が、洸人を守らせてよ。」
「…え」
そう言う、幸、
真面目な顔して、片膝を着いて、
俺の手を取る姿は…
誓いを立てる、
どこぞの王子様だった。
「なんで…」
「…それ、首の痕とか、神宮寺にやられたんじゃないの」
俺はそれに、何も言えなかった。
ただ、俯き、小さく頷いた。
幸の、俺の手を掴む力が少し強くなった気がした。
「絶対、もう…洸人にあんな表情させないから、絶対、守るから」
そう宣言されてしまっては、
否定などできない。
けど、心の内で、
どうせ無理だ、
と思っている俺がいた、千透星くんを止められる奴なんてこの世にいるのだろうか、
…法律ぐらいだろう。
だから、否定しなかった。拒絶しなかった。
けど、なんでこんな
心が温かく、なるのだろう?
幸は、俺の手を握ったまま。急に立ち上がる
「…ずっと、片膝着いてたら、足痺れちゃった!」
そう言って俺に笑いかける。
手を繋いだまま、今度は、俺が幸を下から見上げた。
「…ありがとう、幸」
そんな、幸に感謝を伝え、俺も微笑むと、
幸は驚いたように、少し目を見開いた後、心底嬉しそうに頬を緩ませた。
「あ、それより、もう雨止んだみたいだ」
「…ほんとだ」
窓の方を向くと、雨音もしなくなっていて、カーテンの隙間から光が指していた。
「俺、制服持ってくるよ」
幸は、思い出したように呟くと、俺から手を離して、リビングから出ていった。
幸がいなくなって、静かになったリビングで、先程まで幸の手に触れていた、
自身の手を見つめる。
幸の手は、大きくて、
…温かかった。
それが何よりも、俺の心を、安心させた。
完全に安心しきったように、身体が軽くなったのが分かる。
俺は、少し温かいままの、自身の手を見つめて、微笑んだ。
少し惜しいが、洸人から手を離した。
リビングから出て、乾燥機にかけてあった洸人の制服を取り出した。
良かった、ちゃんと乾いていた。
洸人の制服のシャツを見つめて、土砂降りの中、雨に濡れていた洸人を思い出す。
…洸人、やっぱり、神宮寺にいじめられていたんだ。
転校してからも、
ずっとそれが気になっていた。
『こうくん、大丈夫?』
あの時、神宮寺にいじめられて、泥だらけで汚かった、俺に差し出された
当時の俺よりも、少し大きい手
それに、俺は助けられた。
けど、その手はもう離されてしまった、
洸人の、もうあの頃の俺より少し大きくて、温かい手はもうない。
手を合わせて、掴んで、
俺を、引っ張ってくれた、
俺を、変わらせてくれた手。
自分の手を見つめて、
洸人の手の感触を思い出す。
今の洸人の手は、俺より、
冷たくて、小さかった。
「絶対、守るから」
次は、俺が手を差し出す番。
洸人を…守るから
だから、その時は、俺の手を掴んで、
もう、離さないで。
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