異世界転移して獣人王子様に見初められた俺がオメガになって世界を救う、かもしれない!?

わをん

文字の大きさ
3 / 95

001-② 落下!

しおりを挟む



 このままでは日が暮れてしまう。

 とりあえず森に戻ろうと思った。けれど森に入ると方角がわからなくなるから、森と農地の間の道をひたすら歩いた。

 人間が見当たらない。田舎はこれだから困る。

 太陽が傾いてきた。

 更に歩いて結局また森の中をあてどなく彷徨い歩くこととなった。
 
 木の間を縫うように飛ぶのは見たことのない鳩のような大きさの深緑色の鳥だった。それから間もなく鳥の囀りが激しくなり、それがまるで会話をしているかのようだったから驚いた。タイミング的に闖入者である俺について話し合っているかのように聞こえた。
 
 進めども進めども、森。

 優先順位を考えよう。

 宿だ。とにかく、今日の宿を探そう。

 宿のある町か村に行けば、スマホが通じるんじゃないか?

 俺の身分を証明するものは日本の運転免許証だけだ。何の主張もできない可能性があるが、ないよりマシだ。加えて、俺は浮浪者のような汚さ。怪しさ満点である。これにドン引かれては会話もできない。
 
 ここは強引に行くしかない。何とか頼み込んで泊めてもらおう。策はないが現金ならある。

 ズボンのポケットには運良く財布を入れていた。今時分、カード決済が隆盛とはいえ、何だかんだでいまだ現金は強い。

 俺は不運な男なので万が一を考えて靴にも現金を忍ばせていた。

 宿の人間にまずは現金を突き出そう。これしかない。ザ・買収。

 無事に宿に泊めてもらえたらシャワーをして今着ているこの汚い服を洗って……。
 あー…、替えの服がないなぁ。

 考えるのも疲れてきた。
 体力的にも限界が近い。
 いい加減、人間様に会わせて欲しい。しかもなるべく善人でお願いしたい。

 今、自分が歩いている方向が正解かどうかはわからない。
 
 森を抜けた。

 日は暮れかかっていた。今度は丘の上に立派な風車が立っているのが見えた。風車の周りは小麦畑ではなかった。だからか、ちょっと他と様子が違った。

 風車は畑のど真ん中にあった。風車の近くに人がいるようには思えなかった。ああ、俺はたぶん、反対側に行くべきだった。
 
 でもなぜか呼ばれたような気がして来てしまったんだ。

 疲れていたから、何も考えられなかった。足が赴くままここに来たのだ。

 ふと、風車のたもとに不自然な明かりがあることに気づいた。
 何を植えているのかわからない畑の畦道をのっそのっそと重苦しく歩きながら、取り敢えず丘の上の風車を目指した。

 近くまで行って改めて仰ぎ見た。

「すごい」

 巨大な塔の風車が丘の上の石垣の上に立っていた。今は風がないせいか風車は動いてはいなかった。大木が石垣を二重に囲んでいた。

 夕暮れをバックに映えていた。

 さらに大木の間を入り込んでいって、一本の大木にまとわりつくようにリスが何匹か戯れているのを見た。

 リスは尻尾をふわりとさせて、木の上を跳ねながらじゃれあいながら移動していた。見たことのある生き物が楽しげに飛び跳ねる姿に心から安堵した。

 風車の塔の下の石垣に重厚そうな黒い木製扉が備えつけられているのを見つけたときは興奮した。その扉の両サイドに灯りがついていた。

 人がいる!

 縋りつくように扉に手を触れたそのときだった。

 Was machen Sie hier?
 ——お前はここで何をしている。

ビュンと音がして頬が痛くなるほどの風圧を感じた。

 後ろから、顔の横をかすめてその扉を何かで突かれたと気づいたのは、その銀色に光る刃先を見てからだ。

 一歩間違えたら頭に突き刺さっていた。それは刃が反った長い両刃の剣だった……!

「!?」

 ハァァ!?

 こんなものを初対面の相手にブッ刺そうなんて正気の沙汰とは思えない!

 振り向きたくない。鈍感な俺でも感じる凄まじい殺気だー……。

 段々と辺りが暗くなってきた。

 こうなったらもう捕まった方がいいんじゃないか。いや最悪、オダブツ……。

 俺は望まれない訪問者。わかっていた。だからと言って、振り向かないわけにいかず。
 ゆっくり振り返って、声の主を、その顔を見て、俺は息を吸うのも忘れるほどに驚いた。

「い……」
 
 刀の切先がより深く扉を抉る。その黒い塗料がボロボロと剥がれていく。

「い、い、い」

 俺が身動くと、一瞬引き抜かれた剣の先がまた扉をより深く突き刺した。
 ドガンッと扉が震えた。

「犬……っ!!?」

 刺繍の豪華な裾の長い服を着て、靴まで履いて二足歩行しているが、手首から手の甲は毛むくじゃらで、顔はーー。

 犬だった。

 そいつは二メートルはあろうかという身長で、刀剣を逆手で持っていた。

 オールブラックのシェパードっぽい。俺はそれに目で睨み殺さんばかりに迫られていた。

 足が竦んで動けない。
 
 跳ねた耳に茶褐色の宝石のように光る目、突き出した口にフサフサの漆黒の毛並み。

 コスプレ。そうだ、こんなの被り物だよ!?

 そう思い込もうとしたが、まあまあ無理だった。犬人間の目は濡れたように煌めき、口元を時折歪めていた。何より犬らしく鼻をクンクンさせている。

 コスプレじゃないって、これ——!


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

黄金 
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻! だったら離婚したい! ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。 お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。 本編61話まで 番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。 ※細目キャラが好きなので書いてます。    多くの方に読んでいただき嬉しいです。  コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。    

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

転生したら猫獣人になってました

おーか
BL
自分が死んだ記憶はない。 でも…今は猫の赤ちゃんになってる。 この事実を鑑みるに、転生というやつなんだろう…。 それだけでも衝撃的なのに、加えて俺は猫ではなく猫獣人で成長すれば人型をとれるようになるらしい。 それに、バース性なるものが存在するという。 第10回BL小説大賞 奨励賞を頂きました。読んで、応援して下さった皆様ありがとうございました。 

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...