異世界転移して獣人王子様に見初められた俺がオメガになって世界を救う、かもしれない!?

わをん

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002-② 出会い!

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「え?」
「いいよ、入りなよ。いいな、ウィル」

 女と犬人間の間で何が話されたのかはわからないが、女が半身になって俺を部屋に受け入れる姿勢をして、そこでようやく犬人間が剣を引いてくれた。

「うわあ、君は靴も汚いな」

 女が俺を手招きして言う。

「何でそんなに全身汚れてるんだ?」
「これは」

 俺が言いかけたとき、犬人間が俺の背中を押してきた。触られたところから熱が伝わるようにゾワっとしたので、犬人間から逃げるように急いで室内に入った。

 広い室内は白塗りの壁で剥き出しの梁や柱が黒く塗られていた。塗装は綺麗だが全体的に古めかしい気がした。

 ホールには階上の暗がりに続く螺旋階段があった。これで風車の塔の上まで登れるのだろうか。

 ほぇーと思って仰ぎ見ていたら、またも犬人間に背中を押された。

「何するんだよ」
「ジロジロ見るな」
「………」

 女に通された部屋はダイニングルームのようだった。窓はなかった。
 マホガニーのような色合いの調度品にはどれも美しい植物の浮き彫りが施されていた。
 やはり似たような浮き彫りが彫られたテーブルセットが部屋の中央にあった。
 壁に飾られているいくつかの絵は油絵のようだった。

「いい部屋だね」
「ありがとう」

 思っていたよりも中が広いと感じた。部屋の奥には立派な暖炉があった。

「暖炉だ。初めて見た」

 暖炉には火が点っており、室内は暖かかった。玄関先でのドタバタの最中、日が暮れてから急に温度が下がったように思っていたからこの暖かさをありがたく思った。

 部屋の中はかなり明るかった。電球だと思っていた明かりは全て蝋燭の炎だった。
 
 俺は改めて女を観察した。理解できない犬人間を視界に入れたくなかったから。
 
 女は焦茶色の肌をして、目鼻立ちのくっきりした相貌は大雑把に言えば中東系だった。

 その上質な厚手の羽織はくるぶしまであった。ここには女性が肌を出すのを厭う文化でもあるのか、指先しか見えず萌え袖のようだし、首元にはスカーフが巻かれていた。

「何だ?」
「いや」

 美人だな。

 目線を変える。テーブルの中央には蓋が閉められた鍋が置かれていた。その横にはチーズの焦げ目が美味そうなグラタンらしきもの。そして、鍋を挟んで反対側にはグリルされた謎肉の塊。パンも山盛りあった。
 見ていたらよだれが出てきた。俺の腹の音が盛大に部屋に響いた。
 
「食べていいよ」

 女が俺に向かって言った。

「私が作ったんだ。くだらない喧嘩をしてる間に冷めてしまったけど」
「え!」
 俺は感激した。
「ありがとう! 腹が空いてたんだ」
「ウィルと二人で食べるつもりだったが、作り過ぎたからちょうどいい」
「おい」
「いいだろ、別に。こいつは悪い奴じゃないよ。待ってろ、濡れタオルを持ってくる。せめてその顔を拭け」

 女は部屋からいなくなった。その間は残された俺と犬人間の睨み合いになった。

「………」

 取っ組み合いになったら絶対勝てない体格差だ。そのデカい口で内臓まで噛みちぎられそう。

 だから何だ。

 俺は開き直る。この犬人間はどうにも俺の癇に障ることばかりしてくる。そんな相手に媚び諂いたくない。

 元より犬人間は俺の存在が気に入らないらしい。俺を見る目が汚物を見るかのようだ。

 む。

 俺はこの犬人間と相性がよくない気がする。さっきも触られて、心臓が痛くなるほど嫌な気がした。

 話すこともなく俺たちは睨み合った。

 そのうちに女が戻ってきた。女から渡された濡れタオルは温かかった。

「ありがとう」
「どういたしまして」

 そして俺が汚れた顔を拭いて素顔を晒すと、女は大層喜んだ。

「やっぱりアジアンか……」

 人相がわからないほど俺は汚れていたらしい。アジア人が物珍しいのだろうか。アジアも広いが? 女はさらに何か言いたげにしてから笑って、手前角の椅子を引いた。俺に座れと言っている。そのようなことを女にされると思わなかったので少し驚いた。

「ありがとう」
「どういたしまして。今、皿を持ってくる。ウィル。お前は反対側に座れ。私たちには今のお前の気圧が息苦しくて仕方ない」

 犬人間は渋々といった感じで奥の席に座った。女の言うことはよく聞くらしい。
 飼い主とその犬のようだと思いながら思わず俺が笑うと、すかさず犬人間に睨まれた。心の中を読まれた気がした。

「手伝うか?」
「いや、いい。座っていろ」

 女は豪勢な食事を取り分ける作業をするときに、犬人間には全く手出しさせなかった。犬人間は女から拒否されて若干しゅんとなったように見えた。

 俺は当然お客さん気分でいるわけでサーブされることを当たり前だと思ってしまっていたのだが、犬人間は健気にも女の役に立ちたいと考えているようだった。

 かわいいところがある。

「何だ」
「何でもない」

 また犬人間に睨まれた。

 この世界の作法はわからない。皿や器を受け取った次の瞬間から食事が始まった。犬人間も食事前に儀式的な何かをするでもなくその大きな口を開けて食べ始めた。

 犬人間は食事中、腰から刀を外して後ろの壁に立てかけていた。また、犬人間は右手と左手でナイフとフォークを完璧に使いこなしていた。テーブルマナーに俺より慣れていてパンを食べるにも所作が綺麗だった。でも口はデカい。違和感ありありの光景だった。

「さっきから何だ。ジロジロと見るな」
「あ、ごめん」

 見たくもないのに自然と見入ってしまうんだ。だって仕方なくないか? そこに見たこともない犬人間が実在しているんだぞ? 俺は犬人間と席が離れたのをいいことに、ここぞとばかりに観察を開始した。俺も逃げてばっかりいないで、この犬人間に慣れとかないといけないからな。その度にまた睨まれた。
 
「だから、お前は」
「ごめんって」

 女は犬人間に興味津々の俺を見て笑った。それから女も席に着いた。三人とも無言で食べた。

 
 そういえば、俺のスマホはまだ機能するだろうか。食事する犬人間をカメラで撮りたいんだけど……、それを言える雰囲気ではなかった。

 女が薄いグリーンの陶器の器によそってくれた野菜スープは具沢山でベーコンが入っていてシンプルな味付けだったが非常に美味かった。

 よくわからぬ肉のグリルもグラタンのようなものも全部美味かった。腹が減ってるから今は何でも食べたい。

 犬人間は女から食事を与えられて見返りに女を守るといった、相互扶助の関係性なのだろうか。
 益々番犬みたいだな?


「腹も膨れたことだろう。そろそろ君の話を聞きたい」

 食事が落ち着いたころだった。女に話を振られて俺はハッとした。

「遅くなったが、私はオズだ。よろしく」
 女が言った。
「俺はカイだ」
 俺は名乗ったあとすぐに質問を繰り出した。
「あなたはどうしてこんな辺鄙なところに住んでるんだ?」
「……私のことより、まずは君のことを話してくれ」
「ああ……」

 俺は自分の質問の仕方が最悪だったことを一瞬で後悔しながらも、続けた。今言わないでいつ言うんだ。

「あなたも察してくれているだろうが、ここは俺がいるべきところじゃない。目的地はあった。しかし今の状態では行っても追い返されるだけだ。取り敢えず自分の国に帰りたい。協力してくれないか。そうだな、大使館に行きたい」
「大使館?」
「パスポートも何も無くなってしまったんだ。とにかく日本に戻らないと」
「落ち着け」

 そのとき突然、犬人間が急に声を張り上げた。

「お前今、何て言ったんだ?」
「パスポートが」
「そうじゃない。お前が帰りたいと言った場所だ」
「日本だ」
「日本」

 するとまた前傾姿勢で食いついてきた。

「もう一回言え。どこだって?」
「ウィルは日本人を初めて見たから興奮してる」

 オズが揶揄うようにして笑うのは構わず、犬人間は椅子から立ち上がってテーブルを回り込んで俺の側にきた。
 何だと思って犬人間の様子を見ていたら、俺の後ろの壁から徐に大きな絵を外し始めた。

 大きな絵がどかされて現れたのは黄ばんだ世界地図だった。直接壁に貼ってあった。見慣れた七大陸の地図である。

 何らかの理由で風景画で隠してあったことに気づきはしたがそれには触れず、俺は立ち上がって犬人間の横に並び、日本を指差した。

「ここが日本だよ」
「島だな。小さいな」
「メルカトル図法の地図だから余計に小さく見える。でもそこまで小さい国じゃない」
「面白い形をしている」
「……そうか?」

 今初めて、俺と犬人間の会話が成立した。犬人間がさっきからずっと俺に合わせて英語を使ってくることにも俺は気づいていた。

 犬人間はかなり真剣な眼差しで地図を見つめていた。体が大きいから存在感が半端ないのだが、殺気の消えた今の犬人間なら全然怖くない。

「俺たちが今いる、ここはどこなんだ」

 俺が聞くと、犬人間は躊躇いなく答えた。

「ヴァルラだ。この地図にはない」
「ない? それはこの村のことを言ってるのか?」

 この村が小さ過ぎるから世界地図に明記されていないという子供みたいな話を今しているとは思えないが念の為だ。

「この村はフォグリスだ」

 犬人間はそこまで言ってオズを見た。

「ヴァルラはこの国の名だ」

 言葉足らずの犬人間に、オズが注釈を入れた。



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