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005-① 先生!
しおりを挟む俺の前にいるのは、やはり犬人間だった。
ウィルみたいに耳は立ってなかったし、好戦的ではなかった。
その毛並みはオフホワイトにベージュが混じり込んだような色合い。
温和そうに見える犬人間である。眼鏡をかけていて、少し歳をとっているように見えた。
いずれにしても、コミュニケーションを取ることは難しい。
ウィルと違ってこの犬人間のお爺ちゃんには俺の言葉が全く通じないのだそうだ。それはウィルに聞いた。
犬人間から無言で指でもって行く方向を示されて廊下を進んだ。
後方から何かを言われたので立ち止まって横を見た。
その部屋にいたのは、白衣を着て、部屋の中央にある机の横の安楽椅子にドッカと座ったニンゲンの女性だった。看護師らしき若い娘たちに囲まれて大声で笑っていた。
「あ、来た来た。はあぃ、こんにちは」
「!?」
「初めまして」
「は、初めまして」
「こんにちは」「初めまして」の日本語に、そのときの俺は感動で泣きそうになっていた。
ノスタルジックで懐古主義的な雑貨で溢れた部屋には、よくわからぬ金属製の器具がたくさん飾られ、置かれていた。床や棚には木製工具がとっ散らかっていた。俺は足の踏み場を探しながら部屋の中に入った。
「いらっしゃい。待ってたよ」
書類が積み重なった机に頬杖を突く、東欧系の彼女は目のパッチリした美人。三十代後半といったところか。
先生なんてウィルが言うから、おじいちゃんかな、なんて勝手に思っていた俺はだいぶ失礼だった。
「話は聞いたよ」
結局、英語に切り替えられた。
「日本に帰りたいの? それともオーストリアに行きたいの?」
「行けるものならオーストリアに行きたいです。でも俺はパスポートも何もない状態なんです。日本に帰るしかない」
「ははっ、そうだよね。ま、帰れないけどね! ところで君、体の調子はどう」
先生はノートに忙しなくペンを走らせる。
「どうって」
「ここに来たニンゲンはみんな体に変化が起こる」
「変化と言えば。目が良くなりました。物心ついた頃から近視の眼鏡かけてたんですけど」
「へえ、凄いね。それは新しいタイプ。順調だね」
ニュータイプ? 某アニメ?
先生は手を止めない。先生が書き物に夢中になって沈黙が流れたので、その間で俺は部屋を見渡した。
部屋の壁には手書きのメモがたくさん貼ってあった。人体模型が何体も目についた。中世のマッドサイエンティストの手術室みたいなイメージを持った。ここにパソコンなんてない。でも、タイプする機械はある様子。
「……これからもっと変わるんですか? 最終的に俺、どうなるんですか?」
先生はノートに目を落としたまま、相変わらず猛然と書き取りをしていた。
「聞いてないの?」
「え?」
「ウィルの家のお手伝いの彼女、覚えてるかな」
「勿論。オズのことですよね」
「そう、オズキュル。彼、元々男だからね」
先生は何でもないことのように言った。
俺の目は、点になっていたと思うんだ。
「ええええええ!?」
さあ、ここからがファンタジーの真骨頂だ……!?
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