異世界転移して獣人王子様に見初められた俺がオメガになって世界を救う、かもしれない!?

わをん

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019-② 正義と悪!?

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「えっ。ウィル、いないんですか?」

 ていうか、待て。俺は姫じゃないし。そこはもう今更か。わざわざツッコミしなくていいか……。

「君を追いかけてドームから出て行ってしまったんだ。近衛隊の一部が追随している。偵察隊からの報告は上がってくるが、状況は刻一刻と変わっていく。近衛隊は敵の前線を押し破り敵の本陣に向かって進んでいるようだ。保安隊は後始末に追われている」

 幌馬車の前で、白クマさんが海を指差した。
 海の向こうは真っ黒だ。

「殿下は君を助けに来ることができなかった」

 雲のせいで月も星もなく、海を照らすものがない。ただ、波の音だけが聞こえる。

「俺が捕まってから何日経ってるんですか」
「一日半」
「え。そんなに」

 助けに来なかった、か。

 俺は指輪を見つめる。

 これで俺の居場所がわかるって言ってなかったか?
 でも、ウィルは俺のところに来てくれなかった。何でだ。

 どこで何をしてるんだ。

「愚かなネズミどもが殿下の怒りを買ってしまったようだ。国境を超えてしまったかもしれない……」

 嫌な予感がする。

「……白くまさん……」
「ジェイスだ」
「ジェイスさん。俺はウィルのいるところに行きたいです」
「今は危険だ」
「………」

 銃を構えた制服組に囲まれながら幌馬車に乗り込む。白クマさんと俺だけ乗るらしい。

 上半身を晒したままの白くまさんへ責任者らしきニンゲンが敬礼して差し出したのは、テントみたいに大きなコート。そのあとで俺には普通サイズをくれた。

「ありがとう」

 俺が言うと、青い目のニンゲンがニコリと笑った。
 何だか無性に懐かしい気がした。

 馬車は直ぐに出発した。

 乗り合い馬車らしい。座席が向かい合っていた。窓はないから空気の通りが良い。

 早々に革張りの椅子が湿ってきた。そりゃそうか。服も何もかもが濡れたままだ。

「君が乗せられていた船。あれ、どこに行くと思う?」
「レオから聞きました。イェーテですよね」
「うん。あの船は数カ国を巡ってまたここに戻ってくるんだけどね。じゃあ、他のコンテナに入っていたのは何だと思う?」
「さあ?」

 食品? 資材? どこに行くかもわからないしな?

「ネズミだよ」
「ネズミ」
「港湾では保安隊が迎え撃ってね。短時間に決着した。聖堂の方と合わせて、死体と負傷者を全部コンテナに積み込んで送り返そうとしていたんだ」
「し……」

 死体。嘘! 俄然、ハードモードなダークファンタジーになってきた……。

「コンテナの中の環境は悪くないぞ。水も食糧も充分ある」
「俺がいたコンテナはタダの箱でしたけど」
「それは知らない。私たちが用意したわけじゃないからな」
「………」

 二頭立ての幌馬車が夜の街を進む。街の中はとても静かだ。

 静か過ぎる。

「君がいると気づいたのはコンテナが一つ多かったからだ。クレーン操作が上手い奴がいてね。中身を確認しようということになって、最後は扉のボルトをズラして外すまで、あれは見事だったな」
「えっ。あれってわざとなんですか!?」
「あの高さだ。海に落ちても死にはしないだろ」
「ええっ!?」

 計算づく? それとも力づく? 後者かな……。

「君が吊り下げられたのはもう一人のクレーン操者のミスだ。しかし、うまいところに引っかかったなあ? 腹に突き刺さってもおかしくなかった」

 白クマさんは笑ってるけど、それ、全然笑えないから!

「どんな偶然ですか」
「君は運がいいなあ」
「なわけないじゃないですか……」

「あの。グランバーグに行ったら、俺はしばらく出られなくなりますよね?」
「君は今、式場から攫われていなくなった行方知れずの可哀想な花嫁だ。ほとぼりが冷めるまでグランバーグの中にいた方が安全だ」
「それはわかるんですけど。あの。俺、あいつがいないとダメなんです」
「ん? あ、そうか。君たちは」

 白クマさんは全てを言わずとも直ぐに気づいてくれたようだ!

「そうなんです。俺、サベラの匂いがダメで。ウィルに守ってもらわないとこの世界で生きていけないんです。だから、ウィルが命を賭けるような危ないことをするなら止めなきゃいけないんです」
 
 習いたての言葉を一生懸命に並べる。白クマさんに正しく俺の気持ちが通じているのかどうかはわからない。

「俺、離れたくないんです。あいつと。文句も言ってやんなきゃいけないし」
「そうか、そうか。確かになあ」

 俺があまりに必死だったせいだ。白クマさんが俺の頭を撫でてきた。微笑ましいなあ、偉いなあ、みたいな子供を見るような目で。

 ウィルの二倍はある大きな手……。力は加減してくれている。

「そんな風に言ってくるヴァンダラーを初めて見たよ。みんな帰りたいとか犬は嫌だとか……、あ、私はこう見えてカウンセリングもしていて」
「えっ」
「サベラの方の」
「はあ」

 何でもやるんだな?

 犬の王族の内情に詳しいカウンセラーの白クマさん。

「君はこの世界が怖くないのか?」

 俺にそう尋ねる白クマさんは軍用の外套を着てから更に大きく見える。

「小さいだろ、君らヴァンダラーは。サベラと暮らすニンゲンたちは君よりずっと大きいよ」

 ヴァンダラーの中でも俺が突出して小さいと言いたいのだろうな。成長期だと思っててくれないかな……。

「まあ……、怖くないと言ったら嘘になりますけど。たぶん俺、そういうことには鈍くて……。ありますよ、恐怖心に劣等感。あるんですけど……、やっぱり人より鈍いかも」

 曖昧に英語で誤魔化した。

「と、とにかく、俺はウィルのところに行きます。だって俺、あいつがいないと息も吸えないんですよ」

 自慢じゃないけど、というやつだ。

「それは不便だな」

 白クマさんは俺に合わせて、うんうん、と頷いてくれた。

「でも夜だしな? 着替えた方がいいし、殿下はどこに行ったのかわからないし? 君も疲れてるだろう?」
「さっき充分寝ました。ウィルの行き先ならエーファが知ってます。エーファにウィルのいるところまで連れて行ってもらえます」

 頼みの綱の俺の指輪はウンともスンとも言わないが、エーファがいればなんとか……。俺一人でエーファに乗れるかどうかは未知数だが。

「……何故、君にそれがわかるんだ?」


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